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竜崎の観音像

「囀る鳥は羽ばたかない」二次創作⑨

#竜崎篤士誕生祭2023
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とうとう竜崎のモデルが分かったらしい__

看守室ではその話題で持ち切りとなった

正しくは竜崎が作った観音像のモデルが誰だか分かった__ということだ

竜崎篤士

ヤクザの組長だった男
ヤクの売買で捕まり現在4年間服役中

強面の外見に似ず
面倒見の良い、気のいい男
看守仲間ではそう認識されている

刑務所内では出所した時の為に手に職を持たせようと様々な訓練がなされている

竜崎は最初、木工作業を行っていた

訓練を指導する者がその器用さに目をつけ
彫刻を勧めたのだ

彫刻は誰にでも勧めない
習得には時間がかかるし
確実に商品になる迄にも
時間がかかる為だ

長期の受刑者(死刑囚)へ心の安寧を図る為に彫らせることも有る

普通の囚人には
まず勧めることは無い

しかし
指導員が見込んだ通り

竜崎は
彫り始めて僅かで
その才能を開花させた

ネズミ等の小動物や果物、人形など
簡単なものから彫り始め

竜崎の希望で彫り始めたものは

観音像

穏やかで美しいご尊顔
滑らかに着衣の流れる様子
合わせられた手の形も繊細に

作る程、
その腕を上げていく

指導員も舌を巻く程の腕前

しかし
指導員や看守が最も注目したのは
観音像のご尊顔
そのお顔であった

いつも同じお顔

美しく上品で、
見る者を惹きつける
不思議な魅力を持っている

現に竜崎の作品を盗み
自分の物としようとする囚人も出てきて
それはそれは大騒ぎとなった

竜崎の観音様をオカズにして
欲情の捌け口にする

なんと不謹慎な!

看守や指導員、それに囚人達までも
それは腹を立てたが
竜崎の怒りは尋常ではなかった

まるで恋人を横取りされたかのように
怒りに我を忘れ、修羅の様に暴れたのである

周りに
取り押さえられなければ
相手を半殺しにしかねない勢いであった

看守達の間では
その頃から
観音像のモデルに話題が集まった

誰だろう_

いつも面会に来る
竜崎の女とは違う

それ以外の面会者は
元組員なのか
むさ苦しい男達ばかり

女は来ないのである

刑務所内にも
それらしい者はいない

初恋の相手ではないか__

そう話す者もいた

皆がその意見に収まりかけた頃

来たのである!
面会に

その観音様が!

二人連れ
堅気の格好をしているが
一人は明らかにヤクザもの

もう一人は__

若く美しい男
前髪を下ろし
Tシャツパンツ姿

一見、高校生の様にも見えるが
面会担当の話によると
(身分証で)40歳だと言う

だが
とてもその歳には見えなかった

友人らしく
竜崎が「矢代」と呼んだその男とは
30分程話したらしい

過去に竜崎の組で関係のあった者を
尋ねる内容であったようだ

別に色恋の相手では無さそう_

立ち会いの職員はそう言った

しかし
色の白い、ハーフモデルの様なその男が待つ面会室に入った途端、竜崎は真っ赤にになり
大声で狼狽えたという

竜崎はアッチなのか_

皆から、そんな疑念も沸いたが
刑務所内で今迄そんな噂も全く無く
(その噂は広がるのが早い)考えられなかった

いつも差し入れのグラビア本を大切にしているところからしても

特段
男が好き、だとは到底思えない…

皆、口を揃えてそう言った

そんな中

年配の看守が
「生きていると男女問わず、心惹かれる者がいる」
ポツリとそう言った

それぞれに思うところがあるのか
皆、その言葉に押し黙った

竜崎もそうなのか

竜崎にとって
「あの男」は特別なのか__


竜崎は今日も観音像を彫っている

無心に_

そして着実に腕を上げている

指導員は
そろそろ販売しても良いのでは、
と話している

だが刑務所内では皆、
内心売りたくないと思っている

この心惹かれる観音像を
此処へ置いておきたい
そう願っている

明るい陽の光が差す作業室
ノミを走らす竜崎の横顔に汗が光る

元ヤクザの組長とは思えない程
真剣で真摯な姿

竜崎の観音様本人である
あの「矢代」という男は
竜崎の気持ちを知っているのであろうか

看守達は
「竜崎の想い」を慮り
今日もまた
気の毒な様な、切ない様な気持ちで
それを見つめている


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