大調査!あの世の新常識
生きとし生けるものの皆さん。
命、燃やしてますか??
満場一致の「燃やしてます」、ありがとうございます。
そんな皆さんにお伝えしたいことがあります。
皆さんはいずれ、死にます!
自分は死なないよと思ってるそこのあなた!
お前も死にます!
そして死んだ者はみな霊魂となってあの世に行くわけですが、皆さん本当にあの世がどういうところなのか、わかってますか?
日頃生活をする中で、様々なものや情報が変化・更新されていくわけですが、あの世についての情報もアップデートできているでしょうか。
今回はそんな改めて考えると謎の多い死後の世界について、僕自身が直接あの世を訪れ、あまり知られていないあの世の新常識も調査しちゃいます!
それではあの世に意識をとばすために、まずは臨死体験をします。
臨死に成功しました。
ここがあの世なんですかね。あたりは真っ暗です。
遠くにかすかな光が見えるのでとりあえずそこを目指して歩くことにします。
けっこう歩きますね。
しばらく歩き続けてそろそろ暗闇を抜けそうです。
目覚めてからずっと暗闇だったわけですから、ようやくあの世の景色が見られますよ。全体的に荒野っぽいというか、殺風景な感じのイメージがありますが実際はどうなんでしょうか。
あっ、あれは!!!
プテラノドンだ!!!
あの世で最初に見える物体ってプテラノドンだったんですね。これは地獄に対する認識をかなり根底から見直さなければならないようです。
おや、何か持ってますよ。
くれるようです。
あの世のガイドブックをもらいました。
さて、ここからまた歩くようです。ガイドブックによるとこの道の先にあの有名な三途の川があるそうです。説明書きもあります。
《三途の川には奪衣婆という地獄の使いがいます。奪衣婆は死者の衣服をはぎ取ってそれを木の枝にかけることで枝のしなり具合から死者の生前の罪の重さを量ります。》
なるほど、服をとられるんですね。でも相手は老婆だし、誰でも服をとられるのは嫌だと思うけど抵抗する人とかいないのかな。
《奪衣婆は功夫(クンフー)の達人なので、衣服を奪われまいと抵抗すると気が遠くなるほど頂肘と鉄山靠をもらいます。抵抗さえしなければ服をとられるだけですが、奪衣婆の機嫌が良いときには何もしてなくても木製のハンガーでボコボコにされます。》
抵抗しない方がいいみたいです。
この先で会う老婆がかなりの“暴”の持ち主であることがわかりましたが、地獄ではこれくらいがデフォルトなのでしょうか。そうするといまのこの歩いている時間は覚悟を決めるための時間なのかもしれません。
あっ、三途の川が見えてきましたね。ということはあそこに見える人影が奪衣婆でしょうか。
「あのー、すいませーん」
「プテラノドンじゃねーか!」
三途の川にいるという奪衣婆の姿が見当たらず、かわりにまたプテラノドンがいますがこれはどうしたことでしょうか。
プテラノドンに詳しく話を聞いてみたところ、現世での人口の増加に比例してあの世にくる死者の数も増えており、深刻な人手不足に陥っているそうです。
恐竜を主体として(←なんで?)スタッフを増員することで目下の人手不足は解消したのですが、その際にかねてより素行に問題があったスタッフは異動や解雇を言い渡されたそうで、奪衣婆も解雇されたうちの一人だったそうです。
奪衣婆解雇されたの??
「奪衣婆ってそんなにやばい人だったんですか?」
『ドタマくらってました』
『それよりあなた、ちゃんと死んだ人じゃないですよね。まだ現世に命が残ってますよ』
「ええ、実はあの世がどんなところか気になってちょっと見学しにきたんです」
『そうだったんですね。でもここから先に行けるのは死んだ人だけなんですよ』
やはり実際に死んだわけではないので行けるところにも限界があるみたいです。ただ、せっかくここまで来たので話だけでも聞いてみようと思います。
「あのー、もしよかったらなんですけど、この後っていったいどうなるのか教えてもらってもいいですか?」
『それくらいなら構いませんよ。そうですね、そのガイドブックにも載ってるんですけど』
そういえばガイドブックもありましたね。教えてもらったページを開きます。
《三途の川で罪を量った後には、十王審査が始まります。ここでは十人の王による審査が行われ、これから死者の魂が天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道からなる六道のいずれに進むのかが決められます。》
『ここで地獄道行きのジャッジが下されると、皆さんもよく知る地獄に落ちることになります』
「天道というのが天国のことですよね。天国や地獄の他にも行き先があるんですね」
『はい、生前に犯した罪だけでなく、善行を積んでいればその分の徳も考慮して行き先が決められますから、シンプルな二択にはなってないんです。地獄についてもう少し詳しく説明すると、地獄の中にも9つの地獄があります』
1,等活地獄
2,黒縄地獄
3,衆合地獄
4,叫喚地獄
5,大叫喚地獄
6,キッキングクーラーボックスゾーン
7,灼熱地獄
8,大焦熱地獄
9,阿鼻地獄
『罪が重ければ重いほど下の地獄に落ちることになりますが、上の方だからといって楽な地獄は一つもありません。例えば一番上にある等活地獄では、死者は死者同士で殺し合ったり、また獄卒の鬼達に無残に殺されたりしますが、風が吹くたび幾度も肉体が再生しては同じことを繰り返します』
「何度も生き返って同じことを。むごいですね・・・」
『最下層の阿鼻地獄はとにかく苦しみが長く続くため無間地獄と呼ぶこともあります。また、阿鼻地獄はそこに着くまで落ち続けるだけで2000年かかり、到着してからも永遠に等しいほどの間、絶え間なく責め苦を受け続けます』
「着くまでに2000年!そこまで長いと落ちている時間そのものがすでに重い刑罰になっていますね」
説明だけでも地獄がすごく恐ろしいところなのがわかります。この感じだとどの地獄も想像を絶する苦しみを味わうことになるのでしょうが・・・。
「すいません、ひとつ聞いてもいいですか?」
「キッキングクーラーボックスゾーンというのはどんな地獄なんですか?」
『キッキングクーラーボックスゾーンですか、そこは他の地獄とちょっと違ってて、鬼とかはいなくてかわりに足の生えた冷蔵庫が立ってるんです。そしてその足の生えた冷蔵庫に、死者は生前に冷蔵庫の扉を足で閉めたのと同じ回数、お尻を蹴られるんです』
「冷蔵庫にお尻を蹴られる・・?確かに変わった地獄ですね。でも、他の地獄と比べるとかなり刑罰が軽い気がしますが」
『お尻を蹴られた後は阿鼻地獄に落とされます』
『キッキングクーラーボックスゾーンだったら三途の川を渡る必要もないのであなたでも見ていくことができますけどよかったら案内しましょうか』
「いいんですか、ぜひお願いします」
本来見ることができない地獄の様子を見られるのはラッキーですね。とはいえ地獄は地獄。恐ろしい場所に変わりはないのであまり深入りしすぎないよう手短に済ませてそろそろ現世に帰りましょう。
『着きましたよ、ここがキッキングクーラーボックスゾーンです』
「あの、足の生えた冷蔵庫というのはどちらに・・・?」
『私です』
「え?あなたはプテラノドンで、恐竜ですよね」
『いえ、我々プテラノドンは、足が生えた冷蔵庫です』
「ええ?」
『プテラノドンって冷蔵庫なんです』
『記録には残ってないのでご存知ないのも無理はありません。かつて我々恐竜が地上を支配していた時代があり、氷河期によってその時代が終わりを迎えたことは知っているでしょう』
『他の恐竜達が次々と絶滅していく中で、我々プテラノドンが選択した生存戦略とは、極寒の環境に適応するために自らもまた冷気を身に纏うことでした。そうして進化を重ねていった結果、現在、冷蔵庫と呼ばれる姿になったのです』
「ということは、いま現世にある冷蔵庫は全て元々はプテラノドンだったということですか!?」
『はい』
『そしてここキッキングクーラーボックスゾーンは冷蔵庫を粗末に扱った者を裁くための地獄。わかりますか、これは我々プテラノドンによる復讐なんですよ』
まさかプテラノドンが人知れず氷河期を生き残り、地獄で人類に対して怒りを燃やしていたとは・・・。
しかし、これは少々まずいです。
『ところで、先ほどから話していてわかったのですが、あなた』
『冷蔵庫を足で閉めたことがありますね?』
やはりバレている。
早いところこの場を離れたほうがよさそうです。
「あの、今日は貴重な体験をさせてもらって本当にありがとうございました。あんまり長居するのも良くないので、そろそろお暇しますね」
『まあそう焦らなくてもいいじゃないですか。そうだ、せっかく来たんですから我が奥義“氷獄翼竜穿”も経験されてみてはどうですか?』
や、やばい!あんな凶々しい足にキックをもらったら尻が!!
『あなたのキックの回数は4836回です』
尻がオシャカになってしまうッ!!
臨死状態とはいえキックのダメージが霊魂や現実の肉体にどんな影響を与えるかわかりません。最悪、現世に帰れなくなるかもしれない。
でも、どこにも逃げ場がない!
こ、
ここまでか・・・!
「おっはー!」
「『!?」』
『これは現世から聞こえる呼びかけの声!?』
『何者かが現実の体を目覚めさせようとしているのか!いったい誰が!?』
「慎吾ママです♪ みんな今日も♪」
『慎吾ママが!!?』
「日課にしているおはロックダンスのためのアラームがこんなかたちで活きるとは!」
『なんてアンティークな日課なんだ・・・!』
慎吾ママのおはロックが流れ出してから意識が朦朧としてきました。どうやら現世に帰れるようです。
『これで終わりじゃないぞ。お前もいずれ再びこの場所を訪れるのだからな』
「はっ!」
「無事に戻ってこれたのか」
大変な目に遭いました。そもそも軽い気持ちであの世を見てみようと思ったのが間違いだったようです。
今回は無事に戻ってこれましたが、最後にあのプテラノドンが言ったように人はみないずれ死んであの世へ行くことになります。ただ、そのときにどんな裁きをうけるかは生きている今このときの行いで変えられるのもまた確かです。
皆さんも一日一善、徳を積んでいきましょう。僕もこれからは冷蔵庫の扉は手で閉めるようにします。
最後に、苦労して蒐集したあの世の新常識をまとめて振り返ってみましょう。
あの世の新常識その1、あの世にはプテラノドンがいる。
あの世の新常識その2、三途の川のほとりにはプテラノドンがいる。
あの世の新常識その3、恐竜から見ても奪衣婆はドタマをくらっている。
あの世の新常識その4、冷蔵庫を粗末に扱った者を裁く地獄がある。
あの世の新常識その5、やっぱり恐竜もドタマをくらっている。
あの世の新常識その6、実はプテラノドンは氷河期を生き抜いており現世にある全ての冷蔵庫はプテラノドンが進化したもの。
これ、
プテラノドンの新常識じゃない??
おわり