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【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その8)浪曲のこと「河内十人斬り」からはじまり

【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その8)浪曲のこと「河内十人斬り」からはじまり

【和田】僕ね……『河内十人斬り』っていう浪曲があるんですよ。浪曲とか芝居にもなったりとかしているんですけど。あれ、すごいおもしろいと思うのは、実際にはその人物がいろんなちょっとひどい目にあって、村人とか殺しちゃう話なんですよ。実際あった……。

 

【三浦】ああ、実際にあった事件?

 

【和田】事件なんです。東大阪で。東大阪か奈良かあの辺なんだけど。で、河内の国であったんだけど、実際には、明治時代の事件だから猟銃とかで殺すんですよ。猟銃とか、火薬でバンって火をつけたりとか、そういうことするんですよ。だけど、それを『十人斬り』ってタイトルにしているの。あれがいい。十人斬りじゃないわけ、本当は。筋も。

 

【三浦】撃ったりしているってことですか?

 

【和田】撃ったりしているんです。

 

【三浦】斬ってはいない?

 

【和田】斬ってはいないんです。だけどあれを歌舞伎っぽく、『伊勢音頭(恋寝刃:こいのねたば)』みたいに十人斬りってしているのが、なんかそのセンス、すごくいいんですよ。十人斬りじゃないんだけどね、筋上。聴けば分かるんだけど。っていうか、最後やらないんですけど。

 

【吉田】人数は十人なんですか?

 

【和田】いや、適当です。

 

【吉田】あ、適当なんだ。

 

【和田】で、そこの斬殺シーンって、浪花節で聴くとやらないんですよ。実際にはやらないんです。そこの直前で終わるわけ。

 

【三浦】これで、もう追い込まれて「やるぞ」ってとこで終わるんですか?

 

【和田】そう。それで、「ちょうど時間となりました」とか言って、適当なこと言って終わるんですよけど。まあ、最後語るとしても、もうなんていうのかな、これから十人におよびまして、なんか山にこもって、なんとかでって全部地で言っちゃうんで、そこのなんかリアルな、鉄砲を撃つとかいうのはないんだけど。

 

【三浦】ああ、なるほど。

 

【和田】うん、最後が、だからカメラでいうと、すごいめっちゃドン引きみたいになる。ドン引きっていうか、後日なんとかに山にこもって逮捕されたのでありました、みたいな感じの終わり方なんですよ。

 

【山口】へえ。その……。

 

【三浦】確かにその殺戮(さつりく)シーンを浪曲で語られても、結構それはそれで……。

 

【和田】意味ないですよね。浪曲ってやっぱり……浪曲がすごくいいと思うのは、本当の、最後の決闘は描かないんですよ、必ず。

 

【三浦】確かにそうかもしれない。

 

【和田】たいていその前で終わる。

 

【三浦】あの『森の石松』とか、ああいうとこでもそうなんですかね?

 

【和田】『石松』はどうかな? だから、例えば『雷電遺恨相撲』とかいって、すごい恨みを……なんていうのかな、遺恨のある相手と相撲するんですよ。すると「はっけよい、のこった」って言って、「ちょうど時間となりました」って言って終わるんです。

 

【山口】立ち合いで終わるんですよね。

 

【和田】そう、立ち合いで終わる。あれは、終わり方がすごい粋ですよ。

 

【山口】あれだよね。歌舞伎もだいたい、決闘始まるところで幕が閉まるっていうね(笑い)。合わせて終わり、ですからね、絶対。

 

【和田】そうですね、そう、そう。

 

【三浦】あえてそこを聴かせなくても……。

 

【山口】だから逆に『忠臣蔵』で、十一段目で見せちゃうのは蛇足に……。

 

【和田】蛇足ですよね。

 

【山口】本当、みんなだれまくって、「なんだよ、これ」っていうね(笑い)。一幕蛇足っていうね。

 

【三浦】十一段目って、実際討ち入りの場面でしたっけ?

 

【山口】場面があるんですよ。だからチャンバラやるんだけど、もう、筋がないから。で、みんな分かっていることだし、退屈極まりない。

 

【三浦】歌舞伎は、そこやるんですね?

 

【山口】あえてね。

 

【和田】あえてっていうか、あれはあとから付け加えた台本なんです。本来ないんだけど。

 

【山口】そう。本来ないんですよね。

 

【三浦】「あれ付け加えようじゃないか」って言った人がいたんでしょうね。

 

【吉田】見たいって声があったんじゃない?

 

【三浦】ああ、そうでしょうね。

 

【山口】だからやっぱり、「もう、やらなくても分かっているでしょ」ってことでも、見たいって人がいるっていうのが歌舞伎……だけじゃなくて。

 

【三浦】でも『忠臣蔵』って、映画だとやっぱりそこまでやるじゃないですか。映像だとね。

 

【山口】そうですね。

 

【吉田】うん、やる、やる。

 

【三浦】やっぱり、そこがないと……。

 

【和田】あれはないんですよ。溝口健二の忠臣蔵は、討ち入りないんですよね。

 

【三浦】ああ、そうなんだ。

 

【山口】溝口は……『元禄忠臣蔵』でしたっけ?

 

【和田】ああ、そうか。そもそもないって話か。

 

【山口】仮名手本じゃないから。

 

【和田】京山幸枝若っていう浪曲師が今大阪にいて。あの人が、落語好きの人だったら絶対はまるんで、聴いてほしいです。

 

【三浦】聴いてみます。

 

【山口】おもしろいですよね。

 

【和田】おもしろいです。

 

【三浦】京山幸枝若。

 

【山口】二代目。

 

【三浦】え?

 

【和田、山口】二代目。

 

【和田】で、終わり方が、もう本当粋なんですよ。だいたいそのパターンで。『道成寺』っていうネタもあるんだけど、安珍が、こうやって女の人に追われて、こうやって「やばい、やばい、やばい」って言って道成寺に入るの。そしたら「この鐘の中に隠れなさい」と言われて、そこにあとから蛇がグワーッと来るわけ。で、蛇が、鐘にカチッて、「ちょうど時間となりました」って言って終わるっていう。噛み付いた瞬間で終わるっていう。めっちゃおもしろいですよ。

 

【三浦】みんな一応、そのあとは知っていますもんね。

 

【和田】そうですね。というか、そのあとなんか描写しようもないしっていうね。

 

【三浦】あの、鐘が燃えて中で死ぬっていう。

 

【和田】あれはいいですよ。

 

【山口】浪曲は、最後いつも節付けて歌ってもうお開き、みたいな感じがいいですよね。なんでも歌えば終わりみたいで。

 

【三浦】川を渡って来るところとかはやるわけですか?

 

【和田】一応やりますね。あと、さっきの話で言うと、左甚五郎の『掛川の宿』って話があって、甚五郎が例によって「俺は甚五郎だぞ」って言わないで、宿屋に一文なしで泊まって彫っちゃうわけですよ。素晴らしいものを彫っちゃうわけ。そうすると宿屋の主人にめっちゃ怒られて、松の木に縛られちゃうわけ。「お前、何してくれるんだ」って言って。そうすると、そこに尾張の殿様が来て「これは甚五郎の作品ではないか」って言って。もう一人、狩野探幽っていう絵師も泊まっているんだけど。

 

【三浦】あ、狩野探幽が泊まっているんですか?

 

【和田】うん。「狩野探幽の絵に甚五郎の彫りものではないか。これはどうした、主」とか言って。「このお作者は、もう発たれたか?」って言うと、「いや、松の木に縛ってあります」みたいな話になるわけ。

 

【全員】(笑い)

 

【和田】それで「ばか者!」とか言って、で、なるわけですよ。それで、一晩お酒を酌み交わして、「これからも堅固でいてくれよな」って言って、尾張の殿様が東海道を江戸へ、甚五郎たちは西っていって、めっちゃロングショットで終わるの。これ、素晴らしいんですよ。それを節で語るわけ。

 

【三浦】それ、浪曲で?

 

【和田】浪曲で。それで、東海道で、尾張の殿様は江戸へ行きます……つまり逆方向だったっていうことですよね。で、この二人は、ぶらぶらと西へ歩いて行きますって言って、なんか……。

 

【三浦】探幽と甚五郎が旅しているんですか?

 

【和田】偶然ね。

 

【三浦】偶然……(笑い)。掛川で会うか。

 

【和田】偶然。それで本当にガーっとひいて、たまたま会った二人が、右と左に、東と西に別れて行くっていうので終わるんですよ。

 

【三浦】なんか風景が浮かびますね。

 

【和田】いや、浮かびます。だから、甚五郎ものは落語より浪曲のほうがいいです。落語だと、さっきの話で、狭いショットで終わるんですよ。

 

【三浦】そうですよね。

 

【山口】なるほど。

 

【和田】落ちっていうのは狭いショットだから。

 

【三浦】確かに。落語の甚五郎ものは結構ありますけど、確かに狭いですよね。

 

【和田】「親をかごかきにした」とかさ。そこで終わるんですよ。

 

【全員】(笑い)

 

【和田】あれ、割とおもしろいですけどね。

 

【山口】なるほど。浪曲ね。

 

【吉田】浪曲に触れたことがないですよね。テレビとかでたまに。

 

【三浦】浪曲は辛うじて、最近(玉川)奈々福さんのおかげでちょっと聴くようになったんですけど。

 

【山口】ああ、いいですね。コラボの女王、奈々福さん。あらゆるジャンルでコラボされている。

 

【三浦】そうですね、奈々福さん。

 

【山口】なるほど。

 

【三浦】もうちょっと、いろいろ、和田さん。

 

【和田】浪曲は、全面的には僕は薦めません。だから、幸枝若さんは……。

 

【全員】(笑い)

 

【吉田】そんな、難しいよ(笑い)。

 

【和田】いやいや。だから、全面的に薦めちゃうと、なんか結構……やっぱり落語からするとちょっとしんどい芸なんで。

 

【三浦】「和田さん、これ違うじゃないですか」みたいなことになると(笑い)。

 

【和田】そうそう。

 

【山口】ちょっとディープなほうに行き過ぎなんだよ。

 

【和田】やっぱり、衰退した芸能ってその原因がありますからね。

 

【三浦】浪曲師、今そんないないですもんね。

 

【和田】うん。それとか講談も……今、(神田)伯山さんとかがみんな「僕じゃなくて、ほかに素晴らしい先生、いっぱいいますけど」って彼は言っているけど、そうだったらそんな衰退していないわけで、本当はね。

 

【三浦】まあ、伯山は、本当うまく、こう……本人の努力もありますけど……やっぱりダントツでおもしろいですもんね。聴いていて楽だし。

 

【和田】いや、おもしろいですよ、もちろん。だから伯山さんと、あれの先輩の阿久鯉っていうのがいるんですけど、神田阿久鯉はいいと思います。

 

【三浦】よく一緒にやっていますもんね、あの二人で。

 

【山口】あれですよね。ちょっと戻りますけど、『竹の水仙』は、浪曲いいですよね。

 

【和田】あれはもう、幸枝若の極め付き。

 

【三浦】へえ。『竹の水仙』、浪曲あるんですか?

 

【山口】みんな落語で聴いて、(柳家)喬太郎とかみんなやっていますけど。それはもう、澤孝子のね。

 

【和田】ああ、そうですね。

 

【三浦】澤孝子か。

 

【山口】『竹の水仙』素晴らしいですよね、本当に。

 

【和田】素晴らしいですよね。

 

【山口】一番おもしろいと思う。

 

【三浦】まとめて出しているのね。

 

【吉田】売っているんですよ。

 

【三浦】売っているんですよね。

 

【和田】だから、甚五郎は、やっぱり物語の範疇なんですよね。

 

【山口】なるほど。

 

【和田】そういう感じがするな。

 

【山口】でも僕はやっぱ、師匠のあれ聴きたくて。(広沢)菊春でしたっけ?

 

【和田】はいはい。

 

【山口】あれは、もう、落語の浪曲……。

 

【和田】そうです。

 

【山口】聴きたくてしょうがないんだけど、なかなかないんですよ、音源がね。

 

【和田】ああ、そうか。

 

【三浦】もう亡くなられている方ですか?

 

【和田】うん。

 

【山口】それで、澤孝子のお師匠さん。昔の方なんですけど。『猫餅の由来』とかもそうですよね。

 

【和田】ありますね、そうです、そうです。

 

【山口】本当、おもしろいんですよ。

 

【和田】『猫餅~』は孝子さんもやりますよね。

 

【山口】やります。だから、澤孝子さんでしか聴いていないから。

 

【和田】ああ、そうか。

 

【三浦】『猫餅の由来』?

 

【山口】うん。あれはね、要するに陽気な……浪曲って、所々節を付けて盛り上げるんで。

 

【三浦】はい。そうですよね。

 

【山口】もうその、コメディというか、本当陽気な世界なんですよね(笑い)。それが、お笑いのあれとのマッチしたときの幸福感っていうのは素晴らしいんですよ、本当に。だから……なんていうかな、音楽とコメディの相性の良さっていうかね。

 

【三浦】ああ、なるほど。

 

【山口】うん。ある種ミュージカルコメディ的な。そういう世界が、やっぱり落語とはちょっと違う。

 

【三浦】そうか。それを、曲師さんと二人で作り上げるわけですね。

 

【山口】そうそう。三味線で。で、節が付いて盛り上がるんですよ。それはやっぱ、幸枝若師匠もそうだし。あれはなんなんですかね、やっぱり上方が多いんですかね。

 

【和田】やっぱり上方にああいう乗りの人が多いんでしょうね。

 

【山口】浪曲ね。要するに、浪花節的な、泣かせる話がイメージが強いけど、明るい、落語っぽい浪曲ってめちゃくちゃおもしろいですよね。

 

【和田】うん、おもしろい。

 

【山口】おもしろいものはね。

 

【和田】おもしろいです。そうです、そう、そう。

 

【山口】本当に。もうちょっと昔のああいうのも聴けるようにしてほしいですね。

 

【三浦】ああ、音源がなかなかないんですか?

 

【山口】落語みたいにはないんですよね。

 

【三浦】その、なんでしたっけ? 国立劇場じゃなくて、山口さんが教えてくれた、音源をたくさんためている、なんかそういう……。

 

【山口】なんでしたっけ?

 

【三浦】昔の文化遺産を……。

 

【山口】アーカイブスの……。

 

【三浦】アーカイブスしているとこ、あるんですか?

 

【山口】ああ、そういうのって、浪曲ってあります? アーカイブス。

 

【和田】浪曲はどうなんだろうな。だから、どこまでさかのぼるかによるね。浪曲って、レコード、昔のSP時代に、レコード自体はいっぱいあるんですよ。めちゃくちゃはやった……。

 

【三浦】でも短いですよね?

 

【和田】短いです。だからそれを発掘するんだったら、いろいろあるはありますね。

 

【山口】ううん……。

 

【三浦】SPって、あれ5分くらいでしたっけ?

 

【和田】片面6分で、両面12分なんで。で、客なしだから、生で聴くのとはやっぱり違う、違うは違いますけどね。

 

【三浦】ああ、そっか。レコーディングスタジオで。

 

【和田】そうです。でも、浪曲って、やっぱりすごいはやったんだなってことは分かりますよ。あの枚数を見ていると。まあ、音楽ですからね、要するに。音楽なんでね。

 

【三浦】ジャンルとしては「音楽」なんですね。

 

【和田】音楽だと思います。

 

【三浦】歌ものっていう……。

 

【和田】歌ものですね。

 

【三浦】歌もの、音楽。

 

【山口】肝心なところは歌ですからね。

 

【三浦】ああ、そっか。それで、セリフも、地の話が入って。

 

【和田】だから、昔の文人っているじゃないですか。例えば吉井勇とか小宮豊隆とか、ああいう人たちはみんな浪花節大嫌いなんですよ。めちゃくちゃはやった時代に。それは、僕はよく分かる。なんでかっていったら、彼らは散文をテーマにしているわけだから、メロディでも盛り上げるっていうのはやっぱり否定したくなりますよ。

 

【三浦】ああ、反則だと、それは。

 

【和田】うん。反則だし、昔の乗りですよね。メロディでこうやって、ガーって先導するわけだから。

 

【三浦】ああ、そうか。作家たちは新しいものを作ろうとしているから。

 

【和田】全部素でやるわけだから。散文で勝負しているのに、なんでこんなもの持ち出してるのって言って。嫌になるのはすごいよく分かる。で、また大衆がそれ、こっちを好んでいるから。

 

【山口】いわゆる、ちょっと低級な娯楽として見られていましたからね。

 

【和田】低級な(笑い)。

 

【山口】安直だというふうに見られていました。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/

 

 

担当 青山直美

ご依頼ありがとうございます。浪曲は、どちらかというと暗いイメージがありましたが、明るい、おもしろいものもあるのですね。講談は、確かに伯山さんで馴染みやすくなりました。伯山さんは、テレビなどでも、講談を分かりやすく解説してくれているため、私でも分かるかも、という安心感かもしれません。

 

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