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マッチングアプリはじめました ‐後編‐

慌ててお店を探し、勢いで予約した。
なんかよくわからない、鶏とか焼くタイプの居酒屋。何でその店にしたかというと、検索して上の方に出てきたから。他もザッと見たけれど、何が違うかわからんかった。ここでええっしょ。
もしイヤな顔されたら大声で「めっちゃ顔に出すやん!露骨にイヤな顔しますわこの人ー!」って言う。イヤな奴にはイヤな奴をぶつけたる。

店の前で待ち合わせ。
ちなみにこの時、近年稀にみるほどドキドキしました。このドキドキが1万やったら安いかも、そう思えるくらい。
だってな?10分前に着いて、さすがに早いぞ、めっちゃ意気込んでるみたいやん。ギリでええわいうてブックオフ寄って思ったより時間過ぎて焦って、走って、ちょっと遅れて死ぬほど後悔したんよ。盛り上がり過ぎてない?
運動不足で切れまくった息を誤魔化しながら、キョロキョロしてるのがバレないように、眼球のみで見回した。広がれ視野。

…おらんのと違います?もしや、すっぽかされた?単なるすっぽかしならええけども。俺を確認してからのやつだとしたら。顔見て帰ったやつならば。
それはさすがに制裁も辞さない覚悟。そう考えていたらメッセージ。
「着いてますか?」
…これってどういう意味?「着きました」ならわかる。でも「着いてますか?」なんよ。なにこの伺う感じ。なんなんこいつ!?そう考えていたらまたもやメッセージ。
「お店の下にいます」
…お店の下?予約したお店はビルの5階。飲食店が多数入っているテナントビルで、お店の下には待ち合わせの人が数人いた。
どれだかわかんねえ。写真と比べようにも、プロフィール写真は顔半分しか映ってない。下半分をマフラーで隠した、オシャレなお写真。一人一人の顔を覗き込んで、あなたですか?はさすがに出来ない。
メッセージしてみた。
「Aさんはどんな服装ですか?ちなみに僕は、茶色のバスローブみたいなアウター、下はベージュのサルエルです」
どんな服で来とんねん。書いてて引いたわ。…しまった。先に自分の服装を書くべきじゃなかった。一方的に確認させる時間を与えてしまう!品定めされる!そして逃げられる!

「こんばんは」
ふいに声をかけられた。振り向くとそこには、Aさん?がいました。Aさん?だったのはその。思ったよりもずっと、高かったから。
あれ?この人身長何㎝って書いてたっけ?これ175くらいない!?
「お店、入ります?」「入りましょう」
エレベーター内は明るく、しっかりと確認出来る。うん、えーとね、178!
「お店の予約ありがとうございます」「いえいえ、こういうの慣れてなくて。どんな店かもよくわかってなくて」
5階に着き、扉が開くとそこには。直店。エレベーター出たら直で店。
扉とか無い。直店。何ここ!?しかも満席。通されたのはカウンター。後ろの座敷には宴会の団体。隣にはヘビースモーカー。控え目に言ってマイナス8兆点。
「なんかすいません」
席について一言めは謝罪になりました。
「いえいえ全然!気になりませんよ」
隣に座ったAさんと目線が合った。目線が、合ってる。178なのに。これ、足長いタイプの高身長や。ラッキー。いや何がラッキーなん。

ひとまず乾杯して。改めて自己紹介。軽く仕事の話とか趣味の話。好きな食べ物。休みの日は何をして、こないだは久しぶりに登山をしました云々。
面白いかと聞かれたら、アリアハンから出られないドラクエの方がマシだと答える、そんな会話。
ただ本当に、とっても良い人なんだろうなあと思いました。1時間以上は話したけれど、イヤな感じは微塵も無かった。
座って目線が合ったのは、猫背にしてたから。きっと気を使ってくれたんだと思います。
笑う時に見せるクセのある仕草も、プロフィール写真が半分隠れていたのも、口元にコンプレックスがあるせいだと知った。少しだけ、アゴが出ていたから。
そんなの別に気にしないのに。露骨に隠せばその分、見た時余計に意識する。どうしたって目線が向く。そしてこの目線、敏感に感じてるんだろうな。何人かマッチングしたらしいし、言われたこともあったかも。
「めっちゃシャクレてるやん!」
さすがに言わんか。いやマッチングアプリの民度をなめてはいけない。言われてるさ。

そんなことばかり考えて、ますますアゴに目線が向くし、後ろの宴会はヒートアップする一方で、今はラップバトルの真っ最中。「上司が女子!上司が女子!女子上司!女子上司!」しか言うてない。でも死ぬほどウケてる。
隣はとっくに灰皿いっぱいで、醬油皿に吸い殻を捨てはじめた。
さすがにですね、と店を出た。

店の前でAさんから「もう帰りますか?」と聞かれて「コーヒー買って帰ります」と答えたら「あ、じゃあ私奢りますよ」と言ってくれて。
なんかちょっとよくわからない感情になって。なんかたまらなくなって。
コーヒーは買わず、逃げるように帰りました。上手く言い表せない気持ちでした。キュッってなる感じがした。キュンなら良かったのに。

「お話出来て楽しかったです。また今度、コーヒーご馳走させてくださいね」
Aさんからのメッセージへの返信は、2時間悩みました。悩んでから無視して、ブロックしました。

それが僕のPairsです。
1ヶ月プランも終わり、アプリも消去しました。これが普通なのかはわかりませんが、とにかくマッチングを体験出来ました。この思い出は大事に、心の中にしまっておきます。ありがとう、Pairs。楽しかったよ。


次に始めたのはアンジュ。なんか30代から50代までが中心なんやって!
人が少ないからマッチングしづらいのが難点!
あ、Pairsも再インストールしました!やってる人いたらよろしくやで!