井戸
母親の実家の家は井戸水だった。それが臭くて僕は小さい頃とても嫌だった。
井戸水で炊いた米もまずく、今思えば、酸性が強い水だったように思う。うまいはずはない。
まずいからご飯を食べないと主張する僕を、母親は叱って無理矢理食べさせようとした。
その家は記憶によると、道路拡張のためか、立ち退きになって、違う近くの土地へ引っ越してしまったので、もうない。
小学校にも1つ井戸水ポンプがあって、それでみんなよく足を洗ったりしていた。レバーを下に下すと水が出る仕組みになっている。
まだ田舎のほうでは井戸水を使っている家庭は少なくない。生活用水で全体の2割ほどがまだ井戸水を生活で使用しているようで推移はほぼ横ばい傾向だそうだ。
まずいと最初に書いたが、アルカリ系のおいしい井戸水もあるらしい。温泉なんかはよくアルカリ単純泉とか書いてあるではないか。
どこぞの地下水と銘打って販売しているのもあるくらいだから、井戸水は必ずしもまずいわけではない。あの家の井戸水がまずかったのである。
あの家はかなり幼少のころから馴染んだ家であった。母に用事がある時は、必ずここへ預けられるからだ。
いたずら坊主の僕は折角咲いたチューリップの花の所だけチョンチョンとちぎってしまったことがある。じいさんは泣いていたらしい。
じいさんといえば、よくケンカをしたものだった。じいさんが耳が遠いのでイヤホンをつけてTVを見ていると、そのジャックをわざと抜いたりした。じいさんの禿げ頭をピチャリと叩いたことも何度もある。
そのたびにじいさんは「こらー」といいながら布袋さんの像をこっちにむけてくる。僕は布袋さんが気持ち悪くて嫌いだった。(注)布袋寅泰ではない。
想像力の豊かな子供だったのだろうと、今では思う。じいさんは僕が小学校4年生の頃、60代の若さで腎臓病で亡くなってしまった。井戸水のある家がまだ残っている時であった。
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