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全世界モテEXILE系グループ PSYCHIC FEVER サイフィ 海外バズり観察と考察

2019年に結成され2022年の夏にデビューしたPSYCHIC FEVER。タイに滞在し半年間の武者修行を行った彼らは、現在も日本と東南アジア各国を行き来してさまざまな活動をつづけている。

バズりの流れまとめ

2024年2月4日、海外K-POPファンのTikTokに投稿されたJIMMYパート始まりの『Just Like Dat feat. JP THE WAVY』切り抜き動画がバズった。1月19日のMV公開から2週間が経ち7,000件程度で停滞していたMVの高評価数は現在、約6.7万件を越えている。コメント欄は英語がほとんどで、SpotifyとBillboardをざっくり見ると、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、韓国、日本、アメリカ、南アフリカでチャートインしている。Spotify月間リスナー数はGENERATIONSに迫っており、まもなくJr.EXILE内で1位になると思われる。

現在、TikTokをメインにSNSにはファンにより切り抜き編集された動画や写真が次々と投稿されている。Xでは多言語の非公式ファンアカウントが稼働し、公式の投稿を翻訳している。Youtubeリアクション動画の投稿の勢いも衰えない。各種SNSの反応を見るに、楽曲をきっかけにグループを知った人たちがメンバーやLDHに興味を持ち、「沼った」ことがうかがえる。

海外新規ファンの間では自然にK-POPファンダムの語彙が共通言語として飛び交う。K-POPが一般に浸透し、英語や母語以外の音楽に対するハードルも下がっていて、アジア出身のボーイズグループを世界に拡散する環境が整っている。

サイフィのここがウケてるっぽい

新規ファンの反応からいろいろ考えてみたので、話半分にどうぞ……。

・JLDのシンプルなMV
豪華なMVに慣れていた人たちには新鮮な、シンプルな映像が彼らの美学とスキルを際立たせ、彼らを「本物」だと印象づける。彼らが人々を魅了するのにはただ彼らが彼らであればいい。個性豊かな等身大の青年たちの素朴さは未熟さとイコールではない。

・JLDのトゲのなさ、ほどよい脱力感のある振付
想いを届けるラブソングとして歌われているからか。歌詞も歌い方もメロディもトゲがなくて聴きやすい。気づけばつい歌を口ずさみ体が勝手に踊り出してしまう。この押し付けがましくないところにトレンド感があり、それでいて懐メロ感があるのも幅広い層にウケている理由のひとつか。

そして振付には、グループと個人のスキルを見せつけるカリスマ的なクールさと、遊び心のあるキャッチーさが両立している。チームで楽しそうに踊っている姿はかわいさや親近感があって、この一曲の中にグループの魅力が表現されている。

・メンバー構成
慣れ親しんだエンタメの中に自分を重ねられる存在がいること、レプリゼンテーションの大切さを感じさせられる。アジア系ボーイズグループの中にWEESAやJIMMYのようなメンバーがいることへの肯定的な反応の大きさは想像以上に大きい。PSYCHIC FEVERが「日本発のかっこいいボーイズグループ」であることは、海外の人たちだけでなく、日本の人たちにとっても大きな意味があるだろう。

個性豊かなメンバーがそれぞれの才能を発揮できている光景がなんかいい。自分の推しが特別目立つことではなくて、公平さを求めていることに気付かされる。

最年長メンバーの剣の顔(ヒゲ)が映った瞬間のリアクションよ。おじっ……!?まだ26歳だよ!!思わず年齢を検索して驚いている人もいる(両方の意味で)。成熟したメンバーを推す方が安心できる人もいる。

・LDHのいつものやつ
東南アジアのファンに話を聞いたところ、タイのイベントで偶然ステージを見たのがきっかけでファンになったとのこと。LDHアーティストの現場力の強さがうかがえる。メンバーは歌やダンスが好きで、心から楽しそうに踊っているのが伝わってくる、という声もあった。また、パフォーマーショーケースの映像にみられる個人のアーティスト性(?)も、新規ファンを驚かせているようだ。

PSYCHIC FEVERの海外活動はステージ上に留まらない。だれでも参加できるダンス教室、子供向けのダンス教室、講演会、無料ライブ、ファンに真摯に接している姿の映像、外国のマチャミみたいな人にTV番組で絡まれる姿、地域の文化を体験しているvlog、いつの間にかやたらタイ語がうまくなっている小波津志、現地語でMCをする姿勢。LDHアーティストが国内でやっている活動と大して変わらないが、日本ではヤンキー系と思われがちなEXILE TRIBE、海外では小児病棟に訪問するスパイダーマンくらいイメージがよさそうだ。

・非言語コミュニケーションのセンスがある
Youtubeにあるデビュー前のバラエティ動画やタイで撮影されたNew School Breakin'などの切り抜きも海外でウケている。彼らにはバラエティ力もあるみたいだ。たしかに、笑顔、顔芸、デカい笑い声、妙な動き、リアクションの大きさ、仲の良さなど、日本語がわからなくても伝わる良さがある。それに加えて、海外活動で磨かれたコミュニケーションのセンスもまた特徴的だ。

サイフィのコミュニケーション

TikTokでのバズりに対して公式がまず行った大きな動きは、「彼らを見つけたナイジェリア人女性のJLD踊ってみた動画にJIMMYがリアクションする」という公式TikTok動画の投稿と、リアクション動画をまとめたYoutube公式プレイリストの公開だった。

バズったあとに、バズったのと同じ箇所を含むインスタ広告(英語歌詞字幕入り)を出した。公式Xには英語が増え、メンバーは毎日交代で配信を行なっていて、そこでも英語のコメントにできる範囲で反応しようとする姿勢が見える。JIMMYサムネで釣ろうという魂胆も見え見えである。TikTokではファンのダンスから始まるレクチャー動画を投下したり、カウボーイネタを擦ったり、いろいろな制約があるだろう中でファンとダンスを通してコミュニケーションをとり、できる限りこのバズをモノにしようとしているように見える。

また、アジアツアーを発表した生配信も印象深い。「2023年を漢字一文字で表す」というコーナーで、漢字の下に英単語でその意味を書き加えたメンバーがいた。それを見て何人かのメンバーも自分のフリップに英単語を書き加える。さらにアルファベットを使ってタイ語を書き加える者もいた。事務所に海外展開のノウハウが少ない中、ひとりひとりが試行錯誤し互いの姿に学びながら今日までやってきたこと、海外ファンの視点を持っていることが感じられる。

文字が読めなくて困ったり、楽しそうに会話している輪に入れないことに寂しさや悔しさを感じたり、逆にちょっとでも日本語を使ってもらえることがすごく嬉しかったり、あいさつで心の距離が縮まることを何度も体験していたり。

いわゆるアイドル的な活動を通して「外国人」としてさまざまな国の人々とたくさんの交流を繰り返してきたことが、彼らのコミュニケーション能力、共感能力を磨いたのではないかと思う場面が多々ある。言語や文化、常識を共有しない人と接するときに何に気をつけた方がよいのか身を持って学んでいることは、現代のグローバルアーティストに必須の条件だ。

すべてのファンを大切にすることの難しさは、海外からの注目に応えながらも日本のファンに気遣いを見せる彼らが常に感じていることだろう。もどかしさもあるだろうが、少なくとも多様な経験から多様な視点を持ち、いろんな意味でちょっとずつはみ出していることが、確実に彼らの魅力の一つとなっている。彼らはこれまでになかったアイデアを事務所に持ち込み、周囲を巻き込んでよい変化を起こしていくのではないかと感じさせる。

サイフィほんとダークホースすぎる

人種的多様性のあるグループを作るのは、日本人ばっかの日本(あえてそういう表現をした。サイフィを見ていてもわかるようにいろんな人が暮らしている。)より、アメリカや、最初から世界市場を視野に入れている韓国の十八番なのではないかとか。日本は独自の音楽トレンドを持つ国だから海外リスナーの好みとは違うとか。海外進出するには日本語以外の言葉が流暢に喋れないとダメなんじゃないかとか。日本は著作権に厳しいからK-POPのようにネットにコンテンツを拡散させられないとか。海外でウケるのは「ninja/samurai」「anime」「kawaii」「weird」だけなんじゃないかとか。

PSYCHIC FEVERはそのすべての思い込みを覆した。私たちは自分の可能性を知らず知らずのうちに過去や他者の作った箱の中に閉じ込めていたにすぎず、本当はあれもできるしこれもできるし、まだまだ自分達の意志で選び取ることができる未来や可能性があるのではないかと思わされる。

別の世界や生き方の可能性に触れることで、それまで自分たちの輪郭だと信じてきたものが揺さぶられる。思い込みに気づいたり、違うと思ってたけど案外同じじゃんと気づいたり、違っててもそれってそんなに大きな問題にはならないなーと思えたり。彼らのアーティスト人生を遠くから眺めている私たちも、いろいろなことに気づかされる。

「ダンス・ラップ・ボーカル・ビートボックス」「アーティストとアイドル」「J-POPとK-POPとT-POP」「日本と◯◯(外国)」彼らはいろいろな言葉のあいだに生きていて、簡単には「断ずる」ことのできない存在として、いろいろな複雑さを引き受けながら、いろいろな境界を揺るがしながらこの世界を歩いているようにみえる。

それとやっぱり、世界で活躍すべく熱く燃えてはいるけど、この世界に対してオープンマインドな姿勢でいるからこそ、ファンダムという閉鎖空間には収まらず、これからも多くの人を巻き込んでいけるんじゃないだろうか。

歌や踊りは人々の共感性を高め、 相互理解を深めることにつながる。コロナ禍では不要不急とされたエンターテインメントの力を、PSYCHIC FEVERはこれからも世界に証明していくだろう。

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