180days of HEAT BALLISTIK BOYZが創造性によって再起していく180日

BALLISTIK BOYZのタイでの武者修行を追ったドキュメンタリー作品180days of HEAT。自分は先にPSYCHIC FEVERのバージョンを視聴した。モールなどでのミニライブやフェス出演、タイのアーティストとのコラボなど両者の大まかな活動方針は同じだが、作品のテーマはそれぞれ違うものとなっている。

PSYCHIC FEVERの方は、メンバーのバックグラウンドに触れる個人インタビューや、バンコクから離れたのどかなスパンブリーでの美しい日常風景が印象的だった。異国情緒あふれる映像の美しさだけでも見応えがあり、180日間の武者修行を通してPSYCHIC FEVERというグループの輪郭が徐々に浮かび上がってくる感覚を映像で追体験できる見事な作品に仕上がっている。作品のひとつの山場として、これまでは何の疑問も持たなかった、あるいは疑問を持っていても「そういうもの」と思っていた年功序列がグループのためにならないのではないかと気づき、解決を試みるくだりがある。そういうプロセスを繰り返して、彼らはEXILE魂を継承しつつも自分達に最適な形を模索していくのだろうと思わせる、象徴的なエピソードだった。当然、海外での活動で肌身に感じたことも彼らの血肉に取り入れられていくだろう。そんな2022年の武者修行に事務所もグループも何かしらの手応えを感じていたことは、東南アジアでの活動に本腰を入れ始めた2023年の展開を見れば明らかだ。

PSYCHIC FEVERの方がとても良い作品だったので、BALLISTIK BOYZの方も見てみることにした。LDH初の、全員が歌って踊れる、アクロバットも出来る、そして海外留学経験があり英語が話せるメンバーも複数人いるグループとして華々しいデビューを飾ったBALLISTIK BOYZであったが、デビュー翌年コロナ禍に見舞われる。そんな彼らにとってのリベンジとも言える2022年の武者修行は、どのような時間だったのか。

「まだまだ何かが足りないなっていう。それがパフォーマンス力なのかもわからないし、曲力なのかもわからないし、単純に認知度がまだまだ足りてなさすぎるのかもわからないし。何が理由か正直ちょっとわかってなくて、今。すごい、全力を出し尽くした後悔はないんですけど。そこに後悔があったらそれが理由だってなっちゃうんですよ、絶対に。うわ、あのとき間違えたなとか。全力でやれなかったなとか。それのせいじゃないんでまったく」

タイの大型フェスOCTPOPへの出演を終えた日髙竜太のこの言葉が、作品の中間地点に印象的に配置されている。彼らが全力を出し尽くしてもなお打ち破ることのできない閉塞感、停滞感を強く印象付ける。それは何もタイでの活動に限った話ではなく、コロナ禍の日本にいた時から感じているものだったのかもしれない。話は逸れるが、そんなコメントを残した日髙竜太の印象について少し書きたい。彼は「数字に繋がらない」とか「他アーティストと比較したときの客席の反応」という現実を冷静に受け止めながらも、その目はしっかり前を向いていた。お気楽さではなく、地に足ついた堅実な前向きさが鈍く光る。彼はタイでも日本にいたときと同じように地道なトレーニングをこなし既存の曲のパフォーマンスにも日々磨きをかけていた。BALLISTIK BOYZはリーダーを決めていないグループだ。しかし日髙竜太という人物の人格、光に惹かれて、自然と人が彼の周りに集まってくるのではないだろうかと思わせる。

メンバーの口からは、この7人でいる意味、だとか、メンバーに温度差があると思う、とかそういうある意味ドキュメンタリーにありがちな言葉も出てくる。しかしこの作品はそこを掘り下げてドラマを描き出そうとはしない。ひたすら彼らのクリエイティブを追いかけ続ける。学祭のステージで彼らのことを知らない学生たちを盛り上げるにはどうすればいいか。彼らとしては初となるスタジアム規模のステージOCTPOPで少ない持ち時間の中観客を惹きつけるにはどうすればいいか。自分達に足りないものは。自分達の武器は。180日の武者修行の中で繰り返す、ライブ、フィードバック、練習、作戦会議、制作活動が淡々と映し出される。PSYCHIC FEVERのドキュメンタリーにあった自身のルーツについて触れる個人インタビューはなく、ほのぼのとした日常描写も少ない。そんな中、Drop Deadの制作が始まる。この作品では、それが彼らのタイでの活動におけるターニングポイントになったのではないかと思わせる編集がされている。

「ディレクションの方もいないですし、なんか結構自分でいいなと思ったのを使っていくというか、で、撮り直したければ撮り直して」
「本当に一言で言うとめちゃくちゃ楽しかったです」
「海外の方がラフにやれるというか。僕の歌い方を尊重してくれている中での言語の修正だけなので、なんでそこはすごく、自分の思うままに歌える感じがするのでそこのやりやすさはめっちゃあるかなと思いました」

タイならではの制作環境において、彼らは自分たちが作品により深く関われていると感じることができたようだ。Drop Deadはタイのクリエイターが制作しタイのグループTRINITYとコラボレーションして作り上げた楽曲で、彼らは言葉や文化の違いを超えて彼らと共にBIG MOUNTAIN MUSIC FESTIVALという大きなステージでその成果を披露した。縁あってタイのアーティストとの間に友情を築けたことは、彼らに音楽やダンスの持つ力とそれがもたらす感動を新たなレベルで再認識させたのではないだろうか。それに加えて、自主性を尊重される創作活動によりもたらされた手応えから自己効力感を得て、アーティスト心に再び火がついたようにも見える。自分達が自信を持って良いと思える全力の作品が観客の熱狂や数字という形で評価されたことは、今後も自信を持って前に進んでいくためのエネルギーを与えてくれたに違いない。

このドキュメンタリーは、「自分がこの世界に変化を起こしているという感覚はわたしたちに力をくれる」ということを思い出させてくれた。

BALLISTIK BOYZはアーティストだ。彼らは創造することに悩み、そして創造することで救われながら生きている。彼らは異国の地でのさまざまな活動を通して自分たちに備わっている力を棚卸しし、新たな出会いに勇気づけられながら、力強くまた一歩を踏み出した。180 days of HEATは、タイでの武者修行はそんな180日間だったのだと思わせるドキュメンタリー作品だった。

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