ひやり
カラオケバイトは俺にとって、絶えず動いてなんとか間に合うといった、一生懸命さが求められる作業なので、バイトに行くまでは確かに億劫、しかし、その一生懸命が結果になったとき、俺は格ゲーのコンボ技を決めたような気持ちに(すこし)なる。
特にバイトリーダーが休憩に入りワンオペになる時間帯に、お客さんが立て込むと、作業は俺のキャパを超えてくる。
なんやかやがあって、店を閉める時には、今日もお疲れ様と、バイトリーダーと友情めいたものを感じないでもない。お互いから溢れ出るやれやれ感に、労働者のポエジー。閉店時間、お客さんが全員帰った後の、最後の閉め作業。
「(清掃に時間がかかったのは)部屋、荒れてました?」
「ゲロですよ」
「(その部屋のお客さんは)7時からいたからねー(それだけ飲んでる)。あー。洗い物終わらねー」
「便所やった?(掃除した?)」
「まだです」
「はいはい」
このカラオケバイトが終わると、もうビール!といった気持ちになるのだが日曜の夜は、そのまま月曜早朝のスーパーマーケットのバイトに入るので、飲めない。スーパーマーケットの仕事は、余力があって、その余白に自分の工夫を入れられるので、若干クリエイティブな楽しみがある。作業としてはカラオケよりこっちの方が好きかな。とはいえバイト2件目となる月曜朝のスーパーマーケットの作業はかったるい。
この2件のバイトを終えて帰った我が家で、さてこれから、念願のビールを飲むか、はたまたUBERに備えて仮眠するかは思案のしどころ。
今週は仮眠からのUBERを選択した。天気がいいのと、30件配達のクエストにいい値がついているため。
春の陽気は心地よく、UBERの鳴りは良い。自転車上での台詞練習も弾む。
調子よく数をこなし、これで最後とピックアップに入った店は、仮想店舗を複数抱える居酒屋。久しぶりに暖簾をくぐってびっくり。
「UBERでーす。 …!!」
かつて居酒屋だったその店は、10人ほどの若者たちがパソコンをにらめっこしながら会議する、作戦本部みたいになっていた。奥の厨房で、料理を作っている人はいるにはいるのだが。
若者がベンチャービジネスとしてフードデリバリーの土俵で勝負しているのだろう。俺はこの光景をそう解釈した。
「今、作ってます。少しお時間ください」と奥の厨房の人。
俺は、料理が出来上がるまで、ベンチャーの作戦会議を眺める人になった。一番デキそうな面構えのイケメンが、リリースたら何たら言って会議を主導している。俺(50)はヒヤリとする。今日一日稼いだなという充実感がふっとぶ。今は時代の転換点。今こそが、ビジネスチャンス!
ほどなく料理は出来上がり、俺は店を出て自転車の上の人となった。
この料理の配達先は上高田。今日の配達は終わりとする俺にとって、自宅に近づくラッキー案件だ。
オレ ハイタツ スル ヒト オマエ ハイタツ サセル ヒト。
それでよい。俺のラッキーは誰にも奪えない。
この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。