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You are free

振り返らない背中を何度見送っただろうか。
もしかして、と踵を返してはそんなはずもなく、それでも捨てきれない未練がましさをやっぱりね、と流し込む。
目の前で勢いよく閉められたドアの前で爪先を眺めながら過ごす毎日。いつでも入ってきていいよと言った笑顔の裏には注釈がつく。耳元で常に脅されているような気持ちになる。
唯一、愛していることの証明がその場を立ち去ることだなんてあまりにも酷い。
もうなにも出来ることはない、と諦めて見送る背中に、飛び蹴りでもくらわせてやればよかった。せめて痛みのあいだ思い出して苦しめ。傘なんか貸さなければよかった。ずぶ濡れで寒い寒いと言いながら帰れ。雨音と涙がぽたぽたと同じリズムで落ちる。
それでも眠りにつく頃、風邪をひいていないか心配してしまう。
いつも、あたたかいベッドで幸せなきもちで眠っていることを祈りながら。

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