父との再会

昨年12月。父とおそらく15年ぶりくらいに会うことになり、1週間ほど前から緊張していた。
何を言おうか。どんな顔して迎えればいいのか。顔を見た瞬間泣き出してしまわないか。そもそも私だとわかるのか。
泣き出したところで、自分と会って感極まるものがあるとか勘違いされるのも困る。しかし私は感情の起伏が激しく、制御できないところまで振り切ることがあるので、とりあえず、会っても泣かない!ということを目標とすることにした。
夫も連れて三人で会おうと思ったが、これまでの私や家族に対する父の言動を思い返すに、他人の前ではええかっこしいなところがあるし、私も弁が立つ夫の前では自分の正直な心のうちを吐き出せないのではないかと、結局二人で会うことにした。

父と会うにあたり、色々と自分の気持ちを整理しなければならず1ヶ月程鬱々と過ごしていた。
人と約束して会う前の緊張に加え、あのどうしようもない父である。腹を下していた。

普段は待ち合わせ時刻に間に合うことがない、だらしない人間なのだが、早めに家を出て父の宿泊先まで迎えに行った。
最後に会った父は50代半ばで、家の換気扇の下で煙草を吸っていた姿を何故かよく思い出す。そんなによく見ていた光景でもないのに。
いくら大阪とはいえ、12月の始めは冷える。緊張からくるものなのか、寒さからなのか、手が震えていたのだが、登場したのは私の記憶の中の父ではなく、年老いた男性だった。
痩せてしまっていたし、髪の毛も薄くなっている。なんだか、拍子抜けしてしまって、やあやあ久しぶり!元気!とか肩を叩いて確認してしまった。
父も若干緊張していたようで、少し表情がこわばっていたがなんだあ、誰かわからなかったよぉ〜!などと間抜けな声を上げて大袈裟に振る舞っていたようにおもう。
沖縄に移住しているために、妙な沖縄なまりのようなアクセントで、私も私で妙な関西弁みたいなアクセント。気色が悪い。居心地の悪さを全振り出来るくらい、二人とも似非である。滑稽すぎて笑えた。
友人に教えてもらった、私の職場に近い蕎麦屋に着くと、酒を飲む前に話したいのだが、と、これまで寂しい思いをさせて申し訳なかった、みたいなことを言われた。謝る的がズレまくっているが、娘に対して謝れるところまではきたのか、と適当に相槌しながら聞いていた。私もいうべきことは言わねばならぬと、胸の内を話した。これまで母や私や妹に対して、周りの人に対してとってきた態度が改善されていないようであれば、もう会わないし会う意味もないし会いたくないと固い決意で来たことなどなど。悪かった、悪かった、と都度言っていた。
酒もすすみ、沖縄ではわかさぎが食べられないんだあ、と言ってわかさぎの天ぷらを嬉しそうに食べていた。
行きつけの立ち飲み屋に案内したら、立ち飲み屋は初めてだなあ、と喜んでいた。
けっこうなペースで呑み食いして、私はべろべろに酔った。
父を宿泊先まで送り届け、どうやって帰ったのかも覚えていなかったが、様子のおかしい私を心配していた友人が家の前で待っていてくれて、なんでお前が泣きそうな顔してるんだよ!とかなんとか朝までウザ絡みした。
あんまり覚えていないけど、泣いたかもしれない。
もう、別人みたいに年老いた父にがっかりしてしまったから。私が恐れていた男がこの世にはもういないと思った。怒りも悲しみもぶつけられないもどかしさを、意味のなさを、流してしまいたかった。

私は、わたしが嫌いだよ。
「お父さんに可愛がってもらえなかった」って、あの頃の私が、まだ、ずっと、心のなかで泣いているから、大丈夫だよって励ましてきたけど、一緒に泣いた。

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