祖父の葬式

祖父が亡くなった。
生きているものはいずれ死ぬ運命だし、
死ぬことは自然なことで、周りはそれを受け入れるだけだと。ずっとそう思っていた。

我が家は毎年お盆とお正月に父に呼ばれて祖父母宅に行き、ご飯を一緒にたべる、というのが恒例だった。
泊まると負担になるのでご飯だけ。
祖父は訛りの強い地方(有名)出身で、孫の私たちには祖母の通訳なしに意思疎通するのがちょっと難しかった。
祖父はあまり話さないが、何か話してはニコニコしていた。私たちもニコニコしていればよかった。
お正月は焼酎を飲んでニコニコしていた。

6年前、私が就職した年のお正月か大晦日に、家族でステーキを食べにいった。外でお肉を食べられるのはこれが最後になるかもだから、と父は言った。
祖父母ともによく食べていたし、祖父はお酒も嗜んでいたように思う。人並みに病院には行っていたみたいだけど、毎日お散歩して好物のあんぱんを食べる、幸せな老人だったはずだ。

3年前、祖父がお酒を辞めた。長生きするにはやめないと、と多分そう言っていた。笑っていたから冗談だと思った。祖父はずっと毛嫌いして使ってなかった補聴器を使うようになった、本当に聞こえなくなっちゃったんだな、と思った。

1,2年前、祖父が好きなどら焼きを贈った。すごく喜ばれた。毎日大事に食べてると。祖母には分けてくれないほどだと。またすぐ送るから2人で食べてよ〜と言ったら、たまにだからいいんだ、と言われた。
この時くらいに癌がわかった。もっと前に祖父母は知っていたのかもしれないけど、私には知らされていなかった。
末期ガンだったが、放射線治療は希望せず、自宅での最期を希望するとのことだった。

半年前、お正月にご飯を食べた。
もう外では食べられないので、お寿司を買って行った。すき焼きも、確か食べた。
祖父は痩せていたけど、よく動き、よく話してニコニコしていた。手が紫がかった色味になっていた。

3ヶ月前、脳梗塞で倒れた。と連絡があった。半身不随になってねたきり生活になった。会いに行ったら意外と元気そうだったので安心した。

またどら焼き買ってくるね、といったらもうどら焼きは食べられないとのことだった。

ベッドの上にいる祖父はあまり目を合わせてくれず、何を話していいかわからなかった。自分は話上手な方ではないし、方言も全部理解できる訳ではない。

これまで食べ物を贈り、それを一緒に食べたりすることでコミュニケーションを取っていた自分に気がついた。
そんなポンコツな自分に出来ることを探して、介護費用を負担することにした。会社の制度もあったし、お金は私が払おうと、これで祖父孝行とみなしてくれ、と思って払っていた。
請求書とは遅れてくるものなので、4月に2月とか3月の分がくる。
介護費がどれくらいなのか、なんて知らないので、4月にきた請求書を見て、全然払えるから任せて!と父に言った。
5月になって、また請求書がきた。
これなら毎年払えそうだから心配しないで、任せてよ、と思った。介護保険のありがたさを知った。

6月になって、祖父が亡くなった。
こんなに早く亡くなるとは思っていなかった。
月並みだけど、もっと会いに行けばよかったな、と思ってしまった。会っても私に出来ることはないのに。

顔を見ることはほとんど出来なかった。
反射的に涙が出てしまってどうしようもなくなるので、棺にお花を入れるときに逃げようとした。p値のこととか仕事のメールのこととか考えたりしたけど、効果はなくて、なんで泣いているんだろう、と思いながら泣いた。

自分がなんで泣いてしまうのかは最後までわからなかった。十分長生きしたと思うし、本人も延命は望まなかった。直接お別れを言えた訳ではないけど、少しずつその気配は感じていたし、覚悟もしていたつもりだった。

なんでかを考えるために、夜中にリビングで体育座りをしてスマホでこれを書いている。

たぶん、何言ってるかわかんないけどニコニコ楽しそうにしていた祖父にもう会えないのが寂しいのだと思う。
美味しい和菓子の噂を聞いても、贈る相手がいないことが、半ば孫としての義務感を感じながらも皆でご飯を食べることがもう出来ないのが、寂しいだけなんだと思う。
結局、自分が寂しいだけなんだ。なんてワガママなんだ…

8月には請求書は来なくなるだろう。
死後の世界のことは分からないけど、
おじいちゃんが好きなもの食べていたらいいな、と思う。どら焼きよりも美味しいものをたくさん食べていてほしい。元気だったときの、私のおじいちゃんじゃなかったときの姿でもいいから、幸せでいてほしいと思う。

それでも私はきっとどら焼きをお供えするのだ。
それしかコミュニケーションをとる方法を知らないから。


PS
祖父の介護治療などに関わってくださったみなさん、本当にありがとうございました。






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