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芝は中央、ダートは地方へ住み分け

かねてより進められてきたダート競走の地方移管が正式に決まったようです。2022/11/28、JRA、NAR、地方競馬主催者、全国公営競馬主催者協議会は合同で記者会見し、全日本的なダート競走の体系整備について詳細を発表しました。日本競馬において衝撃的、かつ抜本的な改革となっており、これにより日本競馬の形が大きく変わるかもしれません。

今年6月には「2・3歳馬のダート競走の体系整備」が発表されました。上記の記事はその時のものですが、これに続く改革が今回の発表となっています。以下、JRAのHPに記載された内容を基に詳細を見ていきます。


整備の経緯および趣旨

JRAの発表
「中央競馬と地方競馬の本格的な交流が始まった1995年から拡大したダート交流重賞競走は、1997年に全国的な統一格付基準が導入されたことにより、以降はダートグレード競走と名称を変え、これまで日本のダート競走の発展に大きく貢献してきました。

一方で、ダート競走の中心的役割を担うべき地方競馬においては、全日本規模の統一された競走体系の構築が実現できておらず、芝競走と比較してもダート競走は競馬関係者や国際的な評価の面で後れをとっている状況です。

そこで、芝とダートを両輪とする日本競馬の発展を目指し、地方競馬が主体となってダート競走の体系整備を行うことといたしました。先般発表した3歳ダート三冠競走の創設や、今回発表するさきたま杯のJpnⅠ昇格等の全日本的なダート競走体系の整備により、高い能力を持った馬が様々な適性に応じて活躍できる場を提供し、魅力ある競走を実施することで、ダートグレード競走の質と価値を高めてまいります。」

簡単に言えば、地方は競走体系がバラバラで国際的な評価が得られない状況であるため、芝ダートを両輪として日本競馬を発展させていくため、ダートについては地方が主体となって競走体系を整備していくことにする、という事ですね。11/18に発表された2023年度競馬番組等において【3歳春季GⅠ競走における出走馬決定方法の改善】が発表されましたが、これは現行の収得賞金順から芝競走の収得賞金に変更されるものです。このことから見ても今回の発表はJRAのダート路線からの逐次撤退を意味するのは明白です。

まぁ仕方ないですよね。現状、ダート路線の馬は溢れかえっている状況ですし、若駒からガンガン地方に移籍し、賞金稼いで中央に戻ってきて、条件戦を勝ち上がり、OP馬になればまた交流競走に出ていく状態ですから。

成長するまでの間、馬場を貸している形になるJRAとしては、ダート競走を整備しろって声は耳タコですし、かといってそれに取り組めばますます芝路線の馬を圧迫してしまいますし、降級制度を廃止するなどして早期の地方移籍を画策してきたものの、さすがにもう限界、と思ったのかもしれません。

もともと芝の育成、保護のために導入されたダート競馬ですし、あくまで芝競走をメインとした競馬を目指したいJRAと、ネットの導入により財政状態が改善した今、地盤を強固にするために住み分けを望んだNARの思惑が一致したというのが正解なのかな。


体系整備の概要

JRAの発表 ①3歳ダート三冠競走を中心とした体系整備

「中央競馬・地方競馬の所属の枠を超えた3歳ダートチャンピオンを決定する全日本的な競走体系の構築という観点から、羽田盃(JpnⅠ・大井1,800メートル)および東京ダービー(JpnⅠ・大井2,000メートル)を新たにダートグレード競走として実施いたします。また、ジャパンダートダービー(JpnⅠ・大井2,000メートル)はジャパンダートクラシックへ改称し、10月上旬に時期を変更して実施することとし、同競走の優勝馬にはJBCクラシックの優先出走権を付与します。

なお、前述3競走を「3歳ダート三冠競走」と位置付け、賞金額を大幅に増額し、併せて三冠ボーナスを設定いたします。


現状の3歳ダート路線では1月から4月までダートグレード競走の空白期間となっていることから、ブルーバードカップ(JpnⅢ・船橋1,800メートル)をはじめとする複数のダートグレード競走を新設し、3歳ダート三冠競走に向けた体系を整備いたします。そのうち3歳ダート三冠競走の前哨戦として、羽田盃の前哨戦に雲取賞(JpnⅢ・大井1,800メートル)、京浜盃(JpnⅡ・大井1,700メートル)を位置付け、新たにダートグレード競走として実施いたします。また、東京ダービーの前哨戦にユニコーンステークス(GⅢ)を位置付け、実施時期等を変更して実施いたします。

さらに、ジャパンダートクラシックの前哨戦に不来方賞(JpnⅡ・盛岡2,000メートル)を位置付け、新たにダートグレード競走として実施いたします。
なお、三冠競走における出走馬の選定については、各競走の前哨戦で上位となった馬が優先的に出走できる選定方法を予定しております。」

この『中央競馬・地方競馬の所属の枠を超えた』という文言からも、中央のダート馬排除の方針が分かりますね。中身は今年6月に発表された3歳ダート三冠競走のうち、ジャパンダートダービーの名称がジャパンダートクラシックに変更されたこと、そしてその前哨戦についてです。

名称については触れなくてもいいでしょう。前哨戦については、3歳ダート路線は1~4月はダートグレード競走が無いことから毎月1レースづつ計3レースを新設し、その内2レースを羽田盃(4月下旬、JpnⅠの予定)の前哨戦にするそうです。また、東京ダービーの前哨戦として中央のユニコーンSを、ジャパンダートクラシックの前哨戦として不来方賞を新設するとのこと。

ダート三冠路線ということで距離は中距離ばかりです。地方だけなら1700m~2000m、中央を入れても1600m~2000mと非常に狭い範囲で実施される点は三冠の価値が低迷する要因になりそうですね。後述する短距離路線の整備がされる影響で短い距離を設定できなかったという点を考慮しても、距離の幅を持たせた方が良かったと思います。

例えば、羽田盃は1600m、または川崎、船橋、浦和の1600mにしたり、ジャパンダートクラシックは2400m、または船橋の2200~2400m、川崎の2100mにするとか選択肢があったでしょうに。それとも長距離のダート戦はいらないってことなんですかね。一度始めたら変えるのは非常に難しいですし、最初が肝心だと思いますが、なぜ大井に限定してしまったのか。不可解です。



JRAの発表② 2・3歳ダート短距離路線の整備

「3歳ダート短距離路線においては、中央競馬・地方競馬ともに目標となる競走が不足していることから、兵庫チャンピオンシップの競走距離を1,870メートルから1,400メートルへと変更し、3歳春季短距離路線の頂点競走として位置付けます。

併せて、古馬の層が厚い短距離路線における3歳馬の賞金獲得機会拡大の観点から、北海道スプリントカップ(JpnⅢ・門別1,200メートル)の出走資格および時期を変更して実施いたします。

また、2歳ダート短距離路線においては、出走馬の質の向上を図る観点から、エーデルワイス賞(JpnⅢ・門別1,200メートル)の時期を変更して実施いたします。」

既報どおり、兵庫チャンピオンシップは距離を短縮した上で、3歳春季短距離路線の頂点となる競走に発展します。北海道スプリントCは夏季以降の出走機会確保のために3歳限定に変更した上で施行時期を2ヵ月遅らせ、エーデルワイス賞は出走馬の質向上を図る目的で施行時期を1ヵ月遅らせます。

エーデルワイス賞については11月上旬に時期を変更するとJBC2歳優駿に被って出走馬の質向上になるかは疑問ですし、11月下旬の兵庫ジュニアグランプリと間隔が詰まるような気がするんですがどうでしょう。それともあくまで2歳は全日本2歳優駿が頂点で、それ以外は前哨戦的扱いなのでしょうか。そうするとダート競馬の祭典の一つであるJBC2歳優駿の扱いが微妙になりそうな・・・

まぁそこまで過度にダートグレード競走を用意することは難しいのでしょうね。あくまで本番は3歳以降ですから。


JRAの発表③ 重賞級認定競走(ネクストスター)の新設

「頂点として位置付けられる兵庫チャンピオンシップに向けた、各主催者・各ブロックにおける短距離競走の体系整備の観点から、2歳秋および3歳春において高額賞金の重賞級認定競走(ネクストスター)を新設いたします。

なお、同競走については、ダート適性馬の地方競馬への早期入厩を促進する観点から、地方デビュー馬のみ出走可能といたします。

また、3歳春の重賞級認定4競走(ネクストスター)の優勝馬には兵庫チャンピオンシップへの優先出走権を付与いたします。」

また新しい横文字が出てきました。これは短距離路線整備の一環のようですが、主な目的は【地方デビュー馬のみ出走可能】というところでしょう。これにより本来中央に入る馬を地方デビューさせてそこそこの賞金を掻っ攫うこともできそうですね。特に未勝利も勝てない残念な競走馬ならともかく、そこそこ期待のある馬なら、少なくとも3歳春の三冠レースまでは地方所属でも良さそうですし。前述とおり、完全に住み分けを狙った方策です。


JRAの発表④ 既存ダートグレード競走の総括的な見直し

「既存ダートグレード競走については、カテゴリーごとの頂点競走を明確化し、頂点競走に向けた競走体系等の整備を実施します。

古馬短距離路線においては、下半期にJBCスプリント(JpnⅠ)が設定されている一方で、上半期には目標となる競走が設定されていない現状を踏まえ、新たな上半期の頂点競走として、さきたま杯(JpnⅡ・浦和1,400メートル)をJpnⅠへ昇格して実施いたします。併せて、これに伴う競走体系の整備として、一部ダートグレード競走の実施時期等を変更いたします。

古馬中距離路線においては、11月から1月までGⅠ/JpnⅠ競走が連続して設定されていることを踏まえ、ローテーションの整備および出走馬の質の向上を図る観点から、川崎記念(JpnⅠ・川崎2,100メートル)の時期を変更して実施いたします。併せて、これに伴う競走体系の整備として、一部ダートグレード競走の実施時期等を変更いたします。

古馬牝馬路線においては、下半期にJBCレディスクラシック(JpnⅠ)が設定されている一方で、上半期には目標となる競走が設定されていない現状を踏まえ、エンプレス杯(JpnⅡ・川崎2,100メートル)の実施時期を変更し、併せて負担重量をグレード別定から定量へ変更のうえ、新たな上半期の頂点競走として設定いたします。
また、各地区から頂点競走へ向かう競走体系を構築する観点から、TCK女王盃(JpnⅢ・大井1,800メートル)の実施場を園田競馬場へ変更するとともに、兵庫女王盃(JpnⅢ・1,870メートル)へ改称して実施いたします。併せて、一部ダートグレード競走の実施時期等を変更いたします。

3歳牝馬路線においては、上半期に関東オークス(JpnⅡ)が設定されている一方で、下半期には目標となる競走が設定されていない現状を踏まえ、マリーンカップ(JpnⅢ・船橋1,800メートル)の出走資格および実施時期等を変更し、新たな下半期の頂点競走として設定いたします。また、同競走の優勝馬にはJBCレディスクラシックの優先出走権を付与いたします。」

ダート競走を地方に移管するにあたって2・3歳路線だけではなく、古馬の各路線の整備も必要となります。

短距離路線はJBCスプリント以外にJpnⅠがありませんので、上半期にもう一レース作っちゃおうぜ!!ということで浦和のさきたま杯が昇格しました。それに伴い、かきつばた記念は5月上旬から3月上旬へ繰り上がり、ハンデ戦から別定戦へと変わります。というか、JpnⅡも上期、下期で一レースづつなので、そこら辺も整備した方が良いのかなと思いました。ただ、国際格付けを狙った時にさきたま杯がGⅠになれますかねぇ。

中距離路線は長年の懸念事項だったGⅠおよびJpn1が3ヵ月続く冬のローテにてこを入れます。川崎記念を3月のダイオライト記念後の4月上旬に移行したため、6月の帝王賞まで程よい間隔を空けるナイスな日程になりました。中央馬から見ると2月にサウジ国際がありますし、3月のドバイも考慮するなら12月末の東京大賞典から間隔が空くのは良いことです。

また、それらが無かったとしてもダート競馬の祭典であるJBCからスタートしてチャンピオンズC、東京大賞典、川崎記念と3ヵ月の間に大レースが4つも続くけば有力馬が分散しますし、川崎記念以外は簡単に動かせないので現状の最善手ではないでしょうか。

ただ、名古屋グランプリと名古屋大賞典の施行時期、条件の入れ替えはどこまで意味があるのか疑問です。格付け的に川崎記念と帝王賞の間にJpnⅡが欲しかったということかもしれませんが、そこまでしなくてもいいかなと思いました。

古馬牝馬路線もJBCレディスクラシック以外にJpnⅠがありませんし、JpnⅡも上期、下期で一レースづつしかありませんので、上半期の目標をエンプレス杯とするように施行時期を変更しました。それに伴い、そこに至る牝馬路線の整備として船橋のクイーン賞、TCK女王盃を園田に移した兵庫女王盃をその前哨戦に持ってきました。これにより牝馬路線は選択肢がほぼ毎月に広がります。

3歳牝馬路線は関東オークス以外、グレード競走すらない状況ですから、とりあえず船橋のマリーンCを下半期に移行してグレード競走を増やし、さらにJBCレディスクラシックの優先出走権を付与することで出走馬の質向上に努めています。


ここまでやればだいぶスッキリしましたね。完全にダート路線は地方でまかなうという意志が感じられます。これらは2024年から実施されるそうですが、実施後も5年ほど様子を見て手を加えていき、四半世紀くらいで綺麗なローテができるといいでしょう。それにはやはりダート三冠路線の大井偏重は避けたいところですが・・・


JRAの発表⑤ 国際化に向けた取組

「地方競馬のダートグレード競走は、国内向けの格付表記として東京大賞典を除く全ての競走で「Jpn」を使用しており、国際的に認められた共通の格付けで管理されるべきパートⅠ国の競走として、足並みが揃っていない状況です。

また、国際競走となっていない競走については、ブラックタイプ競走(セリ名簿に競走の格と馬名が太字で記載できる競走)の中でも評価の低いLR(制限付きリステッド競走)に分類されております。

このような状況に鑑み、日本のダート競馬の国際的な評価を高めるべく、地方競馬では2028年から段階的に「Jpn」表記の使用を取り止め、全てのダートグレード競走を国際競走とすることを目指します。より高い国際格付けの取得に向けた賞金額の設定やレースレーティングの達成、海外出走馬の受け入れ体制の整備など、国際化へ向けた具体的な取組を地方競馬一丸となって進めてまいります。」

やっとですね。これまで独自グレードのJpn表記を使用してきましたが、国際的に見ればどんなにレースレーティングが高くてもリステッド競走扱いなのでダート馬の評価が上がる事はありませんでした。

そもそも重賞格付けは、その後の生産活動において大きな指標となります。重賞格付けを持つ馬はブラックタイプで表示されることでその馬の格が一目で分かるようになっているのはそのためなんですね。であれば、Jpn表記を止めて国際競走として重賞格付けを狙った方がダート馬の評価も改善されますし、日本ダート界の発展にも寄与する事でしょう。

また、国際重賞とリステッド競走を混同するような報道も少なくなり、競走馬の評価がより明確になります。昔、テイエムオペラオーとブルーコンコルドはどちらもGⅠ7勝で格は同じというアホな議論も無くなると思います。

だいたい、JBCクラシックをGⅠ競走として扱うのはおかしいのですよ。日本は10年以上前から全重賞で国際格付けを得ていますし、リステッド表記を始めて国際互換のあるGグレードを厳格に適用していますが、地方競馬はそれをまるっと無視してあたかも中央のGⅠとJpnⅠが同じ価値のように扱うのは報道する側として問題があります。現在、地方競馬で施行される国際GⅠ競走は東京大賞典のみですからね。東京大賞典がぶっちぎりで地方競馬最高峰のレースなのです。

もし、それが嫌だってんなら帝王賞やJBCも国際GⅠに格上げ申請すればいいのですよ。帝王賞もJBCクラシックも直近のレースレーティングが良ければなんとか要件を満たせるでしょ。JBCスプリント?レディスクラシック?知らん。

というか、川崎記念やかしわ記念、南部杯なんかは2028年までに格付け要件を満たせなかったらどうすんのさ?国際GⅡとして申請します?ジャパンダートクラシックだって、2021年までの3年平均で107.83しかないんですから、相当頑張らないといつまで経ってもJpnⅠ表記を外せませんし、他のグレード競走が国際GⅡ、GⅢとかに格付けされたら逆転現象が起きちゃいますよ。白山大賞典が国際GⅢで川崎記念がリステッドとかおかしいでしょ?


まとめ

というわけで長々と書いてきましたが、これ記事を分けるべきでしたね。7000文字とか読む方も大変でしょう。

JRAのHPに競走体系概略図が載ってますけど、やっぱりこれを見てもJRAはダートから離れたいんだなぁと思います。重賞を残すのは、地方競馬のレーティングを取りやすくするためでしょうね。レーティングが高くなる中央でレーティングを稼ぎ、そのまま地方で活躍し他馬や他の馬のレーティングを上げる方法を取らなければ、地方競馬だけで国際格付けはほぼほぼ不可能だと思います。

もともとダート路線をあまり好まない私からすればやっと整理されたかって感じです。日本のダートは海外のそれと違うガラパゴス化したものですから、今更ブラックタイプがどうと言われても国際的には評価のしようがないだろうな、なんて思います。

ただ、これでJRAがより芝路線に偏重した番組を組んでくれたら、それだけ様々な馬に可能性が広がりますし、中央に残されたダート馬も細々とやっていけそうな雰囲気がありますよね。10年後にはダートの番組が全体の1/3程度になってたりしてもおかしくないですし、芝レースの条件戦が少頭数ばかりになる事もないかもしれません。

やはり競馬は芝を走ってこそだと強く思いました。

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