見出し画像

キタサンブラック 34頭目の顕彰馬に選出

やっぱりコレは書かないといけませんね。キタサンブラックが顕彰馬に選出されました。大変素晴らしい事ですし、私自身もデビュー時からずっと追いかけてきた馬ですので、我が子の事のように喜んでおります。ただ、ファンの皆さんの多くが同じ様に思っているでしょう。

コレ意味あんの?

とね。

顕彰馬制度ってそもそも何?

顕彰馬制度は『中央競馬の発展に特に貢献があった馬および調教師または騎手について、その功績を讃える』という名目でJRAが顕彰を行っている制度ですが、問題なのはその選考基準です。現在は年に一回『報道関係者による選定投票を行い、3/4以上の得票を得た馬が選定される』のですが、これって年度代表馬等を選出するJRA賞と同じ問題を抱えていますよね。


なんで報道関係者なの?


私の考えでは、『自分たちの組織に所属する競走馬、調教師、騎手を自分たちで顕彰、表彰するのに、なぜ外部の人間の評価が必要なんだろう?自分たちで決められないとしても、自分たちの意見を放棄する事はないだろう。』と思うわけです。これ結構他の媒体で何十年も言ってるんですけど、やっぱり何年経っても自分の考えは変わりませんね。

そもそも顕彰馬制度が導入されたのは1984年です。この年は日本競馬界にとって大きな転換期となりました。ルドルフが無敗で三冠馬になり、ミスターシービーと三冠馬同士の対決もあった1984年からグレード制が導入されたのです。大型ターフビジョンも完成した年でもありましたね。それらと同時に導入されたのが顕彰馬制度です。

顕彰馬はどうやって決める?

制度を導入した当初の選考方法は以下の通りです。

・競走成績が特に優秀であると認められる馬
・競走成績が優秀であって、種牡馬または繁殖牝馬として、その産駒の競走 成績が特に優秀であると認められる馬
・その他、中央競馬の発展に特に貢献があったと認められる馬

まず、『競走成績が特に優秀』というのは、具体的にはGⅠ競走を3勝以上した馬を指します。これは1984年以前の競走馬で顕彰馬に選出されそうな競走馬と比較すると極めて妥当な数字なんですね。この年から始まったグレード制によりGⅠに格付けされた競走は、八大競走(クラシック、天皇賞・春秋、有馬記念)、ジャパンC、宝塚記念、安田記念、マイルCS、エリザベス女王杯、朝日杯3歳S、阪神3歳Sの15レースですが、創設時に選出された顕彰馬10頭のGⅠ(八大競走)勝利数の合計は24勝で、上記の15レースで換算しても28勝です。つまり、『競走成績が特に優秀』と認められるにはGⅠ3勝が必要という事です。

次に『競走成績が優秀で、繁殖成績が特に優秀』というのは、GⅠ馬となった産駒が種牡馬なら5頭、繁殖牝馬なら2頭以上である事を指します。創設時に選出された10頭の内、種牡馬となれた7頭が輩出したGⅠ馬の合計は29頭で平均4.1頭、上記の15レースや中山大障害等を含めると44頭で平均6.2頭、繁殖牝馬となった2頭が輩出したGⅠ馬は3頭なので平均1.5頭です。つまり、こちらも選出基準としては妥当な数字と言えます。

最後に『中央競馬の発展に特に貢献があった馬』とは、数字では計れない貢献をした馬を救う基準です。代表的なのがセイユウやグランドマーチス、ハイセイコーなどですが、こうした馬たちを拾い上げて行くための方策がこの基準ですね。

セイユウは、アラブの怪物と呼ばれているようにアラブとサラブレットの混血種アングロアラブです。当時はサラブレットより遅いと言われていたアラブとサラブレットはレースが分かれており、アラブがサラブレットに挑戦する事は多くありませんでした。今の地方馬と中央馬くらいの差がありましたからね。そのアラブのセイユウがサラブレット相手に5度も勝利を収め、先着した相手が同年秋の菊花賞馬、天皇賞馬、皐月賞馬、ダービー3着馬だったでしたから、それがどれほど大きい事が分かると思います。

グランドマーチスは言わずもがな、顕彰馬で唯一の障害馬です。4/20付けの『障害の名馬たち』https://note.com/boost_quinty/n/ne0076c98e71b
で書きましたが、中山大障害四連覇、史上初の獲得賞金3億円など平場にも負けない数々の記録を達成した名馬ですね。

また、ハイセイコーについては勝ったGⅠは皐月賞のみ(1974年の宝塚記念も勝っている)、種牡馬として輩出したGⅠ馬は3頭のみですが、第一次競馬ブームの立役者となるほどの国民的アイドルホースでした。なんたって「東京都 ハイセイコー様」という宛名だけでファンレターが届くんですから、後のオグリキャップやディープインパクト並みの人気です。JRAも『日本中央競馬会50年史』の中で、このブームが競馬を従来の【公営競技=ギャンブル=悪】というイメージから、健全な娯楽として認知させた一因と評価しています。

そして、この3つの基準に該当する競走馬は顕彰馬選考委員会の審議(委員の3/4の賛成)により選出されていました。 この方法では所謂有識者が議論の末に選出するため、納得できる部分が非常に多かったのです。もちろん、疑問に思う選考もありましたよ。特にダイナナホウシユウは顕彰されてしかるべきだと思いますし、『馬品に欠ける』と猛反対した一人の委員のせいで稀代の名馬が顕彰されない事はタケシバオー同様に救済されるべき名馬だと思います。ただ、これは3/4の賛成(委員10名なら8名の賛成)で救済できますし、委員の入れ替えによっても可能性は十分あったので、本当に何か欠ける部分があったのかもしれません。今はもう分かりませんが。

悪名高い選考方法に変更

多少の問題点はあったものの、概ね成功していた顕彰馬選考委員会による選出でしたが、2001年より現在同様、報道関係者の投票による選出に変更されます。具体的には『10年以上競馬報道に携わっているマスコミ関係者が一人2頭ずつまで投票を行い、全体の3/4以上の得票を得た競走馬が選出される』ことになりました。ここから外部委託に切り替わるわけです。よく考えてみれば顕彰馬選考委員会の委員も外部の人間ですが、同委員会はJRAが組織運営していたハズです。そのため、実質的に内部で選考していることになる点に違いがあります。

この外部委託によりいくつかの問題が出てきますが、代表的なものがJRAが自らの意思を放棄している点、次に範囲が広すぎる点、そして繁殖成績が軽視されている点が挙げられます。

自らの意思はないのか
まず、いくら競馬に長く携わっているとはいえ、外部の人間の投票結果をそのまま採用する点は、手抜きなどという言葉では表せないくらいの怠慢だと思います。また、これによってJRAの考え、意思、意見は全く放棄される事になりますし、不可解に選出された顕彰馬を永遠に顕彰していく可能性もあるの大問題です。

例えば、ハルウララのような連敗続きでも社会的な人気を集めた馬が選出されると考えたらどうでしょう。現在は一人の記者に対して4票が与えれていますが、特にコレといった該当馬がいないタイミングで、謀ったように3/4が投票する事だって考えられます。ホッコータルマエ、コパノリッキー、ディープブリランテ、ファインニードルに入れた記者が居る事を考えれば、十分対策をしておくべきでしょう。

JRAが永遠に【顕彰】していく制度ですから、外部の意見だけで決めるのは組織として論外だと思いますね。

範囲を決めないと票が割れる
次に範囲の問題ですが、近代競馬150年と言っても実際に今の競馬体系の原型ができたのは八大競走が創設された頃です。八大競走が創設されたのはダービーが1932年で一番早く、その後1937年秋~1939年春にかけて残りのクラシック4レースと天皇賞・春秋が創設され、そこから少し空いて1956年に有馬記念が創設されます。つまり、当時でも約70年という広い範囲の中から該当馬を選出する事になり、当然、該当馬の範囲も広くなり、票が割れる事になります。

この問題にモロに引っ掛かったのが世界の賞金王テイエムオペラオーです。オペラオーの功績は述べる必要はありませんが、日本競馬史上最強の一頭とも言えるオペラオーでさえ得票率が70%にも満たない結果となった事に、JRAに抗議が殺到して、大きな騒ぎになりましたね。

当時はただでさえ一人の記者に対して2票しかないのに、以前の選考で漏れた昭和の名馬を顕彰馬にしたい古参の記者と、そんな古い時代は知らない、数字を見れば今の方が優秀なのは明らか、という中堅以下の記者の間で票が割れる事くらい想像できないのでしょうか。

繁殖成績はガン無視?
そして以前の選考方法で十分加味されていた繁殖の成績については、現在の記者投票では全く無視されています。2001年以降に選出された9頭の内、GⅠ馬を輩出できたのは4頭ですが、各馬とも繁殖成績を抜きにしても顕彰馬に選出される競走成績がありました。一方で、長年顕彰馬の壁となっている以下の競走馬たちは競走成績だけでなく、繁殖成績を見ても優れている馬がいます。

スペシャルウィーク  4頭(計10勝)
シンボリクリスエス  5頭(計 6勝)
ハーツクライ     9頭(計17勝)
ダイワメジャー    6頭(計 9勝)
アグネスタキオン   6頭(計10勝)
キングカメハメハ  12頭(計27勝)
ステイゴールド   12頭(計33勝)※障害馬2頭、8勝を含む

以前の選考方法では、【特に優秀な競走成績】か、【優秀な競走成績と特に優秀な繁殖成績】があれば選考対象となりました。それを考慮すればキングカメハメハやステイゴールド、ハーツクライなどは十分に顕彰馬の資格があると考えられます。

しかし、過去の得票を見てみると、最も顕彰馬に近いとされるキングカメハメハであっても得票率10%を超えるのは稀という惨状で、ハーツクライに至っては得票がない年もしばしばあります。これで繁殖成績を加味していると言えるのでしょうか。

例えば、先に顕彰馬に選出されたエルコンドルパサーの強さやインパクトは大きく、この3頭の競走成績では見劣りしますが、逆に繁殖成績では圧倒的な差を付けています。にも関わらず、ブエナビスタ、ゴールドシップ、ダイワスカーレット、ヴィクトワールピサなど競走成績が優秀なだけの馬より遥かに低い得票しか得られないのは、ブラッドスポーツたる競馬というものを理解していない記者が投票しているとしか思えず、この制度の根幹を揺るがす大きな問題です。

さらに選考方法を改悪?
上記の問題が解決されないまま、2015年にはさらに選考方法に手が加えられ、一記者に2票だった投票頭数が4頭に増加されました。JRAの発表では『(スプリント、マイル、中距離、長距離など)競走カテゴリーの多様化により、活躍馬が多数のカテゴリーから出ているので、このままだと票が割れて顕彰馬の選出に影響が出る。顕彰馬としてふさわしい馬が適切に選出されることが目的』らしいです。

言っている意味は分かります。ただ、それを言うなら繁殖成績を加味させる方が先ですし、カテゴリーの多様化というより、GⅠの増加により【特に優秀な競走成績】が達成しやすい事を解決しなければ、JRAの言う『顕彰馬としてふさわしい馬』が選出される事は難しいのでは?と思います。票が割れる心配より選定対象馬を厳選した方が早いですからね。

特例での選出の是非
通常の投票以外にも、特例として選考を行った例が2回あります。2004年のJRA50周年および2014年のJRA60周年に事業の一環として行われたもので、前者は『投票対象外である登録抹消後21年以上が経過した馬』、後者は『投票頭数を一人の記者に対して4票』とされ、それぞれタケシバオー、エルコンドルパサーが選出されました。

正直なところ、こういう特例はあっても構わない、むしろもっとやるべきだと思いますね。ただ、その方法は報道関係者の投票ではなく、顕彰馬選考委員会のような有識者が行うべきです。なぜなら、こうした特例での選出は、通常の選考で見逃されてきた馬にスポットを当てる事を目的としているからです。ただでさえ、上記の問題が解決されていないのですから、有識者でキッチリと議事録を残して議論をした上で、そうした馬を救い上げて行く事は重要だと思います。

適切な選考方法は?

顕彰馬という栄えある称号を得るための選考方法の問題点は上記で指摘したとおりですが、では適切な選考方法とはどんな方法を指すのでしょうか。

私はなぜ2001年に制度が変更になったのかを考えました。一番大きな理由は選考を密室からオープンにする事だと思いますが、それと同じくらいGⅠの増加による選考対象馬の増加が挙げられると思います。

先にも述べたとおり、顕彰馬制度が創設された時代は日本競馬界の転換期です。それまで八大競走が大レースと認識されており、1984年のグレード制導入によりGⅠに格付けされたレースは八大競走を含む15レースに増加しています。その後、90年代に5レースが格上げされ計20レース、2000年代と2010年代に2レースずつ創設と格上げがされて、現在では24レースにまで膨れ上がっています。八大競走の時代と比べると3倍にもなるので、顕彰馬のGⅠ勝利数も3倍には届かないまでも2~2.5倍程度にはなっているハズです。それを踏まえて顕彰馬のGⅠ勝利数と一頭の平均勝利数を見てみましょう。

創設時選出の10頭の総GⅠ勝利数24勝、一頭平均2.4勝
80年代選出の 5頭の総GⅠ勝利数18勝、一頭平均3.6勝(アラブ以外は4.5勝)
90年代選出の10頭の総GⅠ勝利数32勝、一頭平均3.2勝
00年代選出の 3頭の総GⅠ勝利数15勝、一頭平均5.0勝(特例を除くと7勝)
10年代選出の 5頭の総GⅠ勝利数29勝、一頭平均5.8勝

ご覧のとおり、近年選出された顕彰馬の一頭平均は、創設時のそれと比べて2.4倍となりました。予想通りですね。つまり、以前の選考基準では選考対象馬がアホみたい多くなってしまい、とてもじゃありませんが選考委員会で議論できる範囲を超えてしまいます。だから記者投票に変更したのではないかと思うわけです。記者投票にすればファンの意見を汲み取る事ができますし、JRAの一部である選考委員会が批判に晒されることもありませんしね。

そう考えると適切な選考方法は、基準をアップデートした新しい基準で対象となる馬を選出し、そこで残った対象馬に対して投票を行う、もしくは投票で一定数以上を獲得した対象馬を顕彰馬選考委員会で審議する、ですね。

私は、JRAが顕彰馬を選定する以上、JRAが責任を負うのが筋だと思いますし、内部の意見も重要だと思います。そのため、以下の形が現実的で有用性の高い方法だと思います。

1.下記基準に該当する競走馬をJRAが選出する
 ・競走成績が特に優秀であると認められる馬
 (おおむねGⅠ6勝以上の競走馬)
 ・競走成績が優秀であって、種牡馬または繁殖牝馬として、その産駒の競  走成績が特に優秀であると認められる馬
 (おおむねGⅠ3勝以上の競走馬であり、かつ種牡馬であればGⅠを勝利し  た産駒が5頭以上で合計GⅠ勝利数が10勝以上、繁殖牝馬であればGⅠを  勝利した産駒が3頭以上で合計GⅠ勝利数が5勝以上)
 ・その他、中央競馬の発展に特に貢献があったと認められる馬

2.上記1.で選出された競走馬について、JRA関係者および15年以上競馬報道に携わっている報道関係者の投票を行い、総投票者の3/4以上の得票を得た競走馬が選出される

まず、以前の基準である【競走成績が特に優秀】をGⅠ3勝からGⅠ6勝へ変更しました。これは2000年以降で特例を除いて選出された7頭の顕彰馬はいずれもGⅠ6勝以上で、内5頭が7冠馬であることを考慮しています。続いて【競走成績は優秀、繁殖成績は特に優秀】については【特に優秀】という事で産駒のGⅠ勝利数10勝は外せませんし、GⅠ勝利馬は以下のようにクモハタ、トサミドリ、トウショウボーイ、あるいはキングカメハメハ、ステイゴールド、ハーツクライなどとバランスを取った結果、最低限5頭は欲しいという結論に達したわけです。

クモハタ      14頭(計19勝)朝日杯等のGⅠ級、中山大障害を含む
トサミドリ     14頭(計16勝)朝日杯等のGⅠ級、中山大障害を含む
トウショウボーイ   7頭(計11勝)阪神3歳を含む
キングカメハメハ  12頭(計27勝)
ステイゴールド   12頭(計33勝)※障害馬2頭、8勝を含む
ハーツクライ     9頭(計17勝)

これでも充分に選定できると思いますが、2.で過半数以上を獲得した対象馬を顕彰馬選考委員会の審議により(委員の3/4の賛成)選出する形の方がより良い選定に繋がると思います。こちらの方がよっぽどブラットスポーツたる競馬の発展に寄与した競走馬を顕彰する事に繋がると思いますね。

いずれにしろ、確実に行うべきは騎手、調教師、馬主といったJRA関係者、顕彰馬選考委員会といったJRA内部の人間が、選考に参加する事です。

参加した関係者は投票内容を公表するも良し、しないも良し。一定の基準で対象馬が絞られているので、顕彰馬にふさわしいかどうかで判断できますし、JRA側が競走成績はもちろん、繁殖成績も提示できるので小難しく考える必要はありません。

ただ、関係者については絞り込む必要があると思います。正直、騎手と調教師だけでいいような気もしますが。騎手なら前年のリーディング50位以上または通算勝利数1000勝以上、調教師なら前年のリーディグ50位以上または通算500勝以上とかね。さすがに新人騎手や調教師に投票権を与えるのは厳しいでしょう。馬主や生産者も難しいですが、前年のGⅠを勝利した馬主およびその生産者(複数勝利しても投票権は一つ)といったところでしょうか。いやっ・・いらないかなぁ。恣意性の排除に逆行しそうだし。

ともかく、現在の顕彰馬制度はあまり価値のない制度だと思います。JRA賞と同じく人気投票ですから。各報道関係者それぞれが個人の顕彰馬という価値観を基に投票を行っているから、ディープブリランテやファインニードルなどに投票される事になるのです。1990年代と2000年以降では明らかに名馬と呼ばれる範囲が広くなっている以上、伝統と格式を守りつつ、時代に即した制度に変更する事が大切だと思いますし、顕彰馬の意味をもっと考えてほしいと思いますね。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?