藤田菜七子騎手、正式に引退 JRAの対応の問題点は?
JRAから藤田の引退が正式に発表されました。予想通り引き留めなどはなかったようです。前回の記事の続きとなります。
■師匠の根本先生が状況を説明
10月11日午前中に師匠の根本先生が会見しました。
「引退届はまだ受理されていないんですが、厩舎所属の藤田菜七子の件でいろいろご迷惑をお掛けして誠にすみません。本当は一緒に謝罪しなければいけないんですが、菜七子がそういう精神状態じゃないのですみません。
私の方から言いたいのは、前回の6人(の騎手)が処分されたスマホの件の時に、菜七子が事情聴取の中で『すみません、過去に使用していました』と言っていて、口頭で厳重注意を受けています。それが週刊誌の報道で、また処分を受ける形となってしまった。本人も納得がいかない部分があると思います。
引退届を書く時に私の万年筆で菜七子は大泣きしながら書いていた。両親にも旦那にもやめる相談をしているし、もう意志は固いでしょう。1回処分を受けて、2回処分を受けるのはおかしいし、これでは菜七子が逃げたような印象になるけど、決して違うし、そんなズルい人間ではない。そこだけはハッキリ言っておきたい。ここまで菜七子をギリギリのところで守ってきたけど…
もう、このサークルに戻ってくるつもりはないと思うが、競馬を嫌いになったり、馬を嫌いになったりしないでほしい。いつかは子供たちに馬を教えられるようになってほしい。辞めたくないよ、菜七子だって。あと2年で私も調教師としての定年を迎える、(その時30歳間近に控える藤田は根本先生が引退する数ヵ月前にムチを置く計画もあり)そこまでは一緒に頑張ろうと常々話をしていたのだから。菜七子とは娘のように接してきた。俺は死ぬまで泣きながら菜七子が引退届を書いていた姿を忘れられない。」
なんだか感情論で締めた感じですが、どうして辞めることになったのかが全く分からない会見でしたね。今後、彼女が会見を開く予定もないということですし、真相は闇の中ということになりそうです。
ということはですね、根本先生がおっしゃっているような「菜七子が逃げたような印象になるけど、決して違うし、そんなズルい人間ではない。」という点も疑問符が付くわけです。やはり人としての筋を通すことは社会人として必要なことだと思いますし、女性騎手をリードしてきた騎手としてのプライドの問題ではあるものの、それをしなかったという事は逃げたと思われても仕方ありません。迷惑かけて謝罪一つもできない女というレッテルは張られ続けますよ。それは彼女にとって晩節を汚す以上に辛いことになるのではないでしょうか。
さらに根本先生は彼女が「このサークルに戻ってくるつもりはないと思う」と発言していることから、競馬界から去って行くことは確実でしょう。純子パイセンのように競馬に携わる仕事をすることもないでしょうし、馬に近づくことすらしないかもしれません。これはJRAにとっても、日本競馬界にとっても、大なり小なりマイナスになると思います。JRA女性騎手のパイオニアですからねぇ。色々な部分で利用価値はあったでしょうが、それも無くなったわけで・・・まぁそれは彼女に関係ない話ですが。
■藤田とJRAの問題は?
また、JRAに関しては色々と問題点が浮上しました。11日午後の会見で色々とコメントを出していますね。経緯を簡単にまとめてみました。JRA審判部の松窪隆一審判部長のコメントは11日午後の会見でのものとしてお読みください。
①JRAは2023年4月のスマホ6事件の後に全騎手を対象に『通信機器の不適切使用経験の有無』の調査(画面、通信履歴、電話会社に本人が通話記録を申請し、それを確認)を実施していた。
②その際に、藤田はただ一人、過去に調整ルーム内でYOUTUBEやTwitter(現X)など通信を伴わない使用を自己申告したため、口頭による厳重注意処分をした。その際に藤田は『相手のある通信はしていない』と証言し、調書に押印していた。
③この厳重注意処分を公表しなかった理由について、JRA審判部の松窪隆一審判部長は「指導であり注意。施行規程上の処分ではないため、藤田騎手にかかわらず名前を公表することはない」とした。
※名前が公表されるのは、戒告、過怠金、騎乗停止、免許取り消し、関与停止、関与禁止といった、公正かつ安全な競馬に対しての注意義務を怠った者へ科せられる処分を受けた場合となる。
④またスマホ6との処分の差について、松窪隆一審判部長は「藤田騎手は当時持ち込みは認められていた調整ルーム内での使用であり、他の騎手は持ち込みも禁止されていたジョッキールーム内での使用だったため差が生まれました」とした。
※スマホ6事件以前は、ダウンロードしたレース映像の閲覧などのために調整ルーム内へスマホを持ち込むこと自体は認められていたが、通信を伴う使用は禁止されていた。
⑤2024年10月9日、週刊文春が藤田の通信機器不正利用を報じたことを受けて、JRAは9日午後5時頃に藤田に連絡を取り、聞き取り調査を実施したところ、2023年4月まで複数回にわたり外部と通信をしたことを認めた。通信相手は3名の厩舎関係者だといい、藤田は2024年7月に結婚を発表した夫であるJRA職員ではないと主張している。また、違反をした日以降は開催日に調整ルーム居室内に携帯は持ち込んでいないと話しているが、現時点で事案の数は調査できていない。
⑥10月10日、JRAは『2023年に実施した調査において他者との通信はしていないと申告していたが、実際は通信していた。これは虚偽の申告をしていたことになり、本会の騎手として重大な非行があったものと認められる』とし、本事案を裁定委員会に送付するとともに騎乗停止処分とした。
過去の違反を遡っての処分は藤田が初めてとなったが、松窪隆一審判部長は「2023年当時は処分には至らないという判断でしたが、証言、物証がある騎手は処分に至った。今後も過去であっても処分をする対象になりうる。違反行為が認定されれば処分されることはある」と説明した。
⑦さらに「今回(2024年)の騎乗停止処分は、虚偽の申告および他者との通信という新たに発覚した事実についての処分であり、2023年の厳重注意処分は通信を伴わない使用に対して行われたものであるため、二重処分には当たらない」とした。
また、JRAの報道室も11日のJ-CASTニュースの取材に対し、「昨年5月の聞き取りの際、藤田騎手から、調整ルーム内で通信機器を使っていたと申告があったが、スマホ6の6人と違って、明確な物証を得られなかったため、厳重注意に留めた。この時、藤田騎手は『他者との通信は行っていない』と言っていましたが、今回の報道を受けた聞き取りでは、『他者との通信をしていた』と本人が認めた。物証があるかについて、およびスマホ6以降も藤田騎手がスマホを使用していたという文春の報道についても、調査中であり、お答えできない。藤田騎手が2023年の聞き取り調査で虚偽の申告をしていたかどうかと言われれば、結果的にそういうことになる。」と回答し、藤田騎手のスマホ使用についてはJRAの公式サイトで近くお知らせを出すとした。
⑧JRAが藤田に騎乗停止処分の通告をした際に、本人から引退の意思を伝えられ、10月10日付で一身上の都合により騎手免許取消申請が行われた。
⑨10月11日、JRAは11日付で藤田の騎手免許を取り消した。なお、当該騎手の引退により、処分を決める裁定委員会は行われない。ただし、松窪隆一部長は「今後の調査次第にはなりますが、競馬関与の禁止、停止等の処分はできます。引き続き必要な調査を行ってまいりますが、藤田元騎手もその対象になっています。」としており、引退しても調査対象であるため、藤田は逃げたのではないか、という意見は妥当ではないとの見解を示した。
また、相手の厩舎関係者については「現在は人定まで確認できている段階ではないが、厩舎関係者であれば、今後、相手方の調査もして、事実確認ができれば処分する可能性もあり得る」と話した。
➉現在の調整ルームの運用について、JRA所属騎手は開催前日の21時までに、競馬場および東西両トレセンの調整ルームに入室することが義務付けられている。その際、玄関に設置されているロッカー内に職員立ち会いのもと通信機器は預け、ロッカー番号を職員に申告。開催が終了するまで、機器を取り出すことは禁止されており、持ち込んだ時点で罰則を受けることになっている。厩舎関係者との連絡は設置されている内線で行うことが可能。一方で、土曜日に東京競馬場で騎乗し日曜日に京都競馬場に騎乗するといったような、開催期間内に移動する騎手に関しては、タクシーの手配、移動手段の検索、電子決済など限定的に私用携帯の使用を許可している。その際、JRAによる通信履歴の確認等は行っていない。
⑪今後の対策について松窪隆一部長は「早急に防止のための手段を考えていく。具体的にはジャミングも検討していかなくてはならないと思っているが、ルームがある場所によっては近隣住宅への影響や、競馬開催への影響が気がかりなので、調査が必要。」と展望を明かし、「若い騎手ほどスマホに依存しているきらいがある。これだけ短期間でこういうことが起こるということは、若手のルール認識が甘いところがあるのかもしれない」として「持ち物の抜き打ち検査も当然検討していく」とした。
※通信抑止装置は機械から発する電波で、携帯電話等の基地局からの電波を妨害する装置であり、公営競技における導入は、これまでに2020年からのボートレースびわこ、2021年からの笠松競馬などがある。
という流れなんですが、まず、藤田の問題を見てみましょう。2023年に藤田がスマホを調整ルーム内に持ち込んだことについてはセーフです。④にあるように、持ち込むこと自体は認められていました。
次に2023年の調査の際に、通信を伴わない使用をしたこと、および相手のある通信はしていないと申告した事はセーフよりのアウトです。⑦にあるように、自己申告の上、明確な物証を得られなかったため厳重注意処分に留まったものの、SNSの閲覧などは適正な使用とは言えないからです。
そして2024年の文春砲により、通信を伴う使用がされていた件が暴露されると、②にある『相手のある通信はしていない』と証言し、調書に押印していた、という点がアウトなります。これは虚偽の証言ですからね。
最後に⑧の処分直後の引退で、謝罪をしない点は、社会人としても、プロの騎手としてもアウトです。前述したように、いくら根本先生が逃げていないと言っても、やはり悪さがバレたら謝罪も説明もせずに引退する、では逃げたと思われても仕方ないでしょう。
自分より年下の後輩騎手だって報道陣の前で頭を下げていますよ。それなのに精神状態を言い訳に会見をする予定はないような事を言うのはどうなんですか。仮に、すぐに会見ができなかったとしても「落ち着いてから改めて説明させていただきます」と、どうして言えないのでしょうか。
根本先生もそうです。二重処分について問題提起して、藤田もそこに不満があったと思うと話していますが、そこよりもまず本人と一緒に謝罪するのが先でしょう。繰り返しになりますが、これは社会人として当然の行為です。それがどうですか。調教後だったのでしょうが、ジャージ姿で申し訳ありませんとか、それが誠意ある対応ですか。世間には、ジャージ姿で座ったまま謝罪をする根本先生の映像しか届きませんよ。
水沼の時も師匠の加藤和先生はポロシャツにジーンズというラフな格好で謝罪していますが、それでも師匠と弟子で並んで頭を下げて、その映像が世間に届いています。少なくとも、謝罪をしている体を成しているでしょう。非常に情けないと思います私は。
一方、JRAの問題は、まず②で通信機器の不適切な使用をしていた藤田について厳重注意処分で済ませたことが問題です。確かに明確な物証を得られなかったとは言うものの、JRAは警察ではありませんし、結果的に本人の自白のみで処分しているわけです。つまり、他の通信機器関連の処分と整合性があるのかという問題なんですね。
それを考えると、ルメールはリツイートしただけで通信と見なされ、大江原圭もツイッターの閲覧、原田敬伍もツイートに返信して騎乗停止処分を受けています。大江原圭と同じことをしておいて、片や30日間の騎乗停止処分で、片や厳重注意処分で済ましていては、藤田の処分は物証がないだけで過度な処分を避けたと思われるのは当然ではないでしょうか。
少なくとも戒告として、こういう事案がありましたと公表した方が、JRAとしては厳正な調査を実施した、藤田にとっては自白によりダメージが軽くなる、というウィンウィンになったと思いますし、事案を隠ぺいしたと勘ぐられることもありません。
もし、口頭での厳重注意は現場レベルで内々で進められたものであり、JRA組織としては承認していない(あるいは記録に残していない)のであれば、それは組織としてのガバナンスの問題であり、大問題です。
次に、④においてスマホ6との処分の差については、上手い具合に理由を考えたなという感じ。言われてみればその通りなんですが、どうにも取って付けたような説明に感じてしまいます。前述した他の通信機器関連の処分と整合性から見ても、禁止区域においてレース映像の閲覧をして騎乗停止30日間に対し、禁止区域外においてSNS等を閲覧して厳重注意では、一貫性があるとは言えないでしょう。
そして⑥において虚偽の申告があったとして裁定委員会送りにし、騎乗停止処分としたのはやむを得なかったとはいえ、先に一貫性のない処分で事案を隠すようなことをしていたら、おかしいじゃないかという声が上がって当然ですよ。⑦の二重処分云々だって、言われなくて済んだわけです。だからこそ、どこからつつかれても良いようにしっかりと説明責任を果たすことが重要なのです。
つまり、JRAは隠ぺい体質だなんだと騒がれているのは自業自得なんですね。JRAは説明責任を果たしていない組織だと散々言ってきましたが、まさにその典型のような事案ですよコレは。
2023年にレーンの短期免許について後出しじゃんけんをした時だって、短期免許制度は内規に当たるから内容について公開しないとか言ってましたけど、そんなことは言っちゃダメですよ。制度や規則を公開したところで何が問題なんですか。2019年のミルコルールの解釈を勝手に変えて、レーンを乗せた時のような事ができなくなったとしても、それは公正競馬でしょうに。
■まとめ
何か色々書いてきて嫌になりますし、考えがまとまらなそうなので締めますが、結局JRAは問題のある組織だという点は明確になりました。お上というか日の丸親方ってそんな組織じゃないですか。JRAはそれに準拠した組織なんで、同じような体制になって当然なんですよね。
藤田については、穿った見方をすればクビにされたと見ることもできます。大泣きしながら引退届を書いたって事は辞めたくないけど辞めざるを得ない理由があったと推測できますし、スマホの不正利用が見つかったからって、過去に例を見ない問題ではないわけで、頭下げてやり直すことはできたのに、それをしなかった。JRA女性騎手のパイオニア的存在という自らのプライドの問題で、あっさり辞めるのかと考えたら・・・ねぇ?
まぁそうでなかったにせよ、藤田がルールを破ったのは間違いないですし、謝罪をせずに逃亡したのも事実です。近年は成績が下降していたとはいえ、自分の夢をこうした形で幕引きにするのは晩節を汚したなと思います。13日付の週刊現代で藤田の父親が「辞め方が悪かったので、競馬にはもう関わることはできないかな」とコメントしてましたが、まさにそうなんですよ。頭一つ下げるだけで、潔く責任を取ったと言われるわけですから、謝罪するというただそれだけの行為で人の評価大きく変わるんですねぇ。怖い怖い。
あと、藤田の同期の菊沢騎手が取材に応じており、
「昨日(10日)朝に会った時に事情も含めてそういうことになったら(騎手を)辞めることを聞いていました。そうならないことを願っていたのですが・・・。乗馬苑時代から一緒に一生懸命やってきて、同期から初めて引退する人が出て、しかもこういう形ですから悲しいです。昨日の朝、菜七子は元気もなかったし、(引退の)心も決まっている感じだったので僕は話を聞くだけでしたが、今まで菜七子がやってきたことはすごいことだと思うし、この先も忘れないでいたい。これから出てくる若い子たちも、菜七子がいたから女性ジョッキーが活躍できるようになったのを忘れないでほしいし、僕もそれを伝えていきたいです」とコメントしました。
良い事言いますね。責めるでも擁護するでもなく、ただ藤田が歩んだ軌跡を評価する、良い同期を持ったもんです。うちの鈴木君に聞かせてやりたいですね。というか、坂井瑠星や荻野極にも話を聞いてほしいと思うのは私だけでしょうか。3人で取材だなんだってやってましたし、話しにくいとは思いますが、だからこそどんなコメントをするかで、その人の人となりが分かるもんです。平松さんとかお願いできませんかねぇ。
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