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GⅠの価値は?

7/25にアスコットで行われたキングジョージ6世&クイーンエリザベスSは、歴史的名牝エネイブルが勝利しました。キングジョージは2017,2019年に続く3勝目で、歴代最多となります。GⅠ勝利は11勝目です。

当初は8頭が登録していたキングジョージですが、回避が相次ぎ、最終的には3頭立てという寂しい結果となりました。ここまでくるとレースではなく調教ですよね。これがGⅠという大舞台で行われる事に、日本競馬をメインに見てきた人間としては違和感を覚えますし、こういうGⅠなどを勝って10勝以上と言われても、馬の強さはともかく、GⅠ勝利数という意味ではそこまで評価できないなぁと思います。

日本とは異なり、勝てそうにないレースには出走するのは恥だと考える人が多い欧州では、必然的に出走頭数は少ない傾向にあります。エネイブル自身も全17戦中、出走頭数が10頭以上のレースに出走したのは7レースしかありません。というか日本では概ね12~13頭立てで少頭数と判断されますが、それを超えるレースに出走したのは2017,2018年の凱旋門賞の18頭、19頭のみです。つまり、紛れの少ないレースで積み重ねてきた成績であり、日本のGⅠ勝利数と比較するのは非常に難しいと言えるでしょう。

まぁ欧州は各国間の移動が楽ですし、各国のレースから自己の条件に合うレースを選択できますので、GⅠ勝利数が多いのは当然なんですがね。日本はどうしても一国のみで開催しているため、GⅠが少ないというデメリットがありますし、それと同時に多頭数が当然という国ですから、紛れも多く、強い馬でもそう簡単に勝つ事はできません。

例えば、シンボリルドルフ、メジロマックイーン、タイキシャトル、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ブエナビスタ、ロードカナロア、アーモンドアイなど多くの名馬たちが足元を掬われる、あるいは多頭数による紛れなどによる敗戦を経験しています。仮に欧州でGⅠを10勝以上する名馬たちが勝利したGⅠレースが、日本と同じ様に概ね16頭以上で行われるレースだったら、その名馬たちの栄冠はそれなりに減った事でしょう。

ちなみに、かつてアメリカなどでは2頭立てのマッチレースがしばしば行われていました。『20世紀米国の100名馬』第1位で、アメリカの至宝マンノウォーとアメリカ競馬初のクラシック三冠馬サーバートンの対決や、アメリカ三冠を分け合ったナシュアとスワップスの対決、あるいは不遇の名馬シービスケットとアメリカ競馬史上4頭目のクラシック三冠馬ウォーアドミラルとの対決は映画にもなりましたね。

こうしたレースは興行としての意味合いが強く、パターンレースとは評価の基準が異なります。前者は当事者同士の優劣のみに焦点が当たるのに対し、後者は長い年月をかけて繰り返し行われるレースを基準に競走馬を評価していくわけですから。


それから、アーモンドアイの次走は11/1の天皇賞・秋である事が発表されました。史上最多勝を目指すアーモンドアイは最も得意とするコース、距離で記録更新を狙う事になります。ただ、他の記事でも散々書きましたが、仮にアーモンドアイが天皇賞・秋を勝ったところで、歴代最強はおろか、歴代最強牝馬の称号すら危ういと言えるでしょう。前述したGⅠを10勝以上する欧州の名馬たちと同じ感覚です。

自身の得意とするコースで、ものスゴイ確率で引いた内枠を生かした勝利だけでなく、格下どころか2枚も3枚も下のGⅡレベル相手に積み重ねたGⅠ勝利数は、評価することは難しいですよね。エネイブルのヨークシャーオークスだってJRAがHP上で公表している海外の主要レース一覧には記載されていないレースですし、それを少頭数で勝ったところでGⅠ勲章が一つ増えたと言っていいものか・・と思いますよね。それと同じです。

特に天皇賞・秋は、スプリント組とステイヤー組を除く全ての馬が実力を発揮できる距離ですが、前年覇者のレイデオロや前哨戦毎日王冠で東京巧者の古豪アエロリットをブッコ抜いた皐月賞3着、ダービー2着馬のダノンキングリーは回避し、体調不良から回復途上と伝えられてきた皐月賞馬のサートゥナーリアが2番人気、前年の神戸新聞杯から2戦して連対できないダービー馬ワグネリアンが4番人気、前年の大阪杯から連対すらないスワーヴリチャードが5番人気ですから、実績馬は多いものの実力馬かどうかは疑問符が付く面々でした。アーモンドアイが最も実力を発揮できるレースでこのメンツですから、ある意味アーモンドアイは不運なんでしょう。

かつてのGⅠ最多勝を狙う面々は、多少の不利には目を瞑り、強い馬同士が戦う価値のあるレースを勝利したからこそ、少ないGⅠ勝利数でも顕彰馬に選出されたと私は解釈しています。距離路線の違いはあれど、強い馬なら皆同じ路線を歩み、競い合ってきたからこそGⅠ勝利に価値が生まれ、たった1勝のGⅠ勝利が重くなったのです。現代とは違うその心意気こそ、本来競馬が、馬主が、調教師が持ちうるもの、つまり『強い馬同士が戦って勝つ、そこに価値が生まれる』という価値観に繋がるのだと思います。

もちろん、今の数字遊びが悪いとは思いませんよ。私も数字派なんで。ただ、数字が向上した=強くなったではないという事は声を大にして言いたいです。サクラバクシンオーとロードカナロアはどちらが優れたスプリンターなのか、メジロマックイーンとキタサングラックはどちらが優れたステイヤーなのか、GⅠの数だけでは図れませんからね。



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