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若手騎手の通信機器不適切使用に対する制裁について

GW真っ只中にとんでもないニュースが飛び込んできました。JRAは3日、古川奈、今村、永島、角田河、河原田、小林美の6名に対して、13日~6月11日まで30日間の騎乗停止処分を科しました。なんでも、スマホ使用が原因とのことです。


■事件の概要

JRAによると4月23日の午後3時過ぎに福島競馬場開催執務委員から「女性ジョッキーがスマホを使用しているかも」との情報が採決委員に寄せられ、最終レース後に永島、河原田、小林美から事情聴取をしたところ女性ジョッキールームにスマホを持ち込み騎乗馬の情報収集などを行ったことを認めたそうです。古川奈も同様に使用していたとのこと。

角田河は22日に京都の認定調整ルーム(ホテル)に入室していた際に今村に電話をして通話しており、今村はそれに加えて23日の京都競馬場の女性ジョッキールームでの使用も確認されたそうです。

6名は「規則の解釈に誤りがあった」という話をしているそうで、角田河と今村は「外部や第三者との連絡はダメということで、騎手同士でするものは許されるのではないかという誤った解釈があったと思います」(JRA久保厚審判部長)とのことです。


■調整ルームでの通信機器の使用は原則禁止

競馬場などのいわゆる調整ルームでは、競馬の公正を期すため外部との接触が禁止されており、入室後の携帯電話を使用することはできず、通信機器は入室時に騎手自らセーフティボックスに預けるシステムとなっています。スマホなどの通信機器を使って騎乗馬の過去のレース映像などを閲覧する場合は、ダウンロード済みで、かつその旨を職員に届け出なければいけません。

過去には2011年5月に大江原圭騎手、2015年3月にルメールがツイッターを閲覧しリツイート、2013年7月に原田敬五がツイッターに投稿、2016年10月に丸山がメールを送信するなど、通信機器の使用は4件が報告されていますが、いずれも調整ルームでの出来事でした。


■ジョッキールームと認定調整ルーム

今回の事案は、調整ルームからさらに内部に入った女性ジョッキールームでの出来事であり、JRA側もまさかここで・・・と思った事でしょう。

ジョッキールームは男女別で分かれている上に女性ジョッキーは藤田を加えた6名しかいません。そのため周囲の誰かがそれを指摘することは難しく、当人たちの規則の解釈に問題があれば、そのままズルズルと誤った解釈のまま使用し続けることは十分考えられます。本人たちが一番悪いのは間違いないものの、JRAも管理体制に不備があったと思います。

一方の角田河は認定調整ルーム(ホテル)からの通話というところがポイントで、ホテルだから通話はセーフ、あるいは騎手同士だからセーフと思ったんでしょうかね。2020年4月から認定調整ルームの運用がされていますが、それを利用する騎手には公正確保に係る事項を遵守させることとし、違背した場合には騎乗停止を含めた必要な処分を行うと公式資料でも発表されているでしょうに。完全にチョンボです。


■規則と適用と処分

今回の件で規則が時代にあっていないという意見を目にしますが、日本はあくまで賭博禁止の国であり、競馬は公営競技だからこそ賭博が認められています。そもそもが例外なんですよ公営ギャンブルは。だからこそ、公正な競技を行うために規則は非常に厳しいわけで、時代がどうとかという問題ではありません。ここまでやっても八百長の疑いは減りませんし、むしろ公正競馬を謳うならもっと厳しくしてもいいくらいです。騎手や関係者には厳しいかもしれませんが、日本の公営ギャンブルとはそういうもので、だからこそ高い報酬を得ているんだと認識するべきですしね。

また、今回の処分を甘いと捉える人が非常に多い事に私は違和感があり、免許剥奪や懲戒解雇レベルだという声も様々なところで見かけます。一般企業などにおいても直ちに解雇できる要件は限られているように、私は基本的に一発アウトという考えは非常に難しいと考えています。

今回のように、あくまで「規則の解釈が違っていた」と主張している場合、周りがどれだけそんな事はあり得ないと叫んだところで、故意または重過失といった形にすることはまずできないと思うのです。それを言うなら、例えば限界ギリギリまで節税をした税理士が、国税庁から規則の解釈について異を唱えられ、裁判まで争って負けた場合でも、今回同様に免職にするべきだと声が上がらなければおかしいでしょう。それが後出しじゃんけんのような見解の相違であったとしても、違反は違反ですからね。

しかし、実際はそんなことはないでしょう。それだけ見解の相違を故意の違反したとは認めるのは難しいのです。ましてや使用内容が競馬に関するものだと言われたら、重過失ではあるものの飲酒運転や未成年の飲酒・喫煙、粗暴な行為などと同様の処分を求めるのは困難ですし、だからこそ審判部長も『業務上の注意義務違反、公正確保の重大な違反はなかった』とコメントしているのではないでしょうか。

もちろん、やりやらずといった八百長に繋がる可能性がある事は否定しませんが、そこまで考えるのは論理の飛躍とも言えますし、現状の競馬のように強い馬に楽な競馬をさせたり、あっさり進路を譲ったり、大敗しても自分の競馬に徹するという競馬も、私の中では八百長と同じように捉えられます。勝つための最善を尽くしていないのに公正競馬と言えるのか、と。

つまり、この一件を殊更大きく取り上げても、そもそも現状の競馬も公正競馬なの?一点の曇りもなく?それはないでしょう笑 となるわけで、某地方競馬のように露骨な八百長競馬が無いだけいいだろうと思うのです。それでも八百長がどうと言う記者が居るなら、そうした部分にもフォーカスして報道するべきですし、エージェント制の問題や短期免許制度の問題にも切り込むべきです。公正な運用をしているのか?と。


それから処分まで時間が掛かったこと、そして処分の発表後、処分開始まで猶予があったことについては、詳細の確認に時間が掛かったことと異議申し立ての期間を設けることが理由でしょう。外部の第三者との連絡の有無の確認をして、使用目的を確認して、6名の供述を照らし合わせた上で、重大な注意義務違反とは判断しなかったため、処分は即日適用されず、また通常の騎乗停止と同様に異議申し立ての期間を取ったと考えるのが妥当であり、それにケチ付けるのは少々難しいかなと思いますね。


■謝罪と誠意

それから今回の発表があってから、古川奈だけが直ぐにインスタで謝罪文を挙げています。できれば会見や取材などで直接謝罪した方が良いですが、素早く対応したのは危機管理として正解と言えます。できれば「また改めて説明をさせて頂きます。」という一文を入れておけば、まず迅速に謝罪、その後、取材で直接釈明という流れになり、逃げも隠れもせずに誠意を持って対応する旨を示せて良かったと思いますし、SNSで謝罪を済ますなんて記事を書かれなかったでしょう。

他5名の内、SNSがある3名は当日に何ら反応することなく、4日なってからトレセンの取材でSNSのない永島、小林美を含めて、謝罪のコメントを出しました。

今村「ご迷惑おかけしました。本当にすみません」
永島「発表の通りです」
河原田「私の認識が甘かったです。申し訳ありませんでした」
小林美「ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」

SNS等で謝罪するより、取材を受けて謝罪するのは間違っていませんが、どうしてもワンテンポ遅れてしまいますし、永島のコメントは消え入りそうな声で・・とか書かれていましたが、謝罪じゃありませんね。晒し者になる覚悟で、映像に残す形で謝罪会見等をした方が良かったかなと思います。

どうもJRAはそうした部分への認識が甘いというか、希薄だと思うんですよね。騎手や調教師などの関係者もそうですが、自分たちのミスに対して批判的な意見を聞く姿勢が欠如しているように見えたりもしますので、その辺は現代に即した形にした方が健全だと思います。


■藤田の評価

今回の一件で藤田の株が上がったとか、女性騎手で唯一処分を受けなかった彼女を讃える記事を見掛けましたが、私は女性ジョッキールームでそんなことやってるの見たことないのか?と思ってしまうのです。女性ジョッキールームという閉鎖された環境でそうした場面をただの一度も見ていないだって?ホントかそれ?と考えてしまいますし、藤田が我関せずを貫いたり、処分を受けた彼女たちを無視するなど指導を放棄していた可能性もあると思うのです。

仮にそうした場面を見ていた上、それでも注意をしなかったのであれば藤田自身も問題だったと言えるわけで、そこら辺はJRAの発表からは読み取れませんし、実際にどうだったかは本人たちしか分からないでしょう。

そのためこの一件で藤田以外の5名の女性騎手の株が下がったとしても藤田の株が上がることは私の中ではあり得ませんし、良くて現状維持、穿った見方をするなら株を下げることになると考えます。私はね。


■6名の今後

ともかく、福島リーディングを獲ったばかりの永島、重賞勝ったばかりの角田河にとっては今回の一件は相当な痛手ですし、デビュー直後の河原田、小林美の印象は最悪ですし、4月期未勝利の今村は関西若手のジンクスに引っ掛かった感がありますし、6名とも失ったもんがデカいですね。

特に今村はデビュー当初からガンガン乗せてもらえる関西若手の流れを汲んで勝ち星を伸ばしましたが、一方で慣れてきた2年目、3年目を過ぎた頃から調子に乗ったのか未熟な部分を抑えきれず自滅していく関西若手のジンクスを汲んでしまった感があります。藤田も怪我などがあったとはいえ、通算100勝をクリアしてから勝ち星を減らし続けていますし、文春砲を受けるなど苦しい展開が続いており、同じ空気がするんですよね。まぁ悪いことして文春砲を受けたわけじゃないんですが。

まぁ6名ともこれからの30日間、猛省して競馬を取り組んで欲しいですね。


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