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今週の全米アルバムチャート事情 #102- 2021/10/23付

10月に入ってMLBはポストシーズン絶賛熱戦開催中ですが、今年は各チーム互角の戦いでいつになく盛り上がるオフシーズンになってます。さてここでワールドシリーズの組み合わせ予想。僕はやっぱりドジャーズ対レッドソックスだと思いますがどうでしょうか(追記:この記事をポスト後の数日の展開でワールドシリーズはブレーブスアストロズに)。ここ1〜2週間でめっきり肌寒くなって秋本番ですが、今月は毎年同様、プライベートはMLB一色になりそうです。

今週もお送りする「全米アルバムチャート事情!」、連動のポッドキャスト今週も何とかギリギリ日曜日に配信しましたので、上記のリンクからSpotify経由でお楽しみください!

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さて今週のBillboard 200全米アルバムチャートは、10/23付。先週の予想では、消去法でテイラーが通算3周目の位をキープするのでは?との予想でしたが、蓋を明けてみると、テイラーは何と圏外35位に大きくダウン。それに次いで1位に近いかと思ったドン・トリヴァーの新譜もいまいちポイントが伸びず、それこそ消去法で、94,000ポイント(うち実売わずか1,000枚)と先週比ポイント減14%ながら相対的に減り幅が少なかった、ドレイクの『Certified Lover Boy』が先週の2位から1位に返り咲いて、通算4週目の1位を記録する結果になりました。

アメリカの年末商戦は今月末のハロウィーンあたりから活発になり、いろんなリリースもその後からサンクスギヴィング時期そしてクリスマス時期に向けて照準を合わせてると思われるので、この時期はその直前の枯れ場なのかもしれず、その状況をまあ反映したチャート状況ということになるでしょうね。まあ来週のチャートには先日BTSとのコラボシングル「My Universe」が初登場1位となったコールドプレイの新譜が飛び込んでくるでしょうし、アデルの新譜やシルク・ソニックのアルバムなど、強力新譜がこれからどんどんリリースされるんで、来週以降はもう少し盛り上がるチャート状況になると思うので、楽しみにしておきましょう

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そして先週予想で名前を出していてさっき触れた、ヒップホップのドン・トリヴァーのセカンド・アルバム『Life Of A Don』は、68,000ポイント(うち実売18,000枚、これ全てデジタルのセールスです)と予想以上に薄い商いながら、何とか2位に初登場、彼にとってデビュー・アルバム『Heaven Or Hell』(2020年7位)を上回る最大のヒットアルバムになりました。

ドン・トリヴァーは、ここ10年のヒップホップでの最重要人物の一人とも言えるトラヴィス・スコットのレーベル、カクタス・ジャックと初期に契約した期待のアーティストで、デビュー・アルバムもいきなりトップ10デビューだったので、今回はもっと強力なパフォーマンスが期待されたんですが、ややその期待には届かずの結果に。うちのヒップホップ・ヘッズの息子に聴いたところ「まあまあかな」という評価でした。自分で聴いた感じでは、最近のトラップ・ベースのヒップホップ・レコードにしてはかなりR&Bテイストの強い、R&Bファンも聞きやすいサウンドに仕上がってた気がします。

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さて今週のトップ10の初登場はこのドン・トリヴァーのみでした。来週はいろいろトップ10に入って来そうですが今週は地味な週でしたね。引き続き、トップ10圏外100位までの初登場アルバムをいつものようにご紹介、今週は何と8枚が初登場と久々に圏外がにぎやかです。まずは19位初登場、テキサス出身のカントリー・シンガーソングライター、コディ・ジョンソンのメジャー2作目『Human: The Double Album』。

12歳の頃から自分のバンドを組んで活動をしていて、初のトップ10アルバムになった7作目の前作『Ain’t Nothin’ To It』(2019年BB200 9位、カントリー・アルバム1位)をワーナー・ナッシュヴィルと契約するまでは、2006年以来6枚のアルバムを自主リリースしてたというから、なかなか根性と年期の入ったやつですね。その6作目の自主リリースアルバム『Gotta Be Me』(2016)がBB200で11位、カントリー・アルバム・チャートで2位になったのが大ブレイクでワーナーとの契約につながったようで、正しく実力を積み重ねて来ている感じ。楽曲もスタイルもメインストリームのカントリー・アーティストで、今なぜかHot 100で大ヒット中のウォーカー・ヘイズのギミック満点の「Fancy Like」とかよりはよほど好感が持てるけど、しかしこのモーガン・ウォレンまがいのアルバム・タイトルは何とかならんかなあ

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続いて20位に初登場したのは、いやあ、またまた登場したKポップの新人グループ、エスパ(aespa)のデビューEP『Savage』。エスパは日本人(日韓のハーフらしい)1人、中国人1人を含む4人組で、我が家の女性軍が大ファンのEXOシャイニー、ここBB200でも最近めっきりお馴染みになったNCTらが所属するSMエンターテインメントが送り出す新人ガール・グループのようです。

このエスパTWICEブラックピンクとかのKポップ・ガール・グループと比べて、思い切ってハードコアなヒップホップ系に大きく軸足を置いてるサウンドで、ニッキー・ミナージミーガン、カーディBあたりのサウンドをガチでなぞってる感じかな。タイトルもミーガンだし(笑)。ラップ担当は日韓ハーフのジゼルカリナのダブルMC。こういうの若い男の子たちはグッとくるんだろうなあ。でないといくらSMのプロモーション入ってるっていってもこんな上にいきなりデビューしないよね。オジサン的にはあまり興味はありません、はい。

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さて27位には、2作目の全米トップ10アルバムになった前作『Old Dominion』(2019年9位)からは「One Man Band」(最高位20位)の初トップ40ヒットも出て昇り調子で来ていたカントリー・バンド、オールド・ドミニオンの4作目『Time, Tequila & Therapy』が初登場。

前2作がカントリー・アルバムチャート連続1位、BB200でも7位、9位とトップ10常連なりつつあったので、今回も、と思ったんですが、今週彼ら2曲目のトップ40ヒットとなったちょっとリゾート雰囲気な「I Was On A Boat That Day」(今週37位上昇中)収録にも関わらず、今回はトップ10を外してしまってます。コロナ期間中数ヶ月会えなかったメンバーが久しぶりに集まって曲作りをして作ったこのアルバムには、そのシングルの他に何とグラディス・ナイトをフィーチャーした「Lonely Side Of Town」も収録。この曲、アルバム作ってる時に「この曲ってモータウンっぽくない?」ということでつてを辿ってコンタクトしたところ参加を快諾したという、なかなかいい話も伝わってます。今回もいい感じの楽曲満載のこのアルバム、もう少し頑張って欲しいところですね。

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ちょっと下がって41位に飛び込んできたのは、先日からのアリーヤのストリーミング解禁とアルバム再発のシリーズの最後を飾る、2005年にヨーロッパとオーストラリア限定でリリースされたベスト盤ボックス『Ultimate Aaliyah』の再発盤。

今回アメリカを含む上記以外の全世界で初めてのリリースとなったこの再発盤、オリジナルはCD2枚組+DVDだったんですが、今回はCD2枚組、ヴァイナル、デジタルそしてストリーミングのリリースとDVDがどっかに行っちゃってるので、2005年当時のDVDにはプレミアが付くかも。これで今回の一連のアリーヤのリイシューは完結するわけですが、その後のバリー・ハンカーソンアリーヤの遺族の関係はどうなのかが気になります。予定どおりリイシューされてるから悪化はしてないんでしょうが。

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さて更にぐーっと下がって71位に初登場しているのは、最近初登場の多い週にはかならず一つくらいは入ってるメタルコア・バンド。今回はフロリダはオーランド出身の4人組、トリヴィアム。一昨年の第61回グラミー賞では最優秀メタル・パフォーマンス部門にもノミネートされてた(自分の昔のブログを確認したら当時の予想記事では無印にしてましたw)彼らの10作目『In The Court Of The Dragon』(タイトルが何となくキング・クリムゾン風ですが)が入ってきてます。

彼らは2006年の3作目以降、7作連続BB200ではトップ40入りするという安定した人気を誇る、この間『Senjutsu』が過去最高のヒットアルバムになったアイアン・メイデンに大きく影響されたと語るバンドなんですが、今回順位を大きく下げているのは、やはりコロナでライブとかができなかった影響なのかな。どうでもいいですが、リード・シンガーでギタリストのマット・ヒーフィー君は広島の岩国生まれで、お母さんが日本人、お父さんが岩国基地勤務の米軍海兵隊出身らしく、その日本の出自にヒントを得た4作目の『Shogun』には「Kirisute Gomen(切り捨て御免)」という曲も入ってるとか。あ、どうでもいいですね、ホントに。

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どんどん行きます。今週一番ビックリしたのは、先週トップ10入りを予想していたジェームス・ブレイクの5作目『Friends That Break Your Heart』がなんと75位初登場という、低位置スタート。これって2011年のファーストアルバムの123位(これも不当に低かったと思いますが)以来のトップ40外し。さっきのトリヴィアムもそうだし、それ以外のアーティストで特に従来フェスなどによく出演している連中が、ここ数年のチャート・パフォーマンスから今年は大きく順位を下げているケースが多いのは、さっきも言ったけどやはりライヴ活動ができない影響なんですかね

自分も2018年のフジロックで彼を観た時はその素晴らしさに感動して、それまでもちょこちょこ聴いてたんですが、一気にはまったのを思い出します。今回の作品も安定の出来で、メディアの評価も悪くなく(メタクリティック79点でした)本国UKでも初登場4位とこれまで同様さすがの結果を叩き出してるので、やはりアメリカにおける音楽マーケティングモデルのコロナによるひずみの影響なんでしょうか。個人的にはSZAをフィーチャーした「Coming Back」あたりが気にいってます。先週もお伝えした、今年に入ってLPの生産が追いつかないことによるヴァイナル・ディレー現象が顕著になっていて(それをマーケティングで逆手に取って2回1位を取りにいくテイラーとかオリヴィアとかの例はありますが)、今回彼のこのアルバムも9月リリースの予定だったんですが、彼が「リリース時にヴァイナルないのはファンが悲しむから」といってリリースを遅らせたそうなんですね。ヴァイナルファンとしてはこの彼の心意気には応えたい、ということで(これまでも買ってるけどw)今回もヴァイナル、買いました。

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おっと思わず長くなりました、あと2枚。82位初登場はカンサス・シティ出身のベテラン・ラッパー、テックナイン(Tech N9ne)の何と23作目になる『ASIN9NE』(このタイトル、何て読むんでしょう)。90年代から活動してきてる超ベテランで、2000年に共同設立したストレンジ・ミュージック・レーベルからリリースした3作目の『Anghellic』(2001年59位)でブレイクして以来、一貫して自分のレーベルからアルバムリリースし続けてる、インディ魂ここにあり!という感じの珍しいタイプのヒップホップ・アーティストですね。2010年代に3作連続BB200のトップ5に送り込むなどの時期を除いて、彼のレーベルの他のアーティストも含めて決してメインストリームの成功はないんだけど、コンスタントにアルバムをチャートインさせてくるし、リル・ウェインをはじめいろんな作品にも参加しててシーンからのリスペクトもちゃんと得ている、ある意味事業経営者としては成功者の部類に入るのでは

彼のラップスタイルも、当初から一貫して機関銃のようにまくし立てるスタイルを売りにしてて、そのスタイルとエネルギーは今回も健在。トラックも今誰もがやってるトラップ・スタイルには敢えて距離を置いて、ちょっとマイアミのベースっぽい(でもおバカではない)オールドスクールなトラック作りが結構新鮮ではあります。

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そして今週圏外初登場のラストは91位に入ってきた、カントリー大御所のリバ・マッキンタイアの既発曲のリミックスやセルフ・カバー集『Revived Remixed Revisited』。リバといえば80年代後半から今に至るまでレコードやライブだけでなく、TVやミュージカルまで広い範囲で活躍を続けている、全米では押しも押されぬメインストリーム・カントリーの大御所ですが、日本ではさっぱり(まあ多くのメインカントリー・アーティストが日本ではなかなか受けないわけですが)という日米の人気のギャップでいうと、ロックでいうとデイヴ・マシューズ・バンドとかに匹敵する存在ですよね。

通算34作目(!)となる今回のアルバムは、彼女が過去に録音した膨大な楽曲群の中から、彼女のバンドと再録音したバージョンを含むリヴァイヴド・ディスク(1)、彼女の過去の曲をエレクトロ系DJやユーロ系DJ達がリミックスしたというリミックス・ディスク(2)、そして先週ご紹介したブランディ・カーライルなどアメリカーナ系のプロデューサーの第一人者、デイヴ・コブがプロデュースして、彼女の過去の楽曲のアレンジをぐっと押さえて再録したリヴィジティッド・ディスク(3)の豪華3枚組。

ディスク(1)や(3)の曲を聴くと、オリジナルの80年代のアレンジよりも現代の抑えめのアレンジの方がグッとくるパターンも多いようで、リバ・ファンにはたまらないコレクションでしょうね。個人的にはオリジナルをリンダ・デイヴィスレディAヒラリー・スコットのお母さん)とデュエットしてた相手をもう一人の御大ドリー・パートンに代えてしっとりと歌う「Does He Love You」(リミックス・バージョンも収録されてますがそちらはやや凡庸かな)や、懐かしのボビー・ジェントリーの1969年のトップ40ヒット「Fancy」をディスク(1)と(3)の両方に収録しているやつの聴き比べ(これもディスク(2)であのデイヴ・オードがリミックスしててこっちはなかなか聴けます)、なんかが楽しめました。80年代後半以降のカントリー・ポップ楽曲の良質(そして意外)なアレンジによるコレクションとして、メインストリーム・ポップ・ファンにも広く楽しめると思いますね。これからのホリデー・シーズンに売上を伸ばしそうです。

ということでいつもより多かった圏外初登場も含めて今週10/23付のチャート、ここでいつものようにトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

1 (2) (6) Certified Lover Boy - Drake
*2 (-) (1) Life Of A Don - Don Toliver
3 (4) (3) Sincerely, Kentrell - YoungBoy Never Broke Again
4 (3) (2) Expensive Pain - Meek Mill
5 (6) (21) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
6 (5) (4) Montero - Lil Nas X
7 (7) (16) Planet Her - Doja Cat
*8 (9) (40) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
9 (10) (7) Donda ● - Kanye West
10 (12) (64) F*ck Love ▲ - The Kid LAROI

さて今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後に恒例の来週の1位予想ですが、本篇でも途中ちょっと触れたように、来週チャートの集計対象期間10/15-21のリリースで一際光ってるのがコールドプレイの新譜。UKでは新記録のデビュー以来9作連続1位の記録もかかっている彼ら、BTSとのシングルの初登場1位の余勢も駆ってぶっちぎりの1位を記録しそうです。その他トップ10に来そうなのは、ビリー・アイリッシュのお兄ちゃんのフィニアスのソロ、ヒップホップではグッチ・メインヤング・サグ、ザック・ブラウン・バンドケリー・クラークソンのクリスマス・アルバムくらいか。そして巷のアラ還ロック・ファンの間で話題のビートルズの『Let It Be』リマスター・ボックスがどこに入ってくるかも興味ありますね。年末商戦に向けてだんだんチャートも賑やかになってきます。ではまた来週。

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