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今週の全米アルバムチャート事情 #93- 2021/8/21付

どうやらようやく降り続いた雨も終わり、またしばらくは暑い夏日が帰ってくるようで、甲子園球児には何よりの恵みの太陽になりそうです。一方またまた緊急事態宣言延長になるそうで、火曜の夜のスガシの会見見てましたが、どうやったらあれほど全く感情というか実際に苦しんでいる方々への思い(empathy)といったものを一切感じさせずに淡々と話せるものか、と改めて驚きました。おまけにこの期に及んでどうやら総裁任期満了に伴う総裁選に単独出馬して、無投票改選を狙っているらしい、という記事も目にしてまさか自民党議員の方々もさすがにそこまでは落ちてないとは思いたい、と呟いてしまいました。

さて今週もお送りするこの「全米アルバムチャート事情!」、連動のポッドキャストも先ほど配信完了していますので、上記のリンクからお楽しみ下さい。

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今週8/21付Billboard 200全米アルバム・チャートの1位は、やはり先週の予想どおりビリー・アイリッシュの『Happier Than Ever』が’2週目の1位をキープ。ただ予想外だったのは、(1)先週の238,000ポイントから今週は大きく64%減と半減以下で85,000ポイントだったこと(それでも1位キープですから凄いですが)、(2)実売枚数も予想どおり先週の153,000枚から76%減の36,000枚と大きく減らしながら、それでも今週のアルバム売上ナンバーワンだったこと、そして(3)あまり減らさないのではないか、と思っていたストリーミングポイントが、先週の84,000ポイント(1.14億回オンデマンドストリーミング相当)から42%減と大きく減って49,000ポイント(6610万回オンデマンドストリーミング相当)だったこと。意外にも、ビリーのリスナーはストリーミングで聴くよりもフィジカルやデジタルアルバムで聴く層がどうやら主流みたいですね。

先週Hot 100に9曲登場していたこのアルバムからの曲も、タイトルナンバー(2ランクダウンの13位)とこの前のシングル「NDA」(先週59位→77位)以外はきれいになくなっていて、やはり少なくとも今回のビリーの作品に飛びついたファンは、楽曲単位というよりもアルバムとしてトータルで受け止めている人が多いんでしょうね。

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一方3位に初登場してきたのが、NYを代表するベテラン・ラッパー、ナズの13作目になるアルバム『King’s Disease II』(56,000ポイント、実売19,000枚)。昨年リリースされて、今年3月の第63回グラミー賞で最優秀ラップ・アルバムを受賞していた前作『King’s Disease』(2020年5位)の続編とも言えるアルバムで、既にシーンからの評価もかなり高く、Metacriticでは何と88点を獲得していますね。チャートの成績としても、2012年の『Life Is Good』の1位以来のチャートポジションを記録してます。

ナズ自身のフロウも相変わらずタイトで、全編さすがの出来なのですが、彼のアルバムには毎回メジャーなR&Bシンガーがフィーチャーされていて、グラミー受賞の前作では元ギャップ・バンドチャーリー・ウィルソンと今シルク・ソニックで人気のアンダーソン・パークが客演してました。今回は引き続きチャーリーが「No Phony Love」(共同プロデューサーは懐かしやブライアン・アレクサンダー・モーガン!)で参加している他、何とあのローリン・ヒルが「Nobody」で客演して、ナズの向こうを張ってわくわくするようなフロウを聴かせてくれているのがもう一つの目玉でしょうか。この曲を筆頭に、とにかくアルバム全体のトラックの造りが90年代からヒップホップを聴いてきた僕らのようなファンには本当に耳にしっくりくるというか、確かにここ最近のナズのアルバムでも最高の部類に入るんではないでしょうか。もっとリリックも聴き込んでいきたいですね。

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そして今週のトップ10のもう一つの話題は初登場ではないのですが、何と1971年9月以来50年ぶりのBillboard 200への再登場になる、あの名盤、ジョージ・ハリソンの『All Things Must Pass』が7位に登場していること(32,000ポイント、実売28,000枚)。シニアのヴァイナルファンの皆さんならとっくにご承知のように、今年2021年はこのアルバムのリリース50周年ということで、息子のダニ君オリヴィア夫人が中心になって大々的なリイシューを企画。オリジナル・マスターテープからのリミックスを施されたオリジナルの三枚組アルバム収録の18曲を中心に、7つの異なるバージョンが発売されてます。中でも最上級のバージョンのウーバー・ボックス・セット(何でウーバー?)には、18曲のリミックスバージョンに加えて、アウトテイクやジャム・バージョン、47曲のデモバージョンを含む全70曲が、CD5枚とLP8枚(!)に収録。さらに5.1サラウンドやドルビー・アトモスなどのオーディオファイルを収録したブルーレイ・ディスクと44ページのブックレットの他、当時のベーシストのクラウス・ヴォアマンのイラストやジョージのミニ・フィギュアなんかも同梱されてるというからすごいねえ。このボックスセットは日本ではユニバーサル・ミュージック・ストア限定販売で何と値段が125,715円!いったいこのバージョン買った人いるんだろうか。

前回1971年にチャートインした時は、全米ナンバーワン・ヒット「My Sweet Lord」(1970/12/26-1971/1/16の4週1位)や「What Is Life」(1971年10位)といったヒットもあり、Billboard 200で1971/1/2付から7週連続1位をマークした70年代ロックの金字塔とも言えるこのアルバム、是非この機会に若手の洋楽ファンの方も聴いてみてはどうでしょうか(ストリーミングでも70曲聴けるみたいです)。

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さて続いてトップ10圏外100位までの初登場アルバムのご紹介、今週も行ってみましょう。まず圏外一番人気13位に初登場してきたのは、中堅カントリーシンガーのクリス・ヤングの8作目になるアルバム『Famous Friends』。もともと2006年、21歳の時にケーブルTVのUSAのタレント・リアリティ・ショー『Nashville Star』のシーズン4で優勝してRCAナッシュヴィルと契約してプロデビューしたという経歴もあって、まあ21世紀のメインストリーム・カントリー・スターの一人。

彼は過去2010年代には3作連続アルバムがBillboard 200のトップ5に入るという大いに人気が盛り上がった時期もあって、前作『Losing Sleep』(2017)もこのBillboard 200で5位の大ヒットだったんですが今回は2011年の3作目『Neon』以来はじめてBB200のトップ10を外してます(クリスマスアルバム除く)。今回のアルバムは、現在ケイン・ブラウンとのデュエットでヒット中のアルバムタイトルナンバー(Hot 100最高位21位)をはじめ、「Raised On Country」(2019年Hot 100 54位)、「Drowning」(同年カントリー18位)とここ2年くらいの間にリリースした3枚のシングル収録してるので、ビリー・アイリッシュの『Happier Than Ever』じゃないけど、事前リーク的な要因でチャート的にはちょっと振るわなかったのかも。

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続いて15位に初登場してきたのは大御所バーブラ・ストライザンド。2018年にトランプ政権を痛烈に批判するトーンのアルバム『Walls』をBB200の12位に送り込んで以来のリリースになりますが、今回の『Release Me 2』は、これまでのアルバム未収録の未発表曲週で、2012年の同じ企画の『Release Me』(7位)に続くシリーズ第2弾です。

今回は70年代から2010年代までのアルバムに収録予定で漏れた曲を幅広く収録してますが、中でも興味を惹くのが、1971年のシンガー・ミシン社提供のバート・バカラック紹介のTVスペシャルでバーブラが歌ったバカラック+デイヴィッド作の「Be Aware」と、1979年のアルバム『Wet』に入る予定だった、セサミ・ストリートカーミット・ザ・フロッグとデュエットしてる「Rainbow Connection」!後者なんかはカーミットのソロで全米トップ40ヒットにもなっているし、トップ40ヒットファン必聴ですね

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そして19位初登場は何とBTSの『BTS, The Best』。そう、もうベスト盤が出ちゃってそれが全米アルバムチャートのトップ20に入ってくるBTS。しかもこのベストはほとんどの収録曲がボートラで収録の「Dynamite」で全米ナンバーワン獲得するまでの曲で、それ以降の全米ナンバーワンの「Life Goes On」「Butter」「Permission To Dance」はいずれも収録されてないんですね。それでも改めて確認すると、「Fake Love」(2018年10位)「Boy With Luv」(ホールジーをフィーチャーしたバージョンが2019年8位)「On」(2020年4位)ともう結構大ヒットいっぱいあるんですよねえ。

あと、今回はそれらの2017〜20年の曲がほとんど日本リリースのバージョンだってのも、USファンのコレクター魂をくすぐったかも。ちなみにこのベスト盤、日本では6月第2週にリリースされてその週から3週間オリコンの総合アルバムチャートの1位を決めてるらしいです。何でも発売初週50万セット以上売って、既に100万セット日本だけで売ってるとのこと。いやいやまいった

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今週の圏外100位までの初登場のラスト、4枚目のアルバムは、ぐーっと下って89位に初登場してきた、ルイジアナ州バトン・ルージュ出身の今年25歳のラッパー、フリード・バング(本名:フレデリック・ディーウォン・トーマス・ギヴンズ2世)の5作目になるミックステープ『Murder Made Me』。場所が近い関係もあってか、メンフィスのマニーバッグ・ヨの絡みで去年あたりからブレイクし始めているラッパーなんですが、かなり荒れた環境にいるようで、親しいラッパー仲間を2人も殺されてたり、自分も銃の撃ち合いに関わって殺人未遂容疑で逮捕されてたりとなかなか暗い感じです。

いくつか聴いた感じではいわゆるトラップなんですが、トラックも悪くなく、フリードのフロウも結構タイトでラッパーとしてはなかなかなものだとは思うのですが、「Pray 4 Dem」(ヤツらのために祈る)とか「Bless His Soul」(ヤツの魂よ安らかに)とかリリックの内容はやはり明るくないので、ちょっと何度も聴く感じじゃないなあ、というのが正直なところですね。

ということで以上今週のトップ10及び圏外の初登場のご紹介でした。ここでいつものようにトップ10をおさらいします(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

1 (1) (2) Happier Than Ever - Billie Eilish
2 (3) (12) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
*3 (-) (1) King’s Disease II - Nas
4 (2) (55) F*ck Love ● - The Kid LAROI
5 (5) (7) Planet Her - Doja Cat
6 (6) (31) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
*7 (RE) (39) All Things Must Pass ▲6 - George Harrison
8 (8) (10) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
9 (9) (71) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
10 (10) (9) Hall Of Fame ● - Polo G

今週は初登場の数がさほど多くなくて、ちょっとあっさり目だった「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。さて最後に恒例の来週1位予想。ポイントは多分来週も8万ポイントくらいは維持して依然強そうなビリー・アイリッシュを1位から引きずり下ろすリリースがあるかですが、対象期間の8/13-19でトップ10に来そうなのが、ザ・キラーズの7作目、フロリダのラッパー、YNWメリーの2作目、カントリー・デュオのダン+シェイの4枚目といったところで、どれもなかなか微妙な線です。1位の可能性があるとしたらYNWメリーか、ジャスティン・ビーバーとの大ヒット曲「10,000 Hours」を収録してるダン+シェイくらいでしょうか。でもまあ7:3で来週もビリーが1位キープだと思うなあ。ではまた来週。


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