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DJ Boonzzyの選ぶ2021年ベスト・アルバム:20位~16位

2021年もいよいよ最終週。今年も年末恒例洋楽企画の第2弾として、私DJ Boonzzyが独断と偏見で選ぶ2021年のベストアルバム・ランキング、そのカウントダウンを今年もお送りします。今年も既にいろんな音楽誌や音楽メディア、また音楽ブロガーの皆さんのランキングが出ていますが、今年自分もこのランキングを選ぶにあたって、ここ1ヶ月ほど、自分が今年買って聴いたアルバムを一通り聴き返す、というなかなか壮大な作業をやってみました(笑)。これがなかなか大変だったんですが、でもやってよかったのは、選考に入る前は「去年とかと違って2021年は『これぞ年間ベスト・アルバム候補!』って際立ったアルバムあんまりないなあ」という印象だったのが、改めて聴き返してみると、いやいやそんなことないぞ、ということに気づいたこと。
思うに今年は自分の仕事の仕方がそれまでのサラリーマンからフリーランスに移行して2年目で、ありがたいことに個別の仕事受注(もっとありがたいことに音楽業界関係の仕事)がだんだん増えてきた関係で、結構公私共に忙しい一年だったんで、昨年とかに比べてアルバムが出た時にじっくり聴き込む、という時間が少なかったということもあったんではないかな、と思った次第。
今回選んだアルバムの数々は、これまでと同様、90年代以降新しい洋楽をあんまり聴いていない、自分のようなアラ還世代のシニアな洋楽ファンが聴いても楽しんでもらえるような、それでいて若手の現役洋楽ファンにとってもリアルな今の作品として楽しんでもらえるような作品を選んだつもり。もちろん自分が聴いていろんな意味で良かったなあ、と思えた作品ばかりなのでこのカウントダウンをいろんな人に楽しんでもらえれば嬉しいですね。

ということでDJ Boonzzyの選ぶ2021年ベストアルバム・ランキングの20位から16位までをどうぞ。

20.Gold-Diggers Sound - Leon Bridges (Columbia)

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リオン・ブリッジズという人は自分にとって結構ユニークな位置を占めているアーティスト。彼がファースト・アルバム『Coming Home』(2015)で登場した時は「サム・クックの再来か!」なんてかなり評判になったのだけど、サム・クック大好きな自分が聴いても全くピンと来なかった。確かにそういうスタイルでパフォーマンスしようとしているのは判ったのだけど、それが全くリアルに伝わってこなかったというか。
それがセカンド・アルバムの『Good Thing』(2018)ではガラリとスタイルが変わって、よりコンテンポラリーながら芯にはちゃんと伝統的R&Bマナーが脈々と感じられる、そんな作風になっていて一発で気に入った。その年このアルバムを年間ランキングの6位に入れていた、そんな興奮を当時別のブログプラットフォームでやっていた「新旧お宝アルバム!」で熱くレビューしてますので興味のある方は読んで見て下さい。

その時に「次作が今から楽しみ」と言っていて今年届いたのがこのアルバム。今回はまた前作とスタイルが大分変わっていて、よりライブ感、バンド感のあるアコースティック主体の演奏をバックにしたR&B楽曲が多く、楽器もすごくいい音で鳴ってるんです。そしてそのバックを務めているのが自分が従来から気に入っている、ロバート・グラスパーテラス・マーティン(彼らがカマシ・ワシントンと一緒にやった『Dinner Party』というEPもいい感じでしたね)など、ケンドリック・ラマーらとの人脈が深い、ロサンゼルスを拠点にした今の最新鋭のオルタナR&B/ジャズ系のミュージシャン達だったというのもかなり好感度。何しろリオンの歌っている歌がもの凄く映像を喚起する、そんな魅力が満載のアルバムです。実際、アップル・ミュージックでストリーミングされているこのアルバムには、リオンがロス郊外と思われる緑がふんだんにある街角のある家で演奏し、歌う姿が収録されたイメージPV的な19分にわたる動画が付いてきます。

タイトルの由来は、昨年秋から東ハリウッドの「Gold-Diggers」というホテル兼ライブハウスで、ここでリオンが専属シンガーとして定期的にライブをやっていたのだけど、そこに同じLAをベースにしているテラス・マーティンらが来て、ジャズっぽいインプロヴィゼーション・プレイをやったりしたのがいい感じだったので、それに詞やメロディを付けたものを集めたてできたのがこの作品とのこと。その「Gold-Diggers」がPVに登場する心地よい音像の「Why Don't You Touch Me」をはじめ、そんな自然発生的なグルーヴ感満点の曲を聴いているとライブには行けないけど同様の癒やし効果を得られるような気がして、今年の夏頃よく聴いてました。

シンガーとしてまた一皮むけたリオンと、それを支えるテラスロバートらの高いミュージシャンシップが満喫できるアルバム。メディアの評価は概ね良好なんですが、ローリング・ストーン誌で自分と同じ20位に入っている以外は、なぜか2021年の年間ランキングリストにはあまり顔を出していないようなのが残念なところ。一方、今回のグラミー賞では最優秀R&Bアルバム部門にノミネートされてますが、R&Bファンのみならず、いい音楽を求めている人にはお勧めできる、そんな作品です。

19.Daddy's Home - St. Vincent (Loma Vista)

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リオンのアルバムが過去のR&Bやジャズのサウンドへのノスタルジックなアプローチで一つの世界観を作り上げていたのに対し、アン・クラークことセント・ヴィンセントのこのアルバムは、彼女が子供の頃聴いて育ったスティーヴィー・ワンダースティーリー・ダンなど、R&Bやジャズっぽいロックを下敷きにしながら、彼女独得の世界観を再構築している、そんなアルバムではないかと。前作の『Masseduction』(2017、自分の2017年の年間ランキングでは13位)ではどちらかというとインディ・ロック的意匠で自らの研ぎ澄まされた音像と世界観を作っていたのに比べると、間違いなく今回はR&B、ジャズ、ブルースっぽい雰囲気を感じさせるあたりが自分的にはなかなか気に入ってました。

冒頭の「Pay Your Way In Pain」は明らかにプリンス以降のロック寄りのファンクイズムを前面に出してるし、ニューヨークでの都会の孤独感を漂わせる世界観の「Down And Out Downtown」ではカーティス・メイフィールドあたりの線の70年代R&Bブルースっぽい世界を提示してるセント・ヴィンセント。アルバムのタイトルは、2019年に株価操作疑惑で10年間収監されていた彼女の父親が釈放されたことにヒントを得て付けられたらしく、タイトル曲は彼女がまだ獄中にいる頃の父親に面会しに行った時のことを歌っているらしいのだけど、こちらは何やらミュージカルの中の一曲みたいで、例によって曲ごとに様々な表情を見せてくれるあたりは彼女一流。

最近ではテイラー・スウィフトのコロナ2連作や、ラナ・デル・レイのここ2作など、独得の世界観を織りなす女性シンガーソングライター達の作品プロデュースでつとに名を馳せたジャック・アントノフが、前作の『Masseduction』同様アンとの共同プロデュースで、こういうアン独得の世界観を作り上げるのに今回も大いに貢献している様子。このアルバムもやはりメディアの評価は軒並み高くて、MOJO誌、スラント誌で年間ランキング2位に挙げられている他、スピン誌(21位)、アンカット誌(23位)などのインディ・オルタナロック系のメディアの年間ランキングの上位に顔を見せてます。今回のグラミー賞でもなぜかラナが不在ながら、激戦が予想される最優秀オルタナティブ・アルバム部門にノミネートされてますね。全体やや陰鬱なイメージはありますが、どの楽曲もアンの才気を感じさせる出来になっていて、今年の春先はよく聴いてました。

18.Typhoons - Royal Blood (Black Mammoth / Warner)

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基本ベースのマイク・カーとドラムスのベン・サッチャーの2人だけで、フルバンドよりも厚みと迫力のあるハードなロックをぶちかますロイヤル・ブラッドには、デビュー作で一発でやられてしまって以来、毎回新作はチェックしてますが、前作の『How Did We Get So Dark?』(2017)であのファーストの衝撃に比べるとやや消化不良的な感じがあったので、今回の新作は期待半分、不安半分といった感じでした。

ところがこれが蓋を開けると、冒頭の先行シングル曲「Trouble's Coming」、2曲目の「Oblivion」、そしてタイトルナンバーの「Typhoons」と、いきなり思い切り跳ねるダンス・ロック的なビートを強調するという、ファーストの重厚なハードロックとはまた大きく趣向を変えながら、新たな魅力を備えたサウンドが飛び出してくる作品で、最初聴いた時「おお!」と思ったのを覚えてます。ダンス・ロック的、と言っても軽いイメージではなく、今回プロデュースに参加している、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(QOTSA)ジョッシュ・オムのインプットもあったと思われ、ファーストとはまた違うスタイルでのQOTSAっぽいヘヴィーさがズッシリと感じられるものになってます。

今回このアルバムへの反響について個人的に「え?」と意外に思ったのは、あのサー・エルトン・ジョンがこのアルバムを大変に高く評価しているという事実。エルトンがホストを務めるアップル・ミュージックのオンライン・ラジオ番組『The Rocket Hour』でもイチオシでかけまくったというこのアルバム、実はエルトンがダンス・ミュージックの大ファンだということを知ってると何となく納得も行きますね。
ある意味サウンド的に新しいフェーズに入って来た感のあるロイヤル・ブラッドのこのアルバム、本国のNME誌では年間アルバムランキング25位にランクインされるなど、ロック系のメディアには概ね評判がよいようです。

17.Obviously - Lake Street Dive (Nonesuch)

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久々に吹っ切れた感じのモータウンやノーザン・ソウルの香りのする(今時のエレクトロではない)メインストリームなポップ・チューン満載の快作。オープニングの「Hypotheticals」でLSD得意のシンコペーションの効いたビートに乗って軽々と歌うレイチェル・プライスの歌声を聴くなり、うれしくなった。これだよこれ!

2014年インディーからのリリース『Bad Self Portrait』でのLSDとの衝撃的出会いで彼らの軽妙でポップで、ソウルフルでかつ素晴らしいミュージシャンシップ(創立メンバー全員がボストンのニューイングランド音楽院出身)のサウンドの虜になって以来、彼らをずっと追っかけてきた。でもその後メジャーのナンサッチと契約してリリースされた2作は、チャート上では躍進したものの、うーんやりたいことはわかるんだけど、と言う感じ。自分的には「LSD、まだまだこんなもんじゃないのに」という思いを強くしていたところだった。

2017年アフリカンアメリカンの新メンバー、アキエ・バーミスのキーボード担当での加入と、入れ替わるようにこのアルバムリリース直後に創立メンバーでキーボードとトランペット担当だったマイク"マクダック"オルソンが脱退。メンバーの変動はあったものの、このバンドの核は何と言ってもモントルー・ジャズフェスでのボーカルコンテストで入賞したこともあるレイチェルのテクニックとグルーヴを駆使したボーカルと、バンドの主要楽曲を書いていてベーシストとしても高く評価されてるブリジット・カーニーの2人。今回のアルバムもブリジット作の上述の「Hypotheticals」やレイチェルとの共作「Nobody’s Stopping You Now」といったキャッチーな楽曲とブリジットの歌うベースに、巧みなレイチェルのボーカルがマッチして最高だし、新メンバーのアキエと脱退したマイクの共作「Same Old News」なんかもレイドバックなグルーヴのトラックにサビでメリハリあるコーラスとビートを入れてハッとさせるなど、久々に魅力的な楽曲満載。

自分の2014年の年間アルバムランキングの4位だった『Bad Self Portrait』の完成度には及ばないし、この手のメインストリームな作品は最近音楽メディアでもなかなか評価されないんだけど、この一年シーンを覆い尽くした内省的で霧に包まれたような作品群の中で、一際光を放って明るさを届けてくれる一枚なので是非ご一聴を

16.Valentine - Snail Mail (Matador)

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去年からジョニ・ミッチェルの初期音源パッケージ関連の翻訳の仕事をしているから、ということもあるのかも知れないが、ここのところやたらと女性シンガーソングライターの作品に耳が行ってしまう。ただこのコロナ禍の中で、内省的・思索的に自分の中を見つめたり、自分の感情を率直に表現したりするスタイルの作品がテイラーのコロナ2作品を筆頭に、女性のシンガーソングライターによるものが多くなっていることも事実。そしてこのスネイル・メイルことリンジー・ジョーダンの作品もそういう文脈にすっぽり収まる、正に今の時代の情感をそのまま切り取ったような作品。ただし、彼女の場合それを90年代オルタナ・ロック的なとてもわかり易いアプローチでやってくれてるんで、あの時代に洋楽を浴びるように聴いていたリスナー(世代的にはアラフォー世代だろうか)にはものすごくアピールしてくる。特にアヴリルとか、パラモアとかが好きだった人なら確実にこの作品に虜になるだろう。そして僕もその一人(あ、アラフォーではないですw 90年代に浴びるように洋楽聴いてたというだけでして)。

冒頭のタイトルナンバー「Valentine」はパートナーとの仲睦まじい様子(リンジーはゲイであることを表明しているので、PVでも女性同士の関係なんですね)を思わせる歌詞で静かに始まって、サビでいきなりギターが炸裂して「で、どうしてあなたは私を消し去りたいと思うの!?」とリンジーがシャウトする、とってもキャッチーに。静から動、スローからハードなバリバリギター、というのはレディオヘッドの「Creep」からニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」に至るまで、ある意味90年代オルタナロックの典型的意匠なわけなので、この時代にロックを聴きまくった人はこういうフックに無条件反射的に反応してしまうのだけど、リンジーはそれを確信犯的に、かつ見事に自分のスタイルとして消化してやってるのがこの作品の魅力なのです。

この曲ほど静・動の対比が明確でないにしても、90年代ロックの意匠をまとったキャッチーな「Glory」や正にパラモアを思わせるムーディでスローなロック・ナンバー「Forever (Sailing)」といった曲もあれば、アコースティックな演奏で相手に対する情感を瑞々しく歌う「Light Blue」や二人の関係の終局を映画の一場面かのように歌う「Mia」など、ジョニ・ミッチェルを源流とするシンガーソングライターの系譜をしっかり感じさせる曲もあったりして、リンジーのちょっとハスキーな、それでいて説得力なる歌声も相まってかなり完成度の高い作品になってます。

彼女は2018年のデビュー・アルバム『Lush』が高く評価されてブレイクしたのですが(残念ながら自分はこのアルバムはちゃんと聴いてません)、今回はそれ以上の出来だということで軒並みメディアの評価も高く、ペイスト誌(10位)、スピン誌(10位)、コンシクエンス・オブ・サウンド誌(12位)、ピッチフォーク(15位)、ビルボード誌(20位)、NME誌(24位)と各メディアの年間アルバムランキングを飾ってます。でもそういうことを抜きにしても、あの時代のロックで育った世代であれば間違いなく気に入るはずですし、その世代でなくともジョニを筆頭とするスタイルの女性シンガーソングライターが好きな方であれば間違いなくお勧めの一枚です。

さて、明日は何とか11位〜15位をアップしたいと思います。お楽しみに。

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