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今週の全米アルバムチャート事情 #106- 2021/11/20付

さていよいよ今週はMLBの各賞が発表されるアウォード・ウィーク。既にこのブログを書いている時点では新人賞と監督賞がアナウンスされてますが、やっぱりクライマックスは日本時間の金曜日19日に発表されるMVP。これだけ大谷翔平選手の受賞が各方面から予測されている中で、でもやはり発表までは気になるもの。是非金曜日は大谷選手、お祝いの一日になって欲しいもんですね。(追記:見事大谷選手、AL MVP受賞!おめでとう!

今週もお送りする「全米アルバムチャート事情!」、連動のポッドキャストも土曜日に配信しましたので、上記のリンクからお楽しみ下さい。

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さて今週のBillboard 200全米アルバムチャートは11/20付。いよいよ来週のチャートで2021年のチャートイヤーが終わるということで、この先は来週にもノミネーションの発表があるグラミー賞年間チャート予想、そしてDJ Boonzzyの選ぶ年間アルバムランキングなどなど、年末企画が目白押しの予定。ということはその記事執筆で一気に忙しくなるのですが、これもまた毎年の年末恒例ということで頑張りますので、どうぞお楽しみに。
ところで今週からオンラインのビルボードチャートのデザインと内容がガラリと大きく変わってますね。見やすくなったのはいいんですが、Hot 100の作者・プロデューサーデータの表示がどこにいったのかが見つけられずProユーザーとしてはちょっと困ってます。ご存知の方いたら教えて下さい。
ということで今週の1位ですが、先週の予想ではエド・シーラン2週目かアバか、ポイントでいうと8万ポイントくらいの争いになる、と言ってたんですが思わぬ伏兵が登場、その倍くらいのポイント数で軽々と1位をかっさらっていってしまいました(166,000ポイント、うち実売は12,000枚)。その伏兵とはこれが2枚目にして初のナンバーワンアルバムとなった、サマー・ウォーカーの『Still Over It』。

華々しく初登場2位だったデビュー・アルバム『Over It』で登場した、2000年代以降の雰囲気を満載した女性R&Bシンガーの2作目も、やはり「今の正統派R&Bはこれ!」とばかりにオーガニックなサウンドとトラップなど21世紀的サウンドスケープもふんだんに盛り込んだ、それでいてしっかりとした楽曲満載の好盤に仕上がっています。ケラーニジェネ・アイコ、ティナシェイら共々今のR&Bを代表するサマー・ウォーカー、この1位はR&B女性シンガーのナンバーワン・アルバムとしては2016年のソランジェの『A Seat At The Table』以来5年ぶりというも意外ですが、そのポイントの9割以上がストリーミング(オンデマンドストリーミング回数2億回相当)というのが、先週のアルバム枚数とストリーミングポイントのアンバランスさの状況をそのまま反映してますね。

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そして今週UKでは週間売上20万枚という記録的な売上を上げてアデルエド・シーラン級の1位を獲得している、アバの40年ぶりのスタジオ・アルバム『Voyage』は予想通りの82,000ポイント(うち実売78,000枚で、今週のアルバム・セールス・チャート1位です)で初登場2位でした。UKの20万枚には及ばないものの、この実売78,000枚って、先週のエド・シーランより1万枚多いんですよ。これって40年新作を出してなかったアーティストのパフォーマンスとしてはなかなか凄いことだと思うのですがどうでしょうか。ここまで9月に先行リリースされていたシングル「I Still Have Faith In You / Don’t Shut Me Down」の両面シングルは未だHot 100に入ってきてませんでしたが、今週も残念ながら1位のサマー・ウォーカーの曲がストリーミングの勢いを駆って18曲チャートイン、なんてことになっちゃたので、サマー・ウォーカーの全く正反対でアバの場合ストリーミングのポイントがわずか総ポイントの5%(4,000ポイント)なので、どちらかというとストリーミングが大きくものを言うHot 100には今週も登場してきていません。

まあそれでも今回の2位というのは、1978年の『The Album』(全米最高位3位の大ヒット「Take A Chance On Me」収録)の14位を大きく更新する、USにおけるアルバムチャートの最高位順位を記録したわけでまずはめでたい限り(というかトップ10アルバムは初、というのもちょっと意外です)。ただ全体通して聴いてみると、楽曲は丁寧に作り込んであるんですが、自分のように往年のアバに親しんだ耳にもちょっと時代がかって聞こえてしまって「うーんこれだと若い子は聴かないかなあ」と思ってしまいました。ストリーミングが少ないのもそれが大きいのかも、と思ってしまって。

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そして今週もう1枚のトップ10初登場は、7位に入ってきたメンフィスのラッパー、キー・グロックの2作目『Yellow Tape 2』(36,000ポイント、実売9,500枚)。彼はこれまで同じメンフィスのラッパー、ヤング・ドルフとのコラボアルバム『Dum And Dummer』(2019) と『Dum And Dummer 2』(今年3月) がいずれも8位にランキングされてましたが、ソロでは今回のアルバムの前作になるデビューアルバム『Yellow Tape』(2020)が14位だったので、これがソロとしては初のトップ10ということになります。

まあ彼の場合絶賛トラップ大会全開の作品なので、自分的にはあまりコメントすることもないのですが、メンフィス・ラップ・シーンも彼やヤング・ドルフそしてプー・シースティといった若手がマニーバッグ・ヨヨー・ゴティといったベテランが開いたシーンを着実に固めていってるようで近年一大勢力になってきたな、という思うくらいですね。

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さて続いてはいつものように11位以下圏外100位までの初登場アルバムのご紹介。今週は4枚と最近にしては少なめです。まず筆頭12位に初登場、惜しくもトップ10を逃しているのは、レディオヘッドの名盤2枚、2000年の『Kid A』と2001年の『Amnesiac』の2枚のリイシューに、未発表曲収録の3枚目のCDとシングルB面曲を収録したカセットをセットしたリイシュー盤『Kid A Mnesia』。もともとこの2枚はバンドとプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチが1999〜2000年にかけて一緒に録音して、最初は2枚組で出す予定だったのが、ボリュームが多すぎたので2枚に分けてリリースされたという当時の経緯があるので、今回一緒に出ても違和感はないわけです。

リリース当時は初期〜中期のギター中心のサウンドから一気にエレクトロニックで実験的なサウンドに移行したため賛否両論が飛び交った作品2作ですが、今改めて聴くとやはりかなり先進的で浮遊感もある音像と世界観で20年前の作品とはなかなか思えない当たりがレディへの凄さですね。「How To Disappear Completely」とか「Pyramid Song」「Knives Out」など今や彼らの代表曲になってる楽曲なんかも懐かしく聴けて、ミーンタイムという洋楽サークル活動に一生懸命だったあの時期にタイムワープしてました。

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一気にチャートを下って61位に初登場してきたのは、2018年にアルバム『Lush』でデビューして、音楽メディアの高い評価を集めて注目されたメリーランド州出身の女性シンガーソングライター、リンジー・ジョーダンのソロプロジェクト、スネイル・メイルの2作目『Valentine』。前作はヒートシーカーズ・チャート(BB200の100位以上にチャートイン履歴がないアーティストのアルバムチャート)では2位になってますが、BB200には登場しなかったので、今回が記念すべき初チャートインになります。

前作もギター中心のポップコアなインディ・ロック、という感じでしたが、今回は更にそれに深みを増した感じのサウンドで、これはコロナロックダウンの期間中、現在住んでいるNYから実家のボルティモアに戻って曲作りに集中したというのがいい結果に繋がったんだろうな、という感じがしますね。メディアの評価も今回は前作以上に高く、何とメタクリティックで90点を叩き出して、あの気むずかしいピッチフォークからも「Best New Music」をゲットしているこの作品、個人的にも年末にかけて愛聴しそう。

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続いて80位に登場しているのは、何とあの元ジャーニースティーヴ・ペリーの3年ぶりの新作ながら初のクリスマス・アルバム『The Season』。今週のアルバム・セールス・チャートでも6位に初登場していて、この季節名前の知れたアーティストのクリスマス・アルバムが消費者ニーズにマッチしているのがよく判ります。彼は2019年にも3曲入りホリデーEP『Silver Bells』をリリースしてるんで、もう最近はオリジナルアルバム作るよりこういう路線に徹してるのかもしれません。

他のアーティスト達みたいに、オリジナルのクリスマス・ソングを何曲か収録して、なんて中途半端なことはしておらず、全8曲すべてクリスマス・スタンダード(笑)。いよいよスティーヴロッド・スチュワート路線まっしぐらという感じでしょうか。

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今週最後の圏外初登場は98位に入ってきた、オレゴン州ポートランドのラッパー、アミネの4本目のミックステープで、2018年にリリースされた『OnePointFive』の続編的な『TwoPointFive』。アミネと言えば2016年のブレイクアウト・ヒット「Caroline」(Hot 100最高位11位)以降シングルチャートでは姿を見かけてないですが、去年リリースした2作目のアルバム『Limbo』はシーンでの評判もなかなかよく、BB200で16位と彼にとっての最高位を記録していたり、今年のグラミー賞のダンス部門にもディスクロージャーの「My High」にフィーチャリングでノミネートされてたりしてるので、地道ながら活動は続けている模様。

Caroline」がそうであったように、軽めのトラップ・ポップ、といった感じのトラックを聴かせる今回のミックステープ、なかなか楽しいですが、この後彼はどこにいくのでしょう。

ということでいつものようにここでトップ10のおさらい。先週同様今週もそれぞれの総ポイント数と、Hits Daily Doubleのサイトに報告されているそれぞれの実売枚数を併記しておきます。何と10位のリル・ナズXは216枚の売上!(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数>)

*1 (-) (1) Still Over It - Summer Walker <166,000 pt/12,000枚>
*2 (-) (1) Voyage - ABBA <82,000 pt/78,000枚>

3 (2) (10) Certified Lover Boy - Drake <62,000 pt/516枚>
4 (1) (2) = (Equals) - Ed Sheeran <51,000 pt/16,868枚>
*5 (3) (44) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen <43,000 pt/2,143枚>
6 (4) (20) Planet Her - Doja Cat <37,000 pt/344枚>
*7 (-) (1) Yellow Tape 2 - Key Glock <36,000 pt/9,500枚>
8 (6) (25) Sour ▲ - Olivia Rodrigo <35,000 pt/6,472枚>
9 (7) (7) Sincerely, Kentrell - YoungBoy Never Broke Again <31,000 pt/545枚>
10 (8) (8) Montero - Lil Nas X <27,000 pt/216枚>

さて最後はいつものように来週の1位予想ですが、今回の集計対象期間(11/12-18)はさすがにテイラー・スウィフトの再録音シリーズ第2弾『Red』で決まりでしょうねえ。第1弾の『Fearless』が初週291,000ポイントだったので、今回もそれくらい行くでしょうか。UKはテイラーリトル・ミックスの一騎打ちらしいですが。トップ10に入ってきそうなのは、カントリーのジェイソン・オルディーンと皆さんお待ちかねのシルク・ソニック。そしてひょっとするとトップ10入りしそうなのがTWICEの新作か。ということでまた来週。

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