今週の全米アルバムチャート事情 #110- 2021/12/18付
あっという間に今年もあと2週間ちょっと。別ブログでアップ予定の「DJ Boonzzyの選ぶ2021年アルバムランキング」の準備もなかなか完了せず(今年のアルバム全部聴き直すのって時間かかります)予定の今週執筆なるか?一方今月25日には1年ぶりの国分寺での3時間DJも決まり、そっちの準備もあるしなあ。洋楽マニアとしては年末は毎度のことながら忙しい毎日ですが、これがまたたまらんのですよね。あ、グラミー賞受賞予想のブログもやらなきゃ。ああ忙しい。
ということで今週もお届けする「DJ Boonzzyの全米アルバムチャート事情!」。連動のポッドキャスト、今週も頑張って週末までには配信予定ですので、それまでは上記のリンクから直近の配信回をSpotifyでお楽しみください。
さて今週のBillboard 200全米アルバムチャートは12月18日付、先週の予想では「アデルのポイントがガックリ落ちるようなことがあると四つ巴戦も」なーんて言ってましたが、蓋を開けてみるとまったくそんな心配はなく、前作『25』とまったく同じパターンでのポイント減衰カーブ(2週目66%減、3週目は2週目の33%減)を描いたアデルの『30』が、2位のテイラーのまたまた2倍以上のポイント(193,000ポイント、うち実売149,000枚)で軽々と3週目の1位をマークしました。
先週アデルにチャレンジするのでは?と言っていた3作の中で一番迫ってきたのは、ポロGの『Hall Of Fame』で、デラックス・エディションの『Hall Of Fame 2.0』(+14曲)のリリースで、69位→3位と急上昇。ただポイントでは78,000ポイントと、アデルに迫るにはもうあと倍ほどポイントを伸ばさないと無理でしたね。そしてヒップホップの常で、このポイント数のほとんどはストリーミングで、実売枚数はわずか775枚(Hits Daily Doubleサイト情報による)。ここから現在ヒット中のマイケルの「Smooth Criminal」をサンプリングした「Bad Man (Smooth Criminal)」(最高位49位)とかキャッチーだけど殆どのファンはストリーミングで聴いて終わりなんでしょうねえ。
マイケル・ブブレの『Christmas』に至ってはNBCテレビでのスペシャル放映があったにも関わらず、これが全然ポイントに結びついてなくて、わずか先週比3%アップの60,000ポイントで3位から4位にダウンという有様でした。この後本当にクリスマスに向かって伸びるのでしょうか、このアルバム。なお、エド・シーランの『=』のクリスマス・バージョンについては完全に自分の過大評価だったようで今週は圏外14位でくすぶったままでした。
一方、その他のクリスマス・アルバム全般は今週も好調で、中でも毎年Hot 100上位に戻ってくるシングル「All I Want For Christmas Is You」が先月RIAAで10xプラチナ認定(1,000万枚売上)されたマライアの1994年のアルバム『Merry Christmas』が今週圏外14位→8位に登場(40,000ポイント)。1994年リリースの年の12月に最高位3位を記録したこのアルバム、今年をいれて4シーズン連続でBB200のトップ10に返り咲いていて(2019年1月に8位、2020年1月に4位、2021年1月に5位)、今年マイケル・ブブレの躍進はあるものの、USにおけるクリスマス定番アルバムの地位は揺るぎないものになってますね。
それ以外では先週ご紹介した、ヴィンス・ガラルディ・トリオの『A Charlie Brown Christmas』が、今週9%アップの39,000ポイントで先週の10位→9位にじわっと上げて最高位を付けています。
先週に続いて初登場ゼロのトップ10ですが、今週の圏外11位から100位には6枚が初登場とやや多め。ただし顔ぶれはいずれも小粒というか二線級、といった感じですねえ。その筆頭で19位に初登場しているのが、フロリダのジャクソンヴィル出身の今年21歳のラッパー、ナード・ウィック(本名:ホレス・バーナード・ウォールズ3世)のデビュー・アルバム『Who Is Nardo Wick?』。もともと今年の1月にリリースしたシングル「Who Want Smoke?」に、アトランタの21サヴェージ、シカゴのGハーボとリル・ダークがフィーチャーされたリミックス・バージョンが10月にリリースされるといきなりHot 100の17位に初登場したというブレイクの余勢を駆って今回のアルバムがこんな上に登場したというわけで。
ちょっとBLM思わせるMVなんですが、「Who want smoke with me?(俺と煙焚きたい奴は誰だ?)」と「What the fuck is that?(ありゃ一体なんだ?)」の2パターンのリフレインで、あとはナードのマンブル・ラップがガチガチのハードコアなトラップ・トラックに載っているというまああまり自分なんかには食指の伸びないタイプの典型トラップワンパターンですなあ。何でもこの曲のビートに合わせて踊るTikTokポストが流行って曲がチャートに出たらしいですが。
23位初登場もラッパー。こちらはサンフランシスコをベースに2007年以来もうアルバム16枚も出してるけど今回の『Gotti』がチャートイン3作目という、イタリア系っぽい白人ラッパーのバーナー(本名:ギルバート・アンソニー・ミラムJr.)。今回が彼にとってチャート的には最大のヒットになってます。
こちらは若干メインストリームっぽいレイドバックしたビートのトラップ・チューンに載って、さほど巧いとも思えないバーナーのラップ、ということでこちらも正直多分2回は聴かないなあという感じ。結構フューチャーとか、ロッド・ウェイヴとかゲスト陣は豪華なんですが。
ちょっと下がって54位初登場は久しぶりに名前を聞くカリードの初のミックステープ『Scenic Drive (The Tape)』。こちら、当初はEPでのリリースを考えていたようなんですが、急遽ミックステープとしてデジタル&ストリーミングオンリーでリリースしたというもの。
『American Teen』でブレイクして以来、さまざまなジャンルのアーティストとのコラボを通じて自分の世界観を膨らまし続けてきた若き才能溢れたR&Bシンガーソングライター、カリード。コロナパンデミックで突然自分だけの時間、改めて自分の一番好きなこと(=曲を書くこと)に集中できた、また最初に戻ったような感じでいい時間を使って今回のミックステープを作ったんだよ、とアップルミュージックのインタビューで答える彼が届けてくれた曲はどれも改めて瑞々しい。キアナ・レードとのデュエットで留守電を通じた男女の微妙な距離感を歌う「Voicemail」、6ラックとラッキー・デイと共に今を代表する3人の若手クルーナーの一人として現実逃避が必要な心境を歌う「Retrograde」など、いつものカリードのあの浮遊感満点の音像に乗った歌が心地いい、そんなアルバム。フィジカル出ないかなあ。
そして65位はまたまたラッパーで、この間竜巻被害のあったケンタッキー州出身のESTジーが、今年7月に始めてチャートインさせた(しかも最高位7位)5作目のミックステープ『Bigger Than Life Or Death』の続編と思われる『Bigger Than Life Or Death, Part 2』が初登場、前回に比べると随分地味なチャートインになってます。
一つ判らないのは、Wikiなどの記載では今回のパート2は前作のデラックス・エディションの位置付けらしく、もしそうであれば個別にチャートインするのではなく、前作のポイントと合算になるはずなのになあ、ということ。ミックステープだとルールが違うんでしょうか。良く判らんなあ。
ずーっと下がって91位に登場しているのは、デンマークのバンドながら、2013年の5作目『Outlaw Gentlemen & Shady Ladies』がBB200でトップ10入り(9位)して以来、全米でも結構人気があるヴォルビートの8作目『Servant Of The Mind』。とにかく判りやすい正統派で時にはポップな、ロカビリー風味もまぶしたストレートな2000年以降スタイル(つまりメタリカを経過している)のハードロックを聴かせる彼らのスタイルは、アメリカ人確かに好きそうです。
この人達はHot 100にはいまだかつて登場したことはないんですが、毎回必ずロック・チャートには上位に入ってきていて、今回のアルバムからは既にシングルカットされている「Shotgun Blues」が今週メインストリーム・ロック・エアプレイチャートで1位を記録、これが彼ら10曲目の同チャートの1位というからまあ安定した人気がありますねえ。でもさっき触れたブレイク作の次の6作目『Seal The Deal & Let’s Boogie』(2016)が4位を記録して以降はチャート的には下り坂なんですよね。今回も何とか100位内、という感じですし。
今週最後の初登場は92位に入って来ている、カンザス州生まれプエルトリコ育ちのラッパー兼シンガー、エラディオ・キャリオン初のチャートイン・ミックステープ『Sauce Boyz 2』。彼も先週ご紹介したアニュエルAA同様、最近流行のラテン・トラップ・シーンに台頭してきているニュースターのようです。ラップする時はトラップ・スタイルの楽曲、歌う時はレガトン・スタイル、というスタイルも先達のアニュエルAAのスタイルをフォローしているのが、今回のブレイクにつながったようです。
最近のKポップの台頭同様、ラテン・トラップ系のアーティストもこうしていろんなアーティストが出てきて裾野が広がってきた感じがありますが、本家のアメリカのトラップ・シーンがやや煮詰まってきている感もあるので、どこまでこの勢力が伸びるかはやや疑問だと個人的には思ってます。ただ、アメリカもラテン人口かなり多いので、今のラテン系アーティスト台頭のトレンド自体はまだまだ続くんだろうなあ、ラテン・グラミーも始まってから20年以上経ったしなあ、とは思いますね。
ということでトップ10も圏外もやや地味目立った今週のチャートでしたが、ここでいつものようにトップ10のおさらいです。今週のトップ10、先ほど触れたポロG以外にもドレイクとドジャ・キャットのアルバムの実売も相変わらずショボいですねえ(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数>)。
1 (1) (3) 30 - Adele <193,000 pt/149,000枚>
2 (2) (4) Red (Taylor’s Version) - Taylor Swift <80,000 pt/36,799枚*>
*3 (69) (26) Hall Of Fame - Polo G <78,000 pt/775枚*>
*4 (3) (97) Christmas ▲6 - Michael Buble<60,000 pt/13,334枚*>
*5 (4) (29) Sour ▲2 - Olivia Rodrigo<51,000 pt/17,201枚*>
*6 (6) (48) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <48,000 pt/1,931枚*>
7 (5) (14) Certified Lover Boy - Drake <47,000 pt/279枚*>
*8 (14) (105) Merry Christmas - Mariah Carey <40,000 pt/7,500枚*>
*9 (10) (96) A Charlie Brown Christmas (Soundtrack) ▲4 - Vince Guaraldi Trio <39,000 pt/14,879枚*>
*10 (12) (24) Planet Her - Doja Cat <39,000 pts/441枚*>
さて最後に恒例の来週1位予想。来週のチャートの対象期間は12/10-16ですが、今回はちょっと賑やかになりそうなのと、場合によっては1位交代があるかも知れない様相になってます。というのも10日にジュースWRLDの没後作第2弾がリリースされてて、ただでさえジュースであれば数十万ポイントは堅いのと、今回はHBOのジュースのドキュメンタリーとのタイアップだったり、ゲストにジャスティン・ビーバーや何とBTSのシュガが入ってたりとこりゃ絶対売れるしストリーミングされるでしょ!という内容なんです。前回の没後作第1弾では初週50万ポイント近くを叩きだしてますから、アデルの1位も風前の灯火かもしれません。
それ以外にもトップ10に飛び込んで来そうなのがアリシア・キーズ、トーリー・レインズ、リック・ロス、そしてやはりKポップ来るかーというモンスタXあたり。クリスマス商戦も佳境になってきてクリスマス・アルバム軍団とどう競い合うかが見ものですね。ではまた来週。
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