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今週の全米アルバムチャート事情 #111- 2021/12/25付

皆さんメリークリスマス!いよいよ今年も来週いっぱいでこの波乱に満ちた2021年も終わりかと思うと改めて一年経つことの早さに(自分が年取ってきたからでもないでしょうが)驚くばかり。先週は年末の忙しさもあり、この「全米アルバムチャート事情!」連動のポッドキャストもお休みしてしまいましたが、年明けまでは同様の状況が続くと思うので、今週来週くらいは基本ポッドキャストの新規配信はお休み、もし運が良ければ配信、ということにさせてもらおうかと思っていますのであしからずご了承下さい。その代わりでもないですが、来週は何とか「DJ Boonzzyの選ぶ2021年アルバム・ランキング」の記事をアップしたいと思ってますのでよろしくお願いします。

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さて今週の全米アルバムチャートBillboard 200の1位ですが、先週の予想では「ジュースWRLDの話題の遺作第2弾も出るし、早くもアデル1位陥落か?」なんて言ってましたが、アデルのパワー、はっきり言って見くびってましたね。というか、20万ポイントは叩き出すと思っていたジュースがわずか11万ポイントということで、ジュースのパワーってこんなもの?ジュースももう賞味期限切れ?という感じで、今週も183,000ポイント(先週比6%減、うち実売146,500枚)でアデルの『30』が堂々4週目の1位をキープしてます。

リリースからまる一ヶ月経過したのに、実売も先週比で2%しか減らずに15万枚規模を維持しているというのは、正に彼女のアルバムがクリスマス商戦の中で目玉商品になっていて、しかも年代に関係なく売れている、ということだと思いますね。何度も言ってますが、多分今月のターゲットウォルマート、コストコといった大型小売チェーンのレジ列横には、クリスマス・アルバムと並んでこのアデルのアルバムが山積みされてるんだろうなあ。またそれだけじゃなく、今回のアルバムがこれまでに比べて、自らの弱さと息子を授かりながら離婚したことへの後悔のような感情を、赤裸々に歌っている「My Little Love」などに代表される作品としてのパワーが、広く評価されていることも大きいのでしょう。この分だと、来週(ヒップホップの話題盤のリリースあり)を乗り切ったら1月いっぱいくらいまで1位を続けそうです。

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そしてその思いの外パワーが出なかった、ジュースWRLDの遺作第2弾『Fighting Demons』は119,000ポイント(うち実売4,000枚)で2位初登場でした。ちょうど彼の命日の前後に合わせたリリースながら、去年7月にリリースされた最初の遺作『Legends Never Die』の初週ポイント497,000ポイントに比べるとストリーミングも含めてかなり見劣りのするポイント数。今回は前回に比べて、ジャスティン・ビーバーBTSシュガをフィーチャーした曲を収録したり、ケーブルチャンネルのHBOジュースのドキュメンタリーが放映されたりとマーケティング的にも力が入っているように見えただけにこのパフォーマンスは残念なものがありますねえ。

メディアの評価とかも賛否両論二分しているようで、ヒップホップに甘めのピッチフォークとかも「最初の遺作と楽曲の質は競ってるけど、今回は曲順とか全体の流れに必然性が薄い」なんて言ってるし。先行シングルの「Already Dead」も20位初登場の後3週でチャートから落ちてたんだけど、今週一気にアルバムの曲が13曲チャートインしてるので、ストリーミングだけでももう少しポイント上がってもいいとは思うのですが。自分ももう少し聴いてみようと思います。

今週はHot 100の方ではマライアの「All I Want For Christmas Is You」が昨年、一昨年のクリスマス・シーズンに続いて3度めの1位を決めて、1960年と1962年の2回1位になったチャビー・チェッカーの「The Twist」の持っていた「別々のチャートランでの最多ナンバーワン(2回)」を59年ぶりに更新するという怪挙(笑)を達成して、トップ10中6曲がクリスマスソングという、ホリデー一色ですが、アルバムチャートの方は今週クリスマス・アルバムの動きは地味め。一方、県外11位から100位までの初登場は10枚と、ここしばらくなかったくらいの盛況。ただし語るべきものは多くないので、今週はどんどん紹介していきましょう。

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まず圏外初登場一番人気は19位に入ってきた、22歳のヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)と52歳のバードマンという30歳年齢差の二人のラッパーのコラボ・アルバム『From The Bayou』。YBNBAはバトン・ルージュ、バードマンはニューオーリンズと、新旧のルイジアナ州出身の二人が組んだので「ミシシッピ・デルタの湿地帯」を意味するバイユーがアルバム・タイトルになってるということのよう。

もともとは「ベイビー」というシンプルすぎるアーティスト名で90年代後半から2000年代初頭にかけてはビッグ・タイマーズのメンバーとして、その後は「バードマン」に改名して、キャッシュ・マネー・レーベルのメインアクトとして、2004年にリル・ウェインがレーベルのトップ・アクトとしてブレイクするまでソロで頑張っていたバードマン。その後はリル・ウェインのバックアップが多かったんですが、同じルイジアナのYBNBAがブレイクしたんで「いっちょ同郷の若いのとやるかあ」と言ったかどうかは知りませんが、今回のコラボになった、ということではないかと。しかし今回始めて知ったんだけど、バードマンって2006年からあのトニ・ブラクストンの旦那なんですな。ビックリ。

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ちょっと下がって21位は去年の前作『All About Luv』で初チャートイン、いきなり5位でブレイクしたので、今回もトップ10か?と思っていたKポップの5人組ボーイズ・バンド(6人だけど一人兵役中らしい)、モンスタXの『The Dreaming』。日韓では既に安定した人気の彼らが、フル英語アルバム第2弾で勝負をかけてきたんでしょうが、残念ながら前回ほどのインパクトは見せられず。

前回はフレンチ・モンタナと組んだりしてヒップホップ・テイストも出していたんですが、今回は冒頭の「One Day」といい、タイトルナンバーといい、今どきのアメリカン・メインストリーム・ボップ路線で、ショーン・メンデスとか、LANYとかのいい感じで迫ってきてます。もう少し売れてもいいとは思いますがね。

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続く22位はこちらもトップ10来るかなあ、と思っていた、マイアミのドン、リック・ロスの11作目『Richer Than I Ever Been』。これでデビュー以来10作連続トップ10の記録が途絶えてしまいました。

今年『Heaux Tales』(BB200最高位4位)がヒットしたジャスミン・サリヴァンをフィーチャーしたシングル「Outlawz」とかそれなりにタイトなんですが、残念ながらヒットにはつながってませんね。最近では珍しくほとんどトラップ・ビートを使ってないんで個人的には好感持ってはいるんですが。

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ヒップホップが続きます。26位初登場、こっちは相変わらずバリバリトラップビート全開のア・ブギー・ウィット・ダ・フディー(ABWdH)の4枚めのEP『B4 AVA』。

彼の場合CDも出して、曲数も20曲くらいぶちこむアルバムフォーマットだとストリーミング稼げることもあって(100枚単位でしか実売なくても)ガーンとトップ5くらいには入って来るんですが、今回みたいに7曲しかないとそれも叶わずって感じで、実はこれくらいの順位が彼の実力なのかもしれません。

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ちょっと下がって41位はアリシア・キーズの8作目『Keys』が初登場。去年リリースした『Alicia』(BB200 4位)と対をなすようなタイトルだけど別にペアリング作というわけではないらしいですね。

何でもコロナで全く創作意欲がなくなってた時に何かやらなきゃ、というので取り組んで作ったアルバムらしく、A面は従来のアリシアの路線で固めた「Originals」サイド、B面は本作で初めて組んだラップ系の大物プロデューサー、マイク・ウィル・メイド・イットと作った「Unlocked」サイドの二面性を持った意欲作です。「Skydive」や「Is It Insane」など両面に異なるアレンジで収録されてる同一曲の聴き比べはなかなか興味深いですね。しかし彼女もデビュー以来7作連続トップ5だったのにここに来てこの順位。今週だけじゃなくて最近こういう同一アーティストのチャート順位の地盤沈下、多いけど理由は何なのだろう。

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そして59位に初登場してきたのは、ヒップホップ・R&Bアーティスト、トーリー・レインズの6作目『Alone At Prom』。リック・ロスアリシア同様、彼も前作までアルバム5作連続トップ10に送り込んで来ていましたが、今回のアルバムはこんな順位。ホントにこれ何なんでしょうね。前作『Daystar』(2020年10位)ではミーガン・ザ・スタリオントーリーに銃撃されたという訴えに対する反論を盛り込んでましたが、いよいよ彼もその容疑で拘留されそうなところでドロップされたこのアルバム、サウンド的に80年代を意識してるということで、同じカナディアンのザ・ウィークンドの『After Hours』と比較する向きもあるようですが、確かにシンセやリズムトラックの使い方とか、オートチューンを多用してる感じは何となく80年代後半から90年代初頭って感じは満載です。

ただアイデア的にも、何曲か聴いた感じの楽曲クオリティにしても正直イマイチな感じだし、この順位や今週Hot 100に一曲も顔出してないところからマーケットの評価も多分同じ感じなんでしょうね。

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一方66位に登場してきたのは、御大ニール・ヤングの何と41作目のアルバム『Barn』。その名の通り、コロラドのロッキー山脈にある古い納屋を改装して、そこで長年の相棒バンド、クレイジー・ホース(今回のアルバムはクレイジー・ホースとの12作目のアルバムになります)と、例によってあまりスタジオでミックスに手をかけたりせずほぼほぼ一発録りと思われるようなレコーディングで作られている(ニールのレコーディング手法については、あのアル・シュミットの自伝に面白い話が載ってるんですが、それはまた別の機会に)このアルバム。冒頭の「Songs Of The Season」や鋭い政治的視点からの「Changes Ain’t Never Gonna」のようなアコースティックなシンプルなナンバーと、「Heading West」や「Human Race」など思わず♪Hey, Hey, My My♪を彷彿するようなラウドなロックナンバーがほぼほぼ半々で、いつものニール節が炸裂する、久々の今のニールの作品満載の作品になってます。

寡聞にして今回初めて知ったんですが、ニールは2018年に4年越しの付き合いの末、あのダリル・ハンナと結婚してたんですねえ。今回は、その彼女が監督したブルーレイディスク発売オンリーの同名タイトルの映画も同時リリースされているようです。今流行のロック・ドキュメンタリー風なんでしょうか、興味があります。そして今回はアコースティックな楽曲も結構アル関係もあってか、バックのクレイジー・ホースの演奏も心なしかやや抑えめに聞こえますが、そのギタリストに何とこれも2018年から、結成当時の初代のギタリストだった、ニルス・ロフグレンがメンバーに復帰してるようなんです。ニルスといえばブルース・スプリングスティーンEストリート・バンドのギターもやってるので、なかなかの強力な布陣ですねえ。内容的にも久々にいい作品になってると思うのでしばらくじっくり聴き込むことにします。

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さて残り3枚は飛ばしながら行きます。68位初登場は、大歌手ペリー・コモのクリスマス・ソングを集めたベスト盤『Greatest Christmas Songs』。今Hot 100にも19位と28位に2曲クリスマスソングがチャートインしてますから、まあ季節需要ですね。
続いて73位初登場は今週2組目のKポップ勢、エイティーズ(ATEEZ)の、今年9月に初チャートインした『Zero: Fever Part. 3』(42位)に続く2枚目のチャートインEP『Zero: Fever Epilogue』。
そして最後95位は、つい先日の12月11日に自宅での転倒による怪我が原因で81歳で亡くなった、メキシコの伝統的マリアッチ風スタイルの音楽、ランチェラを代表するシンガー、ヴィセンテ・フェルナンデスの2000年リリースのベスト盤『Historia de Un Idolo, Vol.1』(あるアイドルの歴史、Vol. 1)。アメリカでのラテン・アルバムのベストセラーの歴代トップ5に入ると言われるこのアルバム、その訃報に接してメキシコの大統領も弔辞を送ったほどのメキシコ国民的アイコンへの敬意の表れなのでしょう。ご冥福をお祈りします。

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ということで今週は圏外の方が賑やかだったBillboard 200のトップ10をいつものようにおさらい。今週はHits Daily Doubleのデータをチェックし逃してしまったので、ビルボード誌が発表してない盤の実売枚数は記載していません。しかしドレイクポロGあたりの実売枚数は非常に少ないことが推定されますね(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数>)。

1 (1) (4) 30 - Adele <183,000 pt/146,500枚>
*2 (-) (1) Fighting Demons - Juice WRLD <119,000 pt/4,000枚>
3 (2) (5) Red (Taylor’s Version) - Taylor Swift <68,000 pt/33,000枚>
4 (4) (98) Christmas ▲6 - Michael Buble<64,000 pt/?>
*5 (5) (30) Sour ▲2 - Olivia Rodrigo<60,000 pt/27,000枚>
6 (6) (49) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <45,000 pt/?>
*7 (8) (106) Merry Christmas - Mariah Carey <45,000 pt/?>
*8 (9) (97) A Charlie Brown Christmas (Soundtrack) ▲4 - Vince Guaraldi Trio <44,500 pt/17,000枚>
9 (7) (15) Certified Lover Boy - Drake <44,000 pt/?>
10 (3) (27) Hall Of Fame - Polo G <43,000 pt/?>

ということでやや長めになってしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。来週は今年最後のこの記事配信、除夜の鐘を聞きながらの配信、とかにならないように頑張ります。さて最後に恒例の来週の1位予想ですが、冒頭でも述べたように12/17-23の対象期間のリリースで唯一アデルに張り合う可能性があるのが、ロディ・リッチの2枚目のアルバム。しかしこちらもアデルが今週のポイントから大きく減少するというのが前提ですから、確立としてはまあ7/3でアデルの5週目1位なんじゃないでしょうか。それ以外でトップ10に来そうなのは、6月に7位に登場していたコメディアン兼シンガーソングライターのボー・バーナムの『Inside (The Songs)』のフィジカルがリリースされるので、これが再上昇で入ってくるかもです。ではまた来週。


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