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今週の全米アルバムチャート事情 #124- 2022/3/26付

今週水曜日に日本の国会でもウクライナのゼレンスキー大統領がスピーチしましたね。米議会でのスピーチでは真珠湾攻撃を引き合いに出したことに国内一部の批判があったり、そもそも戦争に戦争で対抗するとのゼレンスキー大統領の姿勢についてもっと停戦・外交解決に向けて各国の協力を呼びかけるべきではないかという意見も多いなど、彼の行動についてもいろいろ意見が多いですが、今回のスピーチの内容とデリバリーはなかなかのものだ、と思いました。むしろ一番残念だったのが、ゼレンスキー大統領の「国連が仲裁機関として機能しておらず、日本には是非リーダーシップを取って新しい枠組を引っ張ってほしい」という趣旨のメッセージに対して、スピーチ後のインタビューでこの部分に触れたコメントをした日本の議員が皆無であったこと。日本の政治家の質も今やこんなものか、と改めて大いに失望しました。残念です。一日も早いウクライナ停戦をただただ祈るのみです

さてこの記事と並行してアップしている「DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想ブログ」、先週末はアメリカン・ルーツ部門の後半、ブルースとフォーク部門の予想をアップしてますので上記のリンクから覗いてみて下さい。また、音楽評論家の吉岡正晴さんとのDJ&トーク・イベント「ソウル・サーチン・ラウンジ〜グラミー賞大展望・予想」の開催もいよいよ来週に迫ってきました。マンボウも開けましたので、是非皆さんのお越しをお待ちしています。詳細案内は↓ここから。

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ということで早くも2022年の4分の1が終わろうとしている今週3月26日付の全米アルバムチャート、Billboard 200とうとう1位が交代しました!先週まで9週間1位を独走していた『Encanto(ミラベルと魔法だらけの家)』に代わり、先週の予想通り今やシカゴを代表するラッパーになりつつあるリル・ダークの7作目『7220』が120,500ポイント(実売2,500枚)で余裕の初登場1位を決めています。彼はリル・ベイビーとのコラボ・アルバム『The Voice Of The Heroes』で去年6月に初の1位を決めてますが、ソロでの1位は今回が初。ここ2作ほど最高位2位に甘んじてきていたので、そろそろ来てもおかしくなかったし、先週のキング・ヴォンの遺作2位初登場と、ミラベルのポイントの落ち具合で地合は充分だったと言えます。

先週お話ししたキング・ヴォン同様、リル・ダークもクリスプなフロウで、ラップと鼻歌の中間っぽいいわゆる「メロディアス・ラップ」と言われるスタイルですが、基本トラックはバリバリのトラップで、アルバムタイトルを自分の祖母の実家の住所の番地から取ったことからも連想されるように、自分の子供の頃からの人生におけるリアリティ、ストリートでの厳しい現実や自分の今の成功に至るまでの経験などなど、決して明るくはない自伝的な内容のようです。一つ解せないのは、なぜかあの黒人差別発言で昨年一時期干されていた(それでも作品のストリーミングや売上は大して減らなかった)カントリーのモーガン・ウォレンを迎えたトラック「Broadway Girl」(最高位14位)。ナッシュヴィルのメインストリート、ブロードウェイにあるカントリー・シンガーのジェイソン・オルディーンの店を舞台に取られたMVの二人の自然さといい、達者にラップをぶちかましてるモーガン・ウォレンといい、これが大いにTikTokでバズったというのも判るんですが、これはモーガンの禊ぎ代わり、ということでそれにリル・ダークが手を貸したということなんでしょうか。うーん判らん。

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そして今回ちょっと驚いたのは、そのリル・ダークに次いで、ポイント減らしたとはいえ先週まで1位だったミラベルを押さえて2位に初登場してきたのが、スウェーデンのメタル・バンド、その名もゴーストの5作目のアルバム『Impera』(70,000ポイント、うち実売62,500枚)。リーダーのトビアス・フォージが骸骨の顔した司教の紛争してたり、バンドのメンバー達が単にネイムレス・グールズ(名もなき屍鬼達)と呼ばれる、不気味なかぶり物付で演奏していたりと、外見だけ見たらどう見ても色物でしかないんですが、以外とそのサウンドはメタルといいながら80年代ポップ・メタルな感じで無茶苦茶聴きやすいんですよね。これ、80年代にボンジョヴィとか、デフレパードとかボストンとかのファンだった層が絶対喜んで聴いてる気がするなあ。アバのメタル版か!と思うような「Spillways」なんて曲もあるし。

驚いたとはいえ、実は彼らこれで3作連続のアルバムトップ10で、しかも今回がこれまでの最高位。次の作品では地合がよければ実売枚数も毎回6万枚くらい売ってるだけに(ちなみに今週のこのアルバムの売り上げはぶっちぎりの売上トップです)、初の1位初登場もありそう。ちなみにこのアルバム、UKでも今週初登場2位で、同じく過去最高位を記録してます。彼ら、実は前々作『Meliora』(2016年、8位)からの曲で2016年第58回グラミー賞で、あのスリップノットを押さえて最優秀メタル・パフォーマンス部門を受賞してるんですが、このポップさだと来年のグラミーあたりでメインのロック部門にノミネートされそうですねえ。

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先週自分がトップ10来るかも、と言ってたレックス・オレンジ・カウンティ(本名:アレクサンダー・ジェイムス・オコナー)の4作目になる『Who Cares?』は35,000ポイント(実売20,000枚)とやや振るわず、前作の『Pony』(2019)の3位には及ばない、5位初登場でした。前作は全曲自作で、彼独得の宅録ポップワールド全開の快作でしたが、今回は全曲、やはり同じようなスタイルの脱力系オランダ人宅録ポップ・シンガーソングライターのベニー・シングスと共作、ベニーは演奏も全面的にバックアップしてますね。また、一曲「Open A Window」にはあのタイラー・ザ・クリエイターが3人目の共作者として参加、ラップもフィーチャーされてます。これは、もともとROCのブレイクのきっかけが、彼の作品をネットで聴いたタイラーが気に入ってタイラーの『Flower Boy』に招いて2曲に作者・ボーカリストとして参加したことだったことによるもの。

その一曲以外は、全編同じようなスタイルの二人が共作して共演してやってるということもあるのか、何となく前作を聴いた時の圧倒感というか、スムーズに流れすぎている感じもしなくはないですが、そこここに閃くようにちりばめられているポップ・センスはやはりさすが。本国UKでは今週見事に初のアルバムチャート1位を記録しています。彼あたり今年のフジロックに来ないですかね。ベニー・シングスとジョイントとか結構盛り上がるかも。

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そして今週トップ10内初登場のラストは、ナッシュヴィルを拠点に活動している、ジョエルルークスモールボーン兄弟によるクリスチャン・ポップ・デュオ、フォー・キング&カントリーの5作目『What Are We Waiting For?』が7位に初登場、彼らに取って2作目のトップ10アルバムになってます(32,000ポイント、うち実売28,000枚)。

彼らは前々作の『Burn The Ships』(2018年、7位)からのシングルで、あの最近ロックの殿堂候補を蹴ったドリー・パートン御大とのデュエット曲「God Only Knows」で2020年第62回グラミー賞で、最優秀CCMパフォーマンス・ソング部門を受賞、アルバムも最優秀CCMアルバムを受賞するなど、ここ数年で大きくメインストリームにもブレイクしてきたCCMアーティストです。サウンドも21世紀のCCMだけあって、メインストリームなポップ・ロック系のエレクトロ・サウンドふんだんの若いリスナー層には間違いなく広く受けそうなポップなサウンドだけに、あのグラミー賞受賞が一つのブースターとなって今回久々のトップ10アルバムになったんでしょう。CCM専門誌からの評価もかなり高くなっているようです。

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さてトップ10は久々に今週にぎやかで4枚も初登場があった一方、今週の11位以下100位までの圏外には初登場はわずか2枚。一つは22位に初登場してきた、ニューヨーク州北部のバッファロー出身のラッパー、ベニー・ザ・ブッチャー(本名:ジャーメイン・デイモン・ペニック)の3作目のアルバム『Tana Talk 4』。アルバムは3枚しか出してないですが、活動は2000年代からもう20年くらいやっててミックステープは20本近くリリースしてる、今年37歳のかなりのベテラン・ラッパーですね。

多分このアルバムの最大の売りだろうと思われる、あの大物J.コールをフィーチャーした「Johnny P’s Caddy」とかを聴いてみると、そのJ.コールのスタイルにかなり近い、基本90年代ヒップホップを思わせるオールド・スクール・スタイルの、トラップとか一切なしの、リリックもしっかりラップしている、ある意味「真面目な」ラッパーみたいです。今回の22位は過去最高の成績ですが、前2作のアルバムもアルバムチャートトップ40には入ってるので、結構彼のこのスタイルを支持する固定ファンがしっかりいるんでしょうねえ。

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そしてもう1枚の初登場はぐっと下がって69位に初登場したのは、以前自分が21世紀を代表するR&Bシンガーの一人として、カリード、ギャラン、ギヴィオンらと並べて名前を挙げていたラッキー・デイのセカンド・アルバム『Candy Drip』。彼にとっての初のチャートイン・アルバムになります。

この人のアルバムはデビュー作の『Painted』(2019)もそうだったんですが、リリース当初は情報もほとんどなく、音源もストリーミングとYouTubeでしか聴けない(ま、ある意味今時代的といえばそうなのですが)ので、アルバムの詳しい内容とかがよく判りません。でもオンラインで聴くと、伝統的で正統派のグルーヴを脈々と感じさせる「God Body」とかディアンジェロとかプリンスとかの影響を受けたファルセットを交えたメロウ・ファンクの「Feels Like」とか、ぐっとくる楽曲が満載のようです。プロデューサー誰なんだろう。音源リリースしたらすぐ買わないと

ということで今週もトップ10のおさらい。一気にトップ10の4割が入れ替わってしまった今週ですが、やっぱチャートってこれくらい動きがないと面白くないですよね。実売2桁のアルバムもドレイクガンナくらいになってきて、なかなかチャート的にも健全になってきてます(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) 7220 - Lil Durk <120,500 pt/2,500枚>
*2 (-) (1) Impera - Ghost <70,000 pt/62,500枚>

3 (1) (16) Encanto ● - Soundtrack <64,000 pt/7,661枚*>
4 (3) (62) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <46,000 pt/1,787枚*>
*5 (-) (1) Who Cares? - Rex Orange County <35,000 pt/20,000枚>
6 (6) (57) The Highlights - The Weeknd <34,000 pt/1,055枚*>
*7 (-) (1) What Are We Waiting For? - for KING & COUNTRY <32,000 pt/28,000枚>
8 (5) (10) DS4Ever - Gunna <31,500 pt/45枚*>
9 (8) (28) Certified Lover Boy - Drake <31,000 pt/51枚*>
10 (9) (38) Planet Her - Doja Cat <30,000 pt/607枚*>

さて久々にトップ10初登場が多めだった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の1位予想。来週チャートの対象期間は3/18-24ですが、今回もなかなか強力なニューリリースは見当たらず、今世界中をシングル「abcdefu」で席巻しているテキサスの17歳の女の子、ゲイルのデビューEPとか、アレッシア・カーラの新譜あたりがトップ10内に初登場するか、というくらいです。一方リル・ダークは普通であれば来週半分近くポイントを減らしそうですが、この集計期間に1曲新曲を追加したデラックス・エディションを出すので、ポイント減を3割くらいに抑えて来週2週目の1位、というのがありそうなシナリオのような気がします。ということでまた来週。

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