見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #95- 2021/9/4付

猛暑が連日の雨になっていよいよ9月。今年もあと4ヶ月になりました。コロナがあろうがなかろうが時だけは同じように過ぎていきますが、この時間を有効活用できていますか?全然話は違いますが、アフガンに取り残されて国外脱出を待つ方々の状況そのものもかなり厳しいのですが、日本政府と外務省と防衛省の今回の愕然とするような対応の遅さと連携の悪さは何なんでしょうか。また在留邦人の方々を差し置いていち早く国外脱出した日本大使館の人達の行動も驚きです。韓国の大使館員は一旦カタールに退去したものの、在留者の国外脱出のためにまた戻って数百人規模の脱出を支援していたという話を聞くと、この国はいったいどうなってしまったんだろう、と思わずにはいられません。やはり次の国政選挙では現状を変えるための国民の行動が必須ですね。

さて気を取り直して今週もお送りする「全米アルバムチャート事情!」、連動のポッドキャストも先ほど配信しましたので、この記事と併せて上記のリンクからお楽しみ下さい。

画像1

今週は月が変わって9/4付のBillboard 200全米アルバム・チャートのご紹介。その1位ですが、先週の予想ではビリーロードトリッピー・レッドの三つ巴では、とお伝えしたのですが、大事な1位候補をすっかり忘れていました。ちょうど集計対象期間の初日8/20に多くのファンが待ちに待っていたヴァイナルLPがリリースされ、ヴァイナルLPだけで76,000枚を売り上げて、先週3位から3度目の1位返り咲き、通算5週目の1位をマークした、そう、オリヴィア・ロドリゴの『Sour』でした。ポイントとしても133,000ポイント、うち実売はヴァイナルLPの76,000枚を含む84,000枚という力強い数字を叩き出してます。

ちょうどテイラーの『Evermore』がアルバムリリースから6ヶ月後の今年6月にヴァイナルLPをリリースして、その間溜まったマグマで102,000枚を一気に売り上げて1位に返り咲いたのと全く同じ構図で、オリヴィアの『Sour』も今年5月リリースから3ヶ月後の今週までヴァイナルLPがリリースされなかったことによるマグマがぐーっと溜まっていたというわけで。自分もヴァイナルLP買ってたのに、この動きが読めんとは情けない限りです。今後オリジナルリリースとヴァイナルのリリースに期間が空いてるアルバムは要注意ですな。

画像2

そして2位に初登場してきたのは先週予想した三つ巴の一画、やっぱり強かったヒップホップ、というわけでトリッピー・レッドの4作目のアルバム『Trip At Knight』(81,000ポイント、うち実売5,000枚)が75,000というでっかいストリーミング・ポイント(オンデマンドストリーミング1.08億回相当)を積み上げてきました。キャリア最高のBB200の2位を記録した前作『Pegasus』のジャケでは自己耽美的にペガサスをバックにポーズを取ってた最近はブレイズを赤毛にしてるトリッピー、メディアの評判も良くなかったんですが、今回もチャートの成績とは裏腹にメディアの評価も今一つのようです。

サウンドの方はひたすらトラップのリズムを刻んで暗くラップする、というタイプではないのは相変わらずでメインストリーム・ポップのクロスオーバーも意識してるようなサウンド作りもあちこちに見られます。よく言えば聴きやすいトラップ、悪く言えばジュースWRLDXXXテンタシオンなど故人を動員したり、ポロGリル・ダーク、ドレイクなど売れてる連中を配したりとコマーシャリズム意識しすぎかな、という気もしないではないですね。でもティーンエイジャーには人気あるからこの順位なんですよね。

画像3

さて、オリヴィアのヴァイナルLPリリースの影響読み損ない同様、当然予測できたはずなのにし損なったのが今週トップ10にはもう3つほどあり、その1つが、4月に1位に初登場してその後下降していたロッド・ウェイヴの『SoulFly』のデラックス・バージョン・リリースによるチャート再上昇。これ、先週のポイントの3.5倍になる62,000ポイントを叩き出して今週一気に38位から3位にぐーんと再上昇してきました

このアルバム、シングルの「Tombstone」もアルバム1位の週に11位を付けてその後ずーっと下をうろうろしてたのが最近また再上昇してきている中で、今回9曲ボートラ追加のDXバージョンリリースなんで、アルバムがバウンスバックしてくるのは先週リリース予定見てて判ってたんですが、まさかこれほどとは。今回のポイントのうち61,000ポイントがストリーミングなんで、今回のDXバージョンはデジタルストリーミングオンリーなのかも知れず、そこにファンがわっと集まったんでしょうかね。追加トラックの中ではコダック・ブラックをフィーチャーした「Get Ready」がなかなか曲の造りがゴスペル・R&B・トラップって感じで聴かせる内容なのはなかなかの拾いものって感じがしました。

画像4

そして、先週予想していた三つ巴の一人、ロードの『Solar Power』は56,000ポイント(うち実売34,000枚)で5位に初登場してました。タイトルもソーラー・パワーってことで、今回ロードが環境への影響を勘案して、CDでの発売はなし、デジタルとストリーミングとヴァイナルLPのみのリリース、ってのは微妙にポイントの伸びに影響があったかもしれません。

そしてもう一つの今回のアルバムの話題は、そのジャケ。古いロックファンがパッと見ると1969年のフリーのアルバムの構図をパクってない?と思うかもしれませんが、それよりもそのジャケに写ってるロードの両脚の間が結構際どく見えるんですよねえ(笑)。ここでは日本他リリースの修正ジャケをアップしておきます。興味ある方はネットで(爆)。まあそういう話題盤ってこともあって今週UKでも初登場2位です。

まあそんな話題はいいとして、今回は前回グラミー賞の主要アルバム部門にノミネートされた『Melodrama』(2017)のシンセ・ポップ・ロックっぽい作風からはガラッと変わって、全体かなりレイドバックした感じで、かなりダルな感じのロードのボーカルとドリーミーな感じの楽曲も多いんですよね。ロード自身も今回の作品を「ウィード(マリファナでもやりながら聴く、という意味か)アルバム」と呼んでるし、「Stoned At The Nail Salon」(ネール・サロンでトリップしてまーす)なんて曲もあるから、その辺明らかに狙ってるんでしょう。全体聴いてて気持ちはいいし、悪くないんですが、何度も取り出して聴くか、というとうーん、という感じかもしれませんね。耳に残るビートとかメロディはやっぱ必要かも。

画像5

先週予想の三つ巴の本命、ビリーは今週一気に6位にダウン。そしてこれもデラックス・リイシューの影響を読み切れなかったやつ、2つめですが、8位に再エントリーしてきたのがKポップの5人組、トゥモロー・バイ・トゥギャザー(TXT)の『The Chaos Chapter: Freeze』。今年の6月に5位に初登場していたアルバムのリパッケージ・リイシューですが、こちらはタイトルまで『The Chaos Chapter: Fight or Escape』って変わっちゃってる上に、もともと8曲収録だったところに11曲追加のデラックス・リイシューって、そりゃあんたこれ別もんなんじゃ?

いずれにしてもBTSと同じ事務所ってこともあり、ここでもKポップ勢のマーケティング力がいかんなく発揮されてる感じではあるんですが、このデラックス・リイシュー、リリースは8/17で今回の集計対象期間前なんですよね。それが何で今週に先週比6.7倍もポイントが跳ね上がって47,000ポイントに繋がってるんだろう。うーん謎だ。

画像6

それでもってこれは自分をドツいてやりたい、チャート影響読み損ないの最後のやつアリーヤの1996年のセカンド・アルバム『One In A Million』のリイシューによる10位への再エントリー!このリイシューについては、8/25のアリーヤの20周忌に合わせて、気持ちを込めて書いた下記の記事でも思いっきり説明してたのに、明らかにトップ10くらいには入ってくるのは読めていたのに予想から漏らしてしまってました。あかんやん!

アリーヤの20周忌のこと、今回の『One In A Million』とそれに続くアリーヤ作品の今後のリイシューのことについては上記の記事に詳しく書いてますのでそちらを見て頂きたいのですが、前回のチャートランでは18位が最高位だったので、今回晴れて20周忌に合わせてトップ10入り、ということでいちアリーヤファンとしては素直に嬉しいところ。でも、これ以上の傑作アルバムのサード・アルバムで、彼女の遺作になる『Aaliyah』(2001)も9/10にはリイシューになるので、これもどーんと上位に再登場(ひょっとして20年ぶりの1位返り咲きもあるか?)が期待できます。改めてアリーヤの冥福を祈ります。

画像7

さて賑やかだったトップ10は以上。続いて11位以下100位までの初登場アルバムのご紹介です。今週も圏外の方が静かで初登場はわずか2枚。そのうち23位に初登場してきたのは、先週予想でトップ10入りもありか、と言っていたスタージル・シンプソンの『The Ballad Of Dood & Juanita』。スタージルのことを自分が知ったのは、2016年のアルバム『A Sailor’s Guide To Earth』がメディアで取り上げられて彼の名前が全米で一気に知られるようになった時で、そのアメリカーナ(というか今思えばカントリーやブルーグラス)とR&Bとインディ・ロックが渾然一体となった作風(ニルヴァーナのカバーをアメリカーナ風にやったり、とか)がとても新鮮で自分のDJでもかけ、回りにも勧めまくったりして、当時かなり気に入って聴いてました。これにエレクトロが入れば、当時大のお気に入りだったフォスフォレッセントことマシュー・ホウクだなー、と思いながらこうした南部にルーツを持つシンガーソングライターの21世紀ロック的アプローチに興味をそそられていた頃。

画像8

ただその後スタージルの作風がいろんな方向に行ったり来たりして個人的にはちょっと当惑してました。次作の『Sound & Fury』(2019) はメディアの評価は高かったけど前作と全く趣を異にするハード&ヘヴィ・ロック・アルバムなのにビックリ。更に続く『Cuttin’ Grass』シリーズの2作はいずれも自分の過去作品のブルーグラス・カバー、というこれもまた全く異なるアプローチでビックリ、という流れの中で出たのが今回のアルバム。

これがまた『Cuttin’ Grass』の流れを引き継ぐような、カントリーとブルーグラスとマウンテン・ミュージックのスタイルで、まるで南北戦争時代の作品のようで、うーんやっぱりスタージルってこういうのがルーツだったんだなあ、といい意味でもそうでない意味でも再認識しているところです。しかも彼「スタージル・シンプソン名義の作品はこれが最後」と言ってるらしく、この後は気が向けばバンドで音楽作るかも、ということも言ってるとか。あるいは彼はマーティン・スコセージ監督が主演のレオナルド・ディカプリオと現在制作中の、1920年代アメリカ原住民のオセイジ族虐殺事件の真相を追った映画『Killers Of The Flower Moon』への出演が決まったと言うことで、今後はそっちの方向に行くのかも。このアルバム聴きながら、スタージルよ、どこへ行く?と呟いてしまいました。

画像9

今週もう一枚の圏外初登場は、ぐーっと下がってギリギリの99位初登場、ウィスコンシン州ミルウォーキー(ビールの街ですねw)出身のコンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)のシンガーソングライター、ダニー・ゴーキーの8作目のアルバム、その名も『Jesus People』でした。彼はもともと家族で教会で歌ってたんですが、メインストリームのシンガーになりたい、ということで2008年第8シーズンの『アメリカン・アイドル』に出場(決勝でクリス・アレンアダム・ランバートが激突した年です)して惜しくも最終第3位だった人。しかもその出場一ヶ月前に心臓手術の失敗で彼のアメ・アド出場を応援していた奥さんを亡くすという感動のバックグランドの出場者だったので、当時アメ・アドを見てた方はご記憶の方もいるかも。

その時の3位の成績で、RCAナッシュヴィルと契約して、カントリーシンガーとしてデビュー、アルバム『My Best Days』(2010)はBB200で4位を記録する大ヒットだったんですが、多分「何か違う」と思ったのか、アルバム1枚でRCAを離れ、それ以降は家業を継いで(?)セカンド以降はずっとCCMの世界でアルバムをリリースし続けているようです。アメ・アドのファイナリストになったくらいなんで歌は巧いし、CCMっぽい歌い上げ系のメインストリーム・ポップのサウンドも聴きやすいのですが、今回は99位と過去チャートインした5枚中最低の成績になっているのは、CCMの世界もなかなか差別化が難しいからでしょうか。

ということで以上今週9/4付のBB200チャートのご紹介でした。ここでいつものようにトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (3) (14) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
*2 (-) (1) Trip At Knight - Trippie Redd
*3 (38) (22) SoulFly - Rod Wave
4 (2) (9) Planet Her - Doja Cat
*5 (-) (1) Solar Power - Lorde
6 (1) (4) Happier Than Ever - Billie Eilish
7 (4) (57) F*ck Love ● - The Kid LAROI
*8 (RE) (10) The Chaos Chapter: Freeze - Tomorrow x Together
9 (5) (33) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
*10 (RE) (68) One In A Million ▲2 - Aaliyah

今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。今週はいろいろとデラックス・バージョンのリリースとか、リイシューの影響が読み切れず、予想しきれなかった動きが多くて、まあ面白いといえば面白い週だったのでは。さて最後に恒例の来週1位予想(対象集計期間:8/27-9/2)ですが、これはもう間違いなくカニエですわねえ。詳しくは来週書きますが、これまで出るぞ出るぞと言いながらリリースを引っ張る間に「オンライン・リスニング・イベント」なるものを3回もやって死ぬほどストリーミングを稼いだ上に、やっとリリースされた(8/29リリースなので集計期間の途中ですが)直後記録的なストリーミング数を集めたそうなんで。同じ週にはホールジージャックボーイトラヴィス・スコットのレーベル・コンピ)の2枚目、リル・テッカの新譜、ワンリパブリックの5年ぶりの新譜など、普通の週なら充分1位狙える強力盤のリリースも多いんですが、来週はまあドンダ、ぶっちぎりでしょう。ではまた来週。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?