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今週の全米アルバムチャート事情 #126- 2022/4/9付

今週月曜日のグラミー、大方予想されていたオリヴィアのビッグ・ナイトにはならなかったけど(順当に新人賞のみ確保)、シルク・ソニックのROY、SOY受賞はやはり良質のR&Bがアメリカの音楽業界やミュージシャン・ソングライター達(=グラミー・アカデミー会員)の間でしっかりとした根強い人気を持っていることを図らずも証明してたと思う。かといってオリヴィアが評価されてなかったとも思わず、結構オリヴィアとの票差は際どかったんじゃないかな、とにらんでます。そしてジョン・バティーストの最優秀アルバム受賞。受賞が決まった瞬間に横に座っていたビリー・アイリッシュが本当に嬉しそうに飛び上がって喜んで、ジョンに抱きついていたのがすごく印象的だったな。ジャズもR&Bもクラシックもこなし、ありとあらゆる楽器を操って、あのアルバムの世界観を作り出す彼に対して、ミュージシャン達からの評価が特に高かったんじゃないか、そんな風に思っています。そんなことも交えながら今年は予想の答え合わせも含めて、グラミー振り返りのブログを今月中に書いてみようかと思ってますので、よろしく。

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さて今週の全米アルバムチャート、4月9日付のBillboard 200の1位は先週の予想通り、マシン・ガン・ケリーの6作目『Mainstream Sellout』が93,000ポイント(うち実売42,000枚で今週のセールス・チャートでも1位)で初登場で決めてます。ラップ・ヒップホップからポップ・パンク路線に大きく舵を切った前作同様、今回もブリンク182トラヴィス・バーカー(今週のグラミーでもHERレニー・クラヴィッツの後でドラムス叩いてましたね)のプロデュースで、MGKのポップ・パンク路線第2弾になったこのアルバム、ニヤリとするような皮肉なタイトルはまあ置いといて、前作ほど評判はよろしくないようですが余裕の1位(2位のリル・ダークと3万ポイント差)をマークしました。全英アルバムチャートでも今週初登場2位と人気は持続してます。

今回もウィロウ(そう、あのウィル・スミスの娘ですね)をフィーチャーした「Emo Girl」とか、この間のMGKのポップ・パンク・ブレイクヒット「My Ex’s Best Friend」(2020年最高位20位)でも組んでたブラックベアをフィーチャーした「Make Up Sex」などなどキャッチーな曲が並んでますが、まあ確かに2匹目のドジョウ狙いの雰囲気がなくもないかなあ、という気はしますね。まあ、リル・ウェインをフィーチャーした「Ay!」とか、ヤング・サグガンナをフィーチャーした「Die In California」といった、ポスティっぽいトラップ・ポップ曲も何曲か入っててバランスを取ろうとしている感じもするので、また次作あたりでは方向性を変えるつもりかもしれませんね。ちなみにロック・アルバムといえる作品の1位は2020年11月のAC/DCPower Up』以来の1年以上ぶりでした。

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今週トップ10初登場のもう1枚は、8位に初登場してきた、あら懐かしやダディ・ヤンキーの7作目『Legendaddy』(29,000ポイント、実売2,000枚)。このアルバム、10年ぶりの新作であるだけじゃなくて、実に2007年の『El Cartel: The Big Boss』(9位)以来、ダディ・ヤンキーに取って15年ぶりの全米トップ10アルバムというダディ・ヤンキーにとってはホントに久々のヒットになってます。ただ実はダディ・ヤンキーは今年の後半に予定されているこのアルバムのサポートツアー終了後、今年いっぱいで引退を表明してますので、このアルバムが最後のアルバムということになります。まあ最後にキャリア最大のヒット作を決めたということで有終の美を飾ったことになりますな。

ダディ・ヤンキーといえば、2000年代初頭に「Gasolina」(2004年32位)や「Rompe」(2005年24位)などのヒットでレガトンをメインストリームにクロスオーバーさせた先駆者ですし、何といってもあの「Despacito」(2017年16週1位)の記録的なヒットで、今正に人気絶頂のJバルヴィンらのブレイクに至る、今のラテンメインストリーム化に大いに貢献したアーティストですよね。まだ45歳の若さなので引退はかなり早いように思うのですが、おそらくこれからも若手のレガトン・シンガー達の発掘とブレイクに手を貸す側に回るのかな、という気がします。今回は作品としても過去の栄光に甘んじずに前向きのサウンドを追求しているのがいい、とメディアからは高い評価を受けてるみたい。若手のレガトンのエース、ラウヴ・アレハンドロと、何とナイル・ロジャースと組んでる「Agua」なんて、ナイルのカッティング・ギターも鋭いR&Bディスコ調のトラックにレガトンのノリがスムーズに乗ってるなかなか意欲的な楽曲だったりしますが、これでまたラテンの世界でも一つ世代交代が進むんですかね。

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さて今週初登場ではないですが、トップ10内の動きでもう一つ。月曜のグラミーでは惜しくも最優秀アルバムを逃したオリヴィア・ロドリゴの『Sour』ですが、グラミーの影響ではなく、対象期間の初日(3/25)にディズニー・プラスで公開された、彼女のドキュメンタリー映画『Driving Home 2 U (A Sour Film)』の影響でポイント伸ばして今週トップ10に返り咲いています(34,000ポイント)。来週のチャートではグラミー新人賞受賞や授賞式パフォーマンスの影響で更に伸ばして順位を上げる可能性ありますね。ただ1位復帰はポイント更に倍にしない限りは無理でしょうね。

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以上トップ10ですが、今週は久々に圏外11位〜100位までが超にぎやかで、何と9枚初登場してます。長くなっちゃいますので、駆け足で行きましょう。まず12位初登場は、UKアルバムチャートでマシンガン・ケリーの1位を阻んで初登場1位を決めている、マイケル・ブブレの通算11作目『Higher』。前作の『Love』(2018年2位)まで7作連続トップ10(うち2007年『Call Me Irresponsible』から2013年『To Be Loved』までは4作連続ナンバーワン)でしたから、19年ぶりにトップ10逃したことになります。

今回はワン・リパブリックライアン・テダーと共作のタイトルナンバーやジョン・メイヤーらとの共作「Baby I’ll Wait」などのオリジナル4曲の他は新旧のカバー大会。中でもディランの「Make You Feel My Love」や作者のウィリー・ネルソンと共演の「Crazy」、サム・クックの「Bring It On Home To Me」などいずれも「さすがブブレ」と思わせる安定のカバーが満載で充実した作品になっているようです。

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続く13位には何と日本人アーティストの登場!テリヤキ・ボーイズのDJとして活動する一方、ファッション・デザイナーとしても活躍してきていて、昨年ケンゾーのアーティスティック・ディレクターに任命された、ニゴ(本名:長尾智明)の『I Know NIGO』が初登場してるんです!しかも、ネプチューンズとかカニエとかタイラー・ザ・クリエイター、ASAPロッキーといった新旧のヒップホップの大スター達と共作、共同プロデュースして、彼らは客演もしてくれてるという豪華さ。何なのそれ?!って感じなんですが、収録されてる楽曲をいくつか聴いてみると、ニゴ自身が彼らとラップしてるのではなく、どうもこうしたアーティスト達がパフォームするヒップホップのコンピ・アルバムをプロデュースしてる、90年代のファンクマスター・フレックスみたいな役割でやってるようです。

とはいえ、これだけのメンツ(上記以外に故ポップ・スモークリル・ウジ・ヴァート、キッド・カディなど蒼々たるメンバー)を集めてきて、ファレル・ウィリアムスとガッツリアルバムを作ってるというのは並の人脈ではできないでしょうから、そういう意味では画期的な作品だし、その首謀者が日本人というのは違う意味で歴史的な偉業なんでしょうね。あーびっくりした。

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そのちょっと下、15位にはシングル「Big Energy」が今週とうとうHot 100でトップ10入りを果たして3位に急上昇中の、アトランタ出身の女性ラッパー、ラット(本名:アリッサ・ミシェル・スティーヴンス)のデビューアルバム『777』が初登場。「Big Energy」はトム・トム・クラブの「Genius Of Love」という大ネタ使いなのと、ドジャマライア(そういえばマライアも同じ曲使った「Fantasy」があったね)が出て来そうなR&Bメインストリーム感が超キャッチーで、ちょっとズルい感半端ないわけですが、アルバムの方はリル・ダーク、リル・ウェイン、チャイルディッシュ・ガンビーノ、コダック・ブラックらこちらも豪華ゲスト陣を並べてここぞとばかりに売りにかかってます(笑)。

全体はかなりポップR&B寄りのトラップ・ポップ的な楽曲が多いのでまあ売れて当然という感じですね。個人的にはリル・ウェインチャイルディッシュ・ガンビーノを配した「Sunshine」がチル・トラップ・ポップ風で気に入りました。

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さあドンドン行きます。16位には、ヒューストン出身のベトナム系アメリカ人のR&Bシンガー、ケシ(本名:ケイシー・ルオング)のデビュー・アルバム『Gabriel』が初登場。どう見てもアジア人の男の子なんですが、ジョージライといったブルー・アイド・ソウルシンガーの流れを汲むファルセット・ボイスが結構クセになります。

もともと地元ヒューストンで看護士の仕事をしてたんですが、サウンドクラウドで発表する作品がバズったのをきっかけに、2017年にNYに飛んでアイランド・レコードと契約、今回のデビュー・アルバム・リリースに至ったみたいです。いきなりそれでトップ20ですからいやいや今時のパターン、凄いですね。ちなみに影響を受けたアーティストにジョン・メイヤー、フランク・オーシャン、The 1975、ドレイクらを上げてるあたりもオッド・フューチャーっぽい彼の作風を聴けばうなずけるところ。しばらく要注目かもしれません。

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惜しくもトップ20を逃して21位に初登場してきたのは、今週のグラミーで、最優秀カントリー・ソング部門に今の時代を良くしていこう、というメッセージの「Better Than We Found It」がノミネートされてたけど、クリス・ステイプルトンに取られてしまった、マレン・モリスの新作『Humble Quest』。彼女も前2作はトップ5だったので、今回大きく順位を落としています。

今回は前作『Girl』で3曲一緒にやってた、アデルで有名なグレッグ・カースティンを全面的にプロデューサーに起用したこのアルバム、ジュリア・マイケルズや旦那のライアン・ハードとの共作による「Circles Around This Town」が先行シングルで現在Hot 100上昇中。全体を構成する楽曲群もなかなかソリッドな感じだし、タイトルの「謙虚さを探し求める」というのも今の時代に合ったメッセージなんですが、成績が今一つなのが残念ですね。この人は楽曲のセンスいいと思うし、今回も全曲自身で共作している意欲作なんですがねえ。

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グッと下がって49位初登場は、LA出身のオルタナ・ロック・バンド3人組、ワロウズの2作目『Tell Me That It’s Over』。先週トップ10に入ってたUKのレックス・オレンジ・カウンティを思わせるような、ドリーミーで宅録っぽいローファイな雰囲気とエッジの効いたサウンドが時々入るたサウンドが、なるほど今時の若い子達には受けそうだなあ、という感じですね。

2017年に最初のシングルがスポティファイのヴァイラルチャートで2位になったのがブレイクのきっかけで、地元のロキシートルバドゥールといった歴史のあるライブハウスで完売のライブやったりして着実に人気を積み上げて、2018年にメジャーのアトランティックと契約。ファーストの『Nothing Happens』(2019)がいきなりBB200の75位にチャートインし、今回がそれを更に上げてきたという感じですね。小さめのハコで見たらみんなノリノリで楽しいライブが楽しめそうな、そんなバンドです。

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50位はまたも来ましたKポップ、それもNCT軍団のサブ・ユニットになる7人組ボーイズ・グループのNCTドリームの初の全米チャートイン・アルバム『Glitch Mode』が初登場。もともとNCTドリームはティーンエイジャーのグループだったらしいですが最近その年齢制限を撤廃したみたいです(笑)。何かようわかりませんが。

サウンドはKポップのご多分にもれず歌って踊れるポップ・ヒップホップ系のサウンドですが、ワイルドな感じよりもキュートでポップな感じが売りみたいな感じですね、タイトルナンバーとか聴く限りでは。先週のストレイ・キッズの躍進といい、Kポップ、相変わらず元気です

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さあ急ぎます。続く51位初登場は、マイアミ出身のバハマ系アメリカ人ラッパーのデンゼル・カリーの5作目『Melt My Eyez See Your Future』。デンゼル・カリーの名前はしばらく前から音楽メディアで評判いいので見て知ってたので、このアルバム聴いてみたんですが、いやこれヤバいですよ。

まず今時ティーンエイジャー向けのトラップじゃない。もっと知的で、マチュアなラップ・アルバム。トラップのチキチキなんて時々味付けに使ってるくらいで、どちらかというとグルーヴは90年代のウータンあたりに近いです。でもあんなにダークな音像ではなく、明暗がニュートラルな感じ。その中でデンゼルのフローが無茶苦茶立ってる感じ。もう一つ、冒頭の「Melt Session #1」であのロバート・グラスパーがプロデュースして客演してたり、「The Smell Of Death」ではあのサンダーキャットがやはり客演・プロデュース・共作して、今のブラック・ジャズ・アーティスト達と何の違和感なくハイブリッドな音像を作り上げてるのが気持ちいいし、凄いと思いますね。ヒップホップファン必聴だと思います。

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そして今週最後の初登場は77位に入ってきた、カントリーの大御所、リバ・マッキンタイアのゴスペル・ライブ・アルバム『My Chains Are Gone: Hymns & Gospel Favorites』。彼女は2017年に2枚組の1枚にゴスペル・ソングを収録したアルバム『Sing It Now: Songs Of Faith & Hope』(最高位4位)をリリースしたことあるけど、全編ゴスペル曲(含む自分の曲でゴスペルテーマの曲)のアルバムは多分今回初めて。

ナッシュヴィルのカントリーの殿堂、ライマン音楽堂(僕はここでベックのライブ見ましたw)でのゴスペルライブの様子を収録したこのアルバム、DVDも同時発売されるようで、カントリー好きの信心深い人がみんな買うんだろうなあ。

今週の初登場は以上。ここでいつものようにトップ10おさらいです。今週トップ10に返り咲いたオリヴィアはトリプル・プラチナになって帰ってきました(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Mainstream Sellout - Machine Gun Kelly <93,000 pt/42,000枚>
2 (2) (3) 7220 - Lil Durk <63,000 pt/194枚*>
3 (3) (18) Encanto ▲ - Soundtrack <58,000 pt/9,112枚*>
4 (4) (64) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <45,000 pt/1,316枚*>
*5 (11) (45) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <34,000 pt/6,536枚*>
6 (6) (59) The Highlights - The Weeknd <33,000 pt/866枚*>
7 (8) (30) Certified Lover Boy - Drake <31,000 pt/64枚*>
*8 (-) (1) Legendaddy - Daddy Yankee <29,000 pt/2,000枚>
9 (10) (40) Planet Her - Doja Cat <29,000 pt/482枚*>
10 (9) (12) DS4Ever - Gunna <29,000- pt/162枚*>

ということで今週の「DJ Boonzzyの全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。さて最後は恒例の来週1位予想。来週の対象期間は4/1-7ですが、今週のグラミーの関係でシルク・ソニックジョン・バティーストがトップ10に来るか?という中、1位を狙えるのはレッチリ、カントリーのトーマス・レットの新譜、そしてマイリーのライブあたりが可能性あり。8万ポイント叩き出せればチャンスがあると思うので、このあたりが来週は来そうですね。ではまた来週。

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