日産キックス、乗ってみてわかる素直な気持ちよさ

「今から注文すると、納車は来年の3月です。」
タイから遠路運ばれてくるせいもあるのだろうが、どうやら発売以来かなり好評のようで、既に相当の納車待ちが発生しているらしい。
早い人でも9月の納車だそうだ。いま街で見かけるキックスは全てディーラーの試乗車だと思われる。どれもオレンジ色だし。

世界デビューを果たしてから既に4年が経っている。見た目は日本投入に合わせて多少表情を造り直してキラキラさせたものの、基本の形は角張った背の高いハッチバックで、最近流行りのクーペスタイルとも違ってガラス面積が広めに取られており、むしろ真面目で実直に見える。
室内もツートンカラーで頑張ってはいるものの黒いハードプラが目立ち、オレンジの差し色くらいでは隠しきれない地味さがある。

運転してみると、やはりe-POWERの味付けは上手だなあと思う。ノートより重くなっているにもかかわらず、出足は軽やかかつ上品で、加速減速の自由自在な感じは既に記憶にある電気自動車のそれである。加速していくときの伸びやかで滑らかなパワーの出し方はさすがだし、特にワンペダルで運転しているときの、いつ車が停まったか悟らせないほどの静かな停車マナーのしつけは見事。
ペダルとモーターが直結しているかのような(ノートではやや過剰ともいえた)ダイレクト感は少し穏やかな方向に修正され、運転手以外の乗員にとってより優しい乗り味になった。

いくつかのレポートで指摘されているように、遮音を頑張った結果、室内への音の侵入はかなり防がれており、エンジン音は相当に目立たなくなった。上り坂で加速するなどある程度の負荷を掛けたときにブーンと聞こえてくる程度で、路面からくるタイヤノイズと大きさは同じくらい。街中では、いつエンジンがかかったのか、ほとんどわからない。

乗り心地は、靴底の厚みを思わせる安心感があり、それでいて、靴そのものの重さに負けない脚力を持っている。タイヤが自身の重さに負けてバタバタと震えたり、ガツッとした鋭い突き上げを丸めきれず車体に伝えてくるような振る舞いは特になかった。
また、うねりを乗り越えるときにフワッと車体全体が浮遊するような動きも少しあった。ふわふわ揺れ続けるのではなく一発で収まるこの感覚は、あまり他のクルマでは記憶にない。個人的には、気持ち良い動きに感じられた。

ノートから進化した点として、ハンドルにテレスコピック機構が装備され、ドライビングポジションもより無理のないものとなった。シートも、腰椎をしっかり支えてくれる。
リアシートは、ノートより前後の空間は狭いものの、まあ普通に座れるだけの広さはある。ラゲッジルームも特にギミック的な仕掛けはないが、空間としては奥行き、深さともに充分なスペースが確保されている。

一点だけ、看過しがたい問題点を挙げておく。リアシートに座ったときに、フロントシートのシートレールのうち車体外側のレールが露出し飛び出していて、つま先がレールの下に入ってしまい、引っかかってしまう。仮に出っ張らせるとしても、普通は台座ごと伸ばすものだと思うが、台座よりも後方までレールだけが伸びて露出しているのは危険ではないか。これは改めるべきだと思う。

燃費よりも、走らせたときの気持ちよさを重視するe-POWERのアプローチは、僕は好きだし、依然として支持したい。
いま乗っているステップワゴンHVのi-MMDも、強力なモーター駆動を基本とする電気自動車に近いフィーリングのHV車だけど、日産のe-POWERと比べてしまうと、CVTっぽい間延び感がかなり残っていることがわかる。
一方、トヨタはヤリスHVで驚きの低燃費と加速感の気持ちよさを打ち出してきた。そして今秋にはヤリスクロスという売れること間違いなしの本命が登場すると既に予告されている。しかしヤリスHVのブレーキの感触は相変わらず扱いづらく、自然に滑らかに停めるのが難しい。盤石のはずのトヨタも、ところどころで画竜点睛を欠いている。

e-POWERの美点は、何をおいても加速・減速の素直さと純度の高さ、これに尽きる。ノートでも未だにその美点は充分に楽しめるが、キックスは、日産が限られたリソースの中で使えるものは使い回し、目に見える部分のコスト削減も甘受しながら、それでも時間をかけて準備したのだろうと思わせるだけの洗練を乗り心地や使い心地の面において見せており、いちど試しに乗ってみる値打ちは充分にあると思う。
というわけで、気になっている人は、試乗してみることをオススメする。


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