letter from books selva05

 5月は総じてヒマだった。ああ、ヒマだ、ヒマだ。ヒマ過ぎて嫌になるが、どうしようもない。こんな時は、スチャダラパーの名曲「ヒマの過ごし方」を大音量で聴くしかない。なんど聴いてもいい曲だ。
 店でヒマな時にすることといえば、読書。読む本はたくさんある(あり過ぎて困るくらいだ)。最近読んだ本が目の前に並んでいる。列挙してみよう。『思想としてのアナキズム』(森元斎編)、『DJヒロヒト』(高橋源一郎)、『パンクの系譜学』(川上幸之介)、『吹きさらう風』(セルバ・アルマダ)、『塵に訊け』(ジョン・ファンテ)、『生きていること』(ティム・インゴルド)、『恐るべき緑』(ベンハミン・ラバトゥッツ)──。一生棒に振りたくはないが、ヒマなので割とよく読んだ。今、読んでいるのは『万物の黎明』(デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ)と『過去を売る男』(ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ)の2冊。「人類史を根本からくつがえす」との帯が付された『万物の黎明』。これは読まないわけにはいかない、と思ってから半年。ようやく読み始めた。まだ60ページほどだが、たしかにおもしろい。何がおもしろいかって。たとえば……

実際、多くの影響力ある啓蒙思想家たちが、みずからの思想の一部がアメリカ先住民に直接に由来するものであると主張していた。

『万物の黎明』グレーバー&ウェングロウ pp.35-36

主要な啓蒙思想家の多くが、個人的自由と政治的平等の理想はネイティブ・アメリカンの情報源や実例に触発されたと主張した。これには根拠があると提起したい。なぜならそれが真実だったからである。

『万物の黎明』グレーバー&ウェングロウ p.44

 17世紀のフランスの貴族、ラオンタンが著した本には、フランスを訪れたネイティブ・アメリカンの反応が書かれている。

「……わたしたちの都会にみられる欠点や障害を、お金が原因であるといって、いつもからかっていた。(…略…)われわれの身分の区別をみてとっては、それを笑う。かれらはわれわれに奴隷の烙印を押し、生きる価値のない哀れな魂と呼ぶ。(…略…)」

『万物の黎明』グレーバー&ウェングロウ p.60

 ううむ。まさに今の社会を批判しているような言葉ではないか。自由・平等は西洋の考えだと思っていたが、どうもそうではないようだ。いやはや、おもしろい。この本は2段組で593ページ(謝辞、あとがきは除く)。それで、5000円(税抜)! これはお買い得ではないだろうか、みなさん! 長く楽しめる本として、みなさんの本棚に加えてほしい1冊だ。
 グレーバーといえば、人類学者でアナキスト。アナキズムは「無政府主義」と訳されるが、それは一面的な定義なように思う。わたしが考えるアナキズムは人間の可能性を最大限信頼する考え方だ。それは、政府(軍隊や警察権力など強制力を持った組織)がなければ、秩序を保つことができないという人間観ではなく、他者を尊重し、慈しみ、思いやる人間観にもとづいて社会を考えるということだ。そして、現在の社会を変える創造力・想像力を持つということだ。 

想像力は、ものごとには別のやり方があるという可能性の存在を示唆する。それゆえ、人は、現実に存在する世界を想像力を働かせながら見るとき、必然的に現実世界を批判的に見ているのである。想像した社会を現実のものにしようとするとき、人は革命に従事しているのである。

『価値論』グレーバー pp.146-147

 鹿児島県知事選(6月20日告示、7月7日投開票)が迫ってきた。選挙は、わたしたちがどういう社会が望ましいと考えているのかを示すことができる良い機会だ。これを執筆中の5月末現在、立候補を表明しているのは、現職の塩田康一氏、元県議の米丸麻希子氏、元看護師の樋之口里花氏の3人。県民投票条例(常設型)制定を掲げているのは樋之口氏だけだ。マスコミでは、新体育館建設問題がクローズアップされる。それも大事なのだろうが、もっと大事なことは、自民支持者だけでなく、その他の支持者らの声を広く聴く仕組みを制度として確立することだと思っている。1年前、川内原発20年運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求め、法定数の倍近い5万筆が集まった。しかし、多数派を占める自民県議らの反対で条例案は否決。結局、県民が意思を示す機会はなかった。これを見ても明らかなように、県議会で圧倒的多数を占める自民の政策に反するような課題で県民投票を実施するのはほぼ不可能だ。
 県民投票条例(常設型)は、一定数の署名を集めれば県議会を経ずに県民投票を実施するというのがミソだ。県民投票を実施するということは、県がその問題に対する賛否両方の情報を広く県民に提供するということでもある。それによって、県民の理解も深まる。思い通りにならなかったとしても、納得感はあるはずだ。そんなわけで、今回の選挙は特に重要だ。新たな鹿児島をつくり出したい。

 そういえば、最近、うれしいことがあった。会計時に、封筒から大事そうにお金を取り出すお客さんがいたのだ。店にある本を買うためにお金を残してくれていたように感じ、じんわりと胸が温かくなった。旅立った本はこの後、どんな環境で読まれるのだろう。本もたいそう喜んでいるだろう。(もちろん、財布からお札を取り出そうがカードで購入しようが、買ってくれればわたしはうれしいし、本も喜んでいるのは言うまでもない。)

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