「帰りの会」

 小学生1年生の時、帰りの会の中のとあるシステムに怯えていた。その日の間にあった事(嬉しかった事、嫌だった事)を児童報告するシステムで、当時は当たり前のことだと思っていたが、ふと思い出すと面白いシステムだったなと思う。
 嬉しかった事の場合は平和だが問題は嫌だった事を報告する場合である。

 嫌だった事の場合の流れとしては、
A 「今日、〇〇君が廊下でぶつかっ
   てきました。」
司会「皆さんどう思いますか?」
B 「〇〇君は謝るべきだと思いま
   す。」
B 「(納得いかない表情をしなが
   ら)ごめんなさい。」
といった感じである。Aが発言し、その内容について他の人が意見を述べて、「謝るべき」と言う結論に従ってBは謝罪を強制される。Aが被害者として訴えた時点で、Aに同情する流れが出来てしまい、Bは何も言えなくなる。帰りの会で議題に出された時点で終わりなのだ。このシステムは、仲直りに繋がる本来の形で機能すれば問題ないが、嘘の訴えがされる場合もあるはずだ。
 当時の僕は帰りの会で言われて冤罪で謝罪する事だけはなんとしてでも避けなければならないと怯えていた。
 そんなに怯え無くても良くね?と今では思うが、当時僕を悩ませていた二つの要素がある。一つ目が、「通報マニア」だ。その名の通り、帰りの会で人を訴え、謝罪させることに幸福を感じる人達の事だ。中には本当に悩んでいた人もいたかもしれないが、僕からしてみれば、毎日、訴えているのは、帰りの会で多くの児童の前で謝罪させる事を楽しんでいるようにしか見えなかった。これに関しては、防御策として、常に「ごめん」と言いながら接する事で封じることができた。
 二つ目は最凶ワード「帰りの会で言うけん」だ。文字通り、何か起こるたびに言う事で相手を怯ませることができる呪文だ。これは先に言った方が被害者としての立場を確立できるため、言ったモン勝ちであった。
 通報マニアの悪用によって、このワードも当初は猛威を奮っていたが、新たな流れで効力を失った。
A「帰りの会で言うけん!」
B「ごめんね」
A「クッ(下唇噛み締め)」
B「は?じゃあ帰りの会で言うけんて言
 われたけんその場で仲直りしようと 
 したのに許してくれんかったって帰り
 の会で言うけん!」
通報マニアの通報したさを逆手に取ったカウンター技の登場だ。
 そんな帰りの会ウォーズをくぐり抜け、僕は一度も訴えられる事がないまま、二年生になった。このまま僕は無敗記録を貫くんだ!そう思っていた。
 僕の無敗記録を破るったのはそれ相応の相応しい人物、通報マニアの女子だった。運悪く隣の席だったため、その日も警戒しながら過ごしていたが、僕は穏やかに、且つ感情の機微を察知し、常に「ごめん」を言いながら過ごしていた。このマニアは今日は誰をターゲットにするんだ?そう思っていると、なんとつるし上げられたのは僕であった。
「しんとう君が私の名前で歌を作って遊んで来ました。嫌だったです。」
正直、心当たりがなかった。記憶を探って浮かんで来たのは、帰りの会の途中に歌った歌だ。「see you」という歌で、歌い終わった直後、僕は彼女に向かって「○○ちゃん、see you 」と話しかけていたのだ。歌作ってないし、遊んでないし、勘違いだし、君はそうやって謝られるのを楽しんでるだけだろとか色々考えたが、彼女の「名前で歌を作って遊んで来た」という証言によって僕が100悪い認定され、僕は謝らされた。その後、先生が仲直りの握手をするように促してきたため、握手をした。相手はニコニコしていた。
僕はコイツのお遊びに使われた。その時、そう確信した。こうして、僕の無敗記録はあっけなく終わったのである。


もしかしたら、彼女はわざと通報したのでは無く、本当に傷ついていたかもしれないし、僕が思うようにわざと通報したのかもしれない。どちらにせよその時、言うべきことを言わなければ、モヤモヤしてしまう。思った事は言うようにしようと、ふと考えたので記事に書いて見ました。

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