あれは空がまだ青い夏のこと


私ははば学に入学できても、まどかくんとは付き合えないと思う。

まどかくんは背が高くてかっこいいから、同じクラスにはならなくても名前と存在は知っているだろう。

かっこいい子だなぁとは思うけど、まさか付き合いたいだなんて夢にも思わないだろう。

共通のクラスの男子友達を通じて、5〜6人でカラオケに行くことになっても、

まどかくんは私のクラスメイトの女の子のことは「○組の○○ちゃんやろ」と知っていたのに、

席が隣になった私には

「初めましてやなぁ。オレ、姫条言うねん。よろしくなぁ」と先制してきて、私にもなんとなく自己紹介を促してくる。

私はまどかくんの名前をもちろん知っているけど、まどかくんが私の名前を知らないのは私がイケてない存在だからで、

それはしょうがないことなので私は素直に組と名前を自己紹介する。

「○○ちゃん普段なに聞くんや?」と気さくに話しかけてくるまどかくんに、

私は一瞬迷ってから、昨日の歌番組に出ていたアーティストの名前を答える。

全然聞いたことないけど、その人の新曲が流行ってて、かっこいい男の子に言っても恥ずかしいことにはならなさそうな、おしゃれでいい感じのアーティストだからそう答えた。

「ええよなあ、今流行ってるやつ」

まどかくんの番が回ってきた時、まどかくんはその「流行ってるやつ」を歌ってくれた。

聞き込んでいる感じではなかったけど、女性アーティストの歌を歌うだけでも難しいだろうに、まどかくんは上手にさらっと歌いこなして、終わった時にはみんな拍手した。

まどかくんはこっちを見て笑ってくれた。

私はまどかくんを褒めたかったのに、まどかくんのまぶしい笑顔を見たら何も言葉が出てこなかった。

そのあとすぐ、ドリンクを取りに行く人とか、トイレに行く人が相次いで、席替えになって、私はクラスの友達と隣になって、それ以降まどかくんとは言葉も交わさなかったし、目も合わなかった。

帰る時、みんなから集めたお金をまとめてレジで清算してくれている友達の背中をぼーっと見ていたら、有線でマリーゴールドが流れてきたのに気づいた。

なんとなくまどかくんの方を見た。

まどかくんは友達とふざけていて私の目線には全然気づかなかった。

それ以降、卒業までいっさいまどかくんと話をすることはなかったけど、まどかくんが私の名前を呼んでくれたことと、

私が好きだと言った歌を歌ってくれたこと、一生忘れずに生きていくと思う。

ぜんぜんそれだけで人生は大満足だと思う。


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