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ある映写機を巡る思いもよらない旅 -アークナイツ情報処理室アイコンについての覚え書き-


⚠️この記事にはアークナイツ本編8章含むあらゆるネタバレが入っている恐れがあります

なぜ映写機の話をするためにそこまでネタバレをせざるを得ないのかよくわかりませんがご了承ください


 ずっと気になっていたことがある

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 ソーシャルゲーム『アークナイツ』内に存在する情報処理室のアイコンだ。正確にはこのアイコンに描かれている映写機のことがずっと気になっていた。

 なぜならアークナイツ世界にはビデオテープと思しきメディアがあるからだ。のみならず現実より高度な電子工学が用いられている描写があり、スムーズに人語を話し思考するAI搭載ロボットすら存在する。だが一方で現実よりまだ未発達な技術も見受けられる。例を上げるなら通信技術だろう。イベント『騎士と狩人』において、ロドス支部にて受信した通信をわざわざ紙に書き写して届けている描写がある。また、『蒼く燃ゆる心』のシエスタでは、電波が市中のどこでも通じることにD.D.Dが感心している。エリジウムのオペレーターとして担う役職や『ケオべの茸狩迷宮』で拾得できる高価な源石通信機からも想像できるように、遠距離通信技術がまだ未発達な様子が垣間見える、

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 大体の理由はすでに類推することが可能だ。おそらくだが、アークナイツ世界には通信衛星が存在しない。かつて存在したものがもはや使えない状態にあるという表現が正しいだろう(これについては本編8章やスズランのコーデに映る朽ち果てたパラボナアンテナを参照されたい)。


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 さて、アークナイツの情報処理室は、ゲーム的には解放済みの過去の期間限定イベントシナリオを閲覧する事ができる機能だ。内部に入ると二つのアイコンが提示される。フィルムのリールが積み上げられた『公共事業記録』と、ビデオテープの形をした『特殊行動記録』の二つだ。前者には『騎兵と狩人』『蒼く燃ゆる心』『喧騒の掟』『闇夜に生きる』などの、イベントステージをクリアしていくことで開放される形のシナリオが集積されており、後者には『戦地の逸話』『午後の逸話』などの逸話シリーズ、その内容から悪名高い『ウルサスの子供たち』などの、期間限定トークンを集めてつぎ込むことで開放されるシナリオが収められている。ちなみに「公開」「特殊」などというのは便宜的な呼び分けに過ぎないと思われる。『闇夜に生きる』を一般に公開し、ロドス内で上映会したとしたら絶対やばいことになるし、執務室に投じられた手りゅう弾へ敷かれた地雷が誘爆し、区画ごと跡形もなく消し飛ぶ事になる。

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 問題は、なぜフィルムとビデオテープが共存しているのかだ。現実では、最初の家庭用映像メディアを担った8mmフィルム・16mmフィルムは磁気テープにあっという間に駆逐され、映画館上映に用いられる35mmフィルムですらデジタル上映に強く圧迫されている。このアイコンの映写機は我々の世界における8mmフィルムに該当する規格の物だろうから、なおさら不思議である。源石が組み込まれた高度な電子機器で『カシャの部屋』を観ている人々が、上映に非常に手間のかかる8mmフィルムを業務に使うだろうか? 先述のように、テラの技術ツリーは不自然な形になっていて、影響の一端がアイコンに現れているのかもしれない。ともかくもこの疑問は筆者の口内に咀嚼しきれずに残ったままになった。

突然の発見

 だがこの謎は思いもよらない進展を見せる事になった。筆者が漫然とヤフオクに出品されている8mmフィルム映写機を眺めていた時の事だ。アニメーションを8mmフィルムで作ったとして、それを映す映写機が無いと半分くらい意味がない。しかも大半の映写機は所有者が上映できるフィルムを持っておらず、使用可能か不可能か判然としない。故にジャンク扱いとなり、需要の低さも相まって、本来の価値からしたら二束三文同然で売られている。買わない手はない。
 その時筆者の目にあるサムネイルが飛び込んできた。

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 あの映写機だ。間違いなかった。

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 ボタンの配色からリールの穴の形、パーツのレイアウトまで完全に一致している。読み取りリールの位置だけ不可思議なことになっているが、これはデザインを意図的にずらしたのだろうか? 出品者によるとrus社製という記述の、旧ソ連の8mm映写機だった。すでに売り切れていた。

この映写機について、上の産業博物館サイトに詳しい記述がある。正確にはruss、『Русь』という記述が正しい映写機である。

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レギュラーおよびスーパー8規格のフィルムを映写することが出来た。レニングラード(!)のROMOという企業が製造した機体だ。

Русь、つまりキエフ大公国

 ここからはどんどん正確性が怪しい話になってくるが、もしよろしかったらお付き合いいただきたい。”Русь”はルーシという意味である。ルーシとは? ロシアという国名の古名だ。例えば日本を大和と言ったりするのに近い。かつてロシアはルーシだった。正確にはキエフ大公国(9世紀後半~1240)という国が東スラヴ圏、現在のロシアーウクライナ付近に存在して、途中でキリスト教化も果たし、現在まで続くロシアの礎となった。だが1240年にモンゴルタタール勢力の侵攻があり、長い統治下に入る事となる。いわゆるタタールの軛というのがこれである。

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 中世ロシア、大公国の記憶はその地に生きる人々の記憶へ深く刻まれていると言って良い。数々の物語に登場するイリヤー・ムーロメツ、またはエイゼンシュテインによって映画史にその名を刻まれたアレクサンドル・ネフスキーと言った英雄もこの時期の人物とされる。そして忘れてはならないのは、この時代から農民の農奴化が進行していったことだ。史実で農奴の問題はロシア帝国の崩壊まで尾を引くことになるのと同時に、アークナイツにおいては圧政に耐える農民、鉱石病患者の強制労働という形で表れている。(これについてはソ連時代の収容所もイメージにあると思われるが、同時にロシア帝国のエッセンスも入っているとみている。ウルサスには貴族がいるからだ)

 8章でその姿を現した黒蛇が過去のウルサスの栄光に目を細める時、またはケルシーがあの長く独り言のような述懐をする時、常にキエフ大公国の朧げな形を認めることが出来る。

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そして何よりも、現代のキエフには石棺があるのだ。チェルノボーグがキエフ周辺をモデルにしているという言及は多々存在するが、コンクリートで覆われたチェルノブイリ原子力発電所もまたこの地に聳えている。アークナイツの第1期と目される本編8章までの物語、チェルノボーグという都市を舞台にした物語を語る上で、この映写機は必然性を持って情報処理室のアイコンに鎮座しているのではないだろうか。それとも単なる偶然だろうか?

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 かつてのウルサスの栄光。それを象徴する名前が冠された映写機は、一体スクリーンへ何を写し出すのだろうか? 答えはひとつ、そこへかけられたフィルム次第だ。この映写機へ次々と新しい『公共事業記録』を掛けていくという行為自体が、ロドスの有り様を端的に表しているのではないだろうか?

最後に

なんだか壮大な話になってしまった…………関係ないですが6/17に筆者が映像を作ったMV『アノニマス』が公開されるので(https://youtu.be/RAM-FD_EFho)是非みてください

じゃあの

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