アークナイツのアニメーション


 アークナイツはスマホゲームである。それもアニメーション作品に恵まれたスマホゲームだ。8章ある本編シナリオのうち5章からそれぞれにアニメPVがある他、イベントがある度にまた新しくアニメPVが発表される。加えてその他のYoutubeコンテンツにも様々なスタイルのアニメーションが見られる。アニメートの手法は多岐にわたり、トラディショナルな2Dアニメから、キャラクターデザインを忠実に守りつつ、ハンドドロウでは難しい質感に拘った3Dアニメーション、紙人形劇風の短編まで存在し(この文の主旨から外れるが実写ドキュメンタリーまで存在する)、貪欲なまでの映像へのこだわりが垣間見える。

 この記事はYoutubeの公式アカウントから独断と偏見に基づいてアークナイツのアニメPVをピックアップし紹介していこうという試みである。ゲームのアニメーション化というのは実は非常に難しい。それはゲームがユーザーにもたらす体験と映像が観客に与える快感が全く別の物だからであるが、ソシャゲはなまじイラストの体を取るためやっかいである。ソシャゲの場面場面をアニメの絵にするのは実写やフォトリアルなゲームよりは簡単かもしれないが、動かすための絵としてはあまりに装飾過多だし、反対にモブキャラクターは変にゲーム内の使いまわしを反映してしまって没個性になりがちだ。アークナイツのアニメーション群がこれらの問題を綺麗に解決しているとは言い難いかもしれないが、ゲームのアニメPVという条件下で、他に無いような面白いアニメーションを制作していることもまた事実である。

本編アニメPV

一周年記念PV


 2Dアニメの制作は主に運営元の関連スタジオであるYostar Picturesが制作しているが、大陸版のアークナイツ(明日方舟)の一周年記念PVはA-1 Picuturesが制作を担当しており、画面処理の調子やキャラクターに若干の差異が見られるのが面白い所だ。Yostar Picturesの撮影処理が炎熱溢れるようなカット以外ではあまりグローを効かせず抑え、乾いた画面を作っているのに対し、湿度と臨場感を強く感じさせるウェットな印象だ。都市が移動し続けるというスペクタクルな世界観、鉱石病という難治の病に立ち向かう医療SFとしての側面をリッチに描写し、戦闘シーンは演出(特にカメラワーク)・作画までとても高いレベルの映像を実現している。

 さて、その他の2Dアニメーションを制作するYostar Picturesは2020年に設立されたスタジオであり、同じYostarが運営する『アズールレーン』や『雀魂』のアニメーションも制作している。ゲーム会社のアニメ部門に近いのだが、それだけにシンエヴァのエンディングクレジットにその名を発見したときは驚いた。ロドス本艦にも脊椎が通っているようだしその内飛ぶのだろうか。

怒号光明


 各章アニメPVの最高傑作はやはり八章「怒号光明」だろう。この章はスマホゲームアークナイツ第1期の最終章とでも言うべき内容であり、ドクターとアーミヤが体験した激動の二週間のクライマックスに相応しい迫力のアニメーションとなっている。YouTubeにおけるアークナイツ公式アカウントの最上部に固定されている映像でもある。

局部壊死


 個人的に興味深いのは六章「局部壊死」アニメPVだ。登場キャラクターブレイズが降下するカットからアーミヤの目から作画で引くように切り返すカット割りは音楽と相まって見る人を引き込む力がある。尺が華やかなキャラクターたちへ割かれそうな所で、しっかりとモブであるレユニオン兵たちの描写に使っている部分も好感が持てる。TVアニメではどうなるだろうか? スチル的に本編の各場面を書き起こしたカットを高速で見せていく演出もゲームの雰囲気を伝えるのに一役買っている。


イベントアニメPV

 アークナイツのイベントはだいたい二種類あり、本編と同様の形態で一つの物語が描かれるか、さもなくばイベント内トークンを貯めてオムニバスストーリーを解放していく形式がとられる。例を上げると「ウォルモンドの薄暮」や「帰還!密林の長」などが前者に当たり、「午後の逸話」や「彼方を望む」などが後者に当たる。オムニバスストーリーは複数のキャラクターを主人公としてそれぞれ別の物語が描かれるため、通常のイベントとPVの内容自体が変わってくるのが面白い所だ。

ウルサスの子供たち

 「ウルサスの子供たち」アニメPVはその中でも特別な一本と言える。明るい管楽の行進曲に合わせて不穏な情景がフラッシュバックし、それをカメラがただ見つめている。キャラクターたちは一切戦わないどころか、PVの半分以上を顔のアップが占めている。明るい穏やかな空を背負ったアブサントの暗い表情が強烈に印象に残る、編集の力が光るPVだ。

二つの「潮汐の下」PV


 アークナイツのイベントをアニメーションへ翻訳するという行為の現状の到達点は「潮汐の下」PVだろう。特に14秒付近からのカットは同様のスチルがイベント内に存在し、これを元に作り上げていると思われるが、まるで海の中にいるかのようなアニメートが美しい。濁心スカジというどう考えてもアニメ作画に向かなそうなキャラクターを動かしているという時点で非常な努力を感じる。

 ところで、「潮汐の下」にはこれとは別にもう一本アニメーションPVが存在する。アナウンスPVと題されたこの映像は、3DCGアニメーションとしてある程度の尺を持って作られている。キャラクターデザインを忠実に守って生かしている他、スカジというキャラクターの孤独で内省的な主観、アークナイツ世界における海の持つ底知れない不気味さが3DCGという手法にマッチしており、かなり見ごたえがある。こちらはアークナイツの開発元であるHypergryphが制作しており、ある意味ソシャゲのソシャゲ以外の部分が露出していると見ることもできるだろう。注目すべきは、一つのストーリーに対して二つのアプローチが取られているという事だ。

画中人


 かつてアニメの脚本を全て文芸と言っていた時代もあるが、アークナイツアニメPV文芸賞はどう考えても「画中人」のそれだ。立て板に水の滴るがごときナレーションが良くイベントの世界観に合っている。東西東西!
 映像では部分的に水墨調のアニメーションに挑戦しており、普段の硬派な画面作りとはまた違った趣を持っている。水墨を生かした商業アニメーションとして本邦では『かぐや姫の物語』という金字塔があるが、中国においては上海美術電影製片廠が墨による2Dアニメーションを試みている。ソシャゲのアニメPVでこのような表現が出てくるのは豊かさがあって嬉しい。


彼方を望む


 秋、一面の麦畑と赤い屋根の修道院の風景を、ドローンが滑っていく……。「彼方を望む」アニメPVの魅力はここに詰まっている。こういう伝統と近未来が入り混じる美しいカットが出てくるアークナイツが好きだ。ソシャゲにありがちな浮世離れした服装のキャラクターの生活のディティールについてあなたは考えた事があるだろうか? このイベントにて実装されたアイリスというキャラクターがおり、童話に語られる城から来たというかなりファンシーな出自なのだが、このPVで彼女は荒野をひた走るいかつい4WDの運転席に居る。フリフリの服で。しかも作画が良くかなりの実在感を持って描かれている。本当に良い。



おわりに

 ここで紹介した分はまだまだ氷山の一角であるが、きりが無いのでとりあえずここまでとしておこう。アークナイツの2Dアニメーションには技術的なムラこそあれど、内容の点において非常に見ごたえがある稀有な存在だ。各々で気になる一本を探してみてもらえると嬉しい。
 Yostar Pictures制作のアークナイツのTVアニメが放映される前に、ゲームにおけるアニメーションPVについて個人的に見直してみたくて、このような雑文を書いた。書いていて思ったが、ソシャゲを原作に持つアニメーションというのは非常に難しい存在だ。イラストレーターによって絵柄が違う、しかし大体は高密度なキャラクターイラストをアニメーション用に書き直し、一つの画面に収めなければならない。どうしても使い回しになってしまうゲームの背景を脱出し、テキストと世界観から新たなアニメ空間を構築せねばならない。服装が同じに見えてもモブは全員ばらばらの個人だし、戦闘は俯瞰視点じゃないし映像化された戦場にマスも高台もない……しかしこのような困難さを乗り越えようとする発想力の断片を今回紹介したPVから感じるのだ。TVアニメも大いに期待したい。
 ところでふと考えるのだが、アークナイツ世界にもアニメーターはいるのだろうか? 困難な世界だが、石器人の洞窟壁画に既にアニメーションの原型があるくらいだから、きっとテラの大地にもアニメーターがいるのだろう。ソ連崩壊がないんだから、熊耳の生えたノルシュテインは外套を完成させられたのだろうか。そんなことを考えながら寝ればきっと、原形質のアーツの光が素敵な夢を見せてくれるはずである。その夢の名をこそアニメーションと言うのだ。

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