黒い杭のクラージィ

23巻に登場した悪魔祓い・クラージィの顛末。23巻アカウントジャックより、一部加筆修正有り。

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クラージィ:私はクラージィ。黒い杭のクラージィ、悪魔祓いのクラージィ…

クラージィ:…だった男だ。今の私の手に杭は無く、悪魔祓いの名も過去のものだ。

クラージィ:かつて私は、すべての悪魔──バンパイア──に杭を打つ命のもとに“吹雪の悪魔”を追っていた。長き捜索の後、私は奴の居城を突き止めた。

クラージィ:しかし、奴の居城に居たのは、吹雪の悪魔ではなく、小さな悪魔の幼体だった。
悪魔の幼体は無邪気で、私を微塵も疑いもせず、私に茶を出してもてなしさえした。ころころ笑う姿は、人間の子供と何ら変わらなかった。

クラージィ:そして、その子を守りに来た吹雪の悪魔の姿もまた、さながら我が子の盾になる父の如くであり、杭を打つべき悪鬼であるとは思えなかった。

クラージィ:私は“すべての悪魔に杭を打つ”ことが本当に正しいことかが分からなくなった。
結局、私は彼らに杭打つことなく、教会へ己の疑問を問いに帰った。

クラージィ:そしてその経緯を余さず報告し、教会に先の疑問を問い、悪魔祓いを即刻でクビになった。

クラージィ:かくして私は、二度と教会の門をくぐることを許されぬ身となった。そのようなものが一つ所に留まって良いはずもない。失った杭の代わりに杖を持ち、粗末な着の身着のままで、私は流浪することになった。ついぞ神に正しきことを問う機会を失って。

クラージィ:私はあてもなく彷徨った。行く宛が無かったのは勿論だが、それよりも、精神の道を失っていた。
あの日の私の考えは愚かな間違いだったのか。彼ら…それとも奴ら…は、今頃人間の血を吸い殺して笑っているのだろうか。
神に問うことも祈ることも、今の私には許されていない。自問の先は暗いばかりだ。

クラージィ:放浪し、村にたどり着けば、働かせてもらう代わりに路銀や食べ物を分けてもらえることもあった。
しかし教会の門をくぐることを禁じられた身であると話すと、金や物を返せと言われた。返して私は村を出た。
先に言わなかったのが愚かだった。以後は先に伝えることにした。

クラージィ:私が追われた身と知ると、露骨に戸を閉める人もあった。気にしない人もあった。どんな悪事を働いたのか聞く人もいた。
私はどんな悪事を働いたのだろうか。あれは悪事であったのか。

クラージィ:答えが出ないまま、靴ばかりすり減らした。もともと荷物はわずかだったが、路銀の足しに僅かなものも売ってしまった。
一度親切な人に食べ物を貰い、せめてもの礼に何かと思ったが、ペンぐらいしか渡せるものが残っていなかった。インクも紙も無しにペンだけを渡した。

クラージィ:どれぐらい日が経ち、夜を越えたか分からない。旅の末、私の足はあの館へ向いた。
もう一度彼らに会ったなら、何か答えが出るかと思った。答えが出るなら、そのまま野垂れ死んでも良い。

クラージィ:館へ向かう道で行き倒れなかったのは幸運だった。服はもはやぼろ布で、靴は僅かな水でも染みた。常に空腹だったが、そんなことはどうでもよかった。たどり着かなくてはならないのだ。

クラージィ:とうとう、覚えのある村に来た。ひどい身なりであることは承知していたし、そもそも教会を追われた者であるから、村は避けて館へ向かった。

クラージィ:春だった。夜でも暖かかった。
館に雪は積もっておらず、そこには誰もいなかった。

クラージィ:当然だ。悪魔祓いの来た場所なのだ。ここにあの子とあの男が残っているはずが無い。
どうして私はここに来たのだろう?

クラージィ:門柱にもたれ、そのまま眠ってしまおうかと考えた。そうすれば私は何が正しきことであるかを知ることができるだろう。そんなことは許されないと思ったが、他にもう何もできないとも思った。

クラージィ:ぼうっとしていると、村の方に、夜だのに灯りが見えた。風に乗って、何かうまそうな匂いがした。
私はまったく愚かな人間で、いつの間にかそっちへ歩きだしていた。教会を追われた男の導き手が空腹であるとは、誰か知れば後世の笑い話になるだろうか。

クラージィ:村ではあちこちを明るくしていて、酒と食べ物の匂いがした。何かの祭りであるらしかった。
私が立ち尽くしていると、一人の婦女が私を見留めた。
あの日の婦女だ、手首に傷を負った者だ。私は彼女をすぐ分かったが、彼女の方は私が誰だか全くわからなかったらしい。やつれきってぼろぼろで、一番無事なのは樫の杖という体であったから無理もない。

クラージィ:彼女は私に、あんたは誰で、そのざまはどうしたのかと尋ねた。私は答えようとしたが、あんまり腹が減ると声が出ないというのを知った。
彼女は私を上から下まで眺めた後に、私の腕を引っ張って、酒場らしき店の外に出ているテーブルへと連れて行った。私はされるがままになるよりなかった。

クラージィ:私は椅子に座らされた。同じテーブルにいた数人の男が私を見たが、酒と祭りのおかげか、眼差しにあるのは嫌悪ではなく好奇心だった。
目の前にぶどう酒とパンと肉の入ったスープが置かれた。危うく祈る前に手を付けるところだった。ほとほと情けなくなりながら、できる限りゆっくりと噛んで食べた。

クラージィ:食べ物は美味かった。私は道も分からぬ者であるのに。
周りを囲む数人が、どうしてそんなにボロボロなのかと話しかけてきた。

クラージィ:私は、元は教会の悪魔祓いであったが、この先に住んでいた吹雪の悪魔を討ちに行った時に、自らの使命に疑問を懐き、それを教会へ伝えたらクビになり、紆余曲折してまたあの館に戻ってみたのだがもう誰も住んでいなかったと話した。
皆が顔を見合わせ、そして私の前にもう一杯ぶどう酒が置かれた。

クラージィ:村の者は、哀れみを込めて私を見、悪魔も何も、あそこはずっと誰も住んでいないから大丈夫だと言った。他の顔を見回してみても、どうやら誰も吹雪の悪魔のことを覚えていないようだった。あの男の痕跡は、雪が溶けたように消えていた。

クラージィ:それにしても、と、隣に座っていた男が笑った。その話が本当なら、そんなこといちいちバカ正直に話すもんじゃないよ、だからそんなにボロボロになるんだよ。世渡りの下手な旅人もいたもんだね。

クラージィ:他の男たちがどっと笑った。話が掴めず困惑していると、隣の男は、実は自分も旅人で、ちょうど祭りの日にやってきて、こうしてうまくただ酒にありついているのだと言った。

クラージィ:隣の男はヨセフと名乗った。彼は勝手に乾杯して、一人で杯をあけた。それから、私の方へ料理の皿を押しやった。私は申し訳なくて断ろうと思ったが、彼は自分はもう十分だからと言った。私は十分ではなかったから、結局食べた。

クラージィ:夜も更けた。先程の婦女が、納屋で良ければ貸すという。久々にまともに食事をして、どっと眠気が来た。何も考えられずに、私はただ礼を言った。

クラージィ:皆が家々へ戻っていく。灯りに照らされた酒場の窓に、村人の姿がオレンジ色に映っては流れていく。
ヨセフも私の肩をポンと叩いて席を立った。私はぼうっと彼を目で追った。

その姿は窓に映らなかった。

全身が冷水を浴びたように覚醒した。音を立てずにヨセフ…ヨセフと名乗った男の後を追った。
男は村を出、灯りのない夜道を事もなげに歩いて行く。
あの婦女が私を探す声が遠ざかり、聞こえなくなる。呼吸を殺し、奴の足音だけに耳を澄ませる。

今、私はあの日の私に立ち返っている。黒い杭のクラージィ。悪魔祓いのクラージィ。

どうするというのだ。この手にあるのは杭ではない。もはや教会の人間ではない。
だがこの時、この場所で、バンパイアにまみえたのは、ただの偶然だとでも言うのか。
頭の中に声が響く。クラージィ、正しい行いをせよ。正しい行いを。

正しい行いとは何だ? どうすれば正しい? もはや私にそれを問うことは許されない。もう一度神の前に傅きたい。私の道を問いたい。私はどこへ行けばいい? あの夜どうするべきだった? 何をすれば正しいのですか?

獣の吠える声で現実に引き戻された。
私は山道までヨセフを追っていた。彼に吠え、今にも飛びかかりそうな影がいくつもあった。
野犬だ。何匹いるか分からない。生臭い匂いがする。

彼は後じさりしたが、背後の藪からも唸り声がした。野犬はもはや姿隠さず、ぞろぞろと道へ現れた。
野犬の一匹が、彼に飛びかかろうとした。

飯を食べたので、今度は声が出た。
「逃げなさい!!」

杭の代わりに杖を持ち、私は野犬の群れへ飛び込んだ。無我夢中で振り回した。足を噛まれた。腕を噛まれた。血があちこちから滴った。

それでも、それでも、これが正しい行いなのだ!!私はクラージィ、今はただのクラージィ、愚かなクラージィだ!!神よ!!

──どれくらい経ったか分からない。杭があったら違ったかもしれない。あの日の力と体力なら、どうにかなったかもしれない。
全身がとても寒い。脇腹のあたりの感覚がない。はらわたが出ているように思う。

寒い。彼は無事逃げられたのだろうか。寒い。犬はどうしたのか。寒い。
私は、正しい行いをできただろうか。

眼の前がチカチカする。頭がとても痛む。眩しい。ひどく眩しい…

誰かの声がする。

「このままではお前は死ぬ。まだ生きたくはないか、命を繋ぎたくはないか。」

「やり残したことはないのか。愛しいものはないのか。憎いものはいないのか。執着はないのか。一つでもあるなら、答えろ。生きたいのなら、答えるんだ。」

誰の声だろう。どこかで聞いた声なのだ。思い出せない。しかし、答えねばなるまい。
私はもういいのだ。

十分だ。正しいことをしたのだ。これ以上生きながらえなくてもいいだろう。体はとても寒いし、痛むけれども、私は、私は…

クラージィ:私は、あのシスターの、胸に抱かれるまで、死ねない…!

クラージィ:は!?

クラージィ:私は何を言っているのだ!? シスター? ああそういえば昔、慰問に来てくれたシスターがいて、彼女に抱かれた子を、私はとてもうらやましく思ったのだった、ああそんなこともあった、それが何なのだ!? どうして口をついて出たのだ? ああ痛い!死にそうだ!頭が痛い!寒い!

クラージィ:寒い、腹が減った、喉が渇いた、さっき飯を貰ったのにまだ飢えている!傷が痛い、ああ、ああ…!

???:……あの男、最後まで余計なことを…!!!

???:……だが、どんな邪魔が入って、何の仕業だろうと、お前はまだ生を選んだのだ。受け取るがいい、クラージィ。

クラージィ:首筋が焼け付くように痛み、全身が凍えた。指の先まで凍りついていく。
何が起きたのか分からない。何もかも暗くなっていく。
私は…私は……

……

ドラルク:ヘッキシ(スナァ)!…今夜はやったら寒いなあ。あのヒゲは部屋にこもりきりだし。落ち込んでるんですかね、私がそろそろ帰っちゃうから?アッハッハ!

廃教会に、簡素な棺が置かれている。
ある男がおさめられたその棺は、彼がおさめられたその後、開くことはなく、ただ凍てついて、ずっとそこに置かれている。

とても長い月日、そこに置かれている。

とてもとても長い月日ago……

廃教会は老朽化して屋根が落ちたので取り壊され、そこで見つかったなんかメッチャ冷たい開かない箱は、処分に困った工事の人により、とりあえず場所を移された。

【新横浜直行貨物船】
貨物船船長マルデカクニンセン:荷物は積んだか!
貨物船船員アンマカクニンセン:たぶん積みました!

マルデカクニンセン:ん?なんだこの冷たい箱は? これは荷物か!
アンマカクニンセン:あ、多分荷物っす!すいません!
マルデカクニンセン:中身はなんだ!
アンマカクニンセン:冷凍カジキマグロとかだと思います!
マルデカクニンセン:なるほど!乗せるぞ!
アンマカクニンセン:アイアイサー!

船:ドンブラコ!ドンブラコ!!

その頃の魔都・新横浜では、じじい対町の壮大な鬼ごっこが繰り広げられていた

ドラルク:師匠!!御真祖様を捕まえるためですぞ、言ったとおりにしてくださいよ!
イシカナ:ホラやるぞノースディン、私がいるんだ 安心して氷使えるだろ
ノースディン:……

イシカナの炎!ノースディンの吹雪!
シンヨコ・ナイトレインボー!!

【魔都・新横浜湾】
カクニンセン親子:うわーフォトジェニック
カジキマグロの箱(?):………

カジキマグロの箱:さ、む、い!!!!
カクニンセン親子:ウワーーッカジキマグロがおっさんになったーー!!!
カジキマグロ(?):!?!?な、何だここは!?誰だ君たちは!?
サンダーボルト:ニップルライジング!!!
カジキマグロ(?):!?!?!?う、美しい…

カジキマグロ(?):……かくして私は……

クラージィ:私は…何がなんだか分からない!とりあえず、私はカジキマグロではないことは確かだ!ここは一体?やたらと四角い背の高い建物、ギラギラ光るあらゆるもの、沢山のダチョウ、私に何がおきたんだ!!

クラージィ:どういうわけか、言葉も通じぬ異国に私はやってきてしまったらしい…。足元がおぼつかず、ふらふらしていると、謎の男にジャンケンを挑まれた。その男は服を脱いだ。意味が分からない。私はおかしくなってしまったのか。

クラージィ:しかしその謎の男は私の言葉がなんとか通じた!お互い片言ではあったが、とにかく私は窮状を伝えた。
すると謎の男は、一件の背の高い建物を指して言った。この町で困ったことがあるならとりあえずあの場所へ行け。

クラージィ:私は説明された場所に向かった。どうにも肌寒くてたまらない。私はこんなに冷え性であっただろうか…?
建物の階段を登り、廊下を歩き、どうやらここであろう、ドアをノックする。

ドラルク:全く、魔城伝説デスムーン3をやろうとした瞬間の来客…。
はい、ドラルクキャッスルマーク2ネオ城主、吸血鬼ドラルク!あなたのご依頼、伺いましょう!

ドラルク:……ん?私の顔がどうかしましたかな? にしてもずいぶんズタボロでいらっしゃる。とりあえず入って入って

ドラルク:さあ座って…、紅茶とクッキーでもいかがですかな?


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