HKTDC ・4

「なるほどそうですか、解り易いお話しではありませんがなるほど、しかし言い掛かりとはまるで気が付きませんでしたが貴重なお話をありがとうございます、中には先生の一席に勇気づけられる奇特千万な視聴者の方がいないとも限りませんよ、ところでバッツ師、先ほどからずっと元荒瀬部屋のでぶ、ガブリエル君が噂の大樽を抱えて、ほらあの通りすり足ずり足で行ったり来たり、もうヘトヘトでつま先が上がりません、ドンとやると樽を取り落としそうですよ、あんな体力ですから序二段しんがりよりガブれなかったんですね、あれを福酒樽に返らず、床を酔わせてしまってはさあ大変、ささっ先生やりましょう」
「そうかそうかそうだった、つまらない田中の噂ばなしなどしているうちに豚肥えた珍酒ハンター君をすっかり衰弱させてしまいました、どれどれではお相伴に与りますよ、うんうん、あれれ、これはそれというか、あれというよりなにですね、ええとそうそうセルジュク系コロンヤ臭の強化型葡萄酒ですよ、仕込んだ女性杜氏のお父さんが紺屋職人だっただったのでしょう、本場は観音裏って仲の町出身のね、ただこの親子も似ていませんよ似ていないどころか人種も明らかに違います、やはりここのお母さんも大らかな方で本当の父親は又もや別の人ですね、お父さんも職人らしく立派にアレな方ですからそんなこと全然気にしていないどころかまるで気づいていないところがまことに気候温暖平地のぬるい温泉のようで芯から心が緩みます、いいお酒です、しかしちょっと待ってください、胃袋全体にじわりと染みこませると十二指腸手前がスコッチの無愛想な響きを感知しましたよ、何だそうかトルコ帽をかぶり紺屋コロンヤなどをブラウスにふりかけて、これはまるで職人の留守中にできた七歳のおませなお嬢さんがする大人の気を引くいたずらのようなものではないですか、はっはあ、ほんとはスコッチです、ディスガイズウヰスキですよ、いやっ、あれっ、ストレス皆無キリをもってさえ決して穿孔などしない頑健な十二指腸から急いで小腸のとっ端へ異議が申し送られていますと、なになに、ほう、うん、ザザーッという音の淵からホップ臭の疑い濃厚なガスが弾けていると、そうかウヰスキというのもガセでまことスットコランドかぶれのババリアビールということですね、内しょでイタリンかぶれも入っているのかじっつにトロツキーな何とも楽しい酒です、ほらほら小腸を滞りなく抜けて大腸へやってきた、よしっと、盲腸を左目でチラリとにらんだら登り坂をがんばって、右折したらば今度はすーっと下り坂で楽ちんだ、何なに次はここからも文句ですか、はいどういたしました、どこがビールですか、臭いっ、はて何臭いと、田舎臭いっ、あなた酒は田舎で造るものですよ、田舎の芋臭いっ、腐れ芋焼酎じゃないですか、ふざけた臭いだ、わたしはこの足首が丸太ん棒みたくるぶしのない色気のはるか彼方にびっしり根っこを張った唐変大木の下にその気になってねばったい目ヤニと小便臭いヨダレでニヤつきやがったド田舎酒が大嫌いなんです、何をっ、肛門間近な下行Ｓ状もどん詰まり直腸風情のどの口が云うだとお、うるせえ田舎芋侍め、大腸がしゃべってたまるかってんだ、おやおや威勢がよろしいが一体だれとお話してるんですかね、へえ挙げ句は芋焼酎ときましたか、さすがにハンターガブ君のがぶりは寄りに寄ります、廃業してから巧くなったんですね、古巣荒瀬部屋もさぞや鼻が高いだけでなく穴も大きいので臭気を笑顔で堪えているのがいかにも辛そうです、まるでカメレオンのような酒だ、きっとあのトカゲの干物がどっさり漬け込んであるのでしょう、あれよあらよっという間にわたし寄り切られてしまいました、明朝が楽しみです、ええ化粧室の香りがです、ありがとうガブリエル君そしてガイキチＴＶのみなさん万歳三唱といきましょう、そしてしゃんしゃんしゃんと中締めに致しましょう」

「先生では今日のお話はやっとお仕舞いですね、お引きとめしましたがどうぞお一人様猿股のびのびの方へささっとお引き取りください、ご高説ありがとうございました又お会い出来る日を首の短い三代目麒麟児のように楽しみにしておりますご機嫌ようさようなら、さあさあ、ＴＶの中の私どもと一緒にＴＶの前に呆けておられるご奇特連もスタンヂン手拍子でお送りしましょう」

「おまちなさい、やっと仕舞いとは何をおっしゃる、お忘れですか私本日、振り込む詐欺、の楽しみ方を解説する水道屋として呼ばれてまいったのではないですか、お話はまだ始まったばかりですよ」

「ははあアル中縞馬記憶のオーダーがそうお出になりましたか、はいわかりました、では先生タヱさんはその後お元気ですか、三男から浦和日銀へ振り込みはあったのですか二兆円だか千億円だかの」

「何だあなた憶えてらしゃるじゃないですか、いい具合の縞目ですね、いえ振り込みなど全然ありませんでした、しばらくタヱさん件の心遊びをしながら何となく待っていましたが、そのうち忘れてしまいました、そういう訳の詐欺なのです、始めに申し上げた通り、ふふふっと少し湿っ気の飛んだ喉に軽い痒みのある笑いがもれてしまう、それだけです」

「ではこの流行り詐欺の問題点はどこにあるのでしょうか、そしてその対策は」

「対策などと大仰な問題はありませんが、日銀がダメになりました」

「どうしたんでしょう」

「この流行に浮き足立ったご老体が大挙押し寄せたんです」

「はあ」

「振り込む詐欺師達はだいたい兆円越えを騙りますので、その時になって慌てないように通帳の丈夫な日銀へ口座設けのために日本中の支店へ行列したのです、ですからロートル相手に銀行じゅうのエリートがかりだされ大忙し、公定の歩合さじ加減をどうしようか、来月は一万円札を何枚刷ろうかなど難しい事を考える暇がなくなり日銀株は大暴落、近く八王子信金に乗っ取られるようで遣水支店長が次期総裁だともっぱらのうわさですね」

「しかし振り込みは全くないので詐欺なんですよね」

「ありませんよ、いちいち皆が振り込めば詐欺ではありませんが日本中のお金が老人に集まってしまいます、さあ大変、今度はそれを取り戻すのに国家プロジェクトを組んで、振り込め詐欺を仕掛けなければなりませんが、このミッションを遂行するお金がもうありません、万事休す、そんな絶好の機に乗じて日本を尾頭つきでぐるぐるっと巻き上げるのは気が進まないという国があるでしょうか、そうです大きなケンカが始まります、遅ればせながらの第三次世界大戦ですね、ところがこの戦なかなか決着がつきません、長年綱引きをしているうちに各国は疲弊し日本の兆円持ち老人は皆死んでしまい、その親族は全員皇国大事で無私の臣民、相続を放棄しお金は全部国庫に入り日本は助かるんです、よかったですね、あなたあまり嬉しそうじゃないですよ、もしかして百済人ですか、わたしも高句麗系でお互い新羅には含むところのある身ですがそこそこ喜んでますよ、まあいいでしょう、そんな訳で対策は要りません、以上」

「お話が始まったばかりの割には手短かですね、最早これまでという事でよろしいのですか」

「そういう言い掛かりはいけませんよ、最早なんて私まだ命が尽きたわけではありません、その証拠にほらご覧なさい、お尻かこんなに伸びきってましょ、そうなんです、さっさと帰って猿股を脱ぎちらかしたいのは山々ですが、ガブリ酒の魅惑が腐っても元相撲の握力で左手を引っ張り、負けてなるものかとフク助印をおしゃれに決めたつもりの日本猿野郎どうしてどうして腕っ節が強い、輝く前歯を見せびらかしキイキイ鳴きながら渾身の力で右手を引っぱり、その力が拮抗し、私ちぎれてしまいそうで往生しているのがわかりませんか」

「やはり命が尽きているんじゃないですか」

「あなた文脈ということをご存じないか、それともあれですか、私が仏教徒でないのを先刻調べ上げておいて、泥棒猫のように往生をかすったとお咎めになっているのですか、駄目ですよ、往生はとっくの大昔にパテントが世界中くまなく切れていますから誰がどう使おうと大ぴらでよろしいんです、お疑いならば特許庁仏教課へブッダガヤからバイトで出張っている坊主の邪念に問い合わせてご覧なさい、飲み友達ですから花穂からきいて来たとおっしゃいなさい、親切に教えてくれます、手土産にアラックのグランクリュひとっ樽も抱えて行こうものなら一生忘れられないくらいの親切で世の中こんな親切があったのかと、あなたのけぞってブクブク泡を吹くほどの親切に迎えられますよ、なにしろ奴は般若湯のためならゴータマなんざ糞喰らえというくらい気高い鯨飲家にして馬食家ですから、ね嬉しいでしょ、何ですかそんなツムリ殻の中身カラチリンのくせに競売に掛かった人を値踏みするようなふて腐れた緑内障の老いぼれ蛙みた目をして、私嫌いなんですよ、よくいいますでしょ、喜びを隠しきれないなんて、嬉しいのを隠し立てするというのは一体どんなわけなんですか、喜びを知られてしまったが最後金輪際漏らしてはならぬ今までの人生ひた隠し通した深い秘め事が白日のもとに曝され、あの淫靡に湿った暗がりで、何色ともつかない粘ったい絵の具が尚もねっとりとうず巻く、どんな悪漢でさえ道徳上これは嗅いではいけない香だと身も心も消え入りそうになる臭いに体じゅう絡めとられ、思わず悪漢の体裁などかまっておられず目つきが素直な恐怖でおどおどするような、しかしそこは腐ってもと云わずもがな半端脳垂れ不良、ここまで来たら腹をくくるしかない、ええい舐めてやれいと勇気をしぼって震える人差し指をねばり絵の具にのばす、そんな人類をまとめて敵にまわしてしまったと確信する馬鹿大丸出しな決死の一手に頼んだはずだった第一級の喜びがカンカン照りに消毒されるのみならず濃縮ブリーチでまで滝の勢いで頭からザンザザーンと浴びせ晒されさっぱりと真っ白く純潔になってしまうとでも云うんですか、ええっ、何ですか今度は呆れかえったクジャクが明星大学のキャンパスでおくびが出そうで出ないのを悩んでいるような泪めをして、一体どうお考えなのですか」

「何をでしょうか」

「往生の取り扱いについてですよ」

「特に取り扱う積もりはありませんので邪念さんに面会して親切にしていただくごめんどうもおかけ致しません、大丈夫です、ご心配なく」

「はっはあ、旗色は濁ってきたのを認めましたね、逃げようというわけですか、よろしい私は生来しつこくないのです、しつこいの根本は値ぶみですよ、品質優良も粗悪も云われる筋合い無く、一切評価の舞台に上げられずに過ごし今では人の目にまるでふれない考えに遊ぶ私にはしつこいとの因縁がありません、あなたよかったですね、そらお逃げなさい追ったりしませんから、さあどうぞ、姿をくらます手間を省いても安全ですよ、ということはおうちへ逃げ帰るのが得策でしょう、では左様ならば、お気をつけて、慌てないように、あら、ちょっとお待ちください、あなた災難もないのにおうちへ避難する、わたしもおうちへ猿股を脱ぎに帰る、それではどうです一緒に行きましょうか、なんだ方向が違いますか、いいでしょう、ではどっちでもない方角へ向かいましょう、どうせ地球はちんけな玉です、えっ海があると、大丈夫ダーウィンをご存じでしょう、必要とあらばエラも出張ってきましょう、魚ってのも悪くないですよ、手足がないとこなんか潔くって粋だ、ウロコなんかビッシリまとってね、さて長居をしましたが出掛けましょう、みなさんご機嫌よろしく又お目に掛かる日までどうかご正気で、断るらり助もないもんですが途中どこかへ寄ってまた大量にやっていきますか、猿股の方は急ぎではないのかって、そりゃずっと前から象まんですがこういう事は先が見えてからじらされると後がまた一段といいんですよ、えっ、おとといの角度に向かっちゃ後がいつになるかわからないでしょって、あなたＴＶのくせに細かいですよ、なになにガブリエル君も一緒に行きたい、それは何かの時に心強い、私たち二人とも痩せ型ですからね、どうぞどうぞ、そうだそれならガブ君に樽を抱えてもらって隅田公園まで暴走ＴＶのハイヤーをぶっ飛ばしましょう墨田側のね、あそこはいいですよ、修繕不能に故障した人種のルツボでね、肩の力がスッと抜けて清々します、驚くほど不潔なオカマなんかがうようよしているんです堂々と、あそこまで壊れてまだ治る気なんでしょうか、隣の牛嶋で牛の尻を撫でまわしているのなんかもある、さあ出発しましょう、何だかいい日になってきましたよ、しかし三人だけでいい思いや気持ち悪い思いをするのも後ろめたいような不公平のような気もしますね、どうでしょう、不潔はお任せインディアンタタの廃車バスを仕立てて全員で繰り出しますか、元水戸泉班下々屋敷で広いんです何人乗り込もうが決め込もうが平気です、ドぶすオカマ野郎ども珍客が大好きですから来るんじゃなかったと後悔するほど歓迎されますよ、私ウキウキしながらもハラハラしてきました、あっそれからあすこは許しがたく臭いったって何たって鼻のねじ切れ必至の公園ですよ、でも大丈夫、昏酔さえしておれば鼻なんかもげようが破裂しようがそもそもそんなものあろうがなかろうがまるで気になりません、あらあら、あらら、あたし歓喜の振るえが止まらないくらい盛んな症状で酷い悪寒との違いが分かりません、ちょっと小声で喜びか絶望を怒鳴り散らしてもよろしいですか、それいっ、みなさんご一緒に、せえのっ、さんはい、キュキュキュのキエーッ、ジュジュジュのジェーッ、にいにっ、さんしっ、ニュニュニュのニェーッ、だっ、誰か、人か馬を呼んで下さい、いえ緊急車両で乗りつけていただければ誰でもよござんす、カマキリでも」


〝おーい女房〟

〝あらなあに〟

〝このテレビやっぱ壊れてるわ、買い替えだな〟　　　　　　

〝何いってるの、テレビなんか壊れてるもんだわよ、だからみんな安心してみるんじゃない、おなか空いたでしょ、ごはんにする〟

〝うんあとにするわ、ちょっとあそこへ飲みに行ってくる〟

〝あらそう、じゃミコちゃんにいって煮込みをおみやにおねがい、行ってらっしゃい、飲みすぎてもいいけど遅くならないでね、そうそう、帰りにゴミ袋買ってきてくれるかしら、それから蜜柑と〟

〝はいよ、行ってきまあす、あ、タマにごはん出しといて〟
　　　　　　　　　　　　　
おわり