見出し画像

タクシー・18




イカレた講釈に呆れて腐ってないかこの酒、大丈夫ちゃんといい具合に腐ってます、ご覧なさいまし皆さん滞りなく正常に酔っ払ってましょ、ぼっちゃんお目見えのため特別注文で抜いたこの'四十五年ものは腐り加減本日八月六日がオルガスモ、秋の野山を先取りした雁クビ逞しい何とか茸のヌアンスが香のサネだとか、さあご賞味あれ、あっそう、おまえ薬足りてんの、まったく破けた袋の知恵が多いと呑む前から口が酸っぱくなっちまうよ、どれどれ、おっ、なかなかうまく腐ってやがる、悪かねえよ、脂のりが中年太り直前ってとこだ、吸い込みにゲス張ったとこがねえのはもともとお嬢さん育ちなんだな、牝ですかそれ、ぼっちゃん育ちだってかまあねえよ、何不自由なくふわふわっと過ごしたんだろってこった、牝かどうかあ知んねえよ、腐りっぷりはいいけどな、欲云や生まれつきあたしは安泰だって、箱入りの蓋閉めえの鍵掛け忘れ風情が腐れ味の骨格を細くしてんのか何か人任せ、いつもニコニコ乳母、婆や、てきぱき働くやさしいお手伝いさん、みんな大好きバカ殿カバ面パパ、誰んでもいいなり美人低脳尻軽ママ、そんなんに囲まれて上玉に仕上がったって腰つきだ、勝っても負けても褌の緒は絞め子の兎っていうだろ、ところがこいつんとこのが揃って飼い兎なんだ、そりゃ気持ちの張りが足んねえさ、脱兎感なんざまるっきしよ、フンドシの緒って何ですか、太ってえヒモパンの後ろんとこに生えてる兎の尾っぽみてえ飾りのことらしいが詳しくは知んねえ、あ、それ相撲取りの制服じゃないですか、新聞の折り込み広告で見ましたよ、ウランバ・モニンってうちの女中がとってる朝刊です、女中といっても二号で親父だんだん歳と共にイカもの喰いの気が出てわざわざモンゴリから取り寄せたんです、新聞をか、いえ女中を、ふうん、でその女中が相撲取りってわけだ、ただの女中です、モンゴリ人なんだろ、はいモンゴリンです、相撲取りじゃねえ女中のモンゴリ人がいんのかよ、はい女中でない相撲取りがいるように、相撲を取らない女中もいるとあたしは思いますが、お前ニブイよシャブ中ってのはもっとドタマがテキパキッとしてるもんだ、オレはなモンゴリ人が全員関取だとも世界中の女中がのこらず力士だともいってねえ、ただ、相撲不得手なモンゴリンは女中になる権利を予告なく一時停止さるる緊急避難之有り、シカノミならず廿一時間前予約による被女中権剥奪已む無し、って但し書きにサインはしたんだろってんだ、いつ云ったんで、いまだよ、誰がサインを、女中だよ、何の但し書きで、モンゴリ人民契約書に決まってんだろ間抜けめ、あたし知りませんでした、知らねえで取り寄せたのか、注文したのは親父です、まったくスケベなおとっつぁんだな、まいいやウランバはいい女か、ウランバというと朝刊ですか、ばか女中だよ、女中はウランバンですがウランバって醜名じゃありません、あ、やっぱ相撲取りじゃねえか、いえ廃業してから生もの用梱包で宅配されたんです着払いで、おつな女かって訊いてんだ、イカモノ喰いの親父が買ったんでデザインの方は何というか偶蹄目めいてますが、使い心地はいいのかも知れません、道具の性能は見た目じゃ判りませんから、あたしはまだ使用してませんよ、仲々自分の女を人に貸さないんです、勝手に使えば怒るし、わがままな親父です、モンゴリにゃ相撲の外にめずらかな喰いもんはあんのか、レスリンは食べ物じゃありません、おめえのおとっつぁんが喰ってんだろが、まあ趣味として、おう道楽なら何喰らおうと天井が抜けるってのか、この穀潰し野郎、誰がですか、女中だ、女中は喰われる方で野郎でもないんです、それにウランバはあまりごはんを食べる子じゃありませんし、あ、やっぱりウランバじゃねえか弥次郞め、いえ、ウランバトリ郊外で羊飼いを生業にするうちの七女で、いまは当家で家政婦として二号さんに就いている、ものを考えない質なので使い勝手のいい、秋には廿一になる太ったモンゴリン、と云うと少々長いので詰めてウランバと呼んだんです、名前はないのか、あるとは思いますが知りません、本人もそういうことには無頓着です、何て呼ぶんだ、ウランバです、親父はウランバリンこっちおいで、なんて不気味に笑いますが、ふうん、馬鹿ってのは幸せそうだな、おう、もうウニコはいいや飽きた、店のウニ子ですか酒のウニーコですか、それともウランバウニ子でしょうか、ウランバウニ子ってのもいんのか、いません言葉の序破急です、逆枕詞ともいうんですかね、あっそ、どうでも外へ行くぞ、このうちはヒトデの多い浜が発酵した臭いがしやがる、ウニ酒仕込んだふてっ腐れ辛党のイスト連中、腹も空いてねえのにダラ喰いしたんだな、胃弱のくせに人数が揃ってんだろ、出された餌はすっかり平らげるんで盛大に腐ってアルコルをどっさり奢った旨い酒にはなったが、すぐ飽きる式ってわけだ、おい河岸をかえるぞ、タンクの釜に焚き木をくべろ、ぼっちゃんこの戦車は古代植物由来の黒ダイアもヌクリアも使ってないのでお湯は沸かさなくていいんですよ、さっき話しませんでしたっけ、古い動物の搾り液を破裂させるだけでメリメリのたくります、そうそうモンゴラレスリンが気にかかるようでしたら、これからこいつにバリバリっと直線でまっしぐらをけしかけてみましょうかモンゴリまで、やだよ、オレはこの先ジンブバとかいうアフリケ方面も廻るかも知んねんだ、モンゴレなんか遠回りだろ、いいえ、穴を掘って向こうへ出れば意外に近いらしいです、こいつ穴掘りもいけんのかよ、芸が多いタンクだなあ、それよかお手軽におめんち寄って取り寄せイカ女中の土俵入りでも観覧してこ、なそうしよ、ウランバなんか見てもつまんないですよ、話しは不通ですし、ヨロッパ語知んねえのか、いえ何語も話さないんです、耳がねえのか、親父のいうことはよくききますからある筈です、よし行ってみよ、イカ親父にも挨拶するよ、お宅のご子息を拝借しておりますが実に健やかなドラ息子さんですねえ、お若いのに立派な覚醒剤中毒になられて、わたしこんな馬鹿野郎に白塗り戦車で送られて、嬉しいやら悔しいやら危なっかしいやら、もうウキウキですってな、しょうがないなあ、じゃちょっとだけですよ、ウランバはお持ち帰りできませんので無理を云わないでくださいね、親父決して貸し付けしませんから、オレは相撲取りの融資なんか申し込まねえよ、上野でカバ観てちょっとドライブに連れ出したいんでお貸しくださいましってのはねえだろが、上野ってどこですか、台湾の首都だよ、おめえ小学出てんのかタコ、いえイカの息子です、てめえそういうザレは還暦過ぎてからいえ、カンレキって何ですか、中華のカレンダだよ、あっ、あれあたしまだ食べないんですよ、おまえそもそも小学入ったことあんの、まだ考え中なんですよ、いま食べた方がいいやら、も少し熟れ具合の機を窺わねば大人としてのネバりなき奴めと漏精者扱いされるんじゃないかとかね、あっそどうでも早くキャタに油さ注せドタマに薬注せ、はいそれでは遠慮なく両方ながらたっぷりと、おうぶっ飛ばせ、オレのガソリンが乾いてきちまった、のれえなあ、ジェットエジソンに切り替わんないのか、この釜掘り丸玉タンクよう、ぼっちゃんうちにもお酒は漲ってます、もう間もなくですからご辛抱くださいまし、おっ、あれがおめえんちか、でけえ庭だなあ、長っげえ小屋がたいそう並んでやがる、丈が短けえとこみっとさてはピグモン養殖してアッフリケへ販売してんな、いえ養鶏です、こんなに大っぴらにか、太てえ親父だ、なるほどその祟りで息子がてめえってわけだ、あすこで菜っ葉服はおって禿びた煙草咥えてるハゲがおとっつぁんか、シケた爺だな、そうでもないんです、よく燃えるんですよあれで、おーいイカさま親父ムシロひっ被ってシケモク喫んでる場じゃねえぞお、鶏のぼっちゃんが談判にお出ましだあ、神妙にとっとと酒をお持ちになりやがれ、のろまボケじじいめ、まあおぼっちゃま、ようこそお出かけくださいました、お噂は土曜の夕刊紙ビノブラティンコ・イブニンで存じ上げておりますよ、ええ、『世界の銘酒を訪ねる』の欄で〝電気屋を後にした若鶏の行方を追う〟特集です、是非一度お会いして聞き及んでおりますお毛並みお肉質を拝見させていただきたく存じておりましたのみならず、常々何とかお拐かしさせて頂きたく絵は描けないものかと、ここスパンは絵師が多ございましょう、出入りのペンキ屋連中などと企んでおりましたところ、うちの戦シャブ野郎がまあ驚きましたよたまにはいいことをするもので、おぼっちゃまを拉するに及ぶとは、ほんとうに持つべきドラ息子はタンク転がしのポン中です、それにしてもよしんばしなくても、若様いいお顔色でいらっしゃる、あちらこちらここかしこの美味しいお酒が瑞々しい血の管を休みなくグングン巡っている鮮やかな紅が見えるようです、そのぴちぴちに張り切ったホースをプツリと断てばドクドクと力強い迸りが素晴らしい香を放つのでしょうなあ、とでもかくでも何れにしてでも実にいらっしゃいませ、なんだよ、いきなり気味の悪いキンキじじいめ、アゴ嵌まってんのか、どうでも酒をゾウマンだってんだろ、手羽先が毛羽中までぷるぷるしてきやがった、それは一大事、ウラ子ちゃんこっちおいで、慌ててお客さまに鶏酒をお出しするんですよ、鶏酒だぁ何だいそりゃ、共食いさせる気かよ、夕刊に書いてなかったか、電気鶏ぼっちゃんのお召しは葡萄酒に限るってよ、鶏酒はとり肉の甘みを餌にこしらえたお酒ではないんです、当鳥類養殖場が徹底管理教育する特殊学級畑で育ったセンプラニリョ百パセントの葡萄酒なんです、オレに無断でトリザゲだあ、不穏なラベル貼り出すんじゃねえ、お呷りいただく当家珍蔵の秘酒は手塩に加え隠し味として三温糖も僅かにかけた鶏の栄養をチュウチュウ吸い育まれた葡萄で仕込まれますが、養分達は幼児期より厳しくとり締まられており、皆さんその本意を全うし至高のお酒造りに身を献げた、というわけの贈り名なのです、野蛮な葡萄だな、鶏に食い付く吸血植物か、いえいえセンプラ達は皆とても大人しいもので、一旦植えたところから決して逃げ隠れしたことがありません、虫の付き具合がいいお隣の株を妬むとか、プラニョ畑専属介護養育係のたくましい人夫に色目をつかうなどの不躾もほぼありません、ほぼかよ少しあんだな、はいそれが為に素直、正直、礼儀正しさの中にほんのわずかな徒っぽさがちょっかいを出し、この珠玉酒の大らかさ故の僅かな優しい輪郭ボケを、その豊かな柔軟性のじゃまをしない加減に引き締めるのです、これも手塩手糖にかけた鶏の栄養あっての味わいで、ちょっとまてイカじじい、トリの栄養って何だよ、鶏といってもレグホンに限らず世界中の喰い意地の張られた方々の求める味わい妙なる鳥類様々を当場にて養育しておりますが、どの鳥も昼間は放し飼いです、翔ぶタイプには羽の途中に切れ目を入れておきますと諦めて散歩に精を出すので足腰に天然物とは違った張りが出るという利点もありますが、それはともかく鳥たちの散歩を観察しますと出鱈目に歩く様でも嗜好があるんです、あ、ウラちゃん御酒をお持ちしたか、さあ先ずはトリ急ぎご給飲下さい、お手羽先のご震戦、要緊急加療にお見受けします、なんだウラリン、まわしも締めねえしちょん髷も結わねんだ、ほんもんのモンゴリンかよ、通販で買ったんだろ、ガセつかまされたんじゃねえか、どらどらイカ畑のトリ酒ね、これっきゃねんだろ、ガス欠じゃ喧嘩んなんねえや、おやっ、悪いこたないよこいつ、そこそこ吸い込みやがる、威勢よくどんどん注いどくれウラゴン、おい鶴の一本足みてえ栄養不良のコップじゃまだりいや、一壜丸ごとへえっちまうでけえマグ持ってこい、いやいやトリざけの奴めちったあいいじゃねえかよ、こうスウッとトサカの天辺からモミジの先っぽまでよ、滞りってのかわだかまりってのか、んな引っ掛かりなしに隅々まで浸みてきやがる、トリ細胞の乾いた皺シワがささっと一遍に瑞々しくっつうか酒々しくなりゃがってよう、待ちかねたーあぁ、なんてよ、大見得切ってやがるくせに隈取りん中のグリグリ眼ん玉が嬉しくってニカニカしてんのがめえるようだぜ、ヤッホッホーイとくらあ、ようもっとポパイなジャグぁねえのか、ポパイったってバカ息子が喰らってるアレじゃねえぞ、バケツならある、そんじゃ洗面器でいいや、あ、やっぱタライもってこい、オレがイカ酒へ漬かりゃ早ええや、いえ鶏酒ですが、この妙なる味わいの発端は申し上げた散歩の観察からだったのです、〝朝食の済んだ方から本日の自由行動へどうぞ、では解散〟という放送と共にペタペタと真っ直ぐセンプラニリョ畑へ向かう派があるんです、まるで枯れ木立のような冬は極薄の内目蓋を閉め浅い溜息だけが生きている印らしく物思いに時を忘れ、端午の節句青葉の頃はまるで大きな鰯幟を見上げる豆鰯みた円らかなトリ目に若く繁った緑をきらきら映し早くも実りの期待にモミジをすり合わせ、秋にはたわわな葡萄房の下皆手羽先を組んで静かにハベスタダンシンのステップを踏むのです、そんなんが栄養になんのかよ、いえそのままではなりません、わたしは常々一派の方々を不憫に思っておりました、というのは毎夕寄宿舎へ帰る合図、ラマンチョ・フェラハモニカ・オケスト奏でる荘厳な〝鴉天狗の古巣〟が流れると、がっくりと肩を落としとぼとぼと足どり間怠く、クチバシ重やかに宿舎へ戻るのを、雨脚強く散歩が休みになり日がな食欲もなく床に伏せっているのを見るにつけ、彼ら彼女らの葡萄に捧げる成就し難い、つまり鳥類がボタニカに抱いてしまった不毛な愛に深く同情していたからなのです、イカの考げえるこた解んねえ、わたしは管理者として責任をとることにしました、一派に賠金を払ったか、いえ一緒にさせてあげたのです、合同結婚式を執り行ったんだなイカサマグルめ、小汚くシケきったふりしあがって太てえジジイだ、トリ裁判にかけるぞ、そうではありませんイケてあげたのです、剣山に刺したかイカサドめ、そんな乱暴はいたしません、やさしく埋めたのです、何を、一派の皆さんを、どこへ、センプラ畑の脇へ掘ったトレンチへです、それがやさしいか、はい絞めたり血抜きをしたりの酷い手続き一切なしに、ここは快適ですよ中でゆっくり休んでごらんなさい、と誘い入れた穴から安心しきった無邪気な目で、静かで素敵な休息所をありがとう、というように見上げる信徒さん達に、さあもうすぐですよ、と云うが早いかドサッと一気に埋けたのです、もともとセンプラ愛の派は物静かですが、それ切り微かな寝息の音も聞こえないくらいシンとしたのです、あたりめえだ馬鹿、埋めちまったんだろが、そうなんです、一派のリニョに向ける一途な敬愛のみならず、その愛の充満した本体十割から寸分欠くことなく丸まんまを、えこ贔屓なく全員平等に埋けてあげたのです、てめえはトリの養殖渡世だろ、商売もんを埋めちまってどうするよ、こう見えてわたしぼっちゃんとおなし考えなんですよ、ええ上等な酒を飲むことは何をさておき人生で一等に大切とすべき行いです、その為には生活基盤である仕事や人間関係を駄目にするのは当然です、お宝が要るのであればそこはそこ、道に外れたこと卑怯なことをして如何様にも心配がないんです、いい酒のためにはおっとりやさしい気持ちで無理なくバリバリ非道ができるものです、がしかし一派を生きて丸ごと肥やしにすることは人でなしの業であるどころか最もセンプラ門徒等の望むところだったのです、その証が今ぼっちゃんが漬かってらっしゃるタライに充ち満ちております、よくご覧ください、信徒達の歓喜が弾け出ているのが見えますでしょう、ほらタライの縁でモンキーダンスをしてるのがいますよ、トリのくせにねえ、よっぽど嬉しいんでしょう、酒に落っこちてはよじ上りもうベロベロです、あっ一人ぼっちゃんの口に吸い込まれましたよ、運のいい歓喜だ、てめえ正気か、ええお気遣いありがとうございます、そうなんですそこなんです、一般の特に見るべきところもないスペシャルスタンダードな鈍行ローカル葡萄は酒になってから十年廿年、とろくさいのになりますと五十年とだらだらプレーらしいこともなく放置され、やっとこさ素晴らしい酒に仕上がったり丸っきり駄目だったりしますが、わたしの醸した鶏酒は美味しくなるのを待っているうちに味などどうでもよくなるほど老いさらばえる心配はないのです、熟成などという間の抜けた焦らしはありません、今お召しのタライビノもつるつるのヌエボン御目見得、わたしは葡萄に埋けた皆さんの敬虔なお顔をいちいち憶えているくらいです、センプラはスパンじゅうどこにでもある標準偏差じゃ五十凸凹と普通のもので、それほど自分の体調に関心を向けるタイプではありません、活き丸の純粋な肥やしを多量に摂ってもせいぜい、何だかオレたち脂のりがして艶がいいなと思うくらいです、しかし担当イストのセンサはとても鋭く、丸肥プラニョの大ぶりで豊満な粒が乱暴、凄惨なやり口に息の根を止められ、黒光に輝くマサイ・コンシャスな豊満ボデイは跡形もなくぐっちゃぐちゃに圧し潰され、汚ならしい呑みすぎた赤んぼのゲロみた、ロドリゲス変性が疑われるまでにジェル化したところへとり急ぎ面会にかけつけたとたんです、その只ならぬ千載一遇のポテンシャリを見抜き、あてがわれた甘みを食べてはアルコルとガスをこしらえる、定時になったらどんどんうちへ帰る、あとはまた明日という普段のルチンな仕事を忘れ、イスト職域の則を越え、本気もろ出しの無我夢中で鶏酒を仕上げてしまうのです、酒を見守る、時代をつける、熟成、などという知ったかぶった無責任な常識を放り出しておりますから半日で落成します、当然助っ人がいると勢いが違いますので、まだ酒が大っぴらだったササン朝から喉が自慢の店員を招聘して頑張るんです、店員、ええ酒屋の、何やらせんの、応援歌を唸ってもらいます、ササン朝からわざわざやってくんのか、ほんとに来るわけではありません、イストの心意気、妄想を申し上げたのです、ササン朝はだいぶ前にお開きになっておりますし、ふうんイカの与太はもういいや、帰る、ぼっちゃま鶏酒に何か不都合でも、ないよ、云ったろ悪くねえって、おおい、おタライを口いっぱいにさせていただきなさい、どうぞもうしばらくお漬かりになって、ほらほらおつむりをぐっと中まで力いっぱい押えつけてさしあげろ、オレを溺れさす気だな、行酒は仕舞いだ、バスタオル持ってこい、いやあトリはトリ屋とはよくも悪くも云ったもので、一派の純粋が艶やかなお羽のすき間からのぞくお肌の桃色に信心深く映えていらっしゃる、新鮮な血潮の目眩く若気の到りきったブラッボーのみならずトレッボーな香を手に取るようです、やはり親和性ですねえ、いやな目で見んじゃねえ、じじいオレを埋けよって腹だな承知しねえぞ、いえいえとんでもないことでございますよ、わたし来シズンはサピエン酒をやってみようと、センプラメニヤックなホモサピを募集物色やぶにらみまでしておるところなんですから、いよいよイカモノ漁りが極まりやがった、おいポン中いるか、お積もりだ、お暇だ、タンクへ薪だ、早くしろい、オレは只今生命の危機に瀕してるかも知んねんだ、急げ、はいはいぼっちゃんタンクの爆発はいつでも手ぐすね引いてスタンドバイですよ、ご酒の方はもういいんですか、おみやを積みましょうか、おいドラやちょっと来い、あのなぼっちゃんを決して逃がすなよ、ポチュギまでまっすぐお連れしろ、すっかり話はついてる、なるだけポルトの近くまで引っぱれ、納品がすんだらタンクもポチュギ軍へお払いにして,六十七年モノのコスミョ・スポツを買え、余ったお足で途中何をしてもかまわないが車だけは大事に乗って帰れよ、あたしはあのペラっこいイカれたスポツカが欲しくて仕方なかったんだが、スパンには誰が邪魔するのかしないのか、いい子がまるで入らないんだ、それがな、さっきポルトの市場に瑕疵はヘビペッティング迄で准生娘証明付きの出物があってな、アワ食ってウナ電シビらかしておいたんだ、ドラさんがお見えになるまでお取り置きいたします、と返事も電報屋のサムがいま持ってきた、頼むぞ忘れるなぼっちゃんを納めるのが先だ、いいなおまえがヘタさえうたなけりゃこの先廿年はイカイカごっこで暮らせるんだ、そしたらわしも死に頃だろう、なんと身性がいいというか仕合わせがいいというか、帰ったら鳥商売もウランバウラ子もみんなおまえに譲るぞ、ありがとうございます、ウラウラはいらないのでセンプラへ埋けてもいいでしょうか、枯れてもいいのか、まあ好きにしろ、ただし西北東廿一度斜面のママシタ・プラニョんところだけは駄目だぞ、あすこは楽隠居の慰みにホモ酒をこしらえるんだが、ホモサピなら何でもいいんじゃない、あたしはコスミョでハンチングへ出る積もりだ、どちらへいらっしゃいますか、先ずサンフラワ号でマツドへ出てロリタ・エジソンをオバホルしたらシベリン線に沿って戻りながらスラビンをえさ釣りする、バジンビンテジの肥やしは八割を連中にしたいんだ、シベ線沿いはスラビョンの喰いがいいんですか、外道も多いらしいが奴らがうようよしているのは間違いないんだ、いざとなればコロガシもあるがギャングを見たようなまねはしたくないし、何より五体満足なまま埋けるまではキズものにしたくないしな、シベリン線に添って行くのは、あのデグって巨漢なユラシア右端からずっと左のソ連舗舎弟群までロリエジを診るうちが一軒もないらしいからなんだ、マツドの旦那もイスタン・インダストラ社なんて威張った看板上げているくせにやることが殺生だ、コスミョのデカまなこを知ってるだろ、あんな上目づかいで爺の褪色した色気を鷲づかみにしておいて、乗ったあとは狸顔で死んだふりなんて、つくづく悪質でよくよく最高な情人みた組長だ、ともかくもあのド大陸でコスミョに患われては往生だろ、シベリン線に伴走してもらうのは保険だ、そう、緊急時には引っぱってもらうんだ、どういうわけだかシベ鉄は外車の積載が禁止なんだ、あのむさ苦しいぶ厚い鉄板列車の漕ぎ手はみんな元不良だから、一人残らず異種牽引の腕前が皆伝級らしい、連舗のスラヴィニァンは白皙人中では飛び抜けて不潔だし料理も悪いので何でもふしだらかというとそうじゃない、ちゃんとおさえているところはあるんだな、まさかベジュ色のコスミョを引っぱるためでもあるまいに、どうでしょう、緊急時には車を賄賂にくるんで積んでもらったら如何ですか、いやだめなんだ、不格好でボルハチ臭い汽車の振動はロリタの性格を歪ませて、悪くすると非行に走ってボルシェビッコなるってはなしだ、そうですかビッコにするわけにはいきませんよね、ところでそのコスミョはベジュ色なんですか、あ、いけない訊いてなかった、もし違ったら、おまえ途中ベジュ使いの巧い絵描き、ええとなんだ、そうだナカニシペイント、あそこへ寄って塗りに出してくれ、たいがいにしろイカシャブ親子丼め、ドラシャブ戦車がぐずぐずしてんなら一人で逃げるぞ、パトタンはおまえにやる、畑の真ん中に盛り土して飾れ、近所の農夫が攻めて来なくなるぞ、攻めて来たことなんかありませんよ、ぼっちゃんの安全はわたしが万事保障を条約いたします、ご安心下さい、さ搭乗準備が整いました、どうぞ助手台へお上がりを、おめえの安全保障なんざねえ方が気楽丈夫でいられらい、じゃなイカ爺、あんまし変チクった企みしてっとそのうち東のドグラに西のはずれまでマグられるぞ、スピドペダルを床よか下までぶち込め、ブレキンなんざひっぺがしてうっちゃっちめえ、何やってやがんだグズドラ、今さらハンドルさがしてんのかトンチキ、出立の狼煙をさがしてるだと、どっかへ合図送ろってんだな、間違げえねえ、おめえら日陰なこと企んでやがる、いますぐペラの停留所までまっつぐ転がせ、ジンブバ行きだぞ、それがブバジン行きのペラコプタは今運休中なんです、エアロ・ブンジ・アフカノ社の廿一人乗りがあっちへ行ったきり戻らないらしいんです、ちゃんと予備のペラも二枚付いたネズミ色の車体で墜落などほとんどしたことがないというんですが、早いもので、もう出ていって七年だそうです、七年も捜してんのか、始めから捜してはいないらしいです、てめえの話しはききたくねえ、どうでもペラハイヤをすぐ呼べ、スダンニグロの若い飛ばし屋付属のジェット回転翼ひとっペラ雇って逃げるぞ、ぼっちゃんスパンは近頃油の贅沢にうるさくて日雇い空輸がダメなんですよ、じゃこうしましょう、お空を通ってジンブバ方面へお越しになるんでしたらちょうどいいお話があるんですよ、お隣のポチュギ村にあたしのお友達でアマチアロケッツマンがいるんです、エムトンていうオカマのイングリマンですがチビでハゲのくせに今日の夕方ダニエル一号を打ち上げます、それにお乗りになったらよろしいでしょう、馬鹿オレを宇宙へ送ってどうする、いえ送り状には宇宙と書いてありますが、何しろ歌の上手は素人玄人そろって素っ裸でも宇宙船の運転は初めてなもんで、今回失敗してブバエ空港へ無事緊急軟着陸する予定になっているんですよ、上手くいけば、大丈夫、奴も重いアル中ですからすぐにうちとけますよ、もうしゃべるな、いいかロケットってのは潔いい乗もんなんだ、見当が外れりゃパンと破裂して粉んなんだ、やり損ないの軟派着陸だあ、んな往生際のだっせえおかまロケットなんざ願い下げだ、ぼっちゃんスッカりガスリン切れにお見うけします、オレの肝は中央だろが地方だろうがどこの演算野郎もかなわねえ処理屋だ、アルコルが、どうもこんちわ分解よろしくなんてお愛そ云い終わんねえそばからササッとなきものにしちまうよ、もう予備タンもカラッカラだ、それはお体に障ります、あたしウニ子でウニーコを廿一本ばかり積んできたんですよ、それでつないでおいて下さいまし、ともかくスパンは何かと不都合なんです、ロケットは別としてポチュギ村までスッと抜けてみましょう、ウーニが処理済みになるまでには着きますよ、おっつけっ放し、右も左もムチの入れっ放しでまくりっ切りにゴボウの抜き放題をご覧にいれます、それから村には少し設計がズルむけてるんですがキッキーな葡萄酒があるんですよ、ポルポトっていってとても酒臭い港町が本場でカボチャのヌアンスが大変な人気です、ね、楽しみでしょう、おいポチュギは村かよ、昔はグロブ中をバルバル鳴らかしてたんだろ、斜陽ぶりの重篤が激甚だなあ、いいよそのかし一気に行け、老いぼれ、ガキ、信号何でも邪魔もんにかまうな、対向車よけんじゃねえ、ブレキンペダル取っ払ったたか、オレは心からてめえを疑ってんだ、不穏な所作でも目でもしてみろ、問答無用ドタマぶち抜くかんな、あれペストルをお持ちでしたか、おうナンブ式トカレフ七十二口径マグナムの心意気だ、心意気ですか、おうあれのトリガは手羽先向きじゃねんだ、意気込みだ、シェイってな、えっシェイですか、本式にはシェシェシェのシェーッてんだ、てめえなんざシェイでも大盤振る舞いだ、一発でジャンクつむりの腐れ味噌残らず耳から吹きださあ、からっちりんのシャレ骨、あとが気楽だぞ、いまやっか、ん、まだいい、しっかしこのウニ酒よう外のめえねえタンクん中でやっとオツだよドクドク犬畜生みてえに裸足で乗り込んできやがる、おいヌキよこせ手羽先仕様んだ、はしから開けちまうぞ、何い、もうまとめて抜いてある、危っぶねえなあ、ペイ中ポン中ってのはアデクトもん至上だ、そいつが欲しけりゃひねた蒸し親二時間冷蔵庫へぶち込んだら新鮮な生娘のみじん切りをたっぷり塗しやがれくれえな注文二つ返事で請け合うこた請け合いだ畜生め、ぼっちゃんロドン弁が江戸訛りで粋ですよ、何おう田舎もんのトリ扱いしやがって、おだてんじゃねえ、オレはスットコッシュよ、ほんもんの田舎もんだべらぼうめ、のたくた煩えってえと向こうずねかっぽじるぞ、かっぽ汁、何かすね肉のソップをご所望ですか、それもこれもポチュゲポリポトまで行けば自由自在です、さあ花火を上げましょう、七千発はあるんですから心強い、いつの間にか積んどいてくれたんですよ、このとおり火薬の筒で特製大型トランクも寿司詰めです、それも鯖寿司ですからキッチキチ、お富さんそういうところが実に気が利くんです、ファイアワクマンにしておくのが惜しいくらいな農家の長男坊で、ゆくゆくは跡を取るので今から花火の栽培を研究しているそうです、それからこの戦車は急に花火をたくさん運ぶ用ができたときの為にとても丈夫なこしらえなんです、打ち上げる前に花火達がその気になっても酢鬼を喰らうくらいなけろりんしゃんですから、どうぞ枕をお高く、さあお待ち遠さまトップスピドで天国へご案内いたします、てめえはいちいち不気味がらせやがる、オレあどっちかってえと地獄が好みだ、あすこは出しもんが多いんだろ、悪血のお池にベロ抜きエロンマ野郎、針千本の山河ありてえじゃねえか、ばっくり平和な天国は駄目だ、カンダっ子の趣味じゃねえや、ぼっちゃんスットコランドからお出ましでしたがお生まれお育ちは神田でいらっしゃいましたか、オレあ干物臭せえエシアはでえ嫌れえだ、おう目ん玉かっぽじってよく聞きやがれポンシャブめ、エジンバレは知ってんな、その南裏っ手を八十里下るってえとカンダベリって罪深い地区があんだ、そこで産湯を使ったカンダっ子よ、取り柄のねえとこだが女は節操がなくていいぞ全員尼さんでどれでも買えるんだ、鶏でも客にしよってんだからその世界の式ってもんがまるっきしねえのよ、ちくしょうグレブリにもちったあいいとこあったじゃねえか、ウニ酒ってのは戦車用に仕込んでんのかよう、だんだんよくなりゃがる、ボルトがマグナムったりデミったりもうグニャグニャしてらいっ、ウッウッウニコオールナイとくら、ウニ子も二三匹ひっ捕らえてくんだったな、おい注射野郎、運転はいい加減にしてどんどこ大玉をぶち上げろい、と薬物混入の廿一本を空にして寝入ったところを既に国境越えし滑走路兼用リベルダデ大通りでタンクごとフラチンシンジゲトから請け負ったポチュギ村軍のアントノフ124にパリッとしたインボイスをくっ付け代引き納品し、養鶏所のスピド息子は児童公園の水道で顔を洗い太いのを一本決めるとさっぱりした健康体で予約の売店へコスミョを買いに向かったという訳なのです」

  つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?