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HKTDC ・1

 
「こぬか雨もよいながら爽やかなモーニンです、新緑に露玉輝くも眠り目な朝間に相応しいキリッとした話題からお届け致しましょう、魚臭い臨海都市部から発症し今や沿岸部のみならず山岳地帯まで猿を相手に感染が普及し更生使役省宣伝部指導の下電波系マス込みを主とした再三再四にわたる応援歌が功を奏し依然円満具足の気色見えずの、振り込む詐欺、ですがこの地味なタイプのプレーに潜む意義素が不明だといわれるシニフィエを朝っ腹から脳波に何の乱れも無くテレビの前で閑居されているもののお解りがなかなか厳しい小人の方々にも易しくこれを得心するに到る天井の抜かし方のイロハについてご指南いただきましょう、鹿沼農芸大学校准講師心得、斯界の権威、花穂繁氏をお招きしております、先生おはようございます」

「ゲッダイ!娑婆以来!バッツ・シゲリことハナホです、ご心配なく、話しらしい話しはありませんし話しづらい話しもないので、どうぞ帯紐お解きになって」

「ではバッツ心得、先ずそも、振り込む詐欺、とは何奴というところから、もうどうにもこうにもテレビ画面に頭から胸まで突っ込んで心電図を垂れ流すより思い付きがないお茶の間に蟄居する、往事よい子のみなさんであった、今では往生際の始末がつかない翁、媼にひねさらばえたお歴々にあっても、ニヤッと笑って合点承知ノ助六、といったご気分を楽しめる様な、歳も忘れてあちしも、わっしもと腰も立たないくせに我先に窓口に向かって駆け出すような喧伝をバックリとお願い致します」

「バッツリと宣伝ですか」

「いえ、バックリ喧伝です」

「聞いていませんでしたがどうせ口任せですからまあ何でもいいでしょう、ええおそらくこんな訳なのです、本邦は世界が羨む極老大国ですが、その担い手たる最早などとっくの已然な一毛の役に立つ由もない百千万のロートルに向け、何の呼びかけ、組織、黒幕一切なしのスポジェネで、しかし茸のように輪もなさず各々個人の善心から放たれた夥しい数の回春剤とも云うべき流行、これは本朝における頼もしい後継者による見返りなど一顧だにしない、善行悪行とり混ぜて行き掛かり上幾多のご苦労をされたり又そうでもなかったりの先達に対する驚くばかりの馬鹿バカしさとはいえども気軽な割にはとても心のこもった感謝、慰労の行いと考えてよろしい、あとから見れば、なあんだそうかあ、と云うようなものでも、それを思い付いたニイさん方はちょっとスマートな金っ離れのしなやかな、四肢捌き素軽い故の滑らかな、屋根さえうっかり気づかないほどの手前の変えっぷり、全体どの辺りが可笑しいのか素人にはとても解らない流派不明の笑いを身上とした、人生がどうしたのしないのと暑苦しいこと云っこなしの実に爽やかな若人達で、どう猜疑の目で見ても、外連、押しつけ、予定調和、談合など面倒くさい約束など知ってたまるかな笑いがこのジョニー赤ラベルを濃縮蕎麦湯で割ったような世間にあるべき道理が無いところへ何の気遣い、努力、汗臭さ、一切関せずな彼らが、五月半ばの雑木林をザザーッと抜けて来たフィトンチッドが目に染みる一陣の風から希望を綺麗に取り除いた様な舞台に現れた事は大いに得がたい機会でしょう、得ようと頑張った方もおられないでしょうし得なくたって一向障りはないのですが、ふふふっ、という息が思わずもれてしまう様な、期待のまるでなかった分余計に素直な心地をすっと無防備にさらけてしまう、さらけてしまってから、何だこんな正直者がまだ何処かへ仕舞ってあったんだ、と尚今一度、ふふふっ、と左肺上部が少し痒いような呼気で空気を遠慮勝ちに揺らす、そんなカズアルな仕合わせなのです、ところでミソタポアメの文明水道管が専門で拙が第一人者、第二人者がいませんから呑み放題イカレ放題のみならず様々に放題尽くしな私にですよ、いくら相手は馬鹿だとはいえよくもこの糸瓜の皮のくせ七面倒くさい茶飲み種の釈明だか談判だかをやらせる気になったものだとご担当のお役目に対する委細構わなさに感服しております、ええと詐欺ですか、そもそもというか、そろそろ、いえ、それそれでしたかどうだか、先ずかけ声は何でもいいとして、ミソタポアメの文化系をひとまず仮に代表するものとしての文明水道管というものはどんなものであったのか、あるいはなかったのか、大きさ、材質、色、香、中身一式の飼育栽培方法、そういった事は分かっていないのです全く、いえそんな心配は元より不毛です、と云うのは彼の時代彼の地に文明だろうが開花だろうが冠名はどうでも水道管などあったのかさえ十分怪しいにも拘わらず、あったかも知れないという些細な痕跡さえ捏造する熱意が私にはまるで無いのです、つまりこの的が朦朧としている所の研究者である私には自由が保証されている訳です、どんな頓痴気を口遊もうと、あなたそれは違いますよ何故ならこれこれという逆ねじ、口答えは無理だとか何だとかではなく無いんです、始めに申し上げたようにこの科に他の学徒は一人もいませんから安心なのです、仮に素人さんであっても私の理屈を気にする方はおられません、そりゃそうです文水管では国士無双な私本人がこれに就いての説なり思い込みなりが万が一あったとしても、口を滑らせる相手もおりませんからそれを漏らした事なぞ金輪際なく、況してや論文などちゃんちゃらだとキッパリけじめをつけているのですからカモもミミズもないんです、何のケジメと申してそりゃスコヤもんと別もんとのですよ、さあ皆さんもうお分かりのように私は限りなく付きの自由な身の上なのです、そんじょそこらの根無し草とは根の無さ加減の根の太さが違います、なんだってかんだって取り合う了見がありませんので、ハハハとでも笑っておれば万事拙など気にも留めずパリッと乾いた洗い立てのランニングシャツのようにサラサラっと過ぎていきますから、理想しうる最も何でも無い容態と云ってよいでしょう、そうなんですこの通り静謐そのものに見える内心は『グレゴリー正直に云うとオレ先週の水曜以来ペクちゃんにぞっこんなんだ、お前なら解ってくれるよな、味方してくれるよな、なっ、あの時のことは悪かった、謝るよ、きっと埋め合わせする、だからいいだろ、お前の新妻だって事を忘れちまえばいいだけなんだから、ほら簡単だろ』というようなシーンですね、或いは、『シェーン待ってくれ、オレもう子供じゃないぜ、カンパァーイといこうや、頼むよ一人にしないでくれ、そうだ久し振りにちょっとローチ・スクーピンでも踊らないか、おまえが踊ればみんなが笑うよ、さっ手拭いだ、ほらザルだ』なんて言いまわしもあるんですか昨今は、いや取り違えないで下さいね、変調しているんでも、出まかせ応答しているんでもないんです、あまりの穏やか平静、無事無風に叫び踊り狂いたくなる気持ちがないではないんですが、そんな事しやしない、ただうすぼんやりと中空を漂う半眼らしい奴がこんな自家中毒症状を見ているだけです、では独り学徒らしく軽くハミングしながら小躍りくらいやるかというとそれも要りません、自前の目玉を裏にして頭頂方面をグイと斜めに見上げれば、そこには私の限りなき自由がこんな狭い所によくもまあ、と呆気にとらるべきフルサイズのパノラマスクリーンに私だけのために映し出されているのです、さあここで皆さんが持ちあぐねている大概の空欄が充足したのをご確認いただけましたでしょうか、よしっと、さあこんなところでね、いい事としていただきましょう、何しろあたし激甚クラスに酒が呑みたくなって皆さんとほっ付き合っていられる病態じゃないんです、まったくこの静かなシャングリラにも一つだけ瑕疵があって『お手数ですがお酒は各自ご用意下さい』と但し書きがあるんです、そこだけ実に吝い、ではご機嫌ようさようなら」

「先生、今朝は、振り込む詐欺、の解説をお願いしておりますが」

「振り込むって誰」

「あの、品質は構いません、振り込む、様な雰囲気のお話を何でも少しだけ、二、三分、いや一、二分で結構です、お願いします」 
「申し上げたように私の肉体・精神は風雲急を告げておるどこか見かけはともかく叫んでいるのですよ、じゃ帰る」

「おいおい係員、大急ぎで先生に御酒をお持ちしろ、一升枡で」



「おっ人足、大儀である、なんだなんだもっと弧の形に盛りなさい一升枡はその気になれば一升二合八石は乗るんです、そんなことは下戸を気取るフイフイさん方だって知ってます、よしよし、先ず軽く、ごん合くらいを一息にっと、ふうーっ、も一つ一気によいしょっと、ふぁーっ、よしっと、で、ですよ、振り込む詐欺、というのはそもそもですね」

「先生、お分かりじゃないですか」

「ええと、つまりあれです、そうですミソタポアメの人々はですよ、おおむねミソタポアメ一帯にお住まいになっていたと考えられましょう、そりゃそうです、どうしたって千葉の落花生農奴が豊後のカボス園で剪定などするもんですか、しようがしまいが私は口出ししませんが、あなたは気になるんですか、気にしない方なんですか、いやあ知ってたまるかって目をしていらっしゃるなあ、いいお顔だ、よしよしこの御酒も悪くないです、なかなかだ、そこでですねミソタポアメの水道管が仮にあったとしての話しですが、その管にですよ、地球なんぞどこへでもうせろっ、ぐずぐずしてっと屑やへ売っ飛ばすぞこのヒョーロク玉め、というくらい極めて旨い酒がかよっていたとしましょう、そのばやいこれを水道管と称してあなた平左衛門ですか、違いましょう、三尺のこわっぱだって分かります、うんその通り酒道管ですね、その子供だって大してはっきりした児童じゃないんです、何のこともない大ぶりで健康ですが物覚えの華奢なかかさんからポイと出て、ててさんが不明なのはいいとして、そこそこ何やらしたりしなかったりし、まずまず時を過ごしてふと死んでしまうという話しにも何もならない極上質な人生を歩む或いは寝たきりでも大いに結構ですが、そんな予定のお子さんです、予定を組んだ代理店は分かりません、ですからその株仲間なり鑑札ブローカーが奴とどんな関係にあるのかないのか、もっと云えば工んでいるのか、とんでもない、工む以前にお互い知り合いでもないどころか生きている時代も全然違う、とフルスケールな言い逃れをするのか、という事情彼是は綺麗さっぱり判りません」

「奴ですか」

「今さら何ですか、犯人ですよ、私、振り込む詐欺、の翼賛に呼ばれて来たんじゃないですか、まったく寝ぼけてないであなたもほら、ぐっと一杯おあがんなさい、やっつけで見つくろった割には悪くないですよこの酒、ええと先ずタヱさんですね、彼女は元々ユグチュユモトの在、村長さんのご長女でお小さい頃は何不自由なくのびのび育ったのですが、長じていろいろご 苦労があったようです、初めの旦那がわからず屋で本当に何も分らず子も成さぬうちに呑みすぎてゲンゴロウ池へ嵌まって死ぬ、後口の夫は小柄な腕のいい水車大工で出は農家の八男坊、まじめな人だったんですが最初の子が何と蛭で生まれた、我らが葦原の中つ国黎明期より綿々と連なる伝統中のデンドウイ、時空を鮮やかに越えた神業なるも惜しむらくは錯誤に基づく隔世遺伝と村中もまた己の錯誤を承知で拝んだらしい、しかしタヱさん考え直して次からはちゃんとヒトの子が生まれたが、後からあとから女の子ばかり年に五六人、そうこうするうちに八男、全身に盲腸が廻り死ぬ、ぞっくり揃った娘ばかりをタヱさん溜息まじりによくよく調べたら、いた、一人男だったんです、この子が前後どっさり女子に挿まれて育ったとは思えない武張って利発なますらおのこ、まだ鼠蹊部に発毛もないうちからお母さんをしっかり支え、家内唯一の一物が立派に太棹となった頃には一家の方も立派に立て直したんです、タヱさんどれだけ嬉しかった事か」

「タヱさん」

「ぼんやりしてないできちんと話しを聞いたらいかがですか、さもう一杯ぐっと、電話をかけた先ですよ」

「は」

「あなた、はっきりして下さいよ、いいですか、奴はタヱさんを狙ったんです」

 
『もしもしお母さんお久し振り、三男の小冶郎です』

 『はてお前さん三男のくせに小二郎かい』

 『いえジは鍛冶やの冶です』

 『うちは酒屋だよお忘れかい、とにかくコジロウ元気でよかった』  

 『お母さんも息災のご様子、安心しました』

 『はいありがとう、じゃあお元気で、さようなら』 

 『あ、ちょっとお待ち下さい、わたし大事な用向きでお電話差し上げたんす』

      つづく

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