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タクシー・12

 

いずれ正気から遙か彼方におりますが、この裁判大変な人気で毎回イタリンはオクションにかけ売り出しますが、これをあるウサギ年の事、東京が競り落とし上告審までロングランした折り、どんな手違いか正義があったのか別どっちもなかったのか、最高裁判所判事が何の廉かは非公開でしたが全員被告になり、初公判もまだだというのに処刑準備の整った小菅に住民登録していた為、余儀なく外国のシュプリム・コートへ丸投げアウトソーシングすべく入札したところ、桁違いに安かった誰も聞いたことのない国が落札し、ここの裁判所がほとんど裁判の経験がないのと因果律という思考が極端に不得手な文化的特性が相まった結果、被告はおろか先の出演者に加え、原告、警備員、掃除夫、傍聴人他、裁判長と目が合った者全員に極刑を言い渡しました、丸ごと統一公判には特設会場としてサバノモト・スタジアムが充てられ判事が外タレでフダは高かったが満座の入り、呼び屋は最高裁の定石やり口なんかどうでも気にせず、いくらでも引っぱってくれろ、と鼻薬を効かせていたにも拘わらず、猫好きの裁判長、国元の女房から『マタの食欲がないの急いで帰って』の電報を受けると矢も楯もたまらず、一回公判で審理省略式結審、そのまま判決言い渡し『おいっ、猫又外人、何をさらす』とプロモーターは凄んだがもう遅い、一年や二年は固いと踏んでいたメインエベント狂言が、まるで大初の幕が開いた途端、塩冶判官、由良之助は元より、おかる勘平、力弥に小浪、誰が呼んだかびしょ濡れの定九郎ちょっと恥ずかしそうに、末席には猪までご着座の集団切腹の場といった軌道なしの弾け方、面倒くさがりの裁判長は知っちゃいない『人定質問、審理は刑の執行残らず片付きマタの元気が戻った後、改めて正義を旨として吟味する』と不思議な前置きをして『主文、皆の者を本日これより最期の午餐を挿んで屠腹を命ずる、希望者にはドタマ打ちを計らうものなり』とやや低い声でやたらにゆっくりと、訛ってはいるが、しっかりとした日本語で宣言すると数万の観衆を左から右、下から上へと睥睨した、さざ波のようなざわめきが徐々にグーッ、グォーッ、ゴーッ、ゴォーッとせり上がるボリューム半ばと思しき頃合い測り、一っ調子半上げ少々上すべり気味の声で『皆のっ衆、静聴すべっしっい』と妙な変拍子を気どった言いまわしで一喝し、しばし呼吸を整え、よしっ、という濁ってはいるが鋭い目付きで〝喧嘩〟を大型犬が唸るような低音を響かせ〝けんーん〟ときて〝くわぁー〟の〝く〟を喉を絞められたキリンのように首を振りながら〝くっくっくっ〟と途切れ途切れに、〝わぁー〟を羞恥をかなぐり捨てた強化型広東二声でお尻を一気に捲り上げた、そこで今まさに皆の衆を次の数音節で世界もろともまとめてぐるぐる巻きに梱包し向こう側へ発送するぞという自信にのけ反った態度で数十秒の長きにわたり民をまなこ玉のぬめりに弄ぶ間、頭蓋中に蒙昧のぎっちり詰まったサバノ衆生総員の尿道は青みがかり、総てを失う期待に直腸が熱々に痙攣しながら膨張した、〝両成敗〟、〝りぃよぅうぉー せぃいーい ばぁあーいぃー〟と待ちわびた早春の到来を鮒どじょうと共に喜び、中秋の名月を兎と並んで団子を喰いながら愛でる、そんな生き恥をさらすだけの人生を選んでも欲しい、心臓と脳味噌をまとめて質においても欲しい一点の汚れなき芍薬の蕾だか何だかそんな様なものは、爽やかな香の東多磨郡特産冬眠直前の秋豚ラードを、

つづく

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