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タクシー

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宿泊していないホテルを三人の男達がチェックアウトするまでのしばしに命がけで繰り広げる雑談
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#短編小説

タクシー・1

「嶋田畜農養育園出身のマルキドホマレですね、徳川晩期、当時咎人から人気をとっていた風光明媚で米が佳く、つまりは酒がいい、女賊もいい、あの悪太郎どもが憧れた流刑島は中部の縊れお仕置き地区にほど近い括れ部落で発見された野生種が発端の栽培物で、只今小僧さん躙り込みと共に香る裏日本系の、若やいではいるがやや陰気に湿った軽い黒煙臭は、雌の幼鳥つむりに冠した黄なる硬きトサカが為、炭は左胸、右腿のどっちつかずです、実に分かりやすい、わたしこの桃源島で畜農の養育に服務する嶋田さんとは懇意でね

タクシー・4

これはまずいというところをきっかけに二人海を渡り南へどんどん逐電したんです、あてずっぽうにボロニャン迄やって来て南京街の用心棒になったがこの彼めっぽう女好きがする、間もなく東洋メニアックなボスの女に喰われて今度はめっかった、男の留守中に遊んだ折、間抜けな事に親分にもらったばかりの財布を忘れて中に入れた女からの誘いの手紙を見られたんです、ボスは奴の両手両足をへし折らずには勘弁ならぬと大いに怒ったところを、この娘をそちらへ納めるので何とかどれか一本で手打ちに願いたいとぶるぶる震え

タクシー・5

この二羽分の皮をこの道八十年、五歳から習ったバイトのお婆さんが夏場のエスキモルックでチルド室にこもり、熟練の技で丸一日かけ丁寧に剝ぐ、これが一セットとして桐の化粧箱に納められ、熨斗には島一の老書家タッチ・ハヤナリイジョの手で“特級皮両染色体保証ロベルテ・チョンガ謹製”と揮毫されます、八十年キャリアのお婆さんは十四人いるので日産十四箱が可能でも、雌鶏を貫く然るべき人手というか、的主不問の若い太竿が慢性的に品薄というわけで、いよいよロベッチョ皮は珍貴のあたまんなのです、ともかくも