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【考察】劇団四季『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の演出変更を考える

 こんにちは。今回はタイトルにもあるように、劇団四季オリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の演出変更、とりわけ1幕にベンが歌うタイトルナンバー、「ロボット・イン・ザ・ガーデン」が一部カットされた理由について、自分なりの考えを綴っていきます。

 なお、本作の核心に触れる部分がいくつかございますので、まだこの作品を観たことが無い!という方は、ぜひ、一度本作をご覧になってから、この記事を読んでいただけると嬉しいです!

・本作の概要

 ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(以下、RIG)は、劇団四季が16年ぶりに製作したオリジナルミュージカル。原作は、イギリスの作家であるデボラ・インストール氏のデビュー作による。劇団内外の気鋭のクリエイター達に加え、物語の中心を飾る壊れかけのロボット・タングを手掛けたのは、自ら俳優として活動する傍ら、パペットクリエイターとしても活躍するトビー・オリエ氏。2020年10月3日、東京・自由劇場にて初演。2021年1月東京再演、同年4月福岡初演を経て、ブラッシュアップされた本作。昨年12月22日から今年1月23日まで、東京・自由劇場において3度目となる公演が行われた。2月からは京都公演、5月からは全国公演を控えている。

〈ストーリー〉
アンドロイドが人間に代わって家事や仕事を行う、今からそう遠くない未来。
イギリスの田舎町に住むベンは両親を事故で失って以来、無気力な日々を過ごしていた。
妻・エイミーとの夫婦仲もうまくいかない。
そんなある日、庭に壊れかけのロボットが現れる。
「きみの名前は?」「…タング」
ロボットに不思議な魅力を感じ、ベンはあれこれと世話を焼く。
そんなベンに愛想を尽かし、ついに家を出て行くエイミー。
ショックを受けるベンだが、タングを修理するため旅に出ることを決意する。
アメリカ、そして日本へ。やがて、ある事実が明らかになる……。

劇団四季公式ホームページ『ロボット・イン・ザ・ガーデン』作品紹介による

・今回の公演に見られる、主な変更点

 ここから、前回公演での観劇2回と、今回の公演での観劇1回に加え、1/23に行われたライブ配信に基づいて、作中の演出変更について気付いた点を挙げていきます。

・作中のナンバーについて

 なお、曲名の変更にあたっては、本作のパンフレットを参照した上、
#内の数字は前回公演に依るものです。

 全体的にナンバーのカットや、一部省略などが多い印象です。実際、前回公演の上演時間は約3時間だったのに対し、今回は2時間55分と、少し短縮されています。しかし、その分作品がよりシンプルなものとなり、ダイレクトに伝わってくる部分も多くなったように思います。正直なところ、初演の演出・構成が染みついている身としては、「Rise!」や「Void!」の変更、「冒険の旅へ」のカット、そしてタイトルナンバーの一部カットは、違和感を覚えました。どうして削ってしまったんだろう?という疑問は残りますが、その中でも、タイトルナンバーの変更点については、「なるほど!」という考察ができたので、後ほど詳しく書いていきます。

 この場で詳述しておきたいのは、2幕の「地上の星雲」です。前回公演では、ベンとロジャー枠が歌っていました。特に、ロジャー枠の男性は、どこか表情が暗く、俯いている様子で、「もう一度生きてみよう 大切な人のために」(ニュアンス)という意味深な歌詞も相まって、今から身を投げ出すの?とすら思ってしまう佇まいでした。ですが、今回の公演では、ロジャー枠→デイブ枠と歌い継ぎ、最終的にはキャスト全員で歌唱する演出に変更されています。この変更は、「生きるということは尊いこと」「今は辛くても、人生は輝きに満ち溢れている」といったナンバーが持つ意義が、よりシンプルに、かつ分かりやすく伝わってくるものとなりました。

・作品の軸について

 前回公演(東京初演、東京再演、福岡初演)では、タング役以外のキャストはシングルキャストで、ベン役は田邊真也さん、エイミー役は鳥原ゆきみさんが演じられました。前回公演における作品の軸、すなわちストーリーが進むうえでの核となる存在はタングにあるようと思っていました。希望を失い、前を向くことを拒み続けてきたベンがタングと出会い、タングを直す旅を通して、2人の絆は固いものとなり、ベンとタングが「人生再起動」をしていく、そういった印象でした。

 しかし、どうも今回の作品の軸は、ベンとエイミーにあるように思えてならないのです。自分が今回の上演に初めて足を運んだ時のキャストは、ベン役・山下啓太さん、エイミー役・岡村美南さんという新キャストのお二方でした。山下さん演じるベンは、とてもおっとりしていて、エイミーにかなり甘えています。対して岡村さんのエイミーは、ベンという存在がなくてはならないものという印象。ベンは旅の間ずっとエイミーを気にしていたし、エイミーは離婚を切り出すも、どこを向いてもベンという存在がいて、まるで2人のラブストーリー?という印象が強かったです。でも、そこにはベンと、そしてエイミーもお互いの人生を再起動していたし、タングはまさに”キューピッド”として存在感がありました。自分自身、これは山下さん×岡村さんのお二方オリジナルの作品の捉え方が反映されているものと考えていました。

 ところが、1/23の配信で、オリジナルキャストの田邊真也さん、鳥原ゆきみさんのペアにおいても、同じことが言えるように思えたのです。決してタングの存在感が薄まったとか、そういう話ではないのです。そうではなくて、ベンにとって必要不可欠な存在はエイミーであり、旅を共にしたタング。そして、エイミーにはベンとタングがいなくてはならなかった。このお互いの想いこそが2人を引き付け、そしてお互いが新たな1歩を踏み出す契機になったのでは?と考えました。前回は、タングこそ人生再起動のキーポイントだったのに対し、今回は、一人一人の存在こそ、ベン、エイミー、タング、そして作中に登場するすべてのキャラクターが新たなスタートを踏み出す、シンプルな演出ながらも、よりダイナミックなストーリーへと進化したと確信しています。

・タイトルナンバーの変更についての考察

 ここからは、この記事でもっとも触れたかった、1幕にベンが歌うタイトルナンバー「ロボット・イン・ザ・ガーデン」の変更について、考察していきます。

 前述の通り、今回の公演から、タイトルナンバーのサビ部分がカットされています。

 ↑は、前回公演の際に劇団四季公式Youtubeチャンネルに投稿された、「ナンバー集」です。1:32~の部分が、まさに今回の公演でカットされた部分です。このナンバーは、Aメロ→Bメロ→サビ1→サビ2で構成されています(不確かなので、詳しい方教えてください)。そのサビ2が丸々カットされてしまったのです。当初、やはり多くの方がこの変更に疑問を持っていたようで、公式のナンバー集に乗っていた部分がカットされたことに、不満をも覚える方がいました。自分自身も「このナンバーを盛り上げる部分なのに、なぜ削ってしまったのだろう??」と不思議でした。既にご覧になった方は共感していただけると思いますが、サビ1で終わると、どこか寂しく、物足りない雰囲気がします。歌詞もかなり作中で大切な意味を孕んでいます。ベンとタングがこの旅を再認識し、互いの絆を深めあう、大切な部分です。

 ですが、1/23の配信を観て、「そういうことか!!!」と大きな気付きがありました。この変更の鍵は、2幕にボリンジャーから逃れた2人が、もう一度お互いを確かめ合うナンバー、「ロボット・イン・ザ・ガーデン(リプライズ)」にあったのです。

 実はこのリプライズ、カットされた部分の歌詞と重なるものが沢山あります。要するにこの部分の歌詞は、ベンとタングが家族になったように、本当の絆で結ばれたことを意味しているのではないでしょうか。ひたすら前を向くことを拒み続けてきたベンと、壊れかけのロボットであるタングが、たとえ失敗したり、傷を負ったりしても、互いに手を取り合えば、その失敗や傷すら、自分たちが生きている証になる。ベンとタングが出会ったのは、お互いが生きていることを実感しあうためだった、という歌詞は、ベンとタングの旅の駆け出しには似合わない、という判断だったのでしょう。こう考えると、とても自然ですし、一先ず旅を終えた2人の想いに、より焦点が当たるものになったと思います。

 たしかに、タイトルナンバーが盛り上がりに欠けてしまったのは残念という気持ちも分かるし、でもこの変更は素晴らしいものだと思います。打開策としては、カットされた部分を別の歌詞に当てはめて復活させることでしょうか…。本当に身勝手な提案ではありますが…。素晴らしいクリエイターの皆様が揃っている作品ですし、きっと再演を重ねるたびにより良い作品になっていくはずです。今後に期待しましょう!

 ちなみに、公式YouTubeからのナンバー集、プロモーションビデオ、文化庁支援のビデオには、カットされた部分が載っていますが、変更前のタイトルナンバーが、フルで放送されたラジオがあります。それは、福岡初演時の2021/4/28に放送されたLOVE FM「Departure Lounge」という番組です。これが、唯一フルバージョンで放送された番組でした。公式からサウンドトラックが発売されても、このバージョンが収録されることは無いと思いますし、貴重な放送となりました。

・まとめ

 もっと一つ一つの変更に焦点を当てて、変更点をご紹介したかったのですが、今回は「作品の軸」や、「タイトルナンバーの変更」について、自分自身の考察を交えながら紹介させていただきました。この作品はとても奥が深いです。掘っても掘っても、また新たな疑問が生まれ、考察し甲斐のある作品です。それも楽しいですが、やはりこの作品が持つメッセージを忘れてはいけません。人生は苦しい時もあります。前を向くことから逃げてきた日々は、きっと皆さんにも経験があるはずです。でも、私たちにもタングのように、一緒に歩いてみようと思える大切な人やペット、あるいはモノでも、そういう存在は世の中に溢れているのです。

 これは、いろいろ落ち着いたら書きたいトピックですが、自分自身も精神的な病を患い、無気力な毎日を過ごしていた時がありました。その時に出会ったのが演劇のように、自分を奮い立たせる何かが、必ずやって来ます。自分にとってのタングは、演劇・ミュージカルでした。

 話が逸れてしまいましたが、このメッセージを一人でも多くの方にご覧いただきたいと思っています。記事冒頭で、本作を未見の方は閲覧をご遠慮下さい、と書いてしまったので、何とも説得力に欠けていますが(笑)、本当に心温まる作品ですので、配信でしか観たことが無い方、もっと観たいと思っている方、ぜひ劇場へ足をお運びください!全国公演も控えていますしね!自分も、大好きなこの作品に、出来るだけ足を運びたいと思います。

 観劇を通して気付いた点があれば、また原作を読んで気付いた点があれば更新しようと思います。

 長くなりましたが、以上が考察になります!あくまでも個人の考えであることをご了承ください。

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