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奈良田の気持ちを踏みにじった昼と夜 2

「茶色、中止に出来ないのか?」

言った瞬間に、そんな言葉は言うべきではなかったと後悔しましたが、僕は言葉を止めずに「こんな雪の中茶色に行くのか」「何の為に行くんだ」「誰が待っているんだ」等と、言うべきではない「茶色」に対する侮辱的な発言を連発してしまいました。それはまるでパンクしたタイヤから抜けていく空気のようにしゅるしゅると僕の口から吐き出され、止める事は出来ませんでした。

確かにその日は雪が降っていましたし、コロナの影響で不要不急の外出は控えるべき状況でした。パズルで追い詰められていた僕には「茶色の配信」がこの世で最も不要不急なイベントで、それに向かう奈良田は常識のタガの外れた狂人であり、なおかつパズルの進みを遅める、人の道を外れた外道のように思えてしまっていたのです。

今思えば、僕の心の中に「茶色」、ひいては奈良田の事を下に見る醜い感情が元々あり、それがパズルで極限まで追い詰められた事によって言葉となって外に出て来たのだと思います。

奈良田は僕よりも年齢が5歳ほど下で、芸歴もそれぐらい下、事務所にも所属しておらず、今僕が預りで所属しているマセキ芸能社のオーディションライブを受けている最中です。爆弾世紀末も同じ境遇にあります。

(写真右から、爆弾世紀末藤崎、舎弟みねぎし、舎弟奈良田、爆弾世紀末田川)

そのような二組の事を僕はどこかで下に見ていたのだと思います。先に述べたように普段言葉にして出すことはない二組への醜い感情が、終わらないパズルという極限状態におかれる事で、口をついて出てしまったのです。

舎弟も爆弾世紀末も、もちろん頑張っていますし、今回の配信にしても、きちんとコロナの影響に鑑みて、本来はお客さんを入れてのライブ形式だったものを無観客配信という形にして、各々も可能な限り対策をした上で臨むというものだったので、僕の口出しはただただ醜い感情から為されたものでしかありませんでした。

僕のそのような言葉を受けて、奈良田は「なんてこと言うんですか」といったような事を言っていました。篠原は一線を越えてしまった僕に「ちょっと、古川さん」と苦笑しながら言っていたと思います。

奈良田は感情の起伏があまり表に出ないので、その時の奈良田の感情ははっきりとはわかりませんが、怒りを覚えているであろうことは雰囲気から察する事は出来ました。

僕は「ごめん、やめよう、言っても仕方の無いとこだ、うん、やめよう」といったような事を早口で言ってその場を濁しました。自分から言っておいて、言った後で、言うべきじゃなかった事はわかってましたといったような、まるで自分が分別のある人間であるかのような空気を出した姑息で嫌らしいその終わらせ方は、さらに奈良田の中で僕の印象を悪くしたことと思います。

そうは言ってもお互い既にパズルで疲弊していましたし、奈良田は奈良田で家を出なくてはいけなかったので、衝突が激化する事はその場ではありませんでした。奈良田は家を出て、僕達はそれを見送りました。

僕と奈良田のこの一件に限らず、そのような衝突の火種のようなものはパズル作成中至るところでありましたが、とにかく僕たちはパズルを完成させなくてはいけなかったので、どれも致命的なほど激化する事はなく、何とかパズルを終える事が出来ました。

パズルも終わり、奈良田と僕の一件も過酷なパズル作成の中で起きてしまった些細な事件として幕を閉じたはずでした。しかし、再び事件は起きてしまいました。いや、僕が起こしてしまいました。

続く

続きはあさって4/6更新予定です。お楽しみ頂ければ幸いです。

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