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あの日のジュースが飲みたくて

毎日9:00、会社のパソコンを起動させてキーボードに手を添える。

社内メールを一通りチェックして、それが終わると仕事に必要なページやメモ帳、他の端末をを次々と立ち上げる。

始業時間はまだ1時間先だけど、1時間前には仕事に取り掛からないとその日の業務に支障が出る。学校で習った予習復習は会社に入るとこうなるのか、と思いながら始業のベルを聞く。

朝礼が終わると、すぐに忙しくなる。

問い合わせの電話やメールに対してひたすら返事を返す。ずっと手がキーボードを叩いてるけれど、寒くて手が悴んで、誤字脱字をたくさん並べて消して、そうしながらたくさんの文字をそこに生成させる。

定型フォルダに入ってるテンプレ文章を少しだけ、お客様へ送る内容に沿って変化させる。テンプレの中にある「お電話」番号を「携帯」番号へ変える。3回に1回「携帯」が「消えたい」に打ち間違える。

わかるよ、私も消えちゃいたいよ。

1秒前の、その文字を打った過去の私に今の私が共感する。そしてまた3回後に、未来の私が同じ共感をしていることを予想する。

毎日、こんな感じで社会人な私が1日ずつ消費されていく。そうしているうちに思うのは、あの日、タイで飲んだフルーツジュースが飲みたいってことだ。

カオサン通りの十字路近くのところにそのお店はいつもあったのを覚えている。スイカと、いちごと、パイナップルと、それから私が大好きなドラゴンフルーツがその場でミキサーにかけられて、大きなプラスチックカップに太いストローが刺さって出てくる濃厚ジューシーなあのジュース。

あまーーーい太陽の味がして、元気が出るあの味。

願わくばもう一度飲みたい。ついでにとびきりの笑顔でジュースを渡してくれる二人の青年にも会いたい。そう思ってカオサン滞在中は毎日3回は通った。途中、バンコクからバスで5時間離れた町へ行ったりしたけど、滞在最終日はやっぱり戻ってきて「おーいしー!」ってガブガブ飲んでた。フルーツジュースを片手にフォーを食べてパクチーも食べて。たまにSUSHIも食べた。

そうして戻ってきた日本は、なんか重力が余分に戻ってきた感じだった。喉はすでにあの甘さを求めていたけれど、ここにはもうあのお店はない。青年もいない。


あのジュースをもう一度飲んだら、「携帯」を「消えたい」と打ち間違えることもなくなるのだろうか。

そんなことを思いながら、いかにも仕事頑張ってます感が出るブラックコーヒーを飲み残業届けを今日も書くのだ。





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