あ
焦っている。焦らなければならない。どうしようもなく日々は過ぎている。ぼくはどうしようもなく自由が効かなくなっていることを確認する。手をぎゅうっと握る。左手の薬指が満足に動かなくなってきた。着実の身体の機能は朽ちていく。自覚的であらねばならない。
昨冬を思い起こす。冷たさの記憶が遠のいていく。また訪れる夏の記憶がたしかな触感を失っていることに気がつく。目を閉じる。思い返せる時間は刻々と減っている。思い出す限りの時間は増えたはずなのに、だ。自身の感覚についてより鋭敏になっていかなければならない。眉間にシワを寄せ苦しみを受け入れること、昏迷する意識の中で抱き寄せたとりとめのない思考のこと。思い出してはいけないことが増えているみたいだ。
かつて、痛みはあまりにも純粋で、ともすればぼくに手を差し伸べてくれていた。純粋なこと、正負を持たない力、これはシステムの天と地を入れ替える作用をも含む。では、いまは。純粋さの可能性に思いを馳せる。馳せる気持ちの鎮痛作用で鈍い痛みを殴り抑えている。