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語らなかった相手に【聖書研究】

《はじめに》

華陽教会の聖書研究祈祷会のメッセージ部分のみをUPしています。購入しなくても全文読めます。

《聖 書》使徒言行録11:19〜26

日本聖書協会の「ホームページ等への聖書の引用について」に基づき、聖書の引用を適切な範囲内で行うため、聖書箇所のみ記載しています。該当する聖書箇所を「聖書本文検索」で「書名」と「章」まで入力し、「節」入力を省略すれば、章全体を参照できます。

《メッセージ》「語らなかった相手に」

イエス様を信じる弟子たちが、初めて「キリスト者」と呼ばれるようになったのは、神の民として選ばれたイスラエル人の土地ではなく、イスラエルを占領しているローマ帝国の大都市アンティオキアで教会ができたときでした。もともと異なる信仰を持っていた、神様に敵対していた、異邦人の土地ド真ん中です。

そこで初めて、信仰者が「キリスト者」と呼ばれるようになった……「キリスト者」というのは「キリストに属する者」という意味で、イエス様を神の子と信じる者、イエス様の教えを守り、弟子として歩んでいる者を指しました。それまで、ユダヤ教の一派と見られていた人たちが、初めて「キリスト者」というアイデンティティを持ったわけです。

しかも、最初にキリスト者と呼ばれたアンティオキアの人たちは、もともと、エルサレムの迫害から逃げてきた人々が、伝道するつもりのなかった相手でした。19節にこうあります。「ステファノの事件をきっかけにして起こった迫害のために散らされた人々は、フェニキア、キプロス、アンティオキアまで行ったが、ユダヤ人以外のだれにも御言葉を語らなかった……」

ちなみに、フェニキア、キプロス、アンティオキアは、いずれも異邦人の土地として有名です。フェニキアは「悪霊に憑かれた娘を助けてほしい」とイエス様に訴えたギリシャ人の女性の出身地で、ユダヤ人にとって、関わってはならない、接触してはならない、異教の民の土地でした。

キプロスは、使徒言行録でも何度か名前が出てきますが、まじないや魔術が登場する地域として有名です。これも、旧約聖書で禁じられた、忌むべき行為の蔓延る場所でした。そして、アンティオキアはシリアの総督がいるところで、イスラエルを占領し、支配している勢力の重要な都市でもありました。

迫害を受けて、エルサレムから逃げてきた弟子たちは、そこに住んでいる異邦人には目もくれず、ユダヤ人だけにイエス様の教えを語りました。基本的には、フェニキアも、キプロスも、アンティオキアも、異邦人が住む土地で、異邦人の生活する場所なのに、誰一人、異邦人に向けてイエス様の教えたことや、なさったことを語った者はいませんでした。

ところが、エルサレムから来た弟子たちが、ユダヤ人に向けて、イエス様の言葉を語っていると、そこにいた異邦人の耳にも、イエス様の教えと業が入ってきました。弟子たちは、異邦人に語っている意識はありませんでしたが、ユダヤ人に紛れて話を聞いていたキプロス島やキレネ出身の者たちは、アンティオキアへ行き、ギリシア語を話す人々にも語りかけます。

実は、最初に「キリスト者」と呼ばれた人たちへの伝道は、最初から洗礼を受けて、信仰を告白していた弟子たちによってではなく、ユダヤ人に向けて語られた言葉をたまたま聞いていた異邦人、未受洗者によって行われました。彼らは、宣教の対象から外れていたにもかかわらず、自ら御言葉を受け取って、周りの人たちへ伝えていきました。

エルサレムの教会出身の人々が、ユダヤ人だけにイエス様のことを語っている間、シリア、フェニキア、アンティオキアでギリシャ語を話す異邦人たちは、どんどん神様に立ち返り、イエス様を信じるようになっていきました。神様も彼らを助け、エルサレムの教会に噂が届くほど、信仰者の群れは大きくなりました。

ちょうどその頃、エルサレムの教会では、カイサリアで異邦人も聖霊を受けたこと、洗礼を受けて、ペトロたちの仲間に加わったことが話題になっていました。今まで「清くないもの」「汚れているもの」として関わってはならないと思っていた異邦人が、神の民としてユダヤ人へ遣わされ、新しい命を与えられたことに、教会は衝撃を受けていました。

そこへ、今度はシリア、フェニキア、アンティオキアで、イエス様を信じるようになった人たちが増えているという知らせが入ります。しかも、自分たちが誰も、御言葉を語ろうとしなかった、伝道しようとしなかった者たちの間で、信仰者がたくさん起こされているという知らせです。

もはや、誰も止められません。自分たちが語らなかった相手が、いつの間にか、自ら神様を信じるようになり、イエス様の弟子となり、さらに多くの人へ伝道しています。自分たちが語ろうとしなかった人たちへ、どんどんイエス様の教えと業を伝えています。最初に「キリスト者」と呼ばれたのは、まさにこの人々でした。

宣教の対象にもならなかった異邦人……礼拝に誘う人も、洗礼を授けに来る人もいなかった非ユダヤ人……しかし、そこにイエス様は来ていました。2人または3人が、キリストの名によって集まり、その教えと業について、聞いたことを共有し、信じる心を与えられるとき、彼らは紛れもなくキリスト者として立てられていました。

ついに、エルサレムの教会からも、正式に教師バルナバが派遣され、アンティオキアの教会と一緒にやっていくことが決まります。タルソスにいた元迫害者のサウロも、バルナバと共に、アンティオキアへ連れてこられ、2人で一緒に、まる一年、この教会で多くの人を教えます。

よく考えたら奇妙なコミュニティーです。誰も宣教するつもりのなかった人たちが、「清くない」「汚れている」と思われていた人たちが、弟子たちを迫害する側だった人間が、最初に「キリスト者」と呼ばれる群れになりました。最初に、異邦人伝道、世界宣教の拠点となる教会になりました。

もしも今、教会から、相手にされない人たちが、「清くない」「汚れている」と思われている人たちが、関わってはならないと、遠ざけられている人たちが、イエス様の教えと業を、聖書の言葉を耳にするなら……神様は彼らに手を伸ばし、助けられ、外から教会へ遣わされる者となるでしょう。教会へ変化をもたらす者となるでしょう。

私たちはそのとき、互いに仲間を遣わすことができるでしょうか? 聖霊と信仰に満ちている、自分たちの教師を送り出すことができるでしょうか? 自分たち自身が、避けてきた人と恵みを分かち合いにいけるでしょうか? ユダヤ人でも、異邦人でもなく「キリスト者」として、一緒に立つことができるでしょうか? 

「キリスト者」と呼ぶつもりのなかったあの人が、私を変えにきたキリスト者かもしれません。「キリスト者」と名乗れなかったあなたこそ、教会を新しくする、イエス様の弟子かもしれません。私たちの間に、イエス様が立っています。私たちを、互いに遣わす方が立っています。

主から離れることのないように、あなたも、私と一緒に来てください。あなたも、一緒に聞いてください。語られなかった御言葉が私たちの間を満たしますように。アーメン。

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柳本伸良@物書き牧師のアカウントです。聖書やキリスト教に興味のある人がサラッと読める記事を心掛けています。サポート以外にもフォローなどお気持ちのままによろしくお願いします。質問・お問い合わせはプロフィール記載のマシュマロ、質問箱、Twitter DM で受け付けています。