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俺はお前の事を知らない。

昨年夏、入院していた頃だろうか。基本人格と主人格達が上手い具合に纏まり、“ひとり”であった期間があった。今はセクハラ被害をキッカケにバラけてしまったが。22はその一人。アイツは長い事、「この人間」として生きて来た。それが役割だった、という事もあるらしい。

俺が一番付き合いが長く、信頼を置いているのが22だ。アイツの話をすると長くなってしまうが、常に全速力で生き急いでいる奴だ。ブレーキという機能をどこかに置いて生まれて来たんやろなと思っている。狂っているからそういう仕上がりになってしまったのか、狂わないと生きてこられなかったのか、狂った振りをしているのかは分からない。そういう所を煙に巻くタイプ。アイツの考えなんか、多分アイツしか分からない。守ってやりたいという気持ちは一切抱いた事が無い。その必要が無いからだ。

名前を「はゆ」と言ったか「めー」と言ったか忘れてしまったが、22が含まれているからこそ、俺は基本人格を好いていた。だから、バラバラになってしまった後の基本人格の事は知らない。俺が慕っているのは22であって、お前の事は良く知らない。22との付き合いは長くとも、基本人格とは関わって居ないから、好きだとか嫌いだとかの前に“知らない”となってしまう。

何故だか分からんが、最近俺は基本人格が使う画材を買いにお使いをしている事が多い。今は鉛筆にハマっているらしく、好きな濃さは2Hだとか。俺はHBより薄い鉛筆を初めて認識した。うちの人は絵を描く人が多い。それを不思議に思っている。自己表現の手段は他にも沢山あるのに、何故か絵なのだ。小説を書くでも作曲をするでもアニメを作るでも無く、絵。それも人をモチーフにしたイラストを描く。風景を写実で描く奴が一人くらい居ても良いだろうに。何か共通する価値観でもあるのだろうか。絵を描けない俺には分からないものがあるのかも知れない。最近のうちは節約ブームだったり、「べき思考」の拘りが強く出ている。お金を使う事にパニックを起こすくらいの不安を抱いたり、一日一万歩歩かなければ人生が終わると言い出したり。強迫性障害の一種だろうか、だとしたら定期的に起こるものなので、その内落ち着く事を期待している。俺は預金残高より記憶が無い間に買い物をしている自分の方が怖い。

先日も基本人格のために幾らか画材を買った。その後、基本人格は電気屋に行きたがったらしい。俺が画材を買ってくれるのが嬉しかったから、俺が気になっている物を見に行きたかったのだと。正直な所、俺が欲しかった物はすぐに必要な物では無かったし、別に無いなら無いで困らない物だ。別に強く主張した訳でも無い。それでもアイツはそれを拾って、「自分がして貰って嬉しかったから」と2時間の距離を歩こうとしていた。そんな、鉛筆や消しゴムや、鉛筆削りをそこまでお使いしただけなのに。

ああ、“そういう奴”なんやな、と思った。

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