29歳 10ヶ月 <4/11>七日目


マチネ後、お客さんと挨拶をしていると、急に不安に襲われる。僕なんかが舞台に立ってはいけないのだ。と強迫観念が顔を出した。驚いた。あれがトラウマになってる!とっくに成仏したと信じていたのに!!
原因は分かったんだけど、なんともその場で対処のしようがないので、観劇してくれた高屋七海の腕を触ったり、佐藤幾優をいじったりで誤魔化そうと努力する。

そう。思えばマチネも変だった。4 人以上はダメなようだ。
それを構成する人間に関わらず。
個人はみんないい人で好きな人なのに集団になるとこんなにコワイのか。「集団の黒い意思」なんて具体的に存在はしないので、それは僕の妄想なんだけど、ちゃっかりあれがトラウマに化けて出るなんて予想してなかった。まるっきりノーガード
でやられてしまいました。
やるなぁ。ちくしょう。

結局そのままソワレに突入。

なんてこと!
常時おしっこ漏らしながら演技してるような気分。歩くたびに舞台面にぴちゃぴちゃとおしっこが垂れている。座っていてもトクトクとおしっこがズボンから湧き出ている。でもそれを隠すことはできない。僕は今、芝居をしているのだから。「あいつおしっこ漏らしてるよ~」という90人弱の観客の視線。
「これ、無視してもいいのかな…」「がんばれ…」という共演陣の視線。
それらを感じつつ僕は、「この床に漏らした大量のおしっこをどうやって処理すればいいのだろう…。誰かが上演中断を言うかも知れない…。とりあえず逃げ出してズボンを換えようか…いや、この出番が終わるまでは…」などと考えながら芝居をしている。

例えて言えばそんな恐怖感だった。
とうぜん台詞はいくつもとちる。

一つ目の出番が終わって、ああもう帰りたい、舞台にいるのがコワイ、どうしよー、やばいよやばいよ、あそこもう行きたくないよー、と思っていると、どうもこの回を青山麻紀子が観劇しているという情報をキャッチ。舞台袖で般若心経のように青山ちゃんの名前を唱え、客席にいるはずの本田怜麻、柳沢茂樹の存在を頼りになんとか最後まで演じきる。

どっと疲れた。
こんなのは今までにない。なんという威力だろう。すごいな。あ、ま、あったか。『蟹か二か弐か』という若手自主公演もそんな感じだった。でもあん時は薬を飲んで乗り切ったのだった。今はそんなもの信用してないけど。

そうか。最近の僕の社交性はこの化け物の存在を隠すためだったのね。などとふと思ったりもする。

終演後
何人かの方に僕の芝居を褒めてもらうも、所詮おしっこ垂れの芝居。心は卑屈だけど、とりあえず平生を装う。「(上に)ありがとー(下に)ありがとーはいありがとー(後方に)学べよー(握手して)はいさんきゅー盗みなさいよー」

その後打ち上げには行かずに、青山ちゃんと喫茶で喋り、
ホームで青山ちゃんの手を軽く握って別れる。もしやプライベートで始めて握ったかも知れない。稽古では抱きついたりはしたけど。

明日は楽日。あとバラシ。
大丈夫。
この距離だったら充分走りきれる。

トラウマに化けていたものを駆逐する方法はただ一つしかない。
僕はそれを知っている。

けどホントに多方面に渡って申し訳ない感じの芝居だったように思う。東西南北につむじを見せます。ほれ、この通り。ほれ、ほれ、

なるほど。僕はまだ走れる。

おしまい

※写真は、美容室をかえて可愛くなった青山麻紀子。


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