はじまり①

『いつまでもラジオと思うなニッポン放送』

そう書かれたポスターが貼られた壁を見つめていた。

ここは東京都千代田区有楽町 ニッポン放送の控え室の一室。もしかしたら会議室かもしれない。

高校生の藤井和也は用意された席に座っていた。ラジオリスナーだった藤井は深夜番組の企画に応募し、なんやかんやで当時をときめくフジサンケイグループのニッポン放送社屋に呼ばれていた。

ふとドアが開き大人が入って来た。藤井には大分上の大人に見えた。

『よお!よく来たね』みたいな フジのディレクターノリ。フジのディレクターノリと言う言葉があるのかは知らないけど。

『お笑いやってるの?』

『いえ』

『じゃあ 物まねやってるの』

『いえ』

フジのディレクター いや子会社(実際は逆、この当時は知識がなかった)のニッポン放送のスタッフに対し斜に構えてる いや失礼な態度を取っている生意気な若者。

『はっはは 物まねは練習が辛いもんね』

ビクッとした。笑い声に。

ラジオリスナーには視覚情報を遮断したために研ぎ澄まされる感覚がある。

深夜に駆け付ける秘密基地から流れてくるパーソナリティーのトークと作家の笑い声。

藤井和也は聞き逃さなかった。

大人の名前は藤井青銅。

金曜深夜1時からの『ウッチャンナンチャンのオールナイトニッポン』の構成作家。

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