釈迦虎というコンビ 2
2023年12月7日。
M-1グランプリ2023、決勝進出者が発表された。
敗者復活戦、決勝戦は12月24日。激戦はまだ続いているが、ここを一区切りとしたお笑いファンも多いのではないだろうか。
今年のエントリー数は、史上最多の8540組。(※1)
昨年は7261組、その前は6017組。ユニットなども含む延べ数とは言え、M-1がいかにバブル状態にあるかは一目瞭然だ。
激化していくM-1戦線の篩の目は細かい。
決勝の舞台に上がることは勿論だが、お笑いファンは自分が応援している芸人さんたちが、3回戦、準々決勝まで勝ち進むことができるかどうかさえも毎年ひやひやしている。
今年準々決勝に進んだのは、エントリー総数の内わずか123組。3回戦の高い壁には、Aマッソさんや蛙亭さんや鬼越トマホークさん、ももさんやダブルアートさんやチェリー大作戦さんといった人気や知名度も十二分、高い実力の芸人さんたちも阻まれた。
そんな中、本記事の主役の彼らはその関門を突破してみせた。
大阪よしもと漫才劇場所属の釈迦虎さんは、芸歴2年目にして今年のM-1で準々決勝まで駒を進めたのだ。
釈迦虎さんは、お二人とも解散経験者だ。M-1のプロフィールに記載されている結成日は、ユニットを結成した日だ。解散のタイミングや申請の兼ね合いで、正式にコンビとして受理されたのは2022年10月3日。
つまり昨年のM-1では、コンビではなくユニットでの出場だった。前コンビで漫才しかしてこなかった久保さんが、前コンビでほぼほぼコントのみだった岡本さんに「出たい」と言ったことによりエントリーするも、1回戦敗退。
正式にコンビを組んでからは今年が初挑戦で、いきなりの大躍進である。
123組/8540組の枠に入り込んでみせた彼らは、実は漫才中心のコンビではない。コントを中心に活動をする、大阪よしもと期待のルーキーだ。
舞台で漫才をされることも数えられる程度で、約1年前のライブでは、ボケの岡本さんがサンパチマイクの調節すら失敗し、マイクの頭の部分(🎙)をすっぽ抜いてしまっていたレベルだった。(※2)
この記事は、M-1をきっかけに釈迦虎さんのことを知った人々に、彼らの魅力を少しでも届けたいという気持ちで作成した。
内容は、彼らのM-1における戦績の素晴らしさ、
劇場に所属してからの躍進、
そして1ファンが知れる程度のほんの少しのパーソナリティについてだ。発言や情報の出典元は後述する。
彼らのNSC時代〜コンビ結成については前記事を見て欲しい。
(自分はあくまでもにわかファンなので、より本気で応援している方々にとって不快な部分があれば申し訳ない。不勉強な点、間違っている箇所があればそっと教えてほしい。)
①釈迦虎さんのM-1戦績
釈迦虎さんは今年の準々決勝進出者の中で、芸歴コンビ歴共に大阪・京都の枠で最若手だ。
東京を含んでもプロの中では最若手。
アマチュアも含むと、早稲田大学お笑い工房LUDO 23期のナユタさんが通過されているのと、
同じく早稲田大学お笑い工房LUDO 22期のLet Me Show You THE まごころさんが通過されているため、全体の中では3番目の若手と言えるだろう。
結成からの日の浅さだけ切り抜けば、小籔さんとムーディ勝山さんによるユニットのサブマごり押しさんや、ダウ90000内のユニット1000さんなどにも負けるが、ここは芸歴+コンビ歴の足し算で若手度を判断させてもらった。違った測り方をしている方にとっては3番若手の判断がしっくりこないかもしれないが、知らんけど精神で大目に見ておいて欲しい。
釈迦虎さんがM-1で披露されたネタは、以下の通りだ。
1回戦「散々擦られた話をするな」
2回戦「虫唾を走らせてほしい」
3回戦「自動車教習所」
準々決勝「自己啓発セミナーのやばいおばさん」
M-1を見てきた人なら、この時点で彼らの度胸に気付くはず。そう、「M-1のために1年間ネタを作り、たたき続けてきた生粋の漫才師」という訳ではない彼らが、全予選でネタを変えて挑んだのだ。
芸歴2年目、コンビ正式結成約1年のコント師が、賞レースで勝負できる漫才を4本持っていたことがまず凄いことだ。
配信でお笑いファンの皆様が拝見されたであろう3回戦、準々決勝はしっかりとコントインするタイプのネタだったが、1回戦と2回戦は岡本さんと久保さんのままネタが進む、コントイン無しの漫才だった。予選を通して、コントで培われた演技力が漫才でも生かされていた。今年釈迦虎さんを知り、ハートを掴まれたお笑いファンも多いだろう。
そんな彼らは、予選直前のライブでも漫才を試さず、コントの新ネタをやっていたほどにコント中心のコンビだ。(※3)
M-1戦線真っ只中でも、目の前のお客さんを笑わせることを忘れない彼らだからこそ、たたきぬかれたネタを武器に板に上がった生粋の漫才師の方々とも張り合うことができたのだろう。
(M-1で披露されたネタのいくつかは、元々コントとしてあったネタを漫才に起こしたものだ。3回戦のネタは、コントバージョンがYouTubeに上がっている。準々決勝のネタは、コントバージョンだと予想出来ないオチが待っているため必見。)
前記事でも記載したが、釈迦虎さんは昨年正式にコンビを組む前のユニット段階で挑んだKOCで、準々決勝まで進んだ。今年はM-1だ。こんなポテンシャルの若手は他にいないと感じる。
②釈迦虎さんの劇場戦績
釈迦虎さんが、コント師にも関わらずM-1予選を勝ち上がれたのは、劇場出番で磨かれてきたスキルもあってのことだろう。
今、若手お笑いは飽和状態にある。基盤はよしもとだけではない。インディーズで自身でライブを打つことも出来れば、アマチュアや学生お笑いだって活動は活発だ。
しかし、出番を自力で用意し続け、集客することは難しい。並々ならぬ自己プロデュース力が求められる。「劇場所属」という形をとらずに跳ねた芸人さんも居るが、分母としては数えられる程度だ。
ダイヤの原石である若手のお笑い芸人さんが、多くの舞台に立つための手っ取り早い方法は、やはり現状では劇場に所属することなのではないだろうか。
劇場に立ち続けることは、至難の業だ。大阪のよしもと漫才劇場に所属するためには2つのバトルライブを勝ち上がって、現メンバーとの入れ替え戦を制さなければならない。
釈迦虎さんは、現在46期まできている大阪NSCの44期生にあたる。
44期は卒業ライブである「大ライブ」開催時点で、6組の欠席コンビを含み171組が在籍していた。その内一度でも劇場に所属したコンビは、たったの7組。
釈迦虎さんは、その7組の中で最も長く劇場所属権利を掴み続けている。
釈迦虎さんを除く6組は、全員NSC時代のコンビ(解散経験がある方もいるが、芸歴0年目時点で結成されたコンビではある)だ。
1年目早々に解散を経験した釈迦虎さんは、所属経験のある同期の中で、コンビ歴が一番短い。それにも関わらず、結成後UP TO YOU!(劇場所属のためにある3段階のオーディションライブのファーストステージ)から一度も落ちずにストレート所属を果たしたのは釈迦虎さんのみだ。
このことから、コンビとしての実力が日々育っていっていることは勿論、個としての能力の高さもうかがえる。直近で劇場入りされた2組と釈迦虎さん以外は、全員降格を経験しているのだ。これだけ目まぐるしい戦いの場に身を置かれても勝ち残り続けている彼らは、確実に外の世界で戦う力を身に付けていると言えるだろう。
10月の翔GPでは、初めて上位(7位)にランクインも果たした。
激化する劇場戦線、大阪の名だたる若手を抑えて、釈迦虎さんが翔GPで1位に輝く日も近いのではないだろうか。
③ パーソナリティについて
劇場のプロフィールに記載のある通り、釈迦虎さんはお二人とも元社会人だ。
お二人はそれぞれ3年間社会人生活を送った後NSCに入学。岡本さんに関しては現在進行形で営業をしている(劇場所属前は週4で働いていたそうだが、出番が増えた現在は週2まで減らしながらも継続中。某システムを売る営業だそうだ)。
お二人とも学生時代サッカーをしていた。岡本さんの趣味のほうに記載がないが、野球も共通の趣味だ。
元社会人同士によるコンビの真面目さ故か、単なるユーモアか、先輩にお呼ばれしたライブでは「幼い頃のモノマネ」をしっかり仕込んでボケたりもしていた。お呼ばれが増え続けるわけである。
ツッコミ、コント小道具担当の久保さんは、無邪気で天真爛漫なお人柄であることが、コーナーなどでお話しされている様子から感じられる。(※5)
明るくてとにかく楽しい!といった印象に映るが、悪く言えば中身はカラッポらしい。決め台詞?ポーズ?ギャグ?は「全力ピース!」。
「久保バトル泰志」の「バトル」は争いごとが大好きだから。ベンチプレスは100kg上げられる。
とてつもなく素直な性格が故に、3回戦に勝ち上がった際、落ちてしまった先輩方もいる楽屋(翔全員ライブの後だったため、比喩ではなく本当に先輩が全員居た)で「ウォォアォォ〜〜〜!!!」と大声で喜んでしまい、そのテンションのまま岡本さんの方に走って、「岡本!!!岡本!!!受かった!!!岡本受かった!!!」と鬼絡みしたエピソードがある。
冷静な岡本さんは「あ、もうお前マジでだるいから、もう俺もうトイレ行ってくるんでお疲れ様でした」とその場を脱出した。コンビ揃って無礼講になることはなんとか回避できたようだ。(※7)
そのピュアさから先輩方にも可愛がられているようで、一緒にテーマパークに行っていたり、SNSでは頻繁に先輩とご飯に行っている様子がアップされている。
また、現在西成で一人暮らしをされている。
岡本さんは、真面目で熱くてまっすぐなお人柄のように感じる。ネタのフレーズから感じられる、ほんのり性格が悪そうな部分も魅力の一つだろう。
1ファン程度ではその様子は見ることはできないが、鋼のように見えるハートも実は繊細らしく、劇場所属後の出番で2回連続滑っただけで一度心が折れてしまったらしい。無事受けた時には舞台袖でなきそうな声で「良かった…」と安堵していたようだ。久保さんはその様子を見て抱きしめてあげたかったそうだが、身体がデカすぎて断念。(※8)
顔の可愛い女性が好きすぎる。TWICEのミナが特に好きで、好きなところは"顔とそれ以外の全部"。(※9)
Amazonのほしい物リストには可愛い女性の写真集ばかりが入っている。(※10)
ただひたすらにお笑いにストイックかと思いきや、お笑いから完全に離れる時間を作る為の同期会である「岡本会」を開催している。
仕事を完全に辞めてはいないのも、お笑いではない場所を自分の中で確保する為なのだという。(※11)
現在実家で暮らしている。
お二人とも解散経験者だが、岡本さんは前の相方さんよりも久保さんの方が45倍好き(※12)、800倍好き(※13)と言っている。久保さん曰く「俺のこと好きになってるんじゃなくて前の相方のことどんどん嫌いになってるだけ」。
そこまで言うだけあり、岡本さんは昨年6月末に前コンビを解散したタイミングで、「次に組むなら久保しかいない」と心に決めていたようだ。
しかしそうとは知らない久保さんは、去年のKOCに同期芸人・笠川拓夢さんと「賢い豚ドリームズ」というユニットで参加しようとしていた。KOCのエントリー締切も6月末。岡本さんが声をかける前に、久保さんはユニットが決まりそうになっていた。(※14)
それを同期芸人・文句の松ヤニさんが制止し、「岡本は泰志(久保さん)一択や、みたいに言うてるで」と久保さんに伝えたことで、岡本さんが組みたがっていることを知り、2秒後に賢い豚ドリームズのユニット出場を辞退。
後日誘われた飲みの席にて岡本さんとユニットでKOCに出場することを選んだ。笠川さんは泣いて悲しんだそうだ。久保さんは誰からも求められる人材だ。釈迦虎さんが結成されていなかった可能性もあるかと思うと、昨年のKOC準々決勝進出も今年のM-1準々決勝進出も、紙一重で全く違う未来になっていたかもしれない。
岡本さんの熱烈なアプローチで結成(※15)した形の2人だが、コンビ仲は良好に映る。
例えば、久保さん側が岡本さんの好きなところを聞かれると、まず「何個(答えればいい)?」と聞き返していた。岡本さんはその返事に対し、「俺別に聞きたない」「一個もいらんねんそんなん」と煙たがっていたが。(※10)
逆に久保さんの思う岡本さんの直して欲しいところは、目つきの悪さと、モラハラ気質と、ダサいところ、エロい女性アカウントを全部知っているところだそうだ。(※16)
これは抜粋だ。記載したのはあくまで客席や画面を介して映るお二人のことなので、実際のことまでは分からないが、ふんわりと雰囲気だけでも伝わっていれば嬉しい。
④ まとめ
前記事で、「彼らは売れる」と書いた。
売れる手段がごまんとあるこの時代に、ネタで売れると。百獣の王といえばライオンだが、コントの王といえば、漫才の王といえば、虎になる日が必ず来ると。
その気持ちは勿論今も変わっていない。
最近のお笑い界は、悲しいほどに解散が多い。結果が得られず辞めるだけでなく、結果を出していても尚辞めてしまうコンビが沢山いる。先のことは誰にも分からない。
しかし、自分は釈迦虎さんの躍進とお人柄を見ていて、光り輝く未来を想像してしまう。エネルギーに満ち溢れた希望が、若さが、期待を煽る求心力が、釈迦虎さんにはある。
相方と二人きりでご飯、なんて特別べたつくような仲の良さなんか無くたって、実力が育っていく様が見れて、結果もついてきて、売れたいという強い気持ちを見せてくれて、コンビ間のリスペクトも感じられれば、未来が見えてくる。未来が想像できること以上に、安心して応援し続けられる要素を自分は知らない。
なんて、釈迦虎さんは岡本さんが、自分の親友と友人の輪の中に久保さんを誘って4人で焼肉を食べに行ったり、岡本さんの友人と久保さんの3人で飲みに行ったりと、プライベートの輪の中に久保さんを積極的に引き摺り込んでいるようなのだが。(※8)
このnoteはこれで以上だ。
華々しい戦績や魅力を書き連ねたが、芸歴2年目の現実はそんなに甘いものではない。久保さんの先月のよしもとからのお給料は2万弱で、岡本さんは貯金が0の借金60という状態のため、バカ売れするまでの道のりはまだまだ長そうだ。だからこそ、ぜひ彼らを見に劇場に足を運んで欲しいと思う。
(※追記:初単独前の段階では2ヶ月連続で6万円以上までお給料がアップしていた。お笑いだけのお給料で食べて行ける日が少しずつ見えてきている。)
この段階から追っていれば、とんでもない戦績の目撃者になれることは間違いない。今回のM-1で釈迦虎さんをみつけた方も、お笑い界の未来のスター、釈迦虎さんを見によしもと漫才劇場に行こう!
(※1) M-1グランプリ公式サイトより
(※2) 2022年11月のライブより。岡本さんはしれっとはめ直していたが、安定していなかったため久保さんがフォローして高さも変えていた。久保さんはNSC時代のコンビでは漫才一本だったため、漫才でのフォロー全般に安心感がある。
(※3) 2023年11月19日、準々決勝前日のライブでコントの新ネタをおろしていた。
(※4) 様々なライブ、配信でお話されているが、コンビセットで出ている割と最近の配信だとこちらより。
(※5) 一言話している姿を見ればすぐにこれは感じていただける部分かと思う為、過去のものをあえて添付する。更新は止まっているが(2022年4月〜7月まで更新)、同期のモデル亜ガマ・べっちさん、アンフィールド・マエダさん、文句・松ヤニさんと4人で更新していたtiktok「堺の団地」では無邪気なキャラクターが存分に発揮されている。
(※6) 2023年8月 タレンチさんのラジオにゲスト出演された際の告知より。
(※7) 2023年10月 同期芸人・浪速モダンカダンさんのラジオより
(※8) 2023年2月 同期芸人・アンフィールドさんの「アンフィールドのオーバーラップラジオ #50 〜釈迦虎が来てくれた!〜 より
(※9) 2022年10月 ご本人のインスタライブより(アーカイブ削除済み)
(※10) 2023年2月 同期芸人・エアブルース 聖剛さん(配信時点ではハイクラウン)のインスタライブより https://www.instagram.com/tv/CosDWP6DKN2/?igshid=NzBmMjdhZWRiYQ==
(※11) 複数のラジオで発言されていた。小中高大社会人と全てのコミュニティに友人が残っており、そうした場を残していることが、回り回ってお笑いにも繋がっているそうだ。岡本会のメンバーでは2023年11月に同期芸人・浪速モダンカダン ヲ富さんのRadio talkで配信を行っていた。
(※12) 2023年2月 ご本人のインスタライブより(アーカイブ削除済み)
(※13) 2023年3月 ライブより。
余談だが、現相方久保さんと800倍の差がついていることでお馴染み元相方さんは、2023年11月に行われた、同期芸人・ウリさんのYouTube単独ライブ(アーカイブ削除済み)にて、コンビ解散後初めて岡本さんの前に登場した。後に行われた同期芸人・文句さんのYouTubeライブ内で、解散諸々に対する謝罪が行われた。
(※14) 2023年11月 同期芸人・文句さんのYouTubeライブより。
(※15) 2022年10月 同期芸人宛先プレーン荒木さんのラジオ「TOROBA」#56-2 より。「好きです」「焦がれています」と直球ストレートでコンビを組みたいという強い意志をアプローチしたそうだ。そこまで言った割に、久保さんを選んだ理由は「勘」とのこと。
(※16) 2023年9月 吉本興業チャンネル ライブ告知チャレンジ動画より
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