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「絞り」の本質について


Introduction


 買い目を絞るか絞らないか。これは永遠のテーマです。
 たしかに絞って的中すれば回収は大きくなりますが、流していれば獲れた舟券も、折り返していたら獲れた万舟も、あなたは幾度となく経験してきたことでしょう。
 このテーマは、こんな結論に落ち着きがちです。曰く、広げた方が様々なパターンに対応でき、競艇の偶然性の影響を減らすことができる。分からないレースは無理に絞らない。一方で、見えたレースはきっちり絞って獲る。これは直感的に理解できるのではないでしょうか。
 競艇はどこまでいっても不確実なギャンブルです。絞って獲れるレースばかりではありません。切った6号艇が3-2Mで抜いてくるような理不尽がつきものです。安全に資金をコントロールするためには、無理に絞らず、拾える的中はすべて拾った方がいい。それが定説なのは疑う余地もないでしょう。
 しかし、これは大きな、そして根本的な誤解です。

 本論では、見落とされがちな部分に深く立ち入っていきます。直感に反する結論だと思いますが、私はこう考えています。
 点数を広げるのは危険である。
 
広げると安いとか、無駄な買い目を買ってしまうとか、そういうレベルの話ではありません。点数を広げること「自体」が危険であると論じていきます。
 そして、点数を絞ることの隠れた重要性と、その効率的な実践について、思考実験と実例をもとに説明していきます。そして「絞る」という手法を明確な定義に落とし込み、思考とプロセスを整理します。

 予想には自信があるのに、なぜか負け越してしまうあなたへ。



ひとつめの誤解


ローリスクに見えて

 広げたら広げた分だけ当たりやすい。これは論理的に真です。競艇は1点しか買わないと滅多に当たりません。2点、4点、8点……120点買えば必ず当たります。どのような的中分布になるかは「予想次第」ですが、増やせば増やした分だけ的中期待値が増大していくのは自明です。
 当てたければ広げる。ここに疑いを挟む余地はないでしょう。しかし、遊びでない限り私たちは120点買ったりはしません。120点に均等払戻配分すれば、回収率は75%に落ち着くことを知っているからです。
 逆に言えば、絞れば絞るほど的中期待値は下がり、払戻の回収率は高くなります。120点買えば75%のところ、1点なら10倍のオッズでも10倍になって戻ってきます。当たり前の話です。
 この「当たり前のこと」を、8点から4点に絞るときには忘れてしまいます。いいえ、覚えているけれど、うまく取り出せないのです。
 前者は後者より外すリスクが低いのはたしかです。しかし、だからといって「資金を減らすリスクも低い」と考えてしまうのは重大な間違いです。大切なところなので、等号否定で結んでおきましょう。

外すリスクが低い≠資金を減らすリスクが低い

 コンスタントに当たっているときに、この等号否定を意識するのは難しいです。やっぱり広げると安定する、資金もキープできる、おさえてよかった、次もまた戦える……そんな「ラッキーなぬるま湯」に浸かっている間は、何を言っても響かないことでしょう。
 むやみやたらに広く買うことの危険性が浮き彫りになるのは、本当に怖い「あのとき」なのです。


怖い思考実験

 かたいところばかり買っているのに、流しているのに、必ず訪れる「何をやっても当たらないゾーン」を想像してみましょう。これ嫌ですよね。正しいことをしているのか不安になります。できれば訪れてほしくないのですが、そうはいきません。

的中率50%のベッティングを行った場合、(中略)1000回の試行回数では、およそ35%の確率で発生する10連敗以上の不運も、10000回も試行すれば「ほぼ確実に」発生することが分かります。あなたの連敗は、回を重ねるごとに日常になっていくのです。

「連敗」に関する錯覚を排除する-元ホテ

 残念ながら、毎日競艇をやっていれば、的中率50%まで広げていても10連敗以上の不運を「論理的にはほぼ必ず」経験します。的中率20%まで絞っていたら、さらに多くの連敗を経験するでしょう。しかし、的中率50%まで広げているとき、その当然の「連敗リスク」は少し薄れてしまいます。言い換えれば、意識にのぼってきません。なので、想定より少ない資金で回そうとしてしまいます。このとき、破産確率は跳ね上がるのです。
 たとえば資金の3%を1レースにベットするとしましょう。100,000円用意して、1レース3,000円しか賭けません。あなたの的中率は50%、見込み回収率は104%とします。これ、滅多に破産しなさそうですよね。計算すると、破産確率は8%もあります。回収率がトントンの人ならほぼ確実に破産します。これだけ念には念を入れているように見えても、です。
 怖いのはそれだけではありません。
 破産リスクを受け入れたところで、的中率50%のシステムが稼げる絶対値は低いという決定的な事実。上の例で言えば、1レースあたりの見込み回収倍率は2.08倍です。連戦連勝の驚異的な上ブレを引いたところで、短期的にも208%以上の回収率にはなりません。数学的に言えば「分散が小さい」という現象です。だから安易に「コロガシ」などという手法に夢を見るのですが、これはもはや論じるまでもなく非効率な悪手です。もっとも、勝ちたいのであれば、ですが。
 一見すると手堅く思える手法も、ひとたび「強烈な不運」を想定すると、思いのほか脆いということが分かります。いわば、小さな利益を積み重ねながら、大きなリスクがいつか来るのを「ただ待っている」ような状態なのです。その大きなリスクが訪れたとき、あなたは積み重ねた小さな利益を吹き飛ばし、場合によっては破綻します。


心理と真理

 小さな利益を積み重ねたい気持ちは分かります。人の心は「損をすること」を恥ずかしく感じるようにできています。勝つためにやっているにも関わらず、損失を回避したときの安堵は、勝利の達成感を上回るのです。それゆえに、たとえ穴狙いであっても広く構え、おさえを買い、資金を失わないことに全力を注ぎます。マイナスが込んでくると一転して、一発逆転のレートに引き上げて無理に絞ります。これも「負けて終わりたくない」という、いわば損失回避の心理です。
 しかし、前節で見てきたように、広げたってどうしたって外すときは外すんですよ。身も蓋もないですが、そうなんです。手堅く賭けていても、強烈な連敗を経験するようにできています。それなのに、自分は手堅いのだと過信し、資金に対して不当に高い金額を賭けてしまいます。広げるとリターンが少ないので、満足するだけ払戻すためにはレートを上げるしかありません。だから強烈な不運が「致命傷」になります。小さな損失を恐れるあまり、大きな損失を引き起こすリスクは軽視してしまうのです。
 一方で、絞るという手法の本質は、小さな損を受け入れ、大きなリターンを待つことに他なりません。
 これは心理的には苦しいです。トータル収支が同じでも、9日間少し勝って1日で大幅に負けるより、1日大勝ちしても9日間少し負ける方が苦しいと感じてしまいます。これは誰でもそうです。
 ただ、広げて買うのであれば、上で書いたような「リスク」が常に背後に控えていることを覚えていないといけません。人は大敗の記憶を忘れるのが得意です。コツコツ勝っているうちに以前の10連敗なんて簡単に忘れます。よく「毎日1,000円でも勝てば月に30,000円プラスになる」なんていう発言を見かけますが、そういう人は、下ブレであっという間に何十日分もの損失を被るという点を想定していません。
 誤解のひとつめを解いて、まずは心に克ちましょう。話はさらに深みへと進みます。



ふたつめの誤解


確率とは、私たちの知識が不足していて、確実なことなど分からないと認める事であり、自分の無知を相手にするために作られた方法である。

-ナシーム・ニコラス・タレブ

実は不可能なこと

 そうは言っても、別にそのリスクとやらを計算できていればいいっていう話でしょう?
 そんな声が聞こえてきそうです。そしてそれはあながち間違いではありません。計算できるのであれば、そしてその計算に基づいてしっかり運用できるのであれば、どんな賭け方をしたって構わないのです。
 ですが、残念なことに、リスクは計算できません。
 
正確に言えば、どのくらいの確率でそのリスクが発生するかを「イメージ」することはできても、それがいつ来るかは永遠に分からない、ということです。
 競艇は予想外の出来事の連続です。買い目を広げれば、論理的には「的中期待値が上がる」のですが、それは収束してくれればの話です。長い目で見ればいいのですが、長い目ってどこから? という疑問がつきまといます。自動投票プログラムでも組まない限り、ちゃんと理想通りの収束をもたらす母数を「安定して稼ぐ」のは難しいです。
 予想外の出来事にぶち当たっても平常心でいられる人は、あるいは平常心でいられると「思っている」人は、少し甘いかもしれません。予想できる範疇の不運の話はしていないのです。ガチガチのところを含めてそれなりに広げているのに、5日間1つも当たらなかったとしましょう。あなたはその不運を迎えても、同じトーンでベットを続けられるでしょうか。資金は尽きていないでしょうか。自信を失っていないでしょうか。
 「こんなについてないのは初めて」などと、安易に思わない方がいいのです。仮に本当に最大の不運だったとしても、それを更新してくるのが世界です。
 つまり、ふたつめの誤解は「自分のリスク想定と現実の乖離」です。目に見えているリスクはリスクではないということを肝に銘じましょう。本当に予想外のことが起こったとき、それは言葉の定義からして予想の外にあります。待ち構えることも、想定することもできません。するべきでもありません。
 精神論で言うなら、何が起きても動じないこと。これに尽きます。ですが、そんな心構えだけで対応できるなら苦労しません。分かっちゃいるけど、ってやつです。


サイコロを振る

 方法論に関しては次章で詳しく書きますが、その前に、これまで書いてきた理屈と実践の橋渡しをしておかないといけません。 
 当たり前ですが、ひとつのレースで得られる結果はひとつだけです。どれだけ絞ろうが、流そうが、最終的に払戻を受けるのは1通りです。
 話を単純にするために、サイコロで考えてみます。出目は1~6の6通りですが、1回振って得られるのはひとつだけです。どこかに張るとして、あなたは2パターン選べます。

 どちらも期待値は同じです。何回も何回も振り続ければ損も得もしません。
 同じ払戻を得ようとするなら、①の場合が1,000円だとして、②の場合は3,000円ずつ張らないといけません。イカサマのないサイコロであれば、どちらも回収率は100%なので、結果的にいくら張ろうが問題ありません。ですが、仮に①の場合は1に、②の場合は123に張るとして、456ばかりが続いたとあるゾーンを眺めてみましょう。

 一度の試行で得られる結果がひとつなので、3点張ってようが1点だろうが、そんなことはお構いなしにこういう「結果のツラ」が発生します。前章の思考実験の具体化です。この10連敗で、①の場合は10,000円を、②の場合は30,000円を失います。
 それまでの期待値が収束していても、この連敗で一時的に被る損失は②が圧倒的です。そして次に1が出たとき、①なら6倍回収(+5,000円)ですが、②なら2倍回収(+3,000円)です。2,3なら①は11連敗目に突入しますが、それでもまだ11,000円の赤字です。111だとどうでしょう。①ならひと捲りですが、②はまだ赤字です。
 公平を期すために「2232322232」といった「広げていたから当たり続けるゾーン」も見ておきましょう。この10連勝で②は30,000円の利益を得ました。ですが、この幸運は456ゾーンよりも発生確率が少ない点に注意してください。広げても外し続ける「不運」が頭にないのに、広げたからこそ当たり続ける「超幸運」に期待するのはナンセンスです。しかも、10連勝した割りに利得は少ない。この感覚は叩きこんでください。
 不必要に買い目を広げることのリスクが見えてきました。あり得ない(と思われる)連敗に弱く、同じくあり得ない(と思われる)ラッキーの際に享受する利得が小さい。この「あり得なさへの対応力」が弱いことが、買い目を広げる本当のリスクなのです。
 ギャンブルで勝とうとする人が陥りがちなのが、不必要に「必然」を求めることです。ここまで見てきたように、どんなに安全策を講じても、結果はしばしば私たちを驚かせます。
 忘れてはいけないのは、ギャンブルは幸運を享受しないと勝てないということです。それに、幸運を待ち望まないのなら、ギャンブルをする醍醐味がありません。適切に受け取れる準備だけしておけばいいのです。



Putting into practice


 ここまで見てきた内容で、絞ってベットすることが結果的にリスクヘッジになる原理を理解していただけたでしょうか。
 ここからは実践です。実際にどうやって絞るのか。どのような番組なら絞るべきなのか。この点を書かないことには終われません。
 絞るという行為は、得られる結果とその性質から2つに分類できます。それぞれ別の意識で取り組むべき問題です。絞りという観点から、これまで話してきた原理を統合し、リスクテイカーの本質を見ていきましょう。


切断と経験のパターン①

 一般的には、「絞る」という言葉は「3着流しの対義語」としてイメージされることが多いです。1-2-9から1-2-34にする。ここで「絞られる」のは5,6の3着です。よくある光景だと思います。
 こういう絞りに関しては、普段からしっかりやっている人が多い印象です。インからなんでもかんでも流す人は、そもそも2連単を買いがちです。3連単ユーザーにとっては、体に染みついているであろう説明不要の「絞り」でしょう。
 しかし、ひとつだけ考えておきたいことがあります。この「絞り」は言い換えるなら相対比較から選手を取捨選択する行為です。

2022年2月25日 唐津2R

 1-2であるという予想を立てたとして、ヒモに3456のうちどれを選択するか。これは相対比較です。ここで注意したいのは、相対比較による取捨選択は、何らかの断絶があるときしか有効ではないという点です。
 たとえばこの番組であれば、④山川の展示タイムが抜けていました。しかし勝率はほぼ横並び、戦績も甲乙つけがたい内容になっています。スタート力、枠別勝率などなど、様々な情報にアクセスしたところで、ここの相対比較は難しいです。
 x>y>>>>zというような評価ができるのであれば、yとzの間に断絶が生まれます。ここで「切る」のが、相対比較による絞りです。上記の例に戻りましょう。分かりやすくポイント制にしてみます。適当に10点満点で作ったのがこちらです。

 ④と⑤の間に断絶がありそうです。③=④>>⑤=⑥といったところでしょうか。ポイントだけ見ればそうなります。
 しかしここでオッズの問題が出てきます。決断を迫られる締切2分前、各オッズは上から6.3倍、5.1倍、10.1倍、20.4倍でした。単純ポイントにオッズを加味するなら、③⑥あたりがお買い得に見えてきます。⑤が劣るでしょうか。しかし微差です。
 相対比較による絞りは、簡単で日常的な行為に見えて、実はとても奥深いのです。多くの場合、突き詰めて考えてしまうと取捨選択は困難を極めます。このあたりは経験や知識によるところが大きいです。慣れていないとオッズとの照らし合わせにも手間取ります。
 たとえばこのケースで1-2-5が7倍くらいの価格になっていれば、流石に気持ちよく切れます。そういう絞りは「断絶がある故の絞り」です。一方で、そういった断絶を見つけられない場合は、無理に絞ってしまうと回収期待値を大きく下げることに注意してください。それは絞りではなくルーレットです。
 パラメーターの断絶にオッズを掛け合わせて、なおそこに妙味となる断絶が認められるのか。そのことを細かく考え抜いている人はそれほど多くありません。節タイトルに「経験」と記載したのはそれ故です。根拠をもって断絶を探せるかどうか。その切断センスは、とても差がつくところではありますが、急激に伸びる能力ではありません。
 これはヒモ選択だけではなく、展開考察によって買い目を絞るときも同じです。たとえば3コースが頭になると予想したレースで、3-1245-1245から「3コースは捲り差し」と予想して3-14-145に絞る、といった場合です。これも捲りと捲り差しの間に断絶があり、そこを経験で見つけられるかが勝負です。
 いずれにせよ、こういった「絞り」に関しては、そこまで重要ではありません。意識していればいずれできるようになるからです。


決断と抽選のパターン②

 いよいよ「絞り」の核心に入っていきます。
 パターン①は経験が問われる絞り方でした。当記事の前半部分で長々と書いてきた「考え方」とは少しズレた内容です。パターン①のような絞り方をしていない人はいないと思います。それでも書いたのは、これから述べていく核心にとって、分かりやすい比較材料になるからです。
 パターン②の本質は「抽選」というところにあります。

 オッズとは大衆が作る「誤解と正解の集積」です。
 誤解が多いオッズこそが「おいしいオッズ」です。
 あなたは優れた独自のシステムで、効率的に「大衆の誤解」を拾えるようになりました。
 だからこそ、結果的に誤解が少なくなってしまった(=おいしくないオッズのレース)に関しては、断腸の思いで見送る、という決断をしなければなりません。

『続・競艇の本質について』-元ホテ

 私はこれまで様々な記事で「競艇は他者との戦い」と述べてきました。他者が誤解をしていない買い目に妙味はない、とも。
 たしかにオッズはそこまで間違えません。回数を重ねると、一番人気が最も出現します。大衆はそれほどピント外れではありません。エッジを見つけるのはなかなか難しいでしょう。それでもたまにこんなレースがあります。

2022年3月22日 徳山4R

 ここで「盲点」になるのは1-3です。しかし、やっぱり1-2を買えば的中期待値が上がります。どちらも買えばかなりの確率で当たりそうです。ちょっと配分して広げましょうか。
 残念ながら、いまあなたは小さな利益を積み重ねるために「大きなリスク」を引き入れてしまいました。
 
せっかくエッジを見つけたレースです。盲点にはオッズ妙味が詰まっています。それなのに、誰でもたどり着く「明らかな本線」をおさえることで、大きな幸運を享受する抽選を自ら放棄したのです。多くの人が「エッジとは無関係にたどり着くであろう出目」に、1円も入れる必要はないのです。
 上記の例で、回収狙いの1-3-45と、狙い目とおさえを配した1-3-245,1-2-3。2つの場合の配分をしてみましょう。サイコロのときと同じように、1,000円と3,000円でやってみます。

締切2分前オッズ 出典:オレンジブイの競艇ポータルサイト

 こんなオッズのとき、1-2-3は「さすがに元返しくらいにしておくか」と考えるかもしれません。しかし、元返しにしようとしたところで、3,000円のうち1,000円はそこに使用することになります。なるべくきっちり配分すると、期待回収率は150%ほどになります。つまり3,000円ベットで4,500円回収です。一方で、1-3-45の2点に配分した場合、的中すると1,000円が9,000円程度になって返ってきます。おさえた場合のみ的中する1-2=3だと、絞った場合の損失はたった1,000円です。不的中時のリスクはサイコロの例で書いた通り、一律で全額失います。
 こうやって眺めてみると馬鹿馬鹿しく思えてきませんか。さすがに極端な例だと思った方、元返しやガミ覚悟でおさえるというのは、上記の例よりもはるかに非合理的なベット方法だということにも気づいてください。
 あなたは実際のレースを目の前にすると当てたくなってしまうのです。抗うためにはそれ相応の意識改革が必要です。原理を理解し、自分が何をしようとしているのか、どこに大きなリスクが潜んでいるのかを考えてみてください。
 有利な抽選を受けるために、小さな損に目を瞑る。これが「決断の絞り」です。ここでの小さな損とは、的中期待値を下げることで、結果そのレースが外れるケースです。
 繰り返しになりますが、本気で勝ちたいのであれば、そのレースを「当てたい」などと思わないでください。もちろん当たったら嬉しいです。しかし、それは目的ではなく、単なる「抽選結果」にすぎません。
 同じ資金で多くの抽選を引くために、おさえを極力切っていく。これは技術の問題ではなく「決断の領域」です。
 
この本質を理解したとき、さらに次のステージに進むことができます。


絞りの完成形

 自分にとって理想的な世界の競艇について、頭の中で考えてみましょう。全出目の出現率が表示され、その出現率と釣り合っていないオッズには赤マークがつく。たとえば5.2倍の1-2-3、出現率が20%だと赤文字になります。そこだけ買っていれば期待値プラス。それならどんなに楽なことでしょう。現実世界の競艇は、正確な出現率など分からないし、オッズも不安定です。だから「みんなは何を不当に評価し、どこに無駄金を投じるだろうか」という推測をしないといけません。
 そのフォーカスから「盲点」を見つけ、予想を組み立てたとしましょう。よくある例を載せます。

2022年3月17日 結果:1-2-4 490円

 4号艇が売れるレース。スタート行けてとりあえず握れる3号艇にフォーカスをあてて、差して残せそうな②松尾を軸にしました。④森定の2着を切る。これで合成オッズは十分なはず。そう見立てての5点予想です。
 では、こんな風に予想した人を想定してみましょう。

 こういう予想は、言わば「当てたいが故の予想」です。結果的に誤解が少なくなってしまう出目の特徴です。
 上に掲載した事前予想と被っている目が2つあることに気づきましたか。1-23-4です。1-3-4については()表記、オッズ次第では切るつもりでした。そして最上級の絞りは、ここで1-2-4も切ることに他なりません。
 このとき、1-2-4を切ると結果外れました。③川上が道中森定に抜かれていました。でも、だからどうしたという気持ちでいられるかどうかが分岐点です。ここは私の反省も兼ねています。1-2自体に妙味を感じてしまったため、多少安くても1-2-4をおさえずにはいられませんでした。
 ここでの教訓を言語化するなら、機械的に折り返しで売れる有力選手の出目は、上級絞りの対象になり得る。これです。
 
他にも「安直なスジ」や「流した結果買われすぎる目」など、様々なパターンが考えられます。根底にある考え方は、せっかく自分が有利なファクターを持っているなら、それが反映されていない買い目は切るというものです。
 1-2が売れるレースで3号艇に目をつけたのに、1-2-3をおさえてしまったら「1-2を盲目的に信じている人」と買い目がバッティングします。インの足色の弱さから2-1が狙い目だと踏んだのに、1-2をおさえてしまったら「逃げから漁っている人」とバッティングです。こうした買い目は徹底的に削ぎ落とし、有利な抽選だけを引きましょう。当然的中率はガクンと下がります。ですが……もう繰り返す必要はないですね。
 最初は普通に予想して、次は「誰がどう予想しがちかを予想する」という2ステップが必要なので、経験が求められます。つまりこのレベルは「決断と経験のステージ」です。ここまで到達したら、あなたの買い方にケチをつけるところはありません。ひたすら予想を磨くだけで、指数関数的に収支が向上することでしょう。



Conclusion


 買い目を決定する最後のプロセス。絞るか広げるか。これは、人の心理的なウイークポイントと数多の誤解を、極めて鮮明に映し出してくれます。
 広げることで、幸運を適切に享受できなくなる理由。損をしたくないという心理。そこに待ち構えている大きなリスク。そして、有利な抽選を引くために決断し続ける「絞り」という重要な作業。
 この記事では、極めて当たり前なことしか書いていません。読んでいて理解に苦しむパートはなかったと思います。それなのになぜ、わざわざ言葉を尽くしたのか。
 人間心理というものは厄介で、そして偉大だからです。
 当たり前のことができない人がオッズを作ります。そんな中で、自分の心理的な錯誤に打ち克って、適切な判断をし続ければ、得られる結果は明白です。
 何をすべきかを言語化しないと、話が始まらないのです。人は後付けで「こうなると思っていた」と考えるのが非常に得意です。後知恵バイアスなんていう立派な学術用語を持ち出さなくても、SNSを見渡せばサンプルで溢れています。買っておけばよかった、やっぱり絡むよな、ここはとれた……いつまでそんなことをしているのでしょう。アインシュタインなら「同じことを繰り返しておきながら、異なる結果を期待するとは、きっと頭がどうかしているのでしょう」と言って、まともに取り合ってくれません。
 行動とは、信念に捺印をするようなものです。けっして順序が逆であってはいけないのです。自身の行動に振り回されるような、後知恵バイアスで狂うような、そんな弱い信念では勝てないです。
 この「当たり前のこと」が、どれほどまでに勝敗を決する要素になるか、あなたはそう遠くない未来に実感することでしょう。



参考記事


①基礎となる思考

 誰がどう予想しがちかを予想する。どういう番組に妙味が発生するのか。その知識の詰め合わせにして、現状、筆者の最高到達点です。


②実践にして反復

 絞るということ。その実践過程を詳らかに公開。不的中を怖れない心も、妙味レースの継続的なベットで鍛えられます。


③戦略のような哲学

 回収、回収、回収! そうは言ってもどんな風に狙えばいいのか分からない方は、ちょっと新しい世界を覗いてみませんか。



今後なんなりと君を悲しみに誘うことがあったら、つぎの信条をよりどころとするのを忘れるな。曰く「これは不運ではない。しかしこれを気高く耐え忍ぶことは幸運である。」

- マルクス・アウレリウス『自省録』

 

 予想への自信はなくなってきたのに、なぜか勝ち越せるようになったあなたへ。


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