ギャンブルをしないあなたへ
ごめんなさい、正直に言うね。友達とランチじゃなくて、戸田競艇場に行ってたの。ううん、一人よ。特別観覧席。涼しい屋内でゆっくり競艇が楽しめるの。
ギャンブルする女なんてみっともない? あなたって変なところ真面目だよね。服はそのへんに脱ぎっぱなしにするし、トイレは何回言っても座ってしてくれないし、それなのに「飲食店で女が財布出すな」とか「煙草は吸うな」とか、平成生まれのくせに昭和っぽい。最初はそういうところが男らしいと思ってたよ。変わらないあなたを尊敬もする。だけどね。
ギャンブルがくだらないことくらい私も分かってる。どうせ負けるし、時間の無駄。それでも、そういうものが必要なの。
人生って、一直線に進んでいくよね。大学を卒業して、あなたと結婚して、そろそろ子どもも欲しいって話したよね。子どもができたらもっと一直線。目まぐるしく進んでいくうちに、子どもも結婚して、孫までできちゃうかも。ほっと肩を撫でおろした頃には、充実感と、老いた身体が残る。いい人生だと思う。
ジムが好きなあなたなら、ランニングマシンが分かりやすいかな。走り終えてそこから飛び降りたとき、ちょっと変な感じするでしょう? ギャンブルって、あれなの。あの浮遊感。自分が自分じゃないような、いつもと地面の感覚が違うような、あの感じ。
ずっと走ってても辛くないあなたには分からないかもしれない。他にもマシな趣味があるだろって思うかもしれない。でもね、マシな趣味じゃダメなの。誰に言っても恥ずかしくない趣味なんて、私にとってはランニングマシンで飲むスポーツドリンクみたいなもの。人生のためになるような、充実感の足しになるようなものじゃ疲れちゃうの。
ギャンブルって、あなたが思っているよりずっとずっと無意味よ。サイコロ振って一喜一憂するの。チンパンジーでもできる遊び。だけどね、それがいいの。人生の役になんか立ちやしないから、私はその瞬間、私の人生から飛び降りて解放されるの。運に振り回されて、浪費して、呼吸が整うの。そうしたらまたランニングマシンに乗れる。あなたが帰ってくる前に洗濯も掃除もしたよ。
あまりにも一直線だと、私は不安になる。想像通りの人生にするために、みんな必死に頑張るよね。私も半分は同感。めちゃくちゃな人生を送りたいわけじゃない。でもちょっとだけ、ランニングマシンから降りたその瞬間だけは、その浮遊感に身を任せてふらふらと歩いてみたいの。
そんな目で見ないで。あなたに理解ができないからって、どうしようもなく不合理とは限らない。それがギャンブルで、それが私の人生だよ。
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