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コンフィデンスマンの死


 星の巡りが悪いせいか、これまで数多くの詐欺師と出会ってきた。詐欺を生業としている者から、悪徳予想屋という一大ジャンルまで、その客体は多種多様だ。
 しかし、詐欺師にはたったひとつだけ共通点がある。

 とある詐欺師について調べていた。そいつはずいぶん昔からあらゆる手口で寸借詐欺を行ってきたようで、被害額は観測した分だけで1,000万に近づく勢いだ。ここまで来たらもう病気で、治療の見込みはない。さっさとブタ箱にぶちこみたいが、被害者ができることは限られている。その弱みに付け込んで、これからも詐欺を繰り返す。そんな人間だ。
 そいつは頻繁に配信をしていた。いろんな人にDMをよく送っていた。口から出てくる言葉のほとんどが嘘だった。ギャンブルと女が大好きで、過去には淫行で逮捕までされている。このあたりは詐欺師の典型だ。
 そいつはメンヘラだった。連絡を無視されると嘆き、自分を軽視されると怒り、相手にされると悦び、褒められると声が大きくなる。

 人が好きなのだ。いや、人との関わりというその「システム」に依存している。詐欺師は例外なくその特徴を持っている。
 考えてもみてほしい。自分一人でどれだけ金を浪費できるだろう。彼ら詐欺師が万年金欠なのは、手に入れた金をすぐに人や時間に遣ってしまうからだ。キャバクラで羽振りが悪い詐欺師はいない。人に奢るのが嫌いな詐欺師はいない。ギャンブルは「話」を作るためにしている。それを話す相手を常に探している。褒めてもらいたくて嘘を吐く。そこにはすべて人が関わっている。
 それなのに、容易く人を裏切る。なぜだろう。矛盾しているように見えるが、実はそうではない。人との関わりというシステムに依存しきっている彼らにとって、新しいコミュニティを探すことは造作ないのだ。薬物中毒の患者が何としてもクスリを手に入れるのと似ている。
 彼らはコミュニティを簡単に捨てることができる。だから知り合いから金を無心することに躊躇いがない。バレたら捨てればいいと思っているのだ。彼らは人間関係に依存しているが、人間そのものには依存しない。その論理構造が、彼らを今日も詐欺行為へと向かわせる。

 彼らには自分というものがない。誇るべき自己がないから関係性に依存する。少し考えたら悲しくなるような見栄を、誇るべき自己がないから簡単に張る。
 詐欺師は寂しがり屋だ。寂しがり屋が行きつく先はSNSである。コミュニティを捨てることも「アカウントを削除する」のワンコマンドで簡単にできる。SNSが詐欺師の巣窟になるのは必然なのだ。
 詐欺師は簡単に死ぬことができる。そして簡単に生き返る。その輪廻を絶つ方法はないが、本当にその身が潰えるとき、彼らの「死」には価値がない。それがせめてもの救いである。


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