マイオレンジデイズ〜完結編
(前回からのつづき)
担当者「参美さんの悪い噂が本部の方に上がってきまして、本部としてそれらを精査して支部長をお辞め頂くことになりました。引き継ぎ等につきましては後任の〇〇さんと直接お話ください。今までありがとうございました。」
参美「えっ?ちょっと待ってください。悪い噂ってなんですか。」
参美の質問には答えてもらえず、一方的に電話を切られた。何なのよ!
流石に納得がいかないし、本部に伝えられた悪い噂というのが何なのか、誰が伝えたのかを知る必要があると思った。特に仲の良い支部党員3名と連絡をとり、無理を言って翌日土曜日に個別にあう約束をとりつけた。
アム子
すっかり暖かくなった5月のオフィス街、お昼前の土曜のファミレスは人も少なく奥の席にいたアム子を直ぐに見つけることができた。参美は席に座りドリンクバーを注文した。
アム子「それで?電話では話せない込み入った話って何なのよ。」
参美は本部の担当者から言われたことを話し、悪い噂について聞いた。
アム子「噂ねえ、、確か2月の飲み会の席で参美はS教団の信者だって話していた人がいたなあ。酔ってたから思い出せない誰だっけなあ」
参美はS教団に入信したこともないし関わったことすら無い。一体だれがそんな噂を…
アム子「ところで参美、良い品質の鍋があるんだけど話だけでも聞いてみない?」
参美「鍋は要らないわ!」
アム子の鍋の話は毎回長くなるので、早々に会計を済ませ店を出た。
札代
雑居ビルの地下にある薄暗い喫茶店で札代と待ち合わせた。丁度お昼時なのでコーヒーとサンドイッチを注文した。
札代「参美がS教団の信者?あ、それ聞いたことある。1月に予祝町のFさんが、参美が信者かどうか私に聞いてきたわ。あと参美が風俗店で働いていたという噂も聞いたわ。もちろん私は笑って否定したけどね。」
1月…そんなに前から噂があったなんて。それに風俗ってなによ。何なのよ!
参美は酷く落ち込んだ。しばらく沈黙する2人。
札代「こうなったらアレしか無いわね。」
札代はおもむろに鞄からカードを取り出した。札代は支部イチの霊感の持ち主で、霊感カタカムナカード占いの使い手だ。
頼んでもいないのにテーブルに謎のカードが並べられていく。カードを眼光鋭く睨みつけ、札代が告げる!
札代「見えたわ。西よ、西に行きなさい参美!」
そんなこんなで参美は喫茶店を出て、次の場所に向かうことにした。地下からの階段を上がってから3歩だけ西に進み、そこからUターンして東の方向に歩いた。そう次の待ち合わせ場所は東にあったのだ。
酵素
住宅街の酵素のマンションの一室に参美は招かれていた。酵素は超健康オタクなので外食店は苦手なのだ。
お互いの子供の話をしながら、参美は目の前に出された怪しく濁る自家製酵素ドリンクをチラ見していた。正直飲みたくなかったが、せっかく出してくれたドリンクを飲まないのは失礼だと思った。
会話が途切れた次の瞬間、
(いったらんかーい!!!)
参美は覚悟を決め一気に自家製酵素ドリンクを飲み干した。不味くはなかったが、お腹を壊さないか不安ではあった。
お代わりの酵素ドリンクと、スナック代わりの酵素玄米おにぎりが運ばれて来たタイミングで、参美は本題を切り出した。
酵素「選対部長の〇〇が支部の裏チャットを作っていて、そこから悪い噂が流されていたみたいよ。昨日参美から連絡をもらった後、私も色々調べたのよ。許せないわ。」
〇〇は本部から後任の支部長として指名された人物だった。その後も酵素の話を聞き、〇〇が私を貶めようとずっと悪い噂を流していたということを理解することができた。
参美はくやしくて情けなくて、泣きながら出された酵素玄米おにぎりをヤケ食いした。お腹がパンパンになった状態で参美は帰宅した。
後日、参美は〇〇に支部長の引き継ぎをして橙党を離党した。元々やりたくて支部長をやっていた訳ではないので、そこには未練は無かった。流された噂については本部担当者と、支部の全員に連絡し噂は嘘だと説明した。どれだけの人に参美の説明が信じて貰えたのかはわからないが。
悪い噂を流していた〇〇に文句を言ってやろうと思ったが、参美は争い事が苦手なので結局何も言わずに引き継ぎだけした。
エピローグ
ある夏の休日。参美は娘と旅行に出かけた。西に向かう電車の窓からオレンジ色のポスターが見えた。橙党のことを思い出す。オレンジのTシャツは全部捨てたが、仲の良かった人達とは今でも連絡をとっている。噂では本部の幹部同士でケンカしているらしい。
ふと心の中で叫んだ。
橙党?知るか、そんなもん!
(終わり)